フリーランスへの発注で違反しないために|発注者が最低限おさえるべき注意点

フリーランスへの発注は「口約束」や「後から調整」がトラブルになりやすい


フリーランスへの発注が広がる一方、条件を明確にしないまま依頼した結果、業務範囲や報酬をめぐるトラブルが発生するケースが増えています。
「報酬は後で決めよう」「修正はこちらの判断で」といった口頭合意や暗黙の了解が、発注者側の法令違反リスクにつながる危険性をはらんでいることを認識しなければいけません。
具体的には発注後に一方的な報酬変更、追加作業の無償依頼、支払い先延ばし、契約終了の突然の通告などは、フリーランス新法に抵触する行為として問題になり得ます。

発注者がフリーランスとの信頼関係を築くために、最低限おさえておくべきポイントを解説します。

フリーランスに発注する際に発注者が確認すべき法律


フリーランスとの取引きを適切に行うには、現行の法制度を正確に把握しておくことが不可欠です。ここでは発注者が特に押さえておくべき2つの法律を整理します。

フリーランス新法とは

フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引きの適正化等に関する法律)は2024年11月1日に施行されました。
この法律の目的は、フリーランスが安⼼して働ける環境を整備することです。そのため、フリーランスと取引きするすべての発注事業者に義務が課されています

フリーランス新法は、フリーランスの就業環境の整備や発注事業者との取引きの適正化を図る内容となっています。
発注者には取引条件の書面による明示、成果物受領から60日以内のできる限り短い期間での報酬支払い、受領拒否・報酬減額・買いたたきなど7つの禁止行為の遵守が求められます。

6カ月以上の業務委託では、中途解除や不更新の際に少なくとも30日前までの予告が義務付けられており、違反した場合は公正取引委員会による勧告・命令・公表の対象です。

フリーランス新法について詳しい内容は以下で解説しています。
関連記事:https://sogyotecho.jp/freelance-law/

取適法とは

取適法(中小受託取引適正化法)は、もとの下請代金支払遅延等防止法を改正した法律で、正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。
中小受託取引の公正化と受託側の中小企業の利益保護が強化された内容になっており、2026年1月1日に施行されました。

取適法は資本金基準に加えて従業員数基準も新たに設けられており、対象となる取引きや事業者の範囲が旧・下請法より拡大されています。
そのため、フリーランスへの発注であっても、取引内容や事業者規模によって取適法の適用対象となる場合があります。

フリーランス新法と取適法はいずれも「取引適正化」を目的とした法制度です。発注者は両法律の適用可能性を踏まえて、公正な取引環境を整えるように対応が求められます。

取適法について詳しい内容は以下で解説しています。
関連記事:https://sogyotecho.jp/subcontract-law-revision-2026/

フリーランスへの発注前に決めておくべきこと


トラブルの多くは発注時点の認識のズレから生まれます。
業務内容のほか成果物と納期、報酬のすべてを発注前に具体的に定めることが法令違反とトラブルの両方を防ぐ基本です。
トラブルを未然に防ぐためには、どういった内容を決めておくべきなのか以下でまとめました。

依頼する業務内容を具体的にする

発注後のトラブルを防ぐには、依頼する内容を具体的に明文化します。「記事作成をお願いします」のような曖昧な依頼は認識のズレを生むかもしれません。
例えば、「3,000字程度の記事作成・構成込み・画像選定なし・CMS入稿なし・修正2回まで」のように範囲を明示しておくとお互い認識のズレが生じにくくなります。
発注者が「当然含まれる」と思っている作業をフリーランス側が別業務と認識するケースは少なくありません。
業務範囲の不一致が後から追加請求や報酬トラブルに発展する危険性を認識してください。

業務内容の定義が不明確なままでは、フリーランス新法第3条が定める「給付の内容の明示義務」を果たせません
法令違反になる可能性もあるので、依頼前の業務定義は法的義務と考えて取り組むようにしましょう。

成果物・納品形式を決める

成果物の内容や納品の方式も発注時に明確にしておきましょう。
テキストならWordかGoogleドキュメントか、デザインデータはaiかpsdかなど、納品形式を事前に指定しておかなければ、受け取り後に手直しコストが発生してしまいます。
合意した仕様どおりに納品されているにもかかわらず、発注者都合で受領を拒否すると、フリーランス新法上の受領拒否禁止規定に抵触する可能性があります。

