Anyplace CEO 内藤聡|UBERの有名投資家も投資するシリコンバレーの日本人起業家「英語力はピッチで磨いた」

創業手帳
※このインタビュー内容は2025年03月に行われた取材時点のものです。

山梨から世界へ。映画との出会いをきっかけにシリコンバレーを目指す

内藤聡
コロナ禍を経て働き方が大きく変化する中、リモートワーカーに特化した家具付き賃貸住宅サービス「Anyplace」を展開しているのが、CEO内藤聡氏です。
YouTubeの共同創業者スティーブ・チェン氏らから出資を受け、グローバル展開を進める内藤氏。「日本人起業家がもっとシリコンバレーにチャレンジしてほしい」と語ります。
今回は内藤氏がシリコンバレーで起業するまでの道のり、そして日本人起業家への期待について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

内藤 聡(ないとう さとる)Anyplace Inc. Co-founder & CEO

山梨県甲府市出身。大学卒業後、単身シリコンバレーに渡り、2017年にAnyplaceを創業。ウーバーの初期投資家として知られるジェイソン・カラカニス氏らから出資を受け、リモートワーカー向けの長期滞在サービスを展開。2018年にForbes 30 Under 30 Japanに選出。2021年にはコロナ禍での働き方の変化を捉え、仕事環境を完備した物件運営モデルへとピボット。「どこでも生産的に働ける環境を提供する」をミッションに掲げ、グローバル展開を推進している。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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大久保:まず、シリコンバレーを目指したきっかけを教えていただけますか?

内藤:大学2年生の時に映画「ソーシャル・ネットワーク」を観たのが大きな転機でした。自分と同年代の学生が、フェイスブックという製品を通じて世界にインパクトを与えられるシリコンバレーという場所があることを知って。それを見て、自分でも起業をしたい、シリコンバレーという舞台でやりたいと思いました。

もともとは、実家が山梨の零細企業で、長男だったので父親の会社を継ぐことが想定されていました。むしろ当時は、テレビドラマで見るようなサラリーマン、高層ビルで働く姿に憧れていたくらいです。

言葉の壁を乗り越え、現地でのネットワークを構築

大久保:実際にシリコンバレーに渡られた時、英語はどの程度できたのですか?

内藤:全然できませんでした(笑)。スターバックスでコーヒーを注文する時も、店員の質問が理解できず全部『イエス』と答えるしかなくて、結果的にめちゃくちゃトッピングが追加された甘いコーヒーが出てくるという状況でした。

ただ、運が良かったのは、当時KDDIに会社を売却したキヨ小林さんと出会えたことです。小林さんが「最初からアメリカでやった方がいい」とアドバイスをくれて、さらに最初の出資もしていただきました。

大久保:英語の壁はどのように乗り越えていったのですか?

内藤:現地の起業家や投資家へのインタビューを始めました。英語が話せなかったので、質問リストを用意して、録音して、後から聞き直して勉強しました。このインタビューがきっかけで人脈も広がり、その後インタビューした人を日本食に誘ったり、その人に日本の投資家やメディアを紹介したりして現地の投資家や起業家たちと関係を深めていきました。

試行錯誤を重ね、Anyplaceのサービスモデルを確立

大久保:Anyplaceの立ち上げまでの道のりを教えてください。

内藤:自分が最初に立ち上げたビジネスは「テックハウス」と呼ばれるシェアハウスでした。そのときの経験が今のAnyplaceにも活きていて、やって良かったなと思っています。

関係を作った投資家に出資してもらって始めたAnyplace最初の2年は、本当に苦労の連続でした。新しい事業を作っては失敗して、また違うのに変えてという繰り返しでした。現在のAnyplaceは2017年にスタートし、当初はホテルの長期滞在を可能にするマーケットプレイスとしてスタートしました。Airbnbの長期滞在版みたいなやつです。

最初の2年くらいは頭でっかちにビジネスアイデアを考えてうまくいかなかったんですけど、最終的には「自分が欲しいけど世の中にないもの」というアプローチで考えるようになってちょっとずつピボットしていったら、事業が軌道に乗っていきました。

また、UBERの初期投資家として知られるジェイソン・カラカニス氏のアクセラレーターに参加できたのは大きな転機でした。ジェイソンのアクセラレーターでは、毎週有名投資家の前でピッチを行い、フィードバックをもらえてこれが英語でのピッチやプレゼンの練習にもなりました。アーリーステージのピッチって聞かれることが似通ってくるので、アクセラレーターで練習を繰り返したことで、投資家への説得力も上がっていっていたのかと思います。

ジェイソン・カラカニス氏はこちらではすごく著名な投資家なので、彼との関係ができたことで、他の著名な投資家・起業家とも関係が作れたので、すごく良かったです。

最初の顧客をどう獲得したのか

大久保:どうやってビジネスを軌道に乗せていったのでしょうか。

内藤:僕たちの場合は、最初のお客さんは「クレイグスリスト」というアメリカでよく使われている掲示板を使って獲得していきました。そこで一緒に物件を内見しながらお客さんから直接話を聞いてユーザーニーズへの理解を深めていって、業態を徐々に変えていきました。

