AUDER 各務友規|「スマホ1台」が物流現場を変える。特許の挫折からシリーズA、そしてグローバルへ
FAX、ハンコ、二重入力。アナログだらけの現場に「データの基盤」を

2025年の「物流効率化法」改正と罰則強化を背景に、今まさに大きな変革を迫られている食品流通業界。しかし現場を見渡せば、FAXやハンコ、二重の賞味期限入力といったアナログな非効率作業が今なお大きな課題として残されています。
こうした構造的な問題をスマホ1台で解決しようとしているのが、AUDER株式会社です。入出荷管理SaaS(※1)「AUDER」は、物流現場の検品作業を画像認識で一括処理し、従来比約60%の工数削減を実現。ドライバーへのリアルタイム情報連携や納品伝票のデジタル化も進め、食品流通全体のデータ連携基盤を構築しています。
最初のプロダクトでの「特許取得と、ニーズなしという挫折」から、いかにして食品流通のデータ基盤を作り上げ、シリーズAの資金調達、そしてグローバル展開へ進めることができたのか。資金調達や開発に悩む創業期の起業家が今すぐ実践すべき「ブレない顧客理解」と「事業の仕組み化」の裏側をインタビューしました。
※1 SaaS:「Software as a Service」の略。ソフトウェアをインターネット経由で利用できるサービス形態のこと。
各務 友規(かがみ ゆうき)
北海道大学農学部卒。新渡戸賞、クラーク賞を受賞し卒業生総代を務める。日本総合研究所の創業戦略センターにて、農業・食品分野を中心に、新規事業創出、戦略策定及び実行、M&A等をリード。自社主導のインキュベーションとして、民間企業5社の共同出資による次世代農業ロボットの事業化・新会社設立をプロジェクト統括として牽引。2021年にAUDERを創業し、代表取締役に就任。
この記事の目次
大企業のDXプロジェクトで痛感した「組織の壁」と、起業への決意
各務:大学では開発経済学を専攻し、途上国への技術移転や農業・食品政策に関心を持っていました。その後、シンクタンク(※2)である日本総合研究所に入り、農業・食品分野の政策立案や戦略策定に携わることに。とくに「創発戦略センター」という部門は、クライアントへのコンサルティングと並行して、会社のリソースを使い自分たちで新規事業を立ち上げることもミッションとする、社内でも珍しい組織でした。国内外の最先端の事例視察やPoCの推進等、挑戦的な投資活動が奨励されていました。
各務:そうですね。新規事業の立ち上げに全力でコミットする先輩方が多く、その部門を「卒業」して自ら起業していく方も少なくない、刺激的な環境でした。先輩方からは何度も「課題の本質から目を逸らすな」と徹底的に問われ、起業家精神を鍛えてもらいましたね。その部署で過ごした経験は今の事業の土台になっています。
各務:そうです。在籍中に、大手スーパーマーケットが主導する食品流通DX(※3)のプロジェクトに携わったことが直接のきっかけです。消費者の購買データを起点にサプライチェーン全体をデータで連動させ、食品ロスと在庫の無駄を同時に解決しようという取り組みをしていました。
壮大なビジョンに心打たれ本気でコミットしていましたが、一方で、組織が大きいからこそ事業が思うように前進しないもどかしさを感じていて。「それなら自分でやるしかない」と腹をくくり、2021年にAUDERを創業しました。
※2 シンクタンク:政策立案や社会問題の解決策を研究・提言する機関。企業や政府から依頼を受けてリサーチや戦略策定を行うほか、独自に研究・発信を行うこともある。
※3 DX:「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略。ITやデジタル技術を活用して、業務の仕組みや体制を変革すること。
特許取得、そして挫折。残高が減っていく恐怖と戦いながらも現場に通い続けた理由
各務:最初のコンセプトは消費者向けの「自動補充サービス」でした。冷蔵庫の食品在庫をセンサーで把握し、切れたら自動で配送される仕組みで、社名「AUDER」も自動化(オートメーション)と注文(オーダー)を掛け合わせた造語としてここから生まれています。特許まで取得して進めたのですが、「お金を払ってまで使いたい」と思っていただけるほどのニーズを引き出せなかったんです。
そこで、メンターの経営者の方から「まずは現場で本当に困っている人に価値を届けるべきだ」とアドバイスをもらい、自分がすでに深く関わっていた食品流通の現場にこそお金を払ってでも解決したい切実な課題がある、と気づいたんです。
各務:はい。あらためて現場に入ってみると、驚くような実態が見えてきました。当時関わっていたある物流拠点では、卸会社と倉庫会社が同じ建物に入居しているのに、当日の入荷情報を把握するために互いに電話で確認し合っていたんです。入出庫の指示はExcelに書いてFAXで送り合う。すぐそこに相手がいるにもかかわらず、情報がリアルタイムでつながっていませんでした。
そしてこれは、その拠点だけの特殊な話ではなかったんです。食品流通にはメーカー・卸・小売という複数のプレイヤーが存在しますが、それぞれが独自のシステムや帳票で動いているため、プレイヤーをまたぐたびに情報が引き継がれず、同じデータを各現場で入力し直す手間が繰り返し発生していました。
この「情報の断絶」こそが、現場の非効率の根本原因だったんです。拠点1つを効率化するツールではなく、業界全体のプレイヤー間の情報を横断的につなぐ基盤を作ること。この使命が見えたとき、プロダクトの方向性が定まりました。
各務:エンジニアを採用しながら開発を進めましたが、そのための資金はコンサルティング業務を続けながら確保していました。週の半分はコンサルタントとしてプロジェクトを担い、残りの日をプロダクト開発に充てるという日々です。
貯金が少しずつ減っていく状況は精神的にきつかったですが、自分にできることは、とにかく現場に入り込んで「何が本当の困りごとか」を理解することでした。豊洲市場に深夜から出向いて一晩中現場を観察させていただいたり、物流拠点に何度も足を運んだりしながら、課題を自分の言葉で定義し直す作業を繰り返しました。現場で積み上げた理解が、プロダクトの仕様の骨格を作っていったんです。
スマホのカメラで検品工数を60%削減。「1社導入すれば取引先へ広がる」驚異の仕組み

