創業支援のキーマン!経産省 石井芳明が語る起業家向けの使える制度(インタビュー前編)

創業手帳
※このインタビュー内容は2017年12月に行われた取材時点のものです。

企業のスタイルに合わせて使える制度をご紹介

(2017/12/22更新)

日本の公的なベンチャー支援の軸になる経済産業省。そのキーマンである調整官・石井芳明氏は、普通の役人ではありません。異動が多い公的な世界の中で、創業支援関係の政策に一貫して携わっている経歴の持ち主です。日本の創業支援のキーマンが創業で使って欲しい支援策について、解説していただきました。

まずは公庫。事業計画書を1枚にまとめてみよう。

大久保:まず、起業家に使って欲しい創業支援は何でしょうか?

石井起業家に使って欲しい支援策のなかで、まず挙げたいのは日本政策金融公庫の創業融資です。創業関係で年間約2万件の融資を使っていただいています。資金調達の際に、気軽に窓口に相談に行って欲しいです。

大久保:起業家の方にもよく相談を受けますが、事業計画書を書くとイメージをまとめることができますよね。公庫の資料は1枚なので、コンパクトなのも好印象です。

外部からお金を融資してもらうには、仕入れなどの現実的なことについて、コンパクトに書かないといけません。起業についてフワッとした考えを持っていた方にとっては、やるべきことを明確にできて良いかなと思います。

石井:そうですね。さらに、公庫の担当とやり取りする際に、客観的にアドバイスしてもらえるので考えを整理するのに役立つと思います。

大久保:公庫の方って、お堅いイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実際はとても親切な方が多い印象です。相談デーをやっていたり。

石井:日本政策金融公庫は、もともと零細企業のファイナンスをお手伝いする国民公庫と中小・中堅企業を応援する中小公庫が合併して始まりました。なので、地域を支える小さなお店の開業はもちろん、海外を目指すスケールの大きい起業家にも対応しています。

公庫の良い点は、全国的に担当のサービス内容、レベルが揃っていることでしょうね。
地方銀行、信用金庫、信用組合も素晴らしいところが多くあります。中小企業や零細企業に親切・丁寧に対応する金融機関も増えてきました。一方でまだそれぞれの金融機関で、ばらつきがあります。公庫は逆に、全国一律で同じようなサービスを受けられるというのも良い点だと思います。

ちなみに、公庫が主催する起業家教育の支援活動「高校生ビジネスプラングランプリ」では、全国の高校生から3,000を超えるプランの応募がありました。各支店で出前授業などもしています。「敷居が低い」、「親しみやすい」、という方向で努力をしていますね。

融資なのに負債扱いじゃない。資本制ローンは資金調達の強い味方

石井:公庫の「資本制ローン」もオススメです。「資本性ローン」とは、新規事業等に取り組む中小企業の財務体質強化のために、資本性資金を供給する制度です。この制度の最大の特徴は、融資なのに、金融検査上は自己資本として扱ってもらえ、負債比率を気にしなくてよい、ということです。

大久保:資本性ローンは、数億円を調達しているスタートアップでも使っている人が多いですよね。

石井:「VC(ベンチャーキャピタル)から資金調達をするのだが、あまり出資額を増やすと、経営陣の株式持ち分が減ってしまう。融資とあわせバランスの良い資金調達をしたい・・・」という場合にも良い制度です。

経営支援に関しては中小基盤整備機構(中小機構)が、様々な活動をしてオススメです。J-Net21による情報提供、経営相談、販路開拓や海外展開の支援など幅広い分野で、中小企業支援施策のプロや民間専門家の応援を得ることができます。

地域においては、富士市産業支援センター「f-Biz」を筆頭に、岡崎ビジネスサポートセンター「Oka-Biz」、天草市起業創業中小企業支援センター「Ama-Biz」など「f-Bizモデル」が注目です。質が高く熱意のある専門家が、企業の強みや良いところを見つけ、徹底的に伸ばしていく支援モデル。「結果を出す」支援を実施しています。

