KYCコンサルティング 飛内 尚正|健全な経済取引の実現へ、リスク管理のためのKYCを社会インフラにしたい

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年10月に行われた取材時点のものです。

50歳を超えて起業した危機管理のプロの思いとは


ネットの発達によって人や企業がつながりやすくなった現代では、コンプライアンスチェックの重要性が高まっています。

KYCコンサルティングは、Know Your Customer(顧客確認)の分野で不正の防止やAML/CFT対策(反社チェック含)などに関わる情報やノウハウを提供しています。AIを利用した膨大なデータベースを用いることで事件や不正を未然に防ぎ、健全な経済を実現することが目標です。

今回は、代表取締役の飛内さんが起業された経緯や今後の方向性について、創業手帳代表の大久保がお聞きしました。

飛内 尚正(とびない なおまさ)
KYCコンサルティング株式会社 代表取締役
中央大学卒業後、海上自衛隊で幹部自衛官として勤務。
20年以上にわたり、国内の危機管理会社で企業不祥事、事件・事故対応、反社対応、マネーロンダリング対応、労務紛争対応などの実務経験を積み、それらの未然防止のコンサルティングも手がけた。
現在は、日本において健全な経済取引を実現するため、KYC(顧客確認)とコンプライアンスに特化したリスクマネジメント事業を展開している。2018年にKYCコンサルティング株式会社設立。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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起業のきっかけは「労働集約型の古い体質をDXで変えたい」


大久保:飛内さんは大学を卒業された後に自衛隊に入られていますが、どんな理由があったのですか。

飛内:私が生まれ育った青森の街には自衛隊の基地があり、父も弟も自衛隊員です。地元に帰るか東京で就職するか考えて、自衛隊に入りました。3年くらいいたのですが、海上自衛隊の幹部候補生学校に行って、幹部になるコースでした。

自衛隊は国防という役目があるのですが、どこか自分には遠い世界に感じていました。今は災害支援などで直接的な支援ができるのですが、当時はまだできなくて訓練だけを続ける日々で。

直接人の役に立つ仕事がしたいと考えて、実践的なコンサルティングと実務対応支援などを通じて企業の危機管理を支援するをする某企業に転職しました。そこで企業の事件事故や、不祥事対応への実務、事件防止のための仕事を学びました。

大久保:当時の仕事で感じたことやエピソードはありますか。

飛内:私がいた前職のマーケットは前近代的で、コンプライアンスチェックなどが労働集約的だと感じていました。

フィンテックやDXなどで技術が進んでいくのに、労働集約型の働き方では追いつかない。ここはDXを進めましょうと取締役会でも訴えていたのです。古い体質をDXで変え、ブロックチェーンなど新しいサービスに適応する流れを作りたい考えがありました。

大久保:起業に至るまではどのような経緯があったのですか。

飛内:2018年にブロックチェーン関連が流行りだしていた頃、悪いことをする人も出てくるだろうということで、前職でリスク管理部会の立ち上げに携わりました。その中でリスクマネジメントの重要性とDX推進の必要性を感じ、起業しようと思いました

日本の経済を支えている中小企業は、リスク管理や相手先が健全かどうかをチェックすることに対して、意識が低い面があります。取引先をしっかりチェックしなかったために金融機関との取引停止や行政処分など様々な、例をたくさん見てきました。

だからこそ、簡単かつ安く相手先をチェックできるサービスを世の中に広めないと日本の経済や社会が良くならない。そういった思いで事業をやっています。

大久保:エンジニアなど専門の人も必要になったと思いますが、どのようにして仲間を集められたのですか。

飛内:主にリスク管理部会で知り合った人がベースになっています。一見、システムを作っている会社ですが、リスクマネジメントのノウハウを提供する会社という側面もあります。

大久保:コンサルティングは起業直後も売り上げを出しやすい面がありますが、プロダクトは規模を大きくするまでに時間がかかると思います。そこはうまく両輪でやった感じですか。

飛内:おっしゃる通りです。初期はコンサルの領域で稼いで、その後にシステムの受注で大型のお客さんが取れるようになった流れです。

初期のシステムを投入したのが2019年だったのですが、そこからシステムも強化して、データベースも充実させることで、上場企業や、新興企業など様々な企業様にご選択いただいたかと思います。

最初は国内の情報だけを扱っていたのですが、大型のお客様から海外の情報を提供してもらえないかというオファーがありました。経済制裁リストや重要人物に関する情報です。10社ほど私たちのようなKYCの会社と協議をして、今も続いている海外のデータ会社とのデータ連携を実現させました。

