Microsoft名物エバンジェリスト・澤円の”人を動かす” 「三層」プレゼンとは

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年08月に行われた取材時点のものです。

Microsoft 澤氏インタビュー(前編)

「創業者の言葉によるプレゼンテーションは、ものすごく大事なんです」と断言するのは、日本マイクロソフト株式会社の澤円氏。年間200本ものプレゼンテーションを行い、ビル・ゲイツ氏からも絶賛された“プレゼンのプロ”に、その極意を伺いました。

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澤 円(さわ まどか)
日本マイクロソフト株式会社
マイクロソフトテクノロジーセンター センター長
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。2011年7月、マイクロソフトテクノロジーセンター センター長に就任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」などがある。

プレゼンのゴールは「人を動かす」こと

ー澤さんが考えるプレゼンテーションのコツを教えて下さい。

:では、結論からお伝えしましょう。なぜ人はプレゼンテーションするのだと思いますか?それは、「相手に動いてもらうため」です。理解してもらうためでも、自社をPRするためでもありません。商品を購入してもらったり、サービスを受けてもらったりするためです。

プレゼン術と言うと話し方のコツをイメージする方が多いのですが、この“相手に動いてもらう”ことを最重要目標にすると、喋り方がたどたどしくても、少々論理が甘くても、プレゼンテーションは成功するのです。

ー話が上手くなくても、いいのですか?

:はい。プレゼンテーションにおいて、話し方を磨くのは最後でいいのです。

まずプレゼンの基本構造を説明しますと、それは『ビジョン』と『核』と『話術』。“三層構造”です。

この3つの構造がわかっていれば、どんなプレゼンをしたらいいのかが見えてきます。

「核」「話術」「ビジョン」の三層構造とは

ー“三層構造”とは、具体的には?

:飲食店に例えてみましょう。繁盛するレストランの理由は、いくつか考えられますよね? 味、清潔感、接客、立地、量、値段……たくさんあります。

ここで、接客がすごく良くて料理がまずいお店なら、人は喜んで行くでしょうか。行きませんよね。これをプレゼンに置き換えると、料理が『核』、接客が『話術』、食べて喜んでもらうことが『ビジョン』です。

3つそれぞれについて、もう少し詳しくお話しましょう。

『ビジョン』なくしてプレゼン成功なし

プレゼンテーションを行うためにもっとも重要なもの、それはビジョンです。これ無くしては、プレゼンの成功は絶対にありません。

ビジョンとは、プレゼン後に相手がどういう状態になっている事を成功とするのか。レストランでいえば、「ご飯を食べてすごく幸せな気分になる」ということ。一生懸命プレゼンしても、「それは私にとってどんな良い事があるんですか?」と聞かれた時にスラッと答えられないと、絶対に相手は動きません。

相手にどうなってほしいか……そこから逆算すると、おのずと言うべきこと、やるべきことが決まってきます。

もっとも重要な『核』

『核』とは、何を語るか、です。

例えば「弊社のサービスは○○です」と言葉にします。それを他の人が伝言ゲームしてくれた時に、途中で意味が変わったりせず、確実に伝わっていくこと……これが『核』です。

こんな例があります。かつてモンゴル帝国の初代皇帝となったチンギス・ハンは、絶頂期は全世界の半分の人口を治めていたそうです。すごいですよね!?どうやって治めたかと言うと、伝言ゲームなんです。

チンギス・ハンが「こんなことをしたい」と言った内容がずっと末端まで伝わっていったからこそ、何万人何億人が命をかけて戦ったりできたんです。チンギス・ハンが「なにをしたい」と言ったのか……これが『核』です。

また、この『核』にあたるものは“共感”を得られるものであることが必須です。人を動かすにはふたつの“キョウ”……“脅迫”と“共感”がありますが、“脅迫”は長続きしません。ずっと動くための原動力になるのは「いいな」「素敵だな」「好きだな」と思える“共感”なのです。

チンギス・ハンの例で言えば、聞いた人が「私もやりたい」と思える内容であること。飲食店の例で言えば、「これ美味しい」と思ってもらえる料理であること。それが“共感”=『核』です。

『話術』は最後でいい

プレゼンというと、多くの方は話術だけでやろうとするんです。けれども、プレゼンテーションにおける喋り方=『話術』は、100点満点中の20点ほどにしか値しません。8割は他のもので決まります。ものすごく態度が悪くてマイナスになるのは論外ですが、他の8割が完璧にできてれば少々言葉がつたなくてもいいんです。

