テラモーターズ社長・徳重氏が指南する「アジア進出への道」
テラモーターズ社長・徳重徹氏 インタビュー
電動バイクの製造・販売を行うテラモーターズ株式会社は、設立からわずか2年で年間販売台数3,000台を突破し、アジア市場で成功を収めたベンチャー企業だ。同社を率いる社長の徳重徹氏に、ベンチャー企業がアジア市場で成功する秘訣を伺った。
九州大学工学部卒業後、住友海上火災保険株式会社(当時)にて商品企画・経営企画等に従事。退社後、米サンダーバード国際経営大学院にてMBAを取得、シリコンバレーに渡り、コア技術ベンチャーの投資・ハンズオン支援を行う。事業の立ち上げや企業再生の分野で実績を残し、2010年に帰国。二輪・三輪車・シニアカーなどの製造・販売を行うテラモーターズ株式会社を設立。
社長自ら現場へ行ってそこで感じればいい
徳重:まず前提として、僕たちのように本気でアジア市場でローカル向けのビジネスをやっている日本企業は極めて少ないという実態があります。理由としては、アジアと今の日本とではコーポレート・カルチャーが丸っきり違うということが挙げられるでしょう。
一番の違いはリスクに対する考え方で、日本はとにかくリスクだリスクだと騒ぎ、リスクを全部潰してからでないと話がスタートしない。ところがアジアの人は、大企業でも財閥でもオーナーシップがありますし、すぐに決断を下します。リスクよりも、早くしないと機会を失ってしまうと考えている。このように意思決定のスピードがまったく違うので、僕の結論としては大企業がアジアに進出するのは難しいと思っています。
徳重:もう1つ、新興国の特徴として挙げられるのが、半年経つと状況がコロッと変わってしまうということ。例えばKFS(目標達成のために最も重要視すべきポイント)などに基づいて事業計画を作ろうと思っても、そもそも数字がないわけです。統計データがないものが多いんですよ。
徳重:それもあります。だから主観もある程度入れなくてはいけない。でも大企業では主観なんて許されないですよね。意思決定者がフロントに立ってやっていれば別ですが、当然そんなことはないので現状が分からない。おそらく上がってきた情報を理解できないのではないかと思います。ですからベンチャーや中小企業であれば、社長自ら現場へ行ってそこで感じればいいんです。
ビジネスをやる上では、少なくとも東南アジアやインド、バングラディシュ、スリランカあたりまでは、日本企業のブランドというものが勝手に付いてきてくれます。僕らのようなベンチャーがやっているバイク事業でも、彼らは勝手に東芝や日立と同じレベルで見てくれるんですよ。
徳重:逆に信頼してくれる環境は整っているのに、日本側に欠点がある。アジアにいると、必ず日本人はNATOだと言われます。NATOというのは「No Action Talk Only」、つまり本当に何もしないと。僕からすると、トークオンリーというよりリサーチオンリーですよね。リサーチは一生懸命するのにアクションを起こさないと。これはアジアの人にとっては非常に失礼なことです。彼らは心の底から日本とやりたいと言ってくれているのに、日本人は毎回リサーチばかり。とりあえず現地に2、3回行ってレポートを作るだけなんですよ。
ベンチャーはアジアとすごくカルチャー・フィットする
徳重:リサーチを終えた企業が販売網やジョイントベンチャーを作ることは極めて稀です。そういう会社が何百社もあるので、向こうからしたらいい加減にしてくれという話なんですよ。そんな中で僕らのような会社は極めて稀なので、逆にすごく喜ばれて評価されます。うちの会社の企業価値が本来100だとすると、日本国内ではこんな分野のベンチャー企業ということで30しか評価されません。しかしアジアに行くと、300や400になるわけです。それはもう非常にやりやすいですよね。
徳重:アジアも言ってみればベンチャー国じゃないですか。だから僕らのようなベンチャー企業はすごくカルチャー・フィットするんですね。なのにアジアで勝負する日本のベンチャーは少ない。何でなのかと思いますよ。それはきっと、「大企業でもできないのに我々にできるのか」と勝手にビビっているところがあると思うんですよね。
