BALLAS 木村将之|日本の建設業をAI Nativeに変える。24億円を調達したスタートアップの挑戦

※このインタビュー内容は2026年07月に行われた取材時点のものです。

コスト高騰に喘ぐ巨大市場。レガシー産業の危機をAIで救う


高齢化や若手の人材不足、原材料の高騰など多くの課題を抱える建設業。最近では大型施設の建替え計画が中止になるなど、その状況は深刻化しています。

こうした中で建設業のテックカンパニーとして注目されるのが、株式会社BALLAS(バラス)です。同社は、建設部材の調達を最適化するためのプラットフォームを運営。2026年には24億円(累計43億円)の資金調達を実現して、さらなる事業の成長が期待されています。

同社を2022年に創業、現在も代表取締役を務めるのが木村将之さんです。「商社で業界が抱える構造的な課題を目の当たりにし、その解決を目指して起業しました。」という木村さん。今回は起業までの経緯や、どのように建設業界の課題解決を目指すのかについて伺いました。

木村将之(きむら しょうの)
株式会社BALLAS 代表取締役
新卒で双日株式会社に入社し、金属・資源分野の輸出入、事業投資、事業会社の経営支援に従事。2019年には金属3Dプリンター事業の海外展開のため、欧州へ赴任。歴史ある産業に新たなテクノロジーを持ち込む社会的意義を認識し、製造業スタートアップ・株式会社Catallaxy(カタラクシー)での経営企画責任者を経て、2022年2月に株式会社BALLASを創業。

需要増と人材不足が交差する建設業界で起業。ユーザーニーズの追求による確かな勝算

―木村さんのこれまでのキャリアを教えていただけますか?

木村:新卒で双日に入社し、金属関連の原材料や製品の輸出入、投資業務を担当していました。お客様は製造業や建設業の企業が中心で、特に建設業界が抱える構造的な課題を目の当たりにしていました。例えば、特注の建設部材が品質、コスト、納期の観点でサプライチェーン全体のボトルネックになっていることです。双日に7年勤めた後、スタートアップであるCatallaxy(カタラクシー)社に移り、その1年後に株式会社BALLASを創業しました。

―建設業界が抱えている課題について、詳しく教えていただけますか?

木村:最も大きな課題は、建設業全体の供給力不足です。最近は不動産の再開発中止や延期などが増えていますが、その背景には、建設コストの高騰があります。

そして、そのコスト高騰の背景にあるのが、人材不足です。建設業では、製造や施工など現場に近い工程ほど課題が深刻で、私たちが取引する工場様でもその影響は顕著です。従事者の半数以上が60歳以上という工場も珍しくなく、若手人材の確保も難しい状況です。さらに、工場そのものも減少を続け、この10年でほぼ半減したとも言われています。

一方で、データセンターなどの新設需要、年数の経った建物のリニューアルなど建設需要は増加傾向にあります。つまり、需要は伸び続けているにも関わらず、それを支える供給力が追いついていない。この需給ギャップこそが、建設業界が抱える本質的な課題だと考えています。

商社にいた時から建設工事会社様だけではなく、取引先である金属加工工場様などサプライチェーンにおける各工程の現場を知る機会が多くありました。その中で、このままでは建設コストの上昇にとどまらず、日本の建設業そのものが持続できなくなる危機感を抱いたのです。

―独立前にスタートアップのCatallaxy社へ行かれたのは、どんなきっかけがあったのでしょうか?

木村:商社にいた時にお付き合いがあり、当時からテクノロジードリブンで魅力的な会社だと感じていました。より深く事業に携わりたい想いがありましたが、双日では難しい側面もあり、転職する意思決定をいたしました。

Catallaxy社は製造業メインのプラットフォームですが、一部で建設業との関わりがあり、この建設領域にさらに大きな成長余地があると考えていたのです。

ただ、事業を進めるなかで、製造業と建設業では解決すべき課題の中身や求められるプロダクト機能に差異があることが見えてきました。建設業には特注部材や案件ごとの調整など、建設特有の課題があり、本格的に取り組むには、独立した事業として展開しなければ難しいと考え、BALLASの創業に至ります。

―起業の際、心配なことはありませんでしたか?

木村:ほとんどありませんでした。取り組む事業に社会的な意義があり、業界にとって必要不可欠なものだという確信があったからです。

もう一つ大きかったのは、創業時に志を共にする2人の共同創業者がいたことです。1人は大学時代からの知人で、知財・法務を専門としてきた人物。 もう1人は、Catallaxy社時代に取引先として出会った工場の3代目でした。各々が異なるバックグラウンドを持ちながらも、業界・社会が抱える課題の認識や目指す方向性が一致し、自然と一緒に挑戦することになりました。

―独立の時点で事業アイデアはすでにあったのでしょうか?

