事業再生の手法や流れを解説!法的再生・私的再生それぞれの詳細も

創業手帳

事業再生のメリット・デメリットや成功に向けたポイントを確認しておこう


企業を経営していると、経営状態が悪化することがあるかもしれません。
経営状態が芳しくない場合は、事業の根本から立て直すことが求められますが、それを事業再生といいます。

現在は経営が軌道にのっている場合や今後起業を考えている場合も、万が一に備えて事業再生について知っておくと良いでしょう。

今回は、事業再生に関する基本事項や手法、事業再生を成功させるポイントを解説します。

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事業再生とは?


そもそも事業再生とは、どのような手続きを指すのでしょうか。概要やタイミング、企業再生との違いについて解説します。

事業再生について

事業再生とは、採算性や経営状態が悪い事業に対して、資金調達など根本から立て直していく手続きです。
会社の倒産を防ぐため、事業単位で利益率や生産性の低いものを改善し、会社全体の再構築を図る取組みです。

近年の事例としては、「日本航空」の経営破綻が挙げられます。2010年に事実上倒産しましたが、事業再生を経て、2012年再上場を果たしました。

企業再生との違い

企業再生とは、資金繰りの悪化や債務超過などによって、経営不振に陥っている企業の経営再建を図り、企業を立て直すことです。

企業再生が目的とする企業の立て直しには、事業を再生することが不可欠です。両者に明確な違いはなく、同じ意味で用いられることもあります。

そのため、事業の再生に着目する際は事業再生を、企業の再生に着目する場面では企業再生といった形で使い分ける場合があります。

事業再生のタイミング

適切な時期を見計らって事業再生を実施することが大切です。具体的に、次のような予兆が事業再生を実施するタイミングといえます。

・業績が悪化したタイミング
業績の悪化とともに資金繰りも悪くなるため、借入金の返済に支障が出ることが懸念されます。
その場合、返済計画のスケジュールを見直すとともに、事業再生の計画を立てることが有効な手段です。

・廃業の可能性が出てきたタイミング
企業自体の経営が苦しくても、中には高い収益性が見込める事業があるかもしれません。
優良事業があればスポンサーが見つかる可能性も高くなり、廃業の危機が発生した時点で早めに手を打てばスポンサー依頼までに時間の猶予もできます。

事業再生の手法


次に、事業再生の具体的な手法について紹介します。事業再生の方法は、大別すると法的再生と私的再生の2種類です。それぞれの内容を解説します。

法的再生

民事再生法などの法律をもとに、裁判所の管理下で実施される法的手続きを利用した事業再生手法です。

法的再生には、企業を立て直す再建型手続きである民事再生・会社更生・特定調停・会社を畳む清算型手続きの破産・特別清算があります。
また、再生型M&Aも再生手法のひとつです。

ここからは、それぞれの手法について内容を見ていきます。

民事再生

裁判所の管理下で、民事再生法のもとに行われる裁判手続きです。

主に個人事業主や中小企業が実施する再生手法であり、経営者が中心となって再生計画を策定します。
この際、債権者など様々な利害関係者の同意を得て、計画を定めていきます。

会社更生

会社更生法のもとで実施される裁判手続きが会社更生です。民事再生よりも比較的大きな企業で利用される手続きです。

会社更生の場合、基本的には経営陣の交代が求められます。
民事再生では経営者が会社に残り再建を進めるのに対して、会社更生では経営陣が退き、裁判所が選任した更生管財人が手続きを具体的に進めていきます。

特定調停

債権者が借入金などの処理に関して裁判所に申し立てることによって行われる手続きです。

簡易裁判所が企業と債権者の間に立って、両者が納得のいく債務の弁償方法を話し合う方法です。
簡易裁判所が間に介在し、調停委員会と呼ばれる機関が債権者と企業の仲を取り持つ形をとります。

民事再生と比較して費用の安いことが特徴です。

破産

破産法に基づいて実施される清算手続きを意味します。
裁判所に申し立て、残った財産を債権額に応じて債権者へ分配し、企業の法人格をなくして法人としての権利を失効させる手続きです。