起業家の場合、最初は思い込みで「こういうものが売れるだろう」と思ってサービスを始めても良いんですけど、その後で徐々にお客さんのニーズをつかんでいった方が良いですね。そのためにはやっぱり、お客さんから直接話を聞いてみて、サービスを改善していくのはすごく有効だと思います。

スタートアップが失敗するほとんどの理由は、お客さんが欲しくないものを作っていることです。これはアメリカのトップVCであるYコンビネーターの創業者ポール・グラハムもよく言っています。

最初はコストも抑えようと思って、最初のホームページはノーコードで8ドルで作れるツールで簡単に作りました。低コストだとプロダクトのコンセプトをどんどん試せることもできるので。今だったら、当時よりたくさんノーコードツールも出てきているので、よりやりやすくなっているかと思います。

コロナ禍での転換、リモートワーカー向けサービスとして進化

大久保:コロナ禍で大きく事業モデルを変更されたそうですね。

内藤:はい。コロナ禍前に事業が頭打ちになってしまっていて、コロナで売上も半減して、まずいなと思っていました。当時はホテルを賃貸できるマーケットプレイスをやっていましたが、その時期にユーザーにヒアリングして、「リモートワークに適した仕事環境の良い長期滞在向けの物件」がないことに気づきました。

そこで、仕事環境が整った家具付きの物件を自社で借り上げ、リモートワーカーの長期滞在者向けの物件を賃貸運営するビジネスモデルに転換しました。高速Wi-Fi、スタンディングデスク、モニター、オフィスチェアなど、生産性の高い環境を全物件で標準装備しています。

このピボットのおかげでまた売上が伸び初めて現在では全体の売上の20%以上がリピーターです。特に年収200K〜300Kドルを超えるクラスの高所得エンジニアや、長期出張のコンサルタント、法律家の方々にご利用いただいています。エンジニアはデスクやモニターが大きくてしっかりしていないと我慢できないですからね。コンサルタントや法律家の方々は会議室需要もあり使っていただいています。

日本人起業家への期待 – シリコンバレーは決して遠い世界ではない

大久保:今後の展開についてお聞かせください。

内藤サービス的には、どこにいってもユーザーがストレスなく滞在できるという体験を提供し続けていきます。平均して2〜3ヶ月ユーザーが滞在してくれるんですが、そこでユーザーのプリファレンスを取っています。例えば日本人だったら醤油などの調味料を置いておいてほしいとか、そういったことですね。そのためにオプション料金を払っても良い、という人もいると思うので、そうしたニーズを組み上げてどこにいても快適な体験を提供したいです。AirbnbとWeWorkの合体版みたいな感じだと思っていただければと思います。

地域的には、アメリカでの事業を更に拡大していきたいと考えています。その上で、将来的にはアメリカでの顧客基盤をもとに、日本やアジア、ヨーロッパへも展開していきたいです。特に、アメリカのハイエンド層を日本やアジアに送客するという戦略も視野に入れています。ニセコのように、海外の富裕層を呼び込めるような展開ができればと考えています。

大久保:シリコンバレーでの起業を考えている方へのアドバイスをお願いします。

内藤シリコンバレーというと、イーロンマスクとかGAFAとか違う世界のように感じられるかと思いますが、昔よりもやっぱり起業しやすくなってますし、まずは来てみてはいかがでしょうか。

日本人のことを好きな人もいますし、まだ日本人が少ないこともあり覚えてもらいやすいので、日本人であることもアドバンテージになると思います。それに、シリコンバレーの人は外からくる人に対してもオープンだし、助け合うカルチャーもあります。やっぱりシリコンバレーは、起業するのに良い環境が整っていますよね。

また、英語力は確かに重要ですが、それ以上に大切なのは工夫する力だと思います。例えば、私たちは日本食を通じた関係作りや、インタビューを通じた学びなど、できることから始めていきました。

アメリカのマーケットの成長力は高いですし、良いものは高い、という認知があるので、単価が高い商売もやりやすいです。競争も激しく失敗するかもしれませんが、失敗してもまたやれば良いんです。長い目で見たら成功確率も上がってくるはずなので、長期視点で考えてシリコンバレーに来て挑戦してみるのはアリだと思います。

もっと多くの日本人がアメリカでチャレンジしてほしいと強く思います。インドや中国、韓国と比べると、まだまだ日本人起業家の数は少ないです。

これは野球に例えられると思います。野茂が切り開いて、イチロー、松井が出てきて、最終的には大谷という選手が生まれましたよね。スタートアップの世界も同じで、たくさんの挑戦者が出てくれば、いつかはGAFAのような大きな会社を日本人が経営している世界が来るかもしれません。

そうやって稼ぐ日本人が増えると、華僑ならぬ和僑のように海外の日本人同士で助けられる良い環境ができてくるはずです。すると、日本人が起業して成功する確率も上がっていくと思います。

大久保写真大久保の感想

内藤さんのお話で象的だったのは、シリコンバレーを「遠い世界」と捉えるのではなくまず飛び込み、具体的な工夫と戦略で切り開いていった姿勢です。英語が完璧でなくても、自分で考える姿勢は多くの起業家の参考になるかもしれないですね。

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(取材協力: Anyplace Inc. Co-founder & CEO 内藤 聡
(編集: 創業手帳編集部)



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