起業家の視野を広げる手伝いをしたい

大久保:海外に起業家を派遣する、ということもしていますよね。創業手帳のコンサルを受けた人でも、行った人がいました。

石井世界のイノベーションの拠点に企業を派遣する「飛躍:Next Enterprise」プログラムがあります。今年は、シリコンバレー、オースティン、ヘルシンキ、ベルリン、イスラエルに派遣しています。

この事業の目的は2つ。一つは「派遣した企業に海外市場との取引を拡大し伸びて欲しい」というもの。もう一つは「海外の人に日本のベンチャーの技術力や強さを知らしめたい」というものです。

大久保:研修に参加している企業を拝見したのですが、若い企業が多く選抜されていましたね。

石井:コミットする意志が強い人や、エッジの効いたことをやりたい人であれば、社歴が浅くても大丈夫です。企業としての勢いがあることを重視しています。

派遣に参加した人同士で、新たなネットワークが生まれることもあるので、今後のビジネスにもっと幅が出てくると思います。

エンジェル投資の優遇とは?

大久保:話は変わりますが、起業家にオススメしたい制度のなかに、エンジェル税制もあると思います。この制度についても改めて教えてくれませんか?

石井:エンジェル税制は、もっと注目して欲しい制度の一つです。これは、創業間もない企業に資金供給をする投資家に対する優遇税制です。

投資家にとって「投資額を所得から控除できる」という大きなメリットがあるので、起業家の側で投資を呼びかける際にアピールできます。
最近は利用が増加しており、数億程度だったエンジェル税制の適用額が今年は約34億円まで伸びています。

大久保:3年未満、3年以上で制度Aと制度Bに分かれている、株式のオーナー持ち分86%以下である、といった規定はありますよね。

石井:そうですね。企業側の要件や、提出書類が多いことは事実です。しかし、創業時の手続きのほうが、要件がシンプルで、作成の書類も限られています。エンジェル税制の活用は、創業時から税理士などと相談して準備すればスムーズに進むと思います。

大久保:実は、創業手帳でも様々な方からエンジェル投資を受けています。ちなみに、エンジェル投資をする方には、どのような方が多いのでしょうか?

石井:事業に賛同してくれる個人ですね。比較的年齢が高い男性が多く、所得は2000万円以上が多数、経営者や起業経験者の比率が高いという調査があります。

エンジェル投資の理由の上位5は次のとおりです。

【エンジェル投資家が投資する理由】
    1位・起業の成長プロセスを楽しみたい
    2位・投資のリターンが期待できた
    3位・起業に対して責任を感じた
    4位・社会に貢献したい
    5位・自分の果たせなかった夢を実現してくれる

起業家の方は、自分の事業にかける想いを伝えて共感を得ると、投資につながるかもしれません。

大久保:確かに引退している経営者にとっては、能力が活かすことができますよね。企業の成長は面白いし、世の中の役に立つ。後輩を育てて、世の中にお金を回すことができるので、投資家にとっては良いことずくめですね。

石井:創業手帳のインタビューで出演している、IBM元社長 北城格太郎さんは70歳を超えられていますが、現役の投資家としてお元気に活躍されています。経営者の深い経験を活かし、後輩を育成するという活動が広がることはとても大事だと思います。

一方で、起業家の方は「良いエンジェルを選ぶ」ということが必要です。また、「誰に、どのくらい株式の持ち分を持ってもらうか」という部分は、後戻りできない話です。エンジェル投資を受けるためには、資本政策についてしっかり勉強するという姿勢も重要です。

起業家、投資家ともに成功例が多く出ることで、日本にエンジェル投資の文化が根付いて欲しいと思います。

【後編はこちら】「中小企業の生まれ育ちだから頑張る起業家や企業を応援したい」
【経産省 石井芳明インタビュー後編】創業支援に情熱を注ぐ理由

(取材協力:経済産業省/石井芳明)
(編集:創業手帳編集部)

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