『話術』はレストランに例えると接客・配膳の部分です。ニコニコして「いらっしゃいませ」と丁寧に接しても、肝心の料理が不味いと成功しないんですよ。だからいくら喋り方を磨いても、「話は上手いけど、なにも響かないよ」となってしまう。

うまく話すより前にやらなければいけない事が圧倒的に多いので、喋り方を勉強するのは最後でいいです。まず、何を話すのか、何をもってして成功とするのかに頭を使うことが重要なんです。

以上のように、プレゼンをするにあたっては、まず『ビジョン』を描きます。そのビジョンを実現するために、『核』を持ちます。その核を伝えるために、『話術』を使います。この3つ構造を踏まえることが、プレゼンが成功するために押さえておかなければいけない流れです。

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“体験”をシェアすると、人は動いてくれる

ー成功とは反対に“悪いプレゼン”とはどんなものですか?

:プレゼンテーションには、陥りやすい失敗がいくつかあります。

例えば、バイクを買いに行くとしましょう。すると店員さんが「いらっしゃいませ。このミラーを作っているメーカーは○○でトップシェアなんですよ。しかも、材質は△△の工場でしか扱えない素粒子を使っていて……」って、購買意欲わきませんよね。これはエンジニア出身の方がやりがちな失敗で、スペックから入ってしまう。

またある人は「いらっしゃいませ。なんと今購入いただくと60回ローンが組めて……」と、これはセールスマンが陥るパターン。また「いらっしゃいませ。今こんなバイクがありまして、色は青で……」と、これではただの説明です。

どれもよくビジネスシーンで起こっている事なんですよ。お客さんの方もいまいちピンと来ないだけで、失礼だとは思わないんです。でも、これでは人は動きません。

ーではどうすれば、人を動かす“良いプレゼン”ができるのでしょう?

:もっとも良いのは、“体験”してもらうことです。つまり、バイクの場合であれば、実際に運転してもらうことです。

ただ、物理的にできない場合もあるでしょう。その場合は代わりに、バイクにまたがってもらい、「もし山道を走るとこういう感じでGがかかってスリリングですよ」とか「海岸線を走ると、直進安定性が良いので風を受けながらとても気持ちいいですよ」のように“体験”を伝え、イメージの中で疑似体験をしてもらうことです。自分が顧客になった時を想像すれば当たり前だと感じるかもしれませんが、人を動かすのは“体験”なんですよ。

これが飲食店であれば、「三ッ星を取った」という情報だけを得るより、写真とレビューを見て「もしお店に行ったら……」という仮想体験をすると、どのお店にするか選びやすい。また、もっとも強烈な体験は、とても親しい友人が「あのお店すごく美味しいから行ってごらん」と言うことですね。その人の体験を伝えてもらうと、自分も体験したいなと思う可能性が高くなります。

そのように、相手にうまく“体験”した気になってもらうのです。そこで「これいいな」というイメージができれば、ほとんどの人は次の行動に移ろうとしますから。

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いい“体験”には、正確な言語化が欠かせない

ーうまく“体験”してもらうコツはありますか?

:相手に“体験”してもらうにあたって大事なことは、プレゼンする側が物事をきちんと言語化ができるかどうかに尽きます。

もしプレゼンする側が何を言っているのかわからなければ、相手にはなにも伝わりません。反対に、正確な言葉でプレゼンすれば、相手も「もしこれを購入したら……」「もしこのサービスを利用したら……」とイメージを膨らませ、より具体的な仮想体験ができます。そこで好ましく思えば行動に移りますから、正確に言語化できればプレゼンで失敗する事はほとんどないとまで言えるでしょう。

プレゼンテーションとは、自分の描いているビジョンを相手に正確に伝えることです。自分が分かっていても他の人に伝わらないと意味がありません。例えば、何も見ずにドラえもんを描いてみてください。

もし、完璧なドラえもんが描けていたら……それが、『相手に正確に伝えられる』ということなんです。それを事前に整理したうえで他人に提示することが、プレゼンテーションなんですね。

ー他人に正確に伝えることが、プレゼンテーションの本質なんですね。

:その通りです。さらに、正確なビジョンを活き活きと語るのにもっともふさわしいのが、創業者です。当然ながら、創業者は一般の社員よりも、自社のサービスに情熱と責任を持っています。創業者の言葉による正確プレゼンテーションが、お客さんの行動を促すためにものすごく大事なのです。

行動につながる“体験”をしてもらうためには、は正確に言語化すること。では、どうすれば正確に言語化できるのでしょう。

後編では、ビジョンを正確に言語化するためのポイントを教えていただきます。

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(取材協力:マイクロソフト株式会社/澤円
(編集:創業手帳編集部)

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