それからもう1つ、いざアクションを起こそうとしても、人材がいないという大きな課題に直面します。たとえオーナーが決断を下しても、フロントで実務をやってくれる人材がいない。だからそういう人材をいかに確保するかというのが今後の課題になってくると思います。でもそれはやはり、最終的には社長やオーナーのビジョン次第です。私は最初からとにかくアジアでやると決めてやっていましたが、そういう会社が他にあまりない分、そういう人材が集まってくるんですね。今はインド、バングラディシュ、ベトナムに10人ほど社員が行っていますが、みんな本当に生き生きと働いていますよ。
徳重:僕自身もまだ試行錯誤している最中ではありますが、1つ言えることは、最初の入口のところで彼らがやりたい方向とこちらのビジョンが合っているかどうか。創業時にそういった人材を採用するのはなかなか難しいですが、なるべくそこは意識することが大事だと思います。もう1つは、自分でやってみせて褒めないと人は動きません。半年ぐらいはこちらも我慢して場を与えて、厳しくも温かく見守る。そうやって伸びてくる社員もいますからね。
徳重:相手のキャラクターによりますね。例えば、スタッフがやりたいことと市場にズレが生じた場合、そこはこちらが判断する必要があります。以前マーケティングやプロモーションが好きなスタッフがベトナムに行ったことがありましたが、新興国ではそこまで必要ないのに好きだからそっちに寄ってしまった。そういった場合にはこちらで間引くか、もしくは少し足してあげる必要があるでしょうね。仮にすべてを任せると、そこがズレが生まれるというのは僕の経験上思います。
6割できると思えばやってしまえ
徳重:政策の不確実性というのは極めてありますね。それは特に政府が絡む案件でそう感じます。我々は2年前からフィリピンで3輪バイクの案件をやっていますが、実は入札がまだ決まらないんです。リビットリビットで今回で3回目ですが、投資家からしても「あれはまだか」となる。ですから、それはそれでやるにしても、同時に民間で代案を考えておかなくてはいけないんですよ。
あとは中国やベトナムの場合、法律が急に変わったりすることがありますね。民主主義だったらもう少し違うと思いますが、社会主義なのでそこは変えやすいんでしょうね。
徳重:僕らがやっている自動車やバイク産業は、ルールやレギュレーションが大事になってきます。ですから、政府とつながりがあるようなところには、最初からちょっと絡ませておきますね。もしくは事前に情報がインプットされるように、いろいろなところにネットワークを張り巡らせておく。僕らはやはり、どんどんローカルに入り込まくてはいけないと思っています。
徳重:LinkedInってありますよね?あれはもともと採用のためのサービスですが、ありがたいことに海外のプロフェッショナル、エリートの人たちが結構登録しているので、我々はリンクトインアタックをしています。LinkedIn経由で「会いたい」とコンタクトを取ると、結構繋がるんですよ。それでどんどんアポを取っていく、と。
徳重:まずデータをいっぱい調べますね。我々の事業に関しては、ありがたいことにホンダやヤマハという先駆者たちがいるので、結構データがあるんですよ。そのデータをもとに、二輪の市場規模や成長性、バイクにはどんなタイプが多いかということを調べます。次に、国ごとに出ている税務やリスクに関する本をすべて読む。理想的には、その著者に全部会いますね。
次のステップとしては、ジェトロや銀行、うちだったらローカルのパートナーになりそうな自動車ディーラーやバイクディーラーに、電話、メール、リンクドイン経由でアタックしてアポを取りまくります。そこから現地に1週間ほど行って、1日に4、5社の人間に会うんですよ。そうすると大体見えてきます。僕らは1回目からそういうことをしていますね。
徳重:僕は講演でも若い人たちにそう言っていますが、そうすると間違いなく「たった60%の確信でいいんですか」と聞かれます。僕は自分で勝手に考えて60という数字を出していますが、面白いことに、経団連や東芝の会長を務めた土光敏夫さんという方が、僕が生まれた頃に出した著書に「新しい事業は60%OKだったらとにかく進め」と書いているんですよ。