各務:物流現場の非効率を断ち切るために、私たちはスマホを現場の主役にするというアプローチを取りました。物流現場では従来、「ハンディターミナル(※4)」と呼ばれる専用端末が使われることが多いです。しかし、ハンディターミナルは高額で導入のハードルが高いうえ、専用OSを使うため処理できる操作が限られています。その結果、処理しきれない情報は紙帳票に残り、事務担当者が後からシステムに再入力するという二重の手間が生まれていました。
一方、誰もが使い慣れているスマホを活用すれば、導入コストも下げられます。さらにスマホのカメラを使った画像認識機能を組み込むことで、カメラに商品ラベルを映すだけで一括検品が完了します。1点1点スキャンしていた従来の作業と比べて、工数を約60%削減できました。
各務:ただ、目指したのは現場の作業効率化だけではありません。AUDERでは現場の作業者がスマホで操作した情報がリアルタイムで事務方にも共有されるため、後からの再入力作業自体がなくなります。現場と事務方の情報のズレも生まれません。
さらに、AUDERを導入した卸会社のデータは取引先の小売店舗とも共有されるため、納品伝票のデジタル化が取引先全体へと連鎖的に広がっていきます。そしてその連携がメーカーにまで広がれば、食品メーカーが出荷時にすでに持っている賞味期限データを卸の現場で改めて手打ちし直すといった二重入力も、自然と解消されていきます。データがつながるほど、現場からムダが消えていくんです。

各務:はい。2025年に「物流効率化法(※5)」が改正され、荷物を預ける側、つまり「荷主」と呼ばれるメーカーや小売などにも物流効率化への取り組みが義務づけられました。2026年からはその義務を怠った荷主への罰則も強化されています。従来、物流の効率化はドライバーや物流会社側の課題とされてきましたが、荷主と物流現場が同じテーブルについてデジタル化を進める機運が高まっており、事業にとって大きな追い風を感じています。
※4 ハンディターミナル:物流・小売現場で使われるバーコードスキャナー付きの専用端末。
※5 物流効率化法:物流の効率化を荷主側にも義務づけることで、業界全体のデジタル化・省力化を促す法律。
資金調達と組織づくり。事業をスケールさせた2つの転機
各務:大手スーパーマーケットチェーンへの本格導入が実現し、現場でプロダクトが使われ始めたタイミングで、SaaS業界に特化したベンチャーキャピタルから声をかけていただき、シリーズA(※6)の資金調達につながりました。プロダクトの方向性を信じてひたすら開発と導入を続けてきた結果が、外部からの評価として返ってきた瞬間でした。
今回の資金調達では、ALL STAR SAAS FUNDをリード投資家に、農林中金キャピタル、日本政策金融公庫を引受先とする第三者割当増資により、総額4.5億円の資金調達を実施しました。調達した資金は、AI検品プラットフォーム「AUDER」のプロダクト開発、導入先拡大、採用強化に活用する予定です。また、AI-OCR機能も正式リリースし、アナログな発注書・送り状の電子化から入出荷予定への活用までを一貫して支援する体制を強化しています。

