法人化すれば全てが楽になる?実は個人事業主のままの方が良かった「残念なケース」
法人化を焦る前に、見えていないコストとリスクを把握しておこう

「売上が増えたら法人化した方がいい」、「法人の方が節税できる」、「会社にした方が信用される」といった言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。
このような話を聞いて、法人化を前向きに検討している個人事業主も少なくありません。
しかし、法人化は万能ではありません。場合によっては、個人事業主のままでいた方が手取りも自由度も高かったというケースもあります。
この記事では、法人化によってかえって負担が増えてしまう「残念なケース」を紹介しながら、法人化を判断する前に確認すべきポイントを解説します。
この記事の目次
法人化すると得られる主なメリット

法人化には節税・信用力・資金調達など複数のメリットがあります。しかし、誰にとってもそのメリットが魅力的であるとは断言できません。
法人化のメリットを知って、自分の事業規模や目的に合致するかを見極めましょう。
所得が増えると節税につながる可能性がある
法人化のメリットの中でも多くの人が挙げるのが節税しやすい点です。
個人事業主の所得税は累進課税であり、課税所得が増えるほど高くなり、最大45%まで税率が上昇する仕組みです。
一方で、中小法人の実効税率は利益水準にもよりますが概ね20〜30%台前半で推移します。
つまり、所得が一定水準を超えると法人の方が税負担を抑えられるケースが存在します。
ただし、実際に節税になるかどうかは利益水準や事業構造によって異なります。法人化するときには税理士に個別の試算を依頼するようにおすすめします。
社会的信用が上がりやすい
法人化すれば、法人名義での銀行口座を開設でき、契約締結も可能です。そのため、大手企業や行政機関との取引において信用面での障壁が下がりやすいと考えられます。
金融機関からの融資審査においても、法人格を持つ企業は個人事業主と比べて審査で有利に運びやすい傾向があります。
法人は登記により会社情報が公開されるため、取引先が経営の実態を確認しやすく信頼につながりやすいのです。
経費の範囲が増える
個人事業主は、事業に直接必要な費用しか経費として認められません。
個人事業主と比較すると、法人では役員報酬・社宅制度・出張旅費規程などを活用した税務設計がしやすくなる場合があります。
具体的には、一定の生命保険契約や、出張の日当、社宅の家賃の一部などを経費計上可能です。
個人事業主では認められにくい経費も、法人契約として一定の条件で経費計上できる場合があるので、より利益を圧縮しやすくなるのです。
それでも「個人事業主のままの方が良かった」となる理由

法人化にはメリットがある一方で、コストや手続き面での負担が想定以上に重くなるケースも多くあります。
個人事業主の立場を維持するかどうか慎重に検討してください。どういった理由で、法人化にデメリットがあるのかまとめました。
赤字でも法人住民税がかかる
法人化によって、課せられる税金が変わります。個人事業主であれば、赤字の場合には所得税や住民税は課せられません。
しかし、法人住民税の均等割は所得の有無にかかわらず課税されます。つまり、赤字決算であっても最低7万円程度の納税義務があるのです。
売上が変動しやすい事業では均等割が固定的な支出として発生するのは大きな負担です。
そのため、個人事業主だった時よりも固定費が大きくなると意識してキャッシュフローを考えなければいけません。
社会保険料の負担が大きくなる
法人化によって増える負担の中でも大きいのが社会保険料負担です。
法人化すると代表者1人であっても健康保険・厚生年金への強制加入が義務付けられ、任意での脱退はできません。
健康保険料と厚生年金保険料の合計は会社負担分と本人負担分を合わせると報酬額の30%近くに達する場合があり、手取りへの影響は決して少なくありません。
個人事業主として国民健康保険と国民年金を支払っていたときよりも保険料総額が増加する可能性は考えておきましょう。
法人化で軽減された税金分よりも社会保険料の増加が上回ってしまうリスクもあります。
会計・税務処理が複雑になる
法人は、個人事業主の青色申告よりも会計処理の要件が複雑です。決算書の作成や法人税申告には専門知識が必要となり専門家に依頼することも考えなければいけません。
税務に加えて、個人事業主にはない運営上の事務作業が大幅に増加します。
役員報酬の決定や変更、社会保険の手続き、株主総会の開催といった作業で、本業に集中するのが困難です。
会計や事務手続きは外注できますが、費用負担は避けられません。
税理士への顧問料や決算申告料は年間数十万円に上ることも多く、この固定費が収益を圧迫する要因となり得ます。
自由にお金を使いにくくなる
個人事業主よりも法人は、お金の使い方が厳格になります。法人の口座から個人の生活費を直接引き出すと、それは別人格の口座からの引き出しとなります。
横領リスクや税務上の問題につながるので、個人と法人の資金は明確に区分しなければいけません。
役員報酬についても自由に決められると思われがちですが、原則として事業年度開始から3ヶ月以内に決定し、期中に変更すると損金算入が認められなくなる制約が設けられています。
個人事業主が享受していた事業収益の柔軟な活用という自由度は、法人化によって大幅に制限されることを覚悟してください。
法人化して後悔しやすい「残念なケース」