画像サイズやファイル形式、CMS入稿の有無など細部まで明示することでスムーズにやり取りをすることが可能です
さらに、フリーランスが作業範囲を正確に見積もれるようになり、報酬の算定根拠も明確にできます。

納期・検収日・修正期限を決める

納品日だけでなく「いつまでに発注者が確認するか(検収完了日)」「修正依頼はいつまでに行うか」を事前に取り決めておくことが、支払い遅延防止にも直結します。
発注者が検収を先延ばしにすると報酬支払期日の起算が曖昧になり、結果として支払期日の設定義務や報酬支払義務への違反につながる可能性があります。

フリーランス新法では成果物受領日を起算として60日以内に報酬を支払う義務があると定めています。
検収日や修正期限を明確にするとともに、検収を速やかに完了する体制を社内で整備することが発注者としての基本姿勢です。

報酬額と支払日を明確にする

報酬額は発注前に以下の項目を確定させることが、報酬をめぐるトラブルを防ぐために重要となります。

  • 税込・税抜の別
  • 源泉徴収の有無
  • 振込手数料の負担者
  • 支払期日(具体的な年月日)
  • 請求書の提出期限など

「○○日以内」「翌月中」といった曖昧な表記では支払期日が特定できず明示義務を果たせないかもしれません。
着手金の有無や分割払いの条件についても発注前に合意しておくことで、業務途中のキャンセルや仕様変更が生じた際のコスト精算がスムーズにできます。

発注時に必ず明示しておきたい取引条件


フリーランス新法第3条は、業務委託をした場合に発注事業者が「直ちに」書面または電磁的方法(メール・チャット等)で取引条件を明示する義務を定めています。
つまり、口約束や口頭のみの伝達は認められていません。

明示が必要な事項と、実務上あわせて取り決めておくべき項目を以下の表で確認しておきましょう。

【取引条件の明示義務】

項目 内容
発注者・フリーランスの名称 双方の氏名または事業者名
業務委託をした日 発注した年月日
給付の内容 依頼する業務の内容・範囲
給付受領日・役務提供日 納品日・業務の実施日
受領場所・役務提供場所 納品先・業務実施場所
検査完了日 発注者が検収を終える日
報酬の額および支払期日 金額と支払う年月日
現金以外で支払う場合の支払方法 振込・電子マネー等の方法

業務委託契約を行った時には、上記の取引きの条件を書面または電磁的方法により明示しなければいけません。
電磁的方法とは、電子メールやSNS、チャットツールなどが該当します。以下は、法的な義務がなくてもトラブルを避けるために明示しておきたい項目です。

【実務上あわせて決めておきたい項目】

項目 発注時に決める内容
報酬の詳細 税込・税抜の別、源泉徴収の有無、振込手数料の負担者
納品形式 ファイル形式、納品方法
修正対応 修正回数、追加費用の有無
権利関係 著作権、二次利用、実績公開の可否
連絡方法 メール、チャット、定例MTGの有無

フリーランスへの発注でやってはいけないNG行為


フリーランス新法は、発注者が知らずに行いがちな慣行的な行為を明確に禁止しています。以下のNG行為は、悪意がなくても法令違反になるため注意してください。

発注後に一方的に報酬を下げる

発注後の一方的な報酬引き下げは絶対に避けてください。
「予算が厳しくなった」「思ったより簡単な作業だった」といった理由で、合意済みの報酬を後から減額することはフリーランス新法第5条の「報酬の減額の禁止」に明確に違反しています。

名目や方法・金額にかかわらずあらゆる減額行為が禁止されており、慣習的に振込手数料をフリーランス側に負担させて差し引く行為も報酬減額として違反に該当します。
報酬を変更する必要が生じた場合には、フリーランスと改めて協議し双方が合意した上で新たな条件を書面または電磁的方法で明示し直すことが、法令に沿った正しい手順です。

追加作業を無料で依頼する

フリーランスに付随業務まで含めて依頼している会社は、取引きを見直すようにおすすめします。
記事作成の依頼だったのに画像作成やCMS入稿まで当然のように求める、ロゴ制作後に名刺・チラシ・SNS画像への展開を無償で依頼するといった行為は、不当な経済上の利益の提供要請に該当するリスクがあります。