各務:事業を広げていく中で、自分一人では補えない専門知識の必要性を強く感じるようになりました。私は小売側の業務プロセスには精通していましたが、食品メーカー側はまったく異なる論理で動いています。
メーカーは将来の需要を見込んで生産量を先に決め、倉庫の在庫や出荷便数をすべてそこから逆算して組み立てる、非常に複雑な計画運用をしています。そのメーカー側の計画立案を専門としてきた、会社員時代の同僚にCOOとして加わってもらったことで、メーカー側への事業展開に大きく踏み込めるようになりました。
また、彼が担うもう一つの重要な役割が、お客様への導入支援の仕組みづくりです。AUDERのようなプロダクトを物流現場に定着させるには、現場の業務フローを把握し、どう変革するかを丁寧にすり合わせながら進める必要があります。
創業初期は私自身がそれを全て担っていましたが、私1人が対応できる顧客数には限界があります。そこで、現場で積み上げてきたノウハウを標準的なプロセスとして体系化し、チームの誰もが同じ品質で導入支援できる体制を整えてきました。
※6 シリーズA:スタートアップの資金調達ステージの名称。事業の方向性が見えてきた段階で行う、比較的大きな規模の外部からの資金調達のことを指す。
「すごいベンチャー100」に選出。シームレスな自動化の基盤を世界へ
各務:1つは、プロダクトとお客様の課題が噛み合っていたことです。スマホ1台ですぐに使い始められる手軽さと、1社に導入すると取引先全体へデータ連携が面的に広がっていく仕組み、そして画像認識による一括検品という現場の痛みに直接応える機能。この3つが揃っていたことで、口コミや紹介で次の顧客へとつながっていきました。
もう1つは、少し根性論になってしまうのですが、「諦めない粘り強さ」ですね。日本総研で鍛えられた「課題から目を逸らさない」姿勢が、何度壁にぶつかっても立ち直る力になっています。まだまだやりたいことの1%も達成できていないと思っていますし、事業としてはここからが本番です。

各務:中長期的には、AUDERが蓄積してきた入出荷・在庫・配送のデータをより大きな変革につなげていきたいと考えています。
今は人が現場でスマホを操作することで情報をデジタル化していますが、将来的には自動運転トラックや荷役ロボットといった自動化技術がその役割を担っていく時代が来るでしょう。そのとき、「どんなサイズのどのような荷物が、いつどこに届くのか」というデータが整備されていなければ、自動化のシステムは正確に動かせません。
AUDERはそのデータ基盤として、人が作業する現場から、機械が動く現場へとシームレスにつながる土台を目指しています。
そしてこのデータ基盤を、国内にとどまらず海外で活用していくことも見据えています。そもそも食品はグローバルなサプライチェーンの上で動いており、原材料の産地から製造・物流・店頭まで、複数の国と企業をまたいで流通しているからです。
実際にフィリピンのバナナ農園から日本の店舗まで、AUDERを通じて一貫したトレーサビリティ(※7)を確保するプロジェクトも動き始めています。農家側のデータと物流のデータがつながれば、産地から食卓まで食品の流れが可視化され、食品ロスの削減にも貢献できます。大学時代に抱いていた「農業・食品を通じた社会課題の解決」という志を実現していきたいですね。
※7 トレーサビリティ:食品や製品がどこで生産・加工・流通されたかを追跡・確認できる仕組みのこと。
心の声に従い、最初の一歩を踏み出そう

各務:自分が「こうだ」と信じることを大切にしてほしいと思います。起業は困難なことの連続で、あきらめそうになる瞬間はいくらでもあります。よく『トップが諦めたときが会社の限界』と言われますが、裏を返せば、自分自身があきらめない限り事業の可能性はどこまでも残されているということです。私自身、つくづくその通りだと実感しています。自分の考えを根底から信じて、ぜひあきらめずに頑張ってほしいです。
そしてもう一つ、生成AIの登場によって、以前に比べて1人でもプロダクトを作りやすい時代になりました。チャレンジのハードルは確実に下がっているので、どうせ挑戦するならチャンスを逃さず動いてほしいです。
各務:目の前の問題から少し引いた目線で、全体を見渡す習慣を意識的に作っています。課題に直面しているときは、どうしても問題が大きく見えてしまいますが、少し距離を置いて俯瞰すると「思ったより大したことなかった」と感じることが多いんです。
焦らず、落ち着いて課題と向き合い続ける。そうして足を動かし続ければ、必ず何かが返ってきます。その感覚を、創業からずっと信じてきました。挑戦したいと思っている方には、ぜひ最初の一歩を踏み出してほしいですね。
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