公の情報を大量に収集する仕組みで勝負


大久保:帝国データバンクや東京商工リサーチのような会社データを扱っているところもありますが、そことは競合するのか別の領域になるのか、いかがですか。

飛内:全く別の領域になります。

私たちは公知情報、公に知られている情報を自分たちで収集しています。メディアの情報や官公庁の情報です。帝国データバンクのような独自の情報とは違います。

裏の情報、警察が持っている情報はありますかと聞かれることもありますが、そういったものはないです。あくまでも誰でも入手できる情報に特化して、収集するのが大変なものを集めています。

全ての官公庁、都道府県や市町村の行政処分情報など、毎日ホームページを検索して確認するのは難しいですよね。弊社サービスのRiskAnalyzeではAIを活用して1件あたり0.4秒の速さでデータを収集し、1時間に1回アップデートしています。

人間業ではできないことを提供しているとも言えます。

世の中の情報は玉石混交だと思いますが、お客様にとって何の情報が必要なのかを、私たちが選別して光る石を見つけて提供しているようなイメージです。

大久保:コスト的な優位性も重要ですね。

飛内KYCを社会インフラ化していくのが私たちのミッションの一つです

そのためには誰にでも使いやすく、コストも安く、データベースもしっかりしている3点が必要です。

大久保:リスクマネジメントのプロから見た場合、信用できる会社の見極め法などはあるのですか。

飛内情報を色々発信しているところは信用できることが多いです。

逆にガードが硬いようだと、今の世の中の流れ的には「何かあるのでは」という見方をされる可能性はあります。消費者が見るネット上の情報にはポジティブなものもネガティブなものもありますが、ディスクロージャーしていることは企業が評価される指標になっていると思います。

大久保:リスクマネジメントというとディフェンス的な要素が強いですが、攻めに使える部分もあるのですか。

飛内:そうですね、今後の事業展開としては、AIを使った自動の情報収集システムがすでにあるので、それをネガティブなものを集めるだけでなく、ポジティブな方に使っていくことも可能だと思っています。

企業を測る様々な指標をふまえてトータルに評価する仕組みを作っていくことが、方向性としてあります。

中小企業が活用しやすくするためにもサービスを磨きたい

大久保:AIはどのような部分で活用されているのでしょうか。

飛内:テキストを対象に、何がリスク管理情報かを自動で判別するような仕組みがあります。

例えば、師匠の技を盗むのは犯罪ではないけれども、師匠の財布を盗むのは犯罪で、刑法に触れるというところまで識別できます。さらに進んで、師匠の技を盗むのが知的財産の侵害にあたるかまで判別できる活用の仕方をしています。

大久保:今後、このようにサービスを広めていきたいというイメージはありますか。

飛内:まずは創業以来続けているKYCの社会インフラ化という部分です。そのためにはデータベースの拡充や、システムをより良いものにしていくことがもちろん重要です。

併せてネガティブ情報について、トータル的に企業や個人を測る指標が必要だと考えています。データの総合商社のような、我々がハブになってデータをまとめて提供していくイメージはあります。

中小企業ほど、重要である相手をチェックすることをやらない、やれないという問題があります。コストの面や、やり方を知らないという理由からです。私たちからすると、中小企業ほど使ってほしいと思っています。

大久保:飛内さんが起業されて大変だったことや、心に残っているエピソードなどはありますか。

飛内:とある会社のデューデリジェンスの一環として、取引先のチェックを請け負ったときのことです。金融機関のチェックによると疑義がある取引先は1つでしたが、我々が同じ数万社のデータをチェックしたところさらに2社見つかり、全部で3つの対象を排除する必要があることがわかりました。

これには金融機関も驚いて、我々のシステムの精度を証明できたと思います。初期の頃でしたが、そこから信頼関係を築いていくこともできました。

大久保:今流行りのドラマ「地面師たち」では、土地の関連で大手企業が騙されて何十億円も奪われる事件を描いています。実話が元なので現実にもあのような悪い人がいるわけですよね。

飛内当時の事件報道があったとき、我々のデータベースで調べると何人か引っかかる人がいました。なので、しっかりチェックしていれば防げた可能性はあったと思います。

日本でもシニアアントレプレナーが増えてほしい

大久保:起業家に向けて伝えたいことはありますか。

飛内:私が起業したのは50歳を過ぎてからです。いわゆるシニアアントレプレナーですが、日本はシニアアントレプレナーがすごく少ないです。

ベンチャーやスタートアップというと、キラキラしたイメージがあって若い人の特権のような部分もあります。海外ではそうではなくて、知見や社会経験をもとに会社を作るのは一般的なので、日本でもそうなっていけばいいなという思いはあります。

これから起業する野心を持っている人にとって、私たちのビジネスが大きくなっていくことが励みになれば嬉しいです。

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(取材協力: KYCコンサルティング株式会社 代表取締役 飛内尚正
(編集: 創業手帳編集部)



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