勝てるチームと勝てないチームは何が違うのか?仕事の役割を上手く理解してもらうコツを伝授【若林氏連載その2】

創業手帳

北米アイスホッケーのプロコーチが教える起業家向けスキルとは?


「誰もが土曜の午後の試合に勝ちたいと思ってる。しかし、試合の結果を決めるのは、残りの六日間に何をしているか、ということだ」ルー・ホルツ(アメリカンフットボールの名将)

スポーツも、ビジネスも、監督や経営者として組織を率いている人なら、誰もが競争に勝利し、成功を収めたいと思って挑んでいるはずです。

日夜、多くの時間と資金をつぎ込んで挑む戦いで、優勝できるのは1チームであり、たとえ優勝できなくても、成功と呼べる結果を収められるのはほんの一握りのグループです。

戦いに勝てるチームと、勝てないチームは、一体何が違うのでしょうか? 

最先端スポーツの育成・コーチ理論を、アイスホッケー(北米では四大プロスポーツ)の盛んな北米在住のプロホッケーコーチ若林さんが語る「科学的な最先端のプロスポーツ理論をビジネスに応用する」連載シリーズ。

第二回目の本記事では、致命的なミスが起こる原因と勝てるチーム作りに必要な4つのマネジメントスキルマネジメントを紹介します。

若林さん

若林 弘紀 (わかばやし ひろき)
World Hockey Lab 主宰/DYHA Jr. Sun Devils ゴールテンディングディレクター

日本人で唯一、北米とアジアでプロ・アイスホッケーコーチとして20年以上指導。アジアリーグ日光アイスバックス・テクニカルコーチ、香港代表チーム監督などプロ及びナショナルチームからユースホッケーまで幅広く指導。現在はアメリカ・アリゾナ州フェニックスでNCAAアリゾナ州立大学と提携するユースホッケークラブDYHA Jr. Sun Devilsでゴールテンディングディレクターを務める傍ら、世界各地でアイスホッケーキャンプを指導。

現場でのコーチングの他、香港では青少年のアイスホッケープログラムマネージメントを担当。2013~2015年に担当したアイスホッケー未経験の青少年80人にアイスホッケープログラムを提供するHong Kong Youth Ice Hockey Campaignは、その後2倍以上の規模に発展。香港アイスホッケーの未来を支えるプログラムとして継続中。その他、アイスホッケーにおける統計データ活用について、アメリカのアイスホッケー統括団体USA Hockeyの管理者向け講義も行なっている。

また、スポーツ組織論として、欧米、アジアと日本のスポーツチーム、組織、コーチング、育成環境の比較解説。スポーツチーム、組織のマネージメント全般。チーム、組織が継続的に成長するために必要な競技構造の構築等を研究している。

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アイスホッケーで見る致命的なミスにつながるマネジメント例

GMや監督、即ちリーダーのマネジメントスキルは、戦力が均衡しているリーグで、どのように勝敗に影響するのでしょうか?

下の写真は、アイスホッケーで白チームが青チームのゴールを攻撃している場面ですが、青チームの守りに決定的な問題があります。
スポーツから見るマネジメントとは
ゴールキーパー以外の選手が全員コーナーにあるパック(サッカーで言うところのボール)に群がってしまい、肝心のゴール前で、白チームの選手が完全にノーマークの状態でチャンスを待っていることです。何かの弾みにパックがゴール前に出てきてしまったら、その瞬間に青チームは大ピンチになる可能性が高いでしょう。

氷上の青チームで誰一人として「失点しても良い」と思ってプレーしている選手はいないはずです。また、青チームの監督は、当然自ゾーンでゴール前を守る指示を出しています。それなのに、なぜこのようなミスが起こってしまうのでしょうか?