木村:かなり具体的にありました。商社では事業モデルから、市場環境、競争環境、業界構造まで徹底的に調査・分析します。商社時代から今の事業構想をしていたため、結果的に深く検討を重ねることになりました。

創業後の成長スピードが速いと言ってくださる方も多いですが、私の中では、具体的な構想を練り始めてから事業を立ち上げるまで約2年、事業の背景にある解釈や考え方を持つまでの期間を含めるとそれ以上に時間が掛かっています。独立をするために準備をしていた訳ではなく、あくまで結果論です。

目指すのは建設業の「ミスミ」。業界の構造そのものを変えたい

―現在手掛けている事業について教えていただけますか?

木村:建設業界ではゼネコンを起点に、工事を担うサブコンと呼ばれる専門工事会社や各職人さんなどが連なるサプライチェーンがあります。私たちの直接のお客様は、その中でもゼネコンから一次で工事を請け負うサブコンが中心です。

お客様からは、「この建物に合わせた特注の金属部材をつくりたい」というご相談をいただきます。私たちは仕様を整理し、製作図面を作成したうえで、最適な工場へ製造を依頼し、品質や納期まで責任を持って納品しています。

その過程で得られる設計・調達・製造・施工の知見を標準化・データ化し、属人的だった業務を再利用可能な仕組みへと変えることで、建設業全体の供給力を高めています。つまり、部材を発注する建設会社と、それを製造する工場の間で、サプライチェーンそのものを最適化しているわけです。現場に新たな負担を強いるのではなく、私たちがサプライチェーンの一部になることで、結果的に現場のデジタル化が自然に進む仕組みを実現しています。

この仕組みを支えるプラットフォームを自社で運営していますが、メインのビジネスモデルはSaaS形式ではなく、部材を納品して対価を頂くトランザクション形式になります。要は、ソフトウェアを提供するだけではなく、自らAI-Nativeなサプライヤーとして部材提供する事業者です。

―SaaSではなく、メーカーにも近いプラットフォームという立ち位置になったのはなぜですか?

木村:ユーザーニーズです。建設業の本質は品質の優れた建物を提供することにあります。いくらソフトウェアを使ってもその本質が満たされるモノが完成しなければ本末転倒です。その前提で、業界構造を鑑みて必要な機能を追求した結果、創業時から今の立ち位置で事業展開しています。

建設業は製造業とは構造が大きく異なります。製造業では発注者が設計した図面をもとにサプライヤーが製造を行いますが、建設業では、工程が進むほど専門性が高まり、メインはサプライヤー側で詳細な図面を作成します。ゼネコンからサブコン、さらにサプライヤーへと工程が進むなかで、それぞれの立場で設計が具体化され、多くの判断や調整が積み重ねられる構造です。

だからこそ私たちは、サプライヤーとして設計機能を携え、その中で得られる一次情報を標準化、AIが機能するデータ構造化を図った上でAI-Nativeなワークフローをつくるに至っています。

―建設業界の「ミスミ」とお聞きしました。具体的にどういうことでしょうか?

木村:ミスミさんは発注側と工場側を仕組みでつなぎ、標準化を進めることで機械部品の需給バランスを整えてこられました。私たちも建設業において近しいビジネスモデルで展開している認識です。旺盛な建設需要に対して、先細る供給力を仕組みで拡張していかなければ、業界全体が立ち行かなくなると感じています。

追い風なのは技術の進化です。三次元でデータを扱う技術、大量のデータを処理するAI技術など、これまで以上に強力な仕組みをつくるツールが揃っています。そのため、従来は見過ごされてきた建設業の特注データにおいても同様に標準化・モジュール化が進む時代になったと捉えています。

特注を標準化する、建設業の供給力を拡張するデータ基盤

―資材高騰の他、最近は中東情勢によって原油価格が上がっているとも言われます。こうした動きは御社にも影響していますか?

木村:かなり出ていますね。我々はデータをもとにした原価ロジックがあるため、お客様にも原材料費の上昇分をご納得いただけています。ただ、業界全体として建設プロジェクト全体のコストは確実に上昇しています。

その結果、お客様としては「原材料費は下げられないので、それ以外の部分でコストを削減できないか」という発想になります。そのため、設計や調達、製造のプロセスを見直したいというご相談をいただく機会は、以前より一層増えています。

―コストを下げるような取り組みはされていますか?

木村:はい。最も大きいドライバーは、特注部材を標準化していることです。

建設業では、「特注だから仕方がない」と考えられてきた部材が数多くあります。しかし実際には、設計ルールを整理し、共通化できる部分を標準化することで、多くの部材は"つくるたびにゼロから設計するもの"ではなくなります。その結果、製造工程も効率化され、量産に近い形で稼働率高く生産できるようになるため、工場にもメリットが出る形で製造原価を抑えることが可能になります。

さらに、設計が標準化されることで、これまで特定の工場しか製造できなかった部材も、全国の複数のパートナー工場様で製造できるようになります。私たちは各工場の加工設備や得意分野をデータベース化しているため、案件ごとの納期や加工内容に応じて最適な工場様へ製造依頼することができます。これにより、従来のように限られた期間に仕事が集中したり、多重請負構造のなかでコストが嵩む非効率を改善し、品質・コスト・納期を最適化しています。さらに、複数の工場で安定的に製造できる体制を構築することで、建設業全体の供給力不足の解消にもつながっています。

