ヌーラボ 橋本正徳|フルフラットな組織をマネジメントツールで実現する

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年04月に行われた取材時点のものです。

プロジェクト管理ツールBacklogはマネジメントを助けてくれる最強ツール

「いいチームとは自律した個人が仲良く支え合うチームである」「リーダーシップとマネジメントは似て非なるもの」そんなメッセージを発信しているのは、世界中で愛されるプロジェクト管理ツールBacklogを生んだ福岡発の異色ベンチャー、ヌーラボの代表取締役、橋本氏だ。

フラットな組織作りを公言する橋本氏に、創業手帳代表の大久保が、そのために会社でどのような工夫や意識をしているのか、起業の経緯、著書の内容についてなどをお聞きした。

橋本正徳(はしもと まさのり)
株式会社ヌーラボ 代表取締役
1976年福岡県生まれ。福岡県立早良高等学校を卒業後上京し、飲食業に携わる。劇団主宰やクラブミュージックのライブ演奏なども経験。1998年、福岡に戻り、父親の家業である建築業に携わる。2001年プログラマーに転身。2004年福岡にて株式会社ヌーラボを設立し、代表取締役に就任。株式会社ヌーラボは現在、チームのコラボレーションを促進する3つのWebサービス「Backlog」「Cacoo」「Typetalk」を開発・運営。また、福岡本社のほか東京、京都、シンガポール、ニューヨーク、アムステルダムに拠点を持ち、世界展開に向けてコツコツ積み上げ中。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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飽き性なので自分が一番好きなことで起業した

大久保:起業した経緯を教えていただけますか。

橋本経営者の気質は、母親譲りだと思っているんです。僕は高校生の夏休みに掃除屋のアルバイトをしていたんですが、僕が家で話した掃除の方法を聞いて、母が「私でもできそう」と掃除屋を始めたんです。父は船乗りだったんですが、母が商売を拡大していくと船を降りて事業に参加しました。

いったんは僕も家業に入ったのですが、経営に興味を持ち始めたことで独立起業しようと思い、当時得意だったDTPで、次は知り合いのアイディアで八百屋で起業をしましたがうまくいかず、すぐにやめてしまいました。

その後、3年で起業の準備をしようとプログラマーとして就職し、仕事のかたわらBacklog(プロジェクト管理ツール)の原型を生み出すOSS(オープンソースソフトウェア)コミュニティを立ち上げます。仕事は楽しくなかったんですが、プログラミングに対しての興味はあり、もっと楽しく知識を深めたいと思ったからです。

その活動が評価され、プログラミングに関する書籍を出版したこともあって、プログラマーとして着実に評価されるようになっていきました。自分で設定した3年の期限も迫っていましたし、収入面でももっと稼がないと家庭を支えるという意味では生活が厳しく、三度目の起業を決意しました。

大久保:ITで起業したのはなぜでしょうか?

橋本飽き性なので、自分の一番好きなもので、続けられるものがいいなと思ったんですよね。ずっとさわっているパソコンがお金になるなら、これで起業しようと思いました。昔の知り合いが肉の輸入をオートメーション化して起業し、非常にうまくいっていたので、仕組みを作って儲けるということに興味を持ちましたね。

身の回りに社長がいたりして、商売に関してもある程度知っている世界でしたので、自分の得意なプログラミングとかけ合わせて起業することができました。

大久保:Backlogはどのぐらいのタイミングでできたのでしょうか?

橋本起業後1年ぐらいのタイミングですね。最初は受託で開発をして売上を作り、足りないときは銀行などから借りました。公庫や信金など、地元密着のところです。

大久保:自社のプロダクトを作りたいという気持ちがあったのでしょうか。

橋本:半年ぐらいである程度の売上が上がってきて、軌道に乗ってきたので、「こういう風に仕事したら楽しくなりますよ」という表現活動の一環としてBacklogの開発に会社として力を入れました。

日本の組織はリーダーシップとマネジメントを一緒にしていますが、本質的にはまったく違うものだと思います。マネジメントをどんどん薄めていければ仕事がやりやすいのでは、と考えた結果がBacklogにつながっていると思いますね。

もともと役職としてのリーダーというのはいらないと思っていて、場面場面で活躍する人がリーダーシップをとればいいと思っているんです。リーダーシップは誰しも取ってみたいけれど、マネジメントはみんなやりたがらないんですよね。

大久保:確かにそうですね。創業手帳でもBacklogを使っていますが、マネジメントを助けてくれている実感はあります。AIが人間の仕事を奪うということがずいぶん騒がれましたけれど、人間がやらなくてはいけない仕事としては、どんな部分が残っていくのでしょうか?

橋本ハッピーを感じるところは人間がやればいいと思っています。ハッピーにもいろんな種類がありますが、人と人の交わりがポジティブなところはコンピュータに取らせるべきではないと考えます。

あと、AIやコンピュータは決まったことを決まったとおりにやるのは強いんですが、例外には弱いので、そういった例外が生じそうなタスクに関しては人間がやるべきですね。

大久保:例えばBacklogがリマインドを出してくれるというのは非常に助かる機能ですね。Backlogは一定のニーズがあるサービスだと思いますが、「Cacoo」「Typetalk」という新事業を始めた理由は何でしょうか?

橋本:事業展開のことを考えると、もしかしたらBacklogだけでいいのかもしれません。ただうちの会社はエンジニアが立ち上げた会社で、エンジニアがやっている新しいことを簡単にすると、一般の人々に役立つものになり、そのタイムラグが5〜10年ほどあるというのが今までの実感としてあるので、そのエンジニア発の便利なアイディアを皆さんに届けたいという気持ちでやっています。

大久保:Backlogらしさなど、プロダクトの雰囲気は決めていますか?