中小企業では一般的に、会社代表者が会社の行った借入れなどを肩代わりすることが多くありますが、こうした場合も、同じ手続きで債務整理を実施できます。

特別清算

会社法のもとで行われる清算手続きです。債務超過の企業を清算する場合に使用し、そうでない企業の清算手続きは通常清算といいます。
なお、これは株式会社のみが利用できる方法です。

経営者が主体的に手続きを進め、破産よりも迅速に安い費用で会社の清算が行えます。また、破産という悪いイメージのないことも特徴です。

再生型M&A

事業譲渡といったM&A手法によって事業再生を行うことができます。主なM&A手法は以下の4種類です。

・企業再生方式
事業再生対象の法人格を維持した状態で、スポンサー企業の子会社となって事業再生を行う方法です。
法人格を維持したままのため、この方式のみ私的再生として手続きができます。

・事業譲渡方式
ほかの法人格に会社経営を譲渡し、採算がとれる事業を中心として事業再生を実施する方法です。
事業譲渡で得た資金で清算を行うため、清算できるだけの資金を得ることが可能な収益性のある事業を持っている必要があります。

・会社分割方式
ほかの法人格に会社経営を移転させ、採算事業と不採算事業とを分割して再生を行う方法です。
採算事業だけを切り離し、分割した不採算事業を清算するケースが一般的となっています。

・第二会社方式
事業譲渡方式または会社分割方式と清算を併用した方法です。
役員や従業員などの身内が新会社を設立、事業存続に必要となる資産や人材を引き継いだ後に、会社を清算します。

私的再生

会社と債権者といった当事者の間で協議し再建していく方法が私的再生です。法律の制限を受けないため、個々の状況に適した柔軟な対応ができます。

ただし、債権者の合意を得られるか、公平性が保たれるかといった問題点もあるため、債権者の協力が私的再生の条件です。

私的再生の方法には、主に私的整理ガイドライン・中小企業再生支援協議会・事業再生ADRがあり、ここからはそれぞれの特徴について紹介します。

私的整理ガイドライン

法的手続きを使わず、債権者と債務者の合意に基づいて債権放棄などを実施するための規定です。
法的拘束力はありませんが、経営者間などでは一般的に合意のとれた内容とされています。

私的整理が開始すると、金融機関などの債権者による債権行使は一時的に停止されます。
ただし、一般債権者への決済や支払いは停止されないため、取引先などから事業再生だと思われないことが特徴です。

中小企業再生支援協議会

中小企業再生支援協議会が規定する内容に基づいて事業再生手続きを行います。

中小企業再生支援協議会は中小企業の事業再生を支援する組織で、全国各地に存在します。地域関係機関とともに、中立的な立場で私的再生に協力する団体です。

事業再生ADR

中立的な第三者機関のADR(裁判外紛争解決手続き)事業者が協力して行う私的再生手続きです。規定された条件のもと、裁判以外の場面で問題を解決していく手法です。

債権者に対しては、債権放棄に関する損失計上が法律上認められています。
また、会社側も債務免除によって発生する免除益課税に対して、条件によっては税制上の配慮がなされることが特徴です。

事業再生のメリット・デメリット


事業再生を行うにあたっては、手法の特徴によってメリットとデメリットがあります。
事業再生・法的再生・私的再生のそれぞれについて、メリット・デメリットを見ていきます。

事業再生を行うメリット・デメリット

事業再生を行うメリットは、債権者へ弁済ができること、取引先へのサービスを提供し続けられること、従業員の生活維持ができることなどです。
また、破産するケースとは異なり、事業の再生であれば取引先などの信頼や企業価値を大きく損なう心配はありません。そのため、今後の経営改善に向けてプラスに作用します。

対して、デメリットは事業再生に関する手続きに労力を要する点です。特に、外部の支援機関を介さない場合は、一時的な延命措置になってしまう場合もあります。
客観的な視点を持ち、進めていくことが大切です。
また、返済が滞るなど債権者に迷惑をかけてしまうこともあり、債権者の理解を要することが難点といえます。

法的再生のメリット・デメリット

法的再生は公平性が保たれるため、債権者から同意を得やすいことがメリットです。
裁判所が介入して進めていくため、事業再生計画に対して疑念や不安を抱かれるケースは、私的再生と比較して低いことが特徴です。
また、多数決で決議するため、反対する債権者がいても賛成者数が上回れば事業再生を進められる場合もあります。