―プラットフォーム運営で得たデータを活用されているわけですね。

木村:プラットフォームを通じて全国の案件データを蓄積・分析できることは、私たちの大きな強みです。これまで工場側では、「いつ、どれくらいの仕事が入るのか」を予測しづらく、設備投資や人員配置、生産計画を最適化することが難しい状況でした。

私たちは全国の案件データを集約し、需要を予測したうえで、年間需要に近い形で工場へ発注しています。その結果、工場は先を見据えた生産計画を立てやすくなり、稼働率の向上や、無理・無駄のない適正な価格での製造につながっています。

また、設計データや取引データが蓄積されるにつれて、お客様側にソフトウェア単体でも提供できる価値が大きくなってきました。今では特定のお客様にアップセルの有償サービスとして提供する動きも始まっています。

―起業して4年経ちますが、これまで特に大変だったことを伺えますか?

木村:外部環境や需要については事前に調査していたので想定どおりでしたが、実際に事業を始めると、建設業ならではの難しさを痛感しました。

建設業界は市場規模で75兆円ぐらいありますが、その分野は非常に細分化されています。贅沢な話ですが、どの分野も需要がある中で、どこをメインターゲットにすべきかは試行錯誤、仮説検証を繰り返して事業を磨いていきました。

例えば創業当初は、ラグジュアリーブランドの店舗に設置するオブジェなども手掛けていました。この領域もカバー範囲ではありますが、優先順位や時間軸は明確に定め、今は産業設備・建築領域をメインに手掛けています。

自社だけ売上が伸びればいいとは思わない。目指すのは業界全体の最適化

―今では社員数が100名近くになっているそうですね。組織作りで意識していることはありますか?

木村:各チームの融合は多くの会社で共通する課題だと思います。特に弊社はビジネスオペレーションをするチームと、プロダクトを開発するチームがあり、一般的には異なる文化や考え方を持つメンバーが集まります。Catallaxy社でも、異なるバックグラウンドを持つメンバー同士が協働する難しさを実感しました。

一方で、これを乗り越えられれば大きな競争力になります。だからこそ、創業当初から両者が一体となって事業推進する組織づくりを意識してきました。

振り返ると、起業前に一度スタートアップで事業づくりを経験できたことは、とても大きかったと思います。もちろん学生時代に起業する方は本当にすごいと思いますが、私自身は天才型ではありません。遠回りに見えても経験を積みながら成長したことが、今につながっていると感じています。

―2026年4月には24億円の資金調達をされました。なぜこれほど大きな額の資金調達に成功したのでしょうか?

木村:約75兆円と言われる建設業界の市場規模だと思います。言い換えると、それだけ社会に与えられるインパクトが大きいということです。ご参画いただいた事業会社やVC(ベンチャーキャピタル)の皆さまにご期待いただいているのも、その点が大きいと考えています。

スタートアップだけではなく、大手企業を含めてですが、企業は各ゲートで必ず成長の壁に直面します。その要因の一つで、特に自分たちではコントロールし切れない壁が市場規模です。私たちが挑戦している建設市場は非常に大きく、中長期的な成長にも期待していただいているのだと思います。

―今後の展望について伺えますか?

木村:私たちがこだわっているのは、建設業全体の最適化による構造変化です。その観点で、これまで分断しがちであった設計から調達、製造、施工までのサプライチェーン全体をつないでいくことを志向しています。

今回の資金調達でご参画いただいた大和ハウス工業様、日揮様、山九様をはじめとした事業会社様や、取引先様と連携して弊社のコア機能である設計を起点に一層の基盤強化を進める考えです。特にAI-Nativeな設計自動化、ワークフロー自動化に注力しながら、データ構造化されていない領域への幅出しを進めていきます。

直近の目標としては、2028年には取引量を今の10倍まで拡大することです。売上を伸ばすこと自体が目的ではなく、その規模まで到達することでBALLASの仕組みが業界の新たなスタンダードとして機能し始めると考えています。建設業全体を最適化するためにも、まずは業界の基盤となる存在を目指していきたいですね。

―最後に、これから起業を目指す方へメッセージをお願いします。

木村:偉そうに言えることはないのですが、起業して4年経った今、改めて起業は本当に素晴らしいことだと感じています。自ら立ちあげた会社で社会課題に向き合い、志を同じくする仲間と一緒に事業をつくっていく。その時間そのものが、とても貴重で価値があると思っています。

さらに、その取り組みが誰かの役に立ち、社会に少しでも良い影響を与えられるのであれば、これほどやりがいのある仕事はありません。これから起業する方にも、ぜひ大きな課題に挑戦し、多くの人に価値を届ける事業をつくっていただけたら嬉しいですね。

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