Microsoft澤円氏に聞く、プレゼンの精度を上げる”フィードバック”とは

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年09月に行われた取材時点のものです。

Microsoft 澤氏インタビュー(後編)

(2016/07/25更新)

「正確に伝えることこそ、プレゼンテーションである」。
前回のインタビューではプレゼンの基本となる『三層構造』についてお伺いしました。
後半となる今回は、プレゼンの精度を上げるにあたって重要な“フィードバック”についてお聞きしました。

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澤 円(さわ まどか)
日本マイクロソフト株式会社
マイクロソフトテクノロジーセンター センター長
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。2011年7月、マイクロソフトテクノロジーセンター センター長に就任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」などがある。

メンターをつくり、思考を飛ばす訓練を

ー相手に正確に伝えるためには、どうすればいいのでしょう?

:まず1人でできる訓練としては、“思考を飛ばすこと”です。

まったく違った立場の人、例えば、アラブの王様や、田舎のおばあちゃんや、小学校の時の同級生などの自分と関係のない人に説明するとしたらどんなふうに話せばいいのか、思考を飛ばして想像するんです。

どの人に対しても同じように説明ができる状態になれば、それが本物のプレゼンですよ。

もちろん、相手によって言葉選びが変わることは仕方ありませんし、0歳から100歳まですべての人にわかってもらうことは無理です。

でも、それほど大きく相手のイメージを想定しないと、実際にプレゼンをした時に「わかる人にはわかるけど……」という状態になってしまいます。

ー1人でできる訓練は、思考を飛ばすこと。では複数でできる訓練は?

:多くのフィードバックをもらうことです。雑な状態でもいいのでプレゼンを聞いてもらい、相手の反応を知りましょう。こちらがアウトプットすると、相手は考えたり、行動したりするので、実際に自分のプレゼンが伝わっているのかを知ることができます。

特に創業者はアウトプットばかりになりがちです。独りよがりにならないために、創業者・経営者の方には“メンター”をつけている人が多いんですよ。

ー“メンター”とは何ですか?

:ブレーンや、自分の弱みを補完してくれる人のことです。

最近だとソフトバンクの孫正義さんが話題になりましたね。今年の6月に孫さんがソフトバンク社長を続投する事を決めたのは、ファーストリテイリングの柳井正さんと日本電産の永守重信さんの二人に相談したからだそうです。

また、マイクロソフト社のビル・ゲイツのメンターは、ウォーレン・バフェット(世界最大の投資特殊会社会長)です。ウォーレン・バフェットからのアドバイスだったらちゃんと聞く事にしているそうですよ(笑)。

どんなに社会的地位が高くなろうとやっぱり自分一人では限界がある。メンターが存在した方が、フィードバックを素直に受けられるんです。

ーどんな人を“メンター”にするのがいいのでしょう?

:考えも思考パターンも自分とはかけ離れている人が良いですね。

バックグラウンドが違うと、「そういう見方があるのか」と発見があります。メンターの意見を聞いたら、どちらの考え方が正しいか間違っているかの結論を出す前に、なぜそういう思考に至ったのかを想像してみましょう。自分からアンテナを広げると、いろんな情報が入ってきますよ。

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プレゼンのプロ、澤円の誕生

ー澤さんはどのようにフィードバックを得ているのですか?

:友達やプレゼン相手に直接聞きます。

僕はだいたい年間250回ほどプレゼンするんですが、こちらが喋ってお終いではなく、必ず質問を受け付けたり問いかけたりして、無理やりにでも相手からのフィードバックを引き出そうとします。

そうすると「あ、これは伝わってないな」とか「こういう人にはこの表現だとわかりにくいんだな」というのがわかり、改善ができます。

また、フィードバックを受けると自分の強みや弱みもわかります。そうすると、弱みの部分を特異な人に頼れるようになる。僕は人の名前を覚えるのがすごく苦手なので、必ずもう1人連れて行って覚えてもらうようにしています。そういうパートナーを持つことは、とくに経営者にとっては本当に大事ですね。

ー澤さん自身のプレゼン方法や感覚は、フィードバックとアウトプットを重ねていくなかで身についたんですか?