さらに最近では、フォックスコンという台湾の大企業の会長が「10兆円企業になった今、我々は意思決定として60%OKならやるが、昔は30だった」と言っているんですね。中国のファーウェイという大企業の会長も「30%OKならゴー」と言っている。もう全然負けてるなと思って。僕が60と言うと日本では驚かれますが、アジアの基準は30なんです。そのぐらい感覚がズレているんですよ。そういう意味では、本当に日本人は機会を失っていますよ。
起業家にはダイナミズムを持ってやってもらいたい
徳重:海外と日本でそこまで違いはないと思っています。やはり向こうが何を考え何をしたいか、それをきちんと理解して貢献してあげることでしょうか。
ただアジアはまだまだ新興国なので、明治の気質のような感じというか、財閥や有力な方はやはり国のことを考えてやっている人が多いですよ。例えば僕らがやっているバングラディシュの事業だったら、彼らがやっている目的は「国内に産業がないから作りたい」と。自動車産業やバイク産業は雇用も生むし裾野産業もできるから、ローカリゼーションしてくれというのを条件でやっていて、彼らはそこにすごく思い入れがあります。僕は彼らとは深刻度のステージが違いますが、いろいろなことが完璧に積み重なっているんですよね。
徳重:これからアジアでやっていく中で、今後はあまり国籍を気にせず、できればもっとローカルの人を増やしていきたいと思っています。例えばベトナムやフィリピンなんかだと、月給15万も出せばすごく優秀な人が来ます。彼らはもちろん日本語もベトナム語も英語も堪能で、ローカルマーケットも分かる。そんな人材と、ホンダやヤマハにいた40代の高給取りの日本人が戦えますか、ということが至るところで起こってくるでしょうね。今後世界がグローバル化していく中で、個々がどうやっていくのかというのは考えないといけませんよね。
アジアには一体感があって、その中で日本だけアウェイのような、離れている感じがあります。あっちはウエルカムなのに、そこはすごくもったいないと思っていて。ですから、たとえ創業間もないベンチャー企業でも、経営者の考え方次第でいくらでもアジアで成功できる、そういう機会がもっとある、ということが伝えられればいいなと思っています。
徳重:何事もいろいろと難しく考えずに、一度アジアに行ってみるということでしょうか。そこで話してみて、肌で感じることが大事です。それがないと、いくら言っても分からない。本を読んでいるだけではダメですよ。現地に行くと「1回目でここまで商談できるのか」とか、「こんなに大きな案件なのにそんなにすぐ決めるのか」とか、いろいろ感じることがあるわけですよ。そうやっていたら、もしかしたらビジネスになるかもしれない。相手が何かできそうだなと思ってくれるかもしれない。
やる前にいろいろ考えるよりも、足を踏み込んでみて初めて見えることってたくさんあると思うんですよ。特に新興国なんていうのはね。なので踏み込んだ後に軌道修正することを前提として、軌道修正能力をいかに高めるか、というところに力点を置く。そうすると朝令暮改も怖くないですよ。今日本で朝令暮改と言ったら「大丈夫か?」となりますが、ソニーの盛田さんが書いた本を読むと「朝令暮改じゃだめだ」と書いてあります。つまり、朝決めたら昼には変えるくらいじゃないとだめだ、と。昔の経営者は、大企業であってもそれぐらいダイナミックだったんです。
僕は大学の頃、そういう本ばかり読んでセミナーにもいろいろ行きましたが、当時の経営者は大企業でもすごくメッセージを発していたし、起業家チックな人が多かったですよね。昔はそういう人が経営していたから大企業でも良かったですが、今の日本の社会は全体的に縮こまっているというか。中国を見てくださいよ。シャオミなんかは5年間で1兆円企業になっている。日本の起業家にも、それぐらいのダイナミズムを持ってやってもらいたいですね。
ベトナム進出の様子
(創業手帳編集部)
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