分担された仕事の役割を理解して忠実に実行していない

この場合、各自が守備のポジショニングを理解せず、ただ必死にプレーしていることでミスが起こっています。失敗が起こる可能性が最も高いのは、各々の選手が監督から与えられた特定の状況における自分の仕事の役割を見失っている時といえます。

戦いの中でチームとして機能するためには、各自に分担された役割を理解し、忠実に実行する必要があります。これはスポーツだけでなく、全てのビジネスに共通で、おそらく最も重要な原則です。

仕事の役割を理解してもらうために必要な4つのマネジメントスキル

仕事の役割を理解する練習やセオリー

仕事における各自の役割を理解してもらうには、どのようなマネジメントスキルが必要でしょうか。大きく4つのポイントに絞り説明していきます。

ココ重要!
  • 仕事の役割の定義
  • 仕事の役割の練習
  • 仕事の役割に対する正当な評価
  • 仕事の役割に適した人事

仕事の役割の定義はされているか?

部下に仕事の役割を理解してもらうために、上司はまず仕事の役割をシンプルに定義する必要があります。一つのプロジェクトで、一人がいくつもの領域をカバーする役割を与えることはできるだけ避け、仕事内容についても、達成すべき事項の優先順位を決めるようにしましょう。

例えば、先の写真、自陣での守備では「コーナーのパックに群がって守ってはいけない」という曖昧な指示をするのではなく、事前に以下のように役割を決めます。

・左ディフェンスが、コーナーでパックを持った相手に抜かれないよう、身体を押さえる
・センターフォワードは左ディフェンスのすぐ後ろに位置し、ルースパック(こぼれ球)を取り返す
・右ディフェンスはゴール前の相手をカバーする

もちろん、スピードが速く複雑なゲームの中ではミスもつきものですし、想定外の様々な状況もでてきます。そして、百種類の状況を仮定して教えても、全てを記憶して完璧に実行することは不可能です。

まずは、一番頻繁に起こり得るいくつかの状況に対応する原則を定義し、優先的に教えるべきです。臨機応変な対応も、優先的に果たすべき役割が定義されていて初めて可能になります。

仕事の役割の練習はされているか?

監督が選手一人一人に役割を理解して実行してもらうためには、試合という仕事の現場に出る前に、綿密にコミュニケーションを行い、十分な練習を積む必要があります。試合が始まってしまうと、現場で基本的な計画を大きく修正するのはとても難しいからです。

また、練習にも優先順位があり、特に大事な技術や戦術は、特に入念に練習されているべきです。「守りが大事」と常々言うならば、日常的に重点的に守りの練習をすべきです。「何事も経験なので、ぶっつけ本番で経験させて学ばせる方式」で、手痛い損害を被ったり、部下の自信を失わせてはいけません。

スポーツでもビジネスでも、運や相手チームの極度の不調など、予期しなかった要素によって、準備の有無にかかわらず、一時的な成功を収めることもあります。また、組織だった練習をしなくても、特定の個人が持つ特殊な資質と経験によって、それなりに安定した結果が出ていることもあります。

しかし、運や特定の個人の能力に頼って得られた「結果オーライ」の成果は再現性が乏しく、組織全体のノウハウとして蓄積されないので注意が必要です。

逆に、どんなに周到に準備しても、失敗することももちろんあり得ます。しかし、準備の内容が分かっているからこそ、次戦への反省・改善材料となるのですから、決して無駄ではありません。

準備してから実践する、という組織化されたプロセスがあるということは、組織として成長するための大前提なのです。

仕事の役割に対する正当な評価はされているか?

