クロスビット 小久保 孝咲|シフト管理DX「らくしふ」を起点に、「働く」の先にある、サービスを受ける方や働き手の家族の「体験」も変えていく

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年01月に行われた取材時点のものです。

約2,000万人いる全シフトワーカーの職場に「らくしふ」を届けたい


日本には約2,000万人弱のシフトワーカーがいますが、最低賃金で働く方の割合も多く、正しく人事評価がされていないという課題も多く見られます。

この課題を解決するために、シフト管理の効率化ツール「らくしふ」で、シフトワーカーの働く環境の整備や企業の利益率向上、現場の工数削減に取り組むのがクロスビットの小久保さんです。

今回の記事では、小久保さんがクロスビットを創業するまでの経緯や今の業態に至る過程について、創業手帳の大久保が聞きました。

小久保 孝咲(こくぼ こうさく)
株式会社クロスビット 代表取締役
早稲田大学政治経済学部卒。在学中に転職エージェントにて法人営業マネージャーを経験。人材業界から日本の人材関連課題を見る中で、テクノロジー活用による人材リソースの最適配分の可能性を強く感じ、起業を決意。2016年に株式会社クロスビットを創業。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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受託開発から自社プロダクトへシフトチェンジ

大久保:小久保さんは、最初はどのようなことで起業したのでしょうか?

小久保受託開発でした。具体的には、Web制作、システムの改修などです。

大久保:スタートした時の心境としてはどのようなものだったのでしょうか?

小久保:若いからこその根拠のない自信があったものの最初は本当にしんどかったです。

大久保:受託開発は比較的早くお金になるメリットはあるものの、拡大しにくいとよく話を聞きますが、いかがでしたか?

小久保:競合優位性は「価格」と「元気」でしたので、ご認識の通りかなり苦労しました。

大久保:今の方向にシフトしたきっかけは何ですか?

小久保:受注開発をするにはいかに安く、早く納品できるか、という点で勝負をしており、より新しい挑戦や成長をするには自社製品を持つ必要があると思いました。そこで、2016年末ごろから外部の資本を入れて、プロダクトを制作し始めました。

大久保:受託から自社プロダクトの方向に切り替えたのは、結構早かったんですね。

小久保:最初の資金調達は2017年だったので、創業して1年経たないくらいで自社プロダクトの開発に着手しました。

大久保:その領域に絶対的な自信があったということでしょうか?

小久保マーケットが確実にあり、さらに競合と被らずに1位になれる領域があり、そして自分が本気でやりたいと思えた、この3つの要素が揃っていました。

大久保:テーマを選ぶときに、参考になりそうですね。

ユーザーへのヒアリングを重ねることで解決すべき根本の課題を理解する

大久保:積み上げ型のビジネスは最初が大変なイメージですが、いかがでしたか?

小久保マーケットについて理解を深める必要があったのと、ソフトウェアもお客様のニーズに合い課題を解決できるものを開発する必要があったため、とにかくお客さんにヒアリングをしていました。

当時は会話の半分が専門用語でわからないことだったため、面談をさせていただく度に勉強することが増え、あとで調べながらとにかくインプットしていきました。

大久保:お客さんとしては、自分の要望を聞き入れ、ソフトウェアに反映してくれるのだから、とても喜ばれたのではないですか?恐れずに聞きに行くことはとても良いですね。

小久保:知識がない自覚はあったので、たくさん聞きに行ってました。

さらに、私自身がお客様の業界や課題に興味を持って聞いていましたし、お客様が向く方向と同じだったので、お客様もネガティブな気持ちではなかったのだろうと思います。

大久保:お客さんにプロダクトを育ててもらっているような、とても良い関係ですね。

小久保:そうですね。お客様へのヒアリングを重ねることで、複雑な業務オペレーションを理解でき、根本の課題を解決するプロダクトを開発できているのではないかと思います。

シフト管理に止まらない「らくしふ」とは?

大久保:クロスビットさんのプロダクト「らくしふ」についての概要を教えてください。

小久保らくしふは、経営・現場の視点から「シフト管理の課題」を解決するサービスです。

ただシフト管理を効率化するだけでなく、事業所間でのヘルプ調整ができたり、繁忙期やスキルに合わせて給与を柔軟に支払えたりする機能を開発し、まずは事業所内で人材不足を解決、さらに働き手にフェアに還元する状態を目指します。

事業所様の利益率向上にも、現場様の工数削減にも貢献できます。

大久保:らくしふがどこかのタイミングで急に伸びた時期はありましたか?

小久保:急に伸びたタイミングはありません。

2017年にらくしふの開発に着手し、ひたすら足を運び、2018年にらくしふが形になり、そこでやっと顧客ターゲットと使われ方が具体化されました。

その後、2019年にサービスの提供を開始し始めたものの、2020年にコロナ禍に突入。、新規受注がストップし、2023年にやっと売り上げが戻ってきました。
そのため、らくしふはここからが勝負というフェーズなのです。

大久保:コロナを乗り越えた今はどのような状況でしょうか?

小久保:プロダクトが育ち、らくしふを導入してくださる企業様の業界も広がりました。

日本には500万事業所ほどの勤務地があり、その中の約167万事業所に在籍している2,000万人弱の方がシフトワーカーのため、その市場に、いかに早く価値を届けられるかという段階にいます。

大久保:人が多く、DXの範囲の広いマーケットは入る余地があるということですね。

小久保:デフレが続いてきましたが、インフレになるタイミングは必ずきます。そのため、タイミングとしてはそろそろらくしふが時代の流れに乗り、急成長してもおかしくありません。

大久保:就職氷河期時代は人手が余っていたというものの、今はそもそも人がいないですし、人件費も上がっているので、マネジメントが必要になってきますよね。

小久保:さらに、働く体験が悪いと働き手は離れていくため、働く環境を整える選択肢の筆頭として、弊社が選ばれるようになりたいです。

大久保:労働力が増える形にもなりますよね。

ベンチャー企業の最初のクライアントが大企業!?