橋本:雰囲気の部分は意識していますね。仕事が楽しくなるようなユーザーインターフェースを考えていて、効率化を意識しすぎず、パソコンにあまり詳しくないユーザーにも親しんでもらえるように、楽しい部分を残すようにしています。

「仲良くする」というのは重要スキル

大久保:著書『会社は「仲良しクラブ」でいい』を読みました。仲良しクラブでいいと言い切ってしまうと、今までの常識をくつがえすようでびっくりする人も多いのではと思うのですが。

橋本:タイトルの通り、僕は会社は仲良しクラブでいいと思っています。前提として全員が自律的な人たちということはありますが、仲良くするというのは、かなり努力がいることですよね。また、ビジネスを通して、ひとつのチームとなって外界と戦っているイメージなので、中でもまた闘うのはちょっとしんどいなというのが正直な気持ちとしてあります。あまり言われませんが、同僚や部下、上司などと仲良くするというのはすごく重要なスキルだと思いませんか。

話しかけづらいのは仕事を一緒にする上で大きなマイナスポイントだと感じますし、仕事のほとんどはコラボレーションによって成り立っているので仕事も進みません。コミュニケーションのインターフェースとして、フレンドリーにやることが必要だと思っています。そのため、ヌーラボでは「アンガーマネジメントセミナー」を研修として取り入れています。

大久保:社長って話しかけづらいと思われることがあると思うんですが、そのあたりはいかがですか。

橋本:それはあると思いますね。意識して自分では話しかけやすい雰囲気を出すようにしています。たまには腹が立つこともやはりあるんですが、怒らないように気をつけていますし「怒ったら負け」という自分ルールも作っています。もし怒ってしまった場合、怒ったという事実のみが覚えられてしまって、その内容に関しては覚えてもらえないので。

以前、Twitterで「40超えたおじさんである僕みたいな人間は、ニコニコしてるくらいで丁度いい」とつぶやいたんですが、「肝に銘じたい」などと大きな反響をいただき、取材まで来ました。やはり肩書きや年齢のせいで、何も考えていないのにイライラしているように見られがちなところがあると思っているので、自戒もこめてつぶやいたところはあります。またその投稿は、「おじさん」をいじる風潮へのアンチテーゼも含めていたんですが、その部分を、ブラックジョークとして理解してくれる人はなかなかいなかったです。

老後もつきあえる友人を持っておくことが大事

大久保:起業して1年目のときにこうしたらよかったと思うことはありますか?

橋本最初から力を抜いておけばよかったと思うことはありますね。社員が増えてきたときにちゃんとしなくちゃ、と思いましたが、結局無理だったんです。だったら最初からちゃんとしなきゃと思わなければよかったですね(笑)。

人を怒ることはなかったですが、よくない雰囲気を出すことはあったと思います。そこに関しては、自分がちゃんと自分の立場に向き合わないといけないと感じたタイミングもあり、徐々に改善していきました。

大久保:いい会社を作るために伝えておきたいことはありますか。

橋本:うちがいい会社なのかわかりませんが、大切なのは例えば慢心しているときに注意してくれる友人を持っていることだと思います。経営者が気をつけないといけないのは、失敗しているときではなくうまくいっている時です。絶頂期で浮かれているときに指摘してくれるような友人を持つこと。そういう友人ってきっと老後も一緒につきあえる人だと思いますし、自分が話しかけにくい雰囲気だと注意もしづらいと思うので、そういった指摘ができるキャラクターになっておくことも大事ですね。

大久保:会社の構成にはどんな特徴がありますか。

橋本誰が強いというのはあまりない組織ですね。リーダーシップの話ではないけれど、何かの局面で得意な人がリーダーを取ります。対象としている商売の複雑性によって、フラット度を変えていったほうがいいと思っています。複雑なビジネスのときは、なるべくフラットなほうがいいですね。

大久保:フラットな組織はマネジメントが難しいという問題がありますが、そういうときにマネジメントツールの力を借りるといいですね。最後に起業家に向けてメッセージをお願いします。

橋本まずはメンタルを壊しがちなので、気をつけて、と伝えたいですね。肩の力を抜くことも意識してください。

アメーバ組織(※)では、従業員との強いつながりは非常に重要です。つながりを作る要素として、理解度(この組織で何をしようとしているか)、共感(組織に対する共感)、自分の中から出てくる自走心(言われたこと以外のこともやりたい気持ち)が必要ですが、すべて重要な要素だと思いますし、つながりが強いと「このチームで一緒に仕事ができてよかった」と思うようになるので、フルフラットな組織を経営していこうとしている経営者の方には特に意識していただきたいですね。

※アメーバ組織:組織の職能や事業,あるいは階層をベースとした組織構造を確定したものとせずに,必要に応じて柔軟に変化させることを想定している組織の総称

『会社は仲良しクラブでいい』橋本正徳 ディスカヴァー・トゥエンティワン
「このチームで一緒に仕事できて、よかった」を世界中に生み出していくことをブランドメッセージとして活動し、注目されているヌーラボ創業者橋本氏のビジネス書。いいチームとは何かを知りたい経営者や起業家は必読の書。

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(取材協力: 株式会社ヌーラボ 代表取締役 橋本正徳
(編集: 創業手帳編集部)



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