:そうですね。あとは幸いなことに、僕の部下になってくれている7歳年上の方がプレゼンテーションの名手なんです。

十数年前、僕が平社員だった頃に会社の法務長だった方なんですが、突然「澤さん、僕を部下にする気ない?」と。

当時は実現しませんでしたが、数年後にチャンスがあって、僕の部下になってくれました。その時に、「澤さんはプレゼンが得意なのはいいんだけど、コンテンツ化しといた方が良いよ」と言われたんです。

「なぜうまくプレゼンできるのかをちゃんと言語化をして人に伝えられるように準備しておいたら、すごく良いと思うよ」とアドバイスを言ってくれて、「じゃあ自分はプレゼンテーションについてどう考えているのか、ちゃんと見直してみよう」と思いました。

そのうちに社内の勉強会でプレゼンについて発表するようになり、認知が広がって、今では講師をするようになりました。

もっとも大切なのは、自分自身へのプレゼン

ーメンターをつけたり“思考を飛ばす”ことを積み重ねて、相手に届くプレゼンができるようになるんですね

:そうですね。フィードバックを重ねれば、どんな言葉をどのようにアウトプットすれば多くの人に伝わるようになるのかがわかってきます。

特に創業者のプレゼンテーションは会社のプレゼンテーションとイコールなので、相手が誰でも同じプレゼンをする方が良いでしょう。

マイクロソフト社の場合も、トップのサティア・ナデラは社内へも社外へもほぼ同じことを言いますよ。そうやって会社のビジョンを共有し、スタッフの誰もが会社をプレゼンできるようにしているのです。

ー創業者だけでなく、スタッフにもプレゼンテーションが求められているんですね

:もちろんです。会社の商品ひとつとっても、必ず会社のビジョンと一致しているはずなんです。

「会社のビジョンは何か」を明確に言語化して社内へもプレゼンをし、スタッフが理解できていないと商品の説明ができません。もしビジョンが共有されず、スタッフそれぞれが違う方向を向いていたら前へ進まなくなり、企業は絶対に潰れます。

しかし、ビジョンだけではスタッフはついてきません。これは兵隊さんを一番疲れさせるトレーニング法と同じ構造です。

兵隊さんがもっとも疲れる訓練は、フル装備をさせて「止まれ」と言うまでただ走らせることです。5分で終わるかもしれないし、10時間かもしれない。すごく体力がある人でも、いつもより短い距離で気が狂いそうになるほど精神的に疲れます。

つまり、ゴールがないと力の分配ができなくなり、進み方を見失っちゃうんです。終わりがわからないと、人はうまく行動できないんですよ。

そうならないためには、マイルストーン(節目)が必要です。ビジョンを実現し続けるためのマイルストーンを期末や月末の決算日などに置くことで、企業が続いていくんです。

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自分が100%応援できることをビジョン掲げる

ープレゼンテーションを行うためにもっとも重要なものは、やはり『ビジョン』なのですね

:そうです。『ビジョン』の設定についてひとつ言うならば、自分に対してプレゼンテーションをしてみて、100%自分が納得できるかどうかを自問自答するといいですよ。

自分が100%満足し、納得し、間違いないと思える前に事業を始めてしまうと、どこかでエラーが起きてしまう。

完璧でなくてもいいから、少なくとも自分だけは100%応援できると思えることを『ビジョン』にしてください。そこまで突き詰めればブレないですから、誰に対しても伝えられるはずです。

これは、僕がスタートアップ企業の顧問を何社かやらせていただいている経験のなかでも感じていることです。成功するためには、まず自分が自分を100%サポートできるかがすごく大事なんです。

ー自分自身が一番のサポーターになれるビジョンを掲げられれば良いですね

:ええ。僕は創業者ではないので偉そうなことを言える立場ではないのですが、どんなサービスでも「これをきっかけにきっと世界は良くなる」と思うと、すごくハッピーになると思うんです。

どんなに大変な仕事でも、自分が納得できていれば頑張れるはず。創業される方々はそれだけで素晴らしいパワーを持っていますから、ぜひ、成功して素敵な未来を実現してほしいですね。

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Microsoft 澤氏インタビュー(前編)
Microsoft澤円氏が教える”人を動かす” プレゼンに必須の「三層構造」とは

(取材協力:マイクロソフト株式会社/澤円
(編集:創業手帳編集部)

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