大久保:らくしふを作る過程で工夫したことについて教えてください。

小久保:やりたいこととしては、事業所は、『人』にしか生み出せない価値を創出でき、個人の誰もが、自分らしい働き方を選択できるようにすることです。

そうした先に、事業所はよりよいサービスを届け続けられ、働き手はそのような職場と、より簡単に頻繁に出会うことができ、自分の能力を必要とされる職場で適正な報酬と機会を得られている。そのような事業所と働き手が届けるサービスを受け取る方の体験も向上し、働き手の家族との時間もより充実する社会を実現することです。

そのためにまずは、シフトワーカー自身の人事評価が正しくされていないことも多くあるため、パフォーマンスを発揮・可視化するための仕組み作りを意識してやっています。

大久保:プロダクト内の連絡手段がメールではなく、LINEがベースになっているところも面白いですよね。

小久保:プロダクトができた2017年ごろはスマホの普及率は8割もありませんでした。

しかし、今後は徐々にメールを開かなくなり使用ツールはLINEが中心の社会になると確信したので、上手くLINEを使えばプロダクトがより良くなるのでは?と考えました。

当時、2つのプロダクトを作る予定でしたが、プロダクトを1つに絞ったという経緯があります。

大久保:伸びるプラットフォームを見極めたということですね。

小久保:なんでもやりたくなってしまうのですが、いかに我慢できるかも大事です。全部やると大変になるというのは、受託開発を請けていた時に実感していましたので。

大久保:取引相手の会社を見ると、大手企業とも取引をされていますが、大手企業との取引はいつくらいから始まったのでしょうか?

小久保弊社の1社目のクライアント様が上場企業でしたので、幸運にも最初から恵まれたクライアント様と取引をさせていただけました。

大久保:ベンチャー企業が大手企業から仕事を受注することは簡単ではありませんが、どのようにして大手企業が最初のクライアントになったのでしょうか?

小久保:大手企業へご提案させていただく機会が増えれば増えるほど、弊社の経験値も増えて、プロダクトも改良できると考えてアプローチし、最終的に1社目のクライアントが大手企業になりました。

シフトワーカーの生産性を可視化し、正しい人事評価につなげたい

大久保:現在、社員は何名くらいいらっしゃるのでしょうか?

小久保約50名です。

大久保:人が増える時期はマネジメントが大変になることが多いと思いますが、組織作りの観点で大変なことなどはありましたか?

小久保採用が全てだと思っているので、社風に合う方かという基準で人を増やしていきました。

今でも社風がしっかりと言語化できるように色々な工夫を続けています。

大久保:「働く」に関係するダイナミックかつコアなデータをお持ちだと思いますが、今後の展望をお聞かせいただけますか?

小久保休まなければいけない理由がある時は休める。働きたい時に、時間や場所を自由にコントロールできる構造を作りたいです。

まずは事業所様内で人手不足を解消でき、かつ人件費管理や労務管理を適切に行える状態を目指します。その後は働き手一人ひとりに合った評価をすることで、働き手はより働きがいを感じられ、 事業者は優秀な人を定着させられる状態を作ります。

その上で、事業者は優秀な人材を社外からも採用できたり、働き手は応募前から職場のコンディションを把握できたり、応募の前段階から具体的かつ立体的にそこ の職場で採用された際の仕事のイメージができるようになったりする状態にすることで、働き手・雇い手の「働く体験」をより良くしたいと思っています。

潜在顧客の全員に早く弊社のプロダクトをお届けしたいです。

大久保:今以上に事業範囲を拡大できそうですね。

小久保:おっしゃる通りです。解決できる問題の幅を広げて、顧客ターゲットを増やしていくことも、やっていきたいです。

さらに、資金調達が難しいフェーズではあるため、自社だけでなく、協業できる企業とタッグを組み、新しい戦略で攻めていくことも考えています。

大久保:飲食店のみでも60万店舗ほどあるので、まだまだ広げられそうですね。

小久保:はい。飲食店以外にも、既に多くの医療・介護・小売・コールセンターなど、変動的に働きうる様々な業界でご利用いただいています。より多くの企業様に導入していただくことができるよう、スピードを上げて、今後もサービスを提供する領域を広げていきたいです。

大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いします。

小久保:起業家は引き際が重要だと思いつつ、私はやめない覚悟で会社を始めて、そうならないように準備もしました。同じような心意気でスタートを切ってください。

他人からやめれば?と言われてやめるようなことは、そもそも始めるべきではありません。

厳しい世界ではありますが、ぜひ一緒に頑張りましょう。

大久保写真大久保の感想

日本の課題、特に飲食店をはじめとする現場系の業界の課題は「人」

しかし余っているスキマ時間はまだまだ多く、働いて収入を増やしたいという働き手の気持ちもあります。そんな課題に貢献するのが「らくしふ」です。らくしふが手掛けるような「働き手の時間の最適配分」のように

1.社会レベルで見た時に課題が大きい
2.ニーズが今後拡大する
3.動くお金が実際にある
4.無駄が大きくテクノロジーが活用余地が大きい
5.使う側に切迫性が有る

という分野はスタートアップにチャンスがあり、ビジネス的に大きくなりやすい分野だと思いますので、ビジネスのテーマを探す際の参考になると思います。

また思い切って「LINE」ベースにしたように、既存の大手がやらないスタートアップならではの機能の絞り方も参考になります。

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(取材協力: 株式会社クロスビット 代表取締役 小久保 孝咲
(編集: 創業手帳編集部)



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