法人化の失敗は特定のパターンに集中しています。自分がそのパターンに該当していないか事前に精査して、対策を講じましょう。
ケース1:利益がまだ安定していない
法人化後に増加する固定費は、売上が落ちた月でも同額が発生し続けます。税理士費用や社会保険料、法人住民税などの負担が大きく経営を圧迫してしまうケースです。
広告費や外注費が変動しやすく、月次の利益が読みにくいビジネスモデルでは、法人の固定費がキャッシュフローの重石になって赤字になりやすい傾向があります。
安定した利益が維持できるかどうかを考え、繁閑差が激しい事業や単発案件中心の事業では少なくとも2〜3期分の利益推移を確認してから法人化を検討しましょう。
ケース2:節税だけを目的に法人化した
法人化に伴う会社設立費用は登録免許税だけで最低15万円はかかります。加えて、手続きを依頼した司法書士費用などが上乗せされるのが一般的です。
想定していた節税効果より、税理士顧問料・社会保険料・法人住民税の増加分が大きくなるケースは実際に多く存在しています。
税金単体の比較ではなく、社会保険料・専門家費用・事務負担を含めたトータルの手取り額で損益分岐を試算するようにしてください。
ケース3:自分ひとりで小さく自由に働きたい
法人化してみて初めて自分に適した働き方に気が付くケースもあります。
事業拡大を志向せず一人で裁量を持って働きたい人にとって、法人運営に伴う各種規制や手続きは事業の自由度を著しく低下させてしまいます。
役員報酬の変更制限や会計・登記の義務など、法人格の維持には継続的なコストと管理工数が発生すると考えてください。
従業員採用・外部資本・事業承継の予定がないのであれば、個人事業主のまま青色申告を最大限活用する方が合理的な場合も多くあります。
事業規模を拡大し続けるのが、本当に自分にとって目指す道なのか考えてみましょう。
ケース4:消費税のタイミングだけで法人化した
一定規模の法人は、原則として設立から2事業年度は消費税の納税が免除されます。これを目当てに法人化するケースもよく見られます。
しかし、2023年10月に開始されたインボイス制度により、免税事業者のままでは取引先が仕入税額控除を受けられず取引継続が困難になるケースが生じています。
法人化してもインボイス登録を行えば課税事業者となるため、単純な免税期間の延長目的での法人化は効果が限定的です。
消費税の取り扱いは取引先の課税状況・インボイス登録の有無・事業規模を総合的に考慮した上で税理士と相談して判断するようにしてください。
ケース5:社会保険料を甘く見ていた
厚生年金保険料は標準報酬月額の18.3%であり、会社と本人が折半で負担するため、報酬設計を誤ると会社側の資金繰りに深刻な影響を与えてしまいます。
個人事業主から法人化によって国民健康保険から協会けんぽへ切り替えると保険料が大幅に増加するケースがあり、特に40〜50代の代表者では差額が年間数十万円に上ることもあります。
法人化の損益計算では、税負担の変化だけでなく、社会保険料の増加分を必ず数値化してシミュレーションに組み込むようにしましょう。
法人化を検討する前に確認すべきポイント