軽微な修正の範囲を超えた全面的なやり直しを費用負担なく求めることは、フリーランス新法第5条の「不当な給付内容の変更・やり直しの禁止」に違反する可能性があります。
追加作業や仕様変更が生じた際は、追加費用・納期変更・新たな条件を書面または電磁的方法でフリーランスに明示し、合意を得た上で依頼することが発注者の義務です。

納品後に理由なく受け取りを拒否する

フリーランスが合意した仕様通りに成果物を納品した場合、予算カットや取引先からのキャンセルといった発注者の都合による受領拒否はフリーランス新法第5条の「受領拒否の禁止」に違反します。
一方的な発注キャンセルや納期延期によって当初の納期に受け取らない行為も受領拒否に該当する行為です。
フリーランスが作業を開始した後のキャンセルは費用の精算をともなうと考えておかなければいけません。

発注者が検査基準を恣意的に変更して受領を繰り返し拒む行為はハラスメントにも該当するケースがあります。成果物の検収基準は事前に明確にしておくようにしてください。

支払いを先延ばしにする

「社内確認が終わっていない」「請求処理が遅れている」といった社内事情による支払い遅延も、フリーランス新法第4条が定める報酬支払義務の違反にあたる可能性があります。

フリーランス新法では成果物を受領した日を起算として60日以内のできる限り短い期間内に報酬を支払う義務が定められました。
支払期日が未設定の場合は受領日が支払期日とみなされます。

支払い遅延が繰り返されるとフリーランスとの信頼関係が損なわれるだけでなく、行政機関による調査・指導・勧告へと段階が進みます。
最終的には命令や企業名公表、場合によっては罰則の対象となる可能性があります。

長期契約を突然終了する

フリーランス新法第16条は、6カ月以上の業務委託の中途解除または不更新を行う場合、少なくとも30日前までに予告することを発注者に義務付けています
予告なしの突然の契約終了はフリーランスが次の仕事に移行するための準備期間を奪う行為です。
法令違反として指導や勧告の対象となる可能性があります。

加えて、予告後にフリーランスから解除理由の開示請求があった場合には発注者は遅滞なく理由を開示しなければいけません。
理由の開示を怠ることも同法の義務違反にあたります。

発注ミスを防ぐための実務チェックリスト


発注ミスを防ぐためには、チェックリストを作成して実際に活用してください。
発注前と発注後それぞれの確認事項を整理しておくと、認識のズレと法令違反の両方を体系的に防げます。

発注前チェックリスト

発注前に条件を確定・記録することは、フリーランス新法第3条が定める「取引条件の明示義務」を果たすとともに、認識のズレやトラブルを防ぐためにも最低限行うべき対応です。
契約を結ぶ時にも欠かせない内容なのでチェックしておきましょう。








発注後チェックリスト

発注した後も契約は終わっていません。支払い遅延・ハラスメントなど見落としがちな法令違反リスクが残るので、以下の項目を確認してください。





発注書・契約書がない場合でもメールやチャットで条件を残す


仕事の内容によっては、発注書や契約書をその都度残せない場合もあります。
毎回正式な契約書を用意することが難しい場合でも、フリーランス新法では書面だけでなくメール・チャット・SNSのメッセージ機能などの電磁的方法による明示が認められています。
口頭のみは法令上認められないため、最低限「依頼内容・報酬・納期・納品方法・支払日・修正対応・キャンセル時の扱い」をメールやチャットで送付し、フリーランス側が内容を確認できる状態で保存することが、後のトラブル防止の基本対応です。

発注メール文例は、社内テンプレートとして準備しておいてください。
テンプレートがあることで担当者が変わっても条件の伝え漏れが発生しにくくなり、法令対応と業務効率化を同時に実現できます。

まとめ|フリーランスとのトラブルを防ぐには、対等な取引相手として扱うことが重要

フリーランスは「外部の手伝い」ではなく独立した事業者であり、発注者はフリーランス新法や取適法の枠組みの中で対等な取引相手として適切に扱うことが法令上の義務となっています。
発注者が最低限の条件を書面または電磁的方法で明確にし、合意内容を記録し、追加作業や変更が生じた際は都度相談することで、法令違反とトラブルを体系的に防ぐことが可能です。
フリーランス側で起こりやすいトラブルの種類や実態については別記事でも詳しく解説しているため、発注者・受注者双方の視点を理解して公正な取引関係の構築を目指しましょう。

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(編集:創業手帳編集部)