上司に与えられた役割を果たすために練習し、本番の試合で期待通りの成果が上がったとき、逆に痛恨のミスをしてしまったとき、経験のあるベテランならば、自分の成否をすぐに把握できるはずです。

しかし、経験が浅く、必死に仕事をこなしている若手は、仕事を必死でこなすだけで、自分の仕事ぶりが良いのか悪いのかすら分からないときがあります。

上司は、部下が仕事の役割を果たせているかどうかについてのフィードバックを、タイミング良く与える必要があります。成功も、失敗も、出来るだけ早くフィードバックを与えることで、正しい行動が習慣化されます。

部下の評価は常に、予め定められ、練習されてきた「仕事の役割の定義」を基準にすべきです。評価する上司や評価の対象となる部下によって評価基準がブレないことが大事です。

ベテラン選手の評価が極端に甘い、新人選手ばかり失敗を指摘される、定義も練習もされていない状況での失敗を責める等の評価基準のブレは、チームのまとまりを失う原因となります。

北米のスポーツでは、チームの 「Unsung Hero(アンサング・ヒーロー)」、つまり「縁の下の力持ち」を評価する文化があります。

例えば、身体を張って相手のシュートを止めるプレーや、相手にしつこくプレッシャーをかけるプレーは、直接得点につながるわけではありませんが、勝利に欠かせません。地味だけど重要な役割を果たす部下を、上司が見逃さずにチーム全員の前で評価することで、チーム全員が積極的に自分の役割を果たすようになります。

最後に、上司が自己評価をすることも大事であり、特に自己の間違いを認めること、そして長年行ってきた戦術や慣習を改める勇気を持つことは重要です。自分の采配のミスや、長年行ってきた戦術を転換することは簡単ではありません。

しかし、チームに対して自分のミスを認め、ミスの原因を明らかにしたり、過去の慣習と決別する理由を論理的に説明することにより、組織の硬直化を防ぐと共に、部下との信頼関係も強固になります。

仕事の役割に適した人事を行っているか?

いつ、誰を起用して戦うか?はスポーツ監督の最も重要な采配の一つです。そして、采配の基準となる監督、その他のスタッフ、選手の人事構想の最高責任者がGM(ゼネラルマネージャー)です。

「四番打者だけで打線を組んでも機能しない」と野球でよく言われるように、スポーツもビジネスも、人事においてはチームの文化と役割に適した、様々なタイプの人材をリクルートして育成することが大切です。

中小規模の組織の限られた予算の中で、トップクラスの才能を持つスペシャリストばかりを揃えることはできません。しかし、少なくとも、組織の中にどのような役割があり、どのようなタイプの人材が必要かという明確な構想を持つことで、リクルートと育成の方針が立てやすくなります。

そのためには、先述した「仕事の役割の定義」が各部門で明確にされている必要があります。

一方、特定の仕事だけではなく、必要に応じて複数の役割をこなせる人材を育てることも、組織の柔軟性を高める上では重要です。プロレベルのスポーツチームでも、急な怪我人等が発生して、普段と異なるポジションをプレーすることは珍しいことではありません。

そのため、チームスポーツでは、一般的に小中学校の育成期には、できるだけ複数のポジションをプレーし、ポジションの特性を見出しながら、その後徐々にポジションを専門化します。また、特に北米では幼少期から高校まで、時には大学まで、複数のスポーツをプレーすることが推奨されています。

マルチスポーツアスリートとして育つことで、基本的な身体能力が高まり、さらに精神的に燃え尽きてしまうことも少なくなると信じられているからです。事実、四大スポーツ(野球、アメリカンフットボール、バスケットボール、アイスホッケー)のプロ選手の大半が、子供の頃はマルチスポーツアスリートだったという調査結果もあります。

ビジネスにおいても、若い社員は複数の役割をこなせるよう育成しながら、徐々に専門化させていくべきです。また、最初から複数の分野でのスキルを持つ社員を積極的にリクルートすることが重要でしょう。

リーダーに必要なマネジメントスキル


アイスホッケーのミスを例に勝敗を左右する、リーダーのマネジメントスキルの一部を紹介しました。スポーツもビジネスもチームとして機能するためには、各々が役割を理解し、リーダーの指示をもとに実践していくことが大切です。

勝てるチームを作るために、リーダーに必要とされる4つのマネジメントスキルを活用していただければと思います。

次回は、ヨーロッパと北米のスポーツマーケット構造の違いから学ぶ、ビジネス戦略についてご紹介していきます。

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