法人化で後悔しないためには、感覚的な判断を避けデータから客観的に判断することが必要です。以下の具体的な指標を事前に数値で確認しておくようにしてください。
年間利益はいくらか
一般的に法人化による節税メリットが顕在化し始めるのは課税所得が概ね800万円を超える水準からとされています。
ここで大切なのは、売上ではなく利益で判断しなければいけないという点です。
売上高が高くても経費率が高くて手元に残る利益が少ない事業では、法人化によるコスト増の方が上回るリスクが高くなってしまいます。
法人化する前に過去2〜3期の確定申告書をもとに実際の課税所得額を把握しておきましょう。
税理士も活用して法人・個人の税負担を比較試算して決定するようにおすすめします。
今後も利益が継続する見込みはあるか
事業の成長が著しいと、より資金調達や規模拡大を求めて法人化したいと感じるようになります。
しかし、一時的な売上増加や単年の好業績だけを根拠に法人化すると、翌年以降に利益が戻った際に固定費だけが残る状況に陥ってしまうことがあります。
法人化は設立してから廃業したり、個人事業主に戻したりするためにコストが発生するので、法人化検討の段階で少なくとも数年単位の利益継続性を見極めてから判断するようにしてください。
今後の受注の見通し・契約の安定性・市場動向を踏まえた将来の利益予測を作成し、その数値を法人化判断の根拠とすることが重要です。
社会保険料を含めた手取りはどう変わるか
法人化してからの手取りは、税負担だけでなく、健康保険・厚生年金の会社負担分を含めた総コストを差し引いて計算しなければ正確に把握できません。
役員報酬の金額設定によって社会保険料の水準も変動します。役員報酬は、個人の所得税にも法人の経費にも影響するので、報酬額と保険料の関係を理解した上で最適な設計を検討することが求められます。
個人事業主時代の手取りと法人化後の手取りを同一条件で比較するシミュレーションを税理士に依頼し、差額を数値で確認してもらうこともできます。
税理士費用や事務負担を許容できるか
法人の税理士顧問料・決算申告料は年間30〜70万円程度が相場とされています。
法人になることで、必要になる専門知識や手続きも増えるため、個人事業主時代の確定申告費用と比較して大幅に増加するのが一般的です。
月次の帳簿管理や社会保険手続き、役員報酬の決議や登記変更など、法人運営には継続的な事務作業が伴います。
全部を自分で行おうとすれば、経営者の時間と労力を消費して事業運営に影響するかもしれません。
外部専門家への依頼費用だけでなく自身の事務作業にかかる時間コストも含めて、法人運営の総負担を事前に見積もってから法人化するかどうかを決めるようにしてください。
事業を大きくする予定があるか
従業員採用や金融機関からの融資、法人名義での大型契約のように事業拡大を具体的に計画しているならば法人化のメリットは大きく高まります。
外部資本の受け入れやVC・エンジェル投資家からの出資を検討しているのであれば、法人格の取得が実質的な前提条件です。
反対に、事業規模を現状維持もしくは縮小方向で考えている場合は、大きな資金調達や投資は必要ありません。
個人事業主のまま経費管理と青色申告を徹底する方が合理的な選択といえます。
法人化に向いている人・向いていない人

法人化が有利に機能するかどうかは事業の規模・将来方針・収益構造によって異なります。
収入や属性に応じて一律に判断はできません。以下では目安として法人化に向いている人と向いていない人をまとめました。
法人化に向いている人
法人化に向いているのは、課税所得が安定して高水準にあり、法人税と個人所得税の税率差を活用した節税効果が数値的に確認できる事業者です。
経営基盤が安定していれば税理士などの専門家と継続的に連携できる体制が整っており、法人運営に伴う会計・税務・労務の管理コストを許容できます。
また、事業拡大に向けた具体的な計画が整っていれば法人化を検討する段階です。
事業拡大による従業員の採用や融資による設備投資、取引先からの法人化要請などがあるケースでは、法人化が事業拡大の追い風になります。
個人事業主のままでもよい人
利益が不安定もしくは低水準であり、法人化の固定費増加分が節税メリットを上回ると試算される段階であれば、個人事業主を継続したほうが効率的に経営しやすいでしょう。
事業拡大や従業員採用、外部資本調達の予定があれば、事業が安定した段階で検討するといった選択肢もあります。
しかし、一人で自由度の高い働き方を継続することを事業方針としている場合は法人化の必要性が低いといえます。
節税のみを目的として法人化を検討しているようなケースでは、まず青色申告の各種控除や小規模企業共済などの個人向け節税手段を最大限活用することを優先するようにおすすめします。
まとめ:法人化は「ステップアップ」ではなく「経営形態の変更」
法人化は、個人事業主より上位の形態や最終的なゴールというわけではありません。
あくまで、事業の規模や目的に応じた経営形態のひとつなので、個人事業主がみな法人化を目指す必要はありません。
利益が安定し、事業拡大や信用力向上の必要があるなら、法人化は有効な選択肢です。一方で、利益が不安定、自分だけで自由に働きたい場合は、個人事業主のままの方が合っていることもあります。
法人化を検討する際は、「節税できそう」というイメージだけで判断せず、税金・社会保険料・固定費・事務負担を含めて慎重に比較しましょう。
創業手帳(冊子版)は、事業成長を目指す人に向けたコンテンツを多数掲載しています。制度や税制の情報を集めるなら創業手帳を活用してください。
(編集:創業手帳編集部)
創業手帳
飲食開業手帳
補助金ガイド
創業手帳カレンダー