デメリットとしては、手続き完了までに時間と費用を要する点です。法律に基づいて実施するため、弁護士などに立ち会ってもらいながら進めていきます。

さらに、法的手続きをしていることが表に出ると、企業イメージが低下する恐れがある点もデメリットといえるでしょう。
取引先との信頼関係に問題が生じ、場合によっては事業基盤を揺るがす危険もあります。

私的再生のメリット・デメリット

メリットは、手続き費用を削減し、迅速に進められる点です。裁判所が介在しないため、債権者との交渉がスムーズに進めば、費用と時間を抑えられます。

反対に、事業再生に合意しない債権者がいると、合意までに時間がかかってしまう点がデメリットです。
法的な拘束力がないため、反対する債権者へは交渉で合意を得なければなりません。私的再生は財務や訴訟に関して一定のリスクがあり、債権者は消極的になる傾向があります。

そのため、事前に全員から合意がとれる予定が立っていなければ、スムーズに進みにくい方法といえます。

事業再生の流れ


実際に事業再生を行うにあたっては、どのようなステップを踏むのでしょうか。一般的な流れを5つのステップに分けて解説します。

1.実態確認・再生方針の決定

会社の実態を把握し、それをもとに事業再生の方針を決定します。

まずは実態を確認し、収益性が見込める事業かそうでないかを見極めていきます。
その上で、法的再生か私的再生かといった方法を決めていくことが、第一のステップです。

2.デューデリジェンスの実施

デューデリジェンスとは、財務状況や事業内容といった会社の価値とリスクについて調査する活動です。
自社の価値を再認識することによって、より具体的な事業再生計画の立案が可能になります。

また、デューデリジェンスは自社についての認識を深めるだけでなく、それをもとに債権者やスポンサーへ資料として提供することも可能です。
そのため、事業再生において重要な工程と考えられています。

3.事業計画の作成

デューデリジェンスの内容をもとにして、事業計画を作成します。
採算の見込める事業を選択し、不採算事業に関しては赤字部門の整理や未稼働資産の処分などの計画立案が必要です。

なお、一般的に事業計画の期間は3年〜5年など数年単位で立てます。

4.スポンサーや資金の確保

事業再生を実施するためには、資金がなくてはなりません。
自力での再生が困難な場合は、金融機関からの融資や、資金力のあるスポンサーに出資してもらうことが必要です。

スポンサーが多ければ、その分スピーディーな事業再生が期待できます。また、新たなスポンサーが確保できれば、債権者や金融機関などから信頼を得ることも可能です。

5.事業再生の手続き

資金が集まったら事業再生の手続きに移行します。

法的再生の場合は、民事再生や会社更生など手法に応じて手続きを行います。私的再生の場合は、債権者へ経緯を説明して再建計画の承認を得なければなりません。
その際、私的整理ガイドラインなどを活用し、トラブルがないよう進めていきます。

事業再生を成功させるポイント


最後に、事業再生を成功させるコツについてまとめます。ポイントは主に2点です。

事業の将来性を考え、不要事業は終了する

事業を再生するためには、採算のとれる事業に集中して立て直しを図ることが大切です。

現状だけでなく将来的に採算がとれなくなる恐れのある事業も削除を検討し、見込みを調査する必要があります。
なお、不採算の原因が人件費にある場合は、人員整理も視野に入れることになります。

スポンサーや金融機関にサポートを求める

資金繰りが悪化した段階で行われる事業再生は、スポンサーや金融機関の協力が不可欠です。
事業再生に関する理解を得て、計画に沿った資金を調達することで事業の再建が進んでいきます。

資金融資については、金融機関だけでなく日本政策金融公庫などの制度を利用して融資を受けることも視野に入れてください。
スポンサー・金融機関・支援制度など様々な選択肢から適切な方法を見極めるため、外部とのつながりを作りながら検討することが重要です。

まとめ

採算性の悪い事業を根本的に立て直す事業再生には、法的再生や私的再生といった複数の種類があります。
事業再生を試みる場合、自社の状況を把握し適切な方法を選ぶことが重要です。

また、事業再生はタイミングを誤ると手遅れになるかもしれません。今後起業を考えている人も、もしもの場合に備えて事前に事業再生を理解しておくようにおすすめします。

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(編集:創業手帳編集部)

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