国保と任意継続はどっちが安い?退職後の健康保険の選び方を解説
保険料の違いを知れば、自分に合った制度が見えてくる

会社を退職して独立・開業する場合、健康保険は「国民健康保険(国保)」か「任意継続」のどちらかを選ぶのが基本です。どちらが安いかは前年の所得や家族構成によって変わるため、一概にはいえません。
一般的な目安として、退職後に収入が大きく下がる人は国保、退職前の給与が高かった人は保険料に上限がある任意継続が安くなりやすい傾向があります。
本記事では、保険料の算定方式の違いを軸に、収入水準別の有利・不利や扶養家族の有無を踏まえた選び方を解説します。開業初年度の所得見込みを踏まえた判断のポイントや、正確な金額の確認先まで紹介するので、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
国保と任意継続の違い

国保は市区町村が運営する保険、任意継続は会社員時代の健康保険を退職後も続ける制度です。両者は保険料の決まり方が根本的に異なり、算定方式の違いこそが「どっちが安いか」を左右します。
国民健康保険とは
国民健康保険とは、都道府県と市区町村が運営する公的医療保険で、会社の健康保険に加入していない人の受け皿となる制度です。退職して独立した場合、ほかの保険を選ばない限り、原則として国保に加入することになります。
保険料は前年の所得と世帯の加入人数をもとに計算され、料率や金額は自治体ごとに異なります。内訳は医療分・後期高齢者支援金分・介護分(40~64歳)の合計で、令和8年度からは子ども・子育て支援金分が加わりました。
任意継続とは
任意継続とは、退職前に加入していた健康保険(協会けんぽや健康保険組合)を、退職後も最長2年間続けられる制度です。正式には「任意継続被保険者制度」と呼ばれます。
在職中は保険料の半分を会社が負担していますが、任意継続では全額が自己負担になります。そのため、保険料の目安は給与明細に載っている、天引きされていた保険料の約2倍です。
なお、医療費の自己負担割合など給付内容は在職中とほぼ同じですが、傷病手当金と出産手当金は原則として受け取れません(退職後の継続給付は除く)。
算定方式の違い
保険料の算定基準は、、国保が「前年の所得」、任意継続が「退職時の標準報酬月額」という違いがあります。標準報酬月額とは、社会保険料を計算しやすいように、月給を一定の幅で区切った金額のことです。2つの制度の違いを表に整理しました。

任意継続の標準報酬月額には上限がある一方、国保は前年所得が高いほど保険料も上がります。この仕組みの違いによって、収入水準ごとに有利・不利が入れ替わるのです。
国保と任意継続はどっちが安いか比較

退職を機に収入が大きく下がる人は国保、退職前の給与や前年所得が高い人は任意継続が安くなりやすい傾向です。それぞれどのような人が有利になるのか、試算とあわせて具体的に見ていきましょう。
国保が有利な人
退職で前年より収入が大きく下がる人や、もともと所得が低い人は、国保のほうが安くなりやすい傾向です。国保の保険料は前年所得に連動するため、独立後に所得が下がれば、翌年度の保険料も下がるからです。
また、国保には世帯の所得が一定以下の場合、均等割(加入者1人あたりの定額部分)が7割・5割・2割軽減される仕組みがあります。倒産や解雇など会社都合で離職した人には別の軽減制度もあるため、これらに該当する場合は国保がさらに有利です。
任意継続が有利な人
前年所得が高い人や退職前の給与が高かった人は、任意継続のほうが安くなる可能性が高いでしょう。国保の保険料が前年所得に比例して上がり続けるのに対し、任意継続の保険料には上限が設けられているためです。
特に独立1年目は、会社員時代の高い所得をもとに国保料が計算されます。高収入だった人ほど、任意継続を選ぶメリットは大きくなります。
任意継続の保険料には上限がある
任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額で決まりますが、この標準報酬月額には上限が設けられています。協会けんぽの上限は、全被保険者の標準報酬月額の平均をもとにした32万円です(令和8年度)。
退職時の給与が月32万円を上回っていた人は、実際の給与額ではなく32万円として保険料を計算します。例えば協会けんぽ東京都の令和8年度の保険料率10.08%(40歳未満)で計算すると、保険料は月額32,256円で頭打ちです。
退職前の給与が高い人ほど上限の恩恵が大きくなることが、任意継続が割安になる大きな理由です。
出典:全国健康保険協会「令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について」
出典:全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率」
収入水準別の目安
退職前の年収別に両者を試算すると、以下のとおりです。40歳未満の単身者が東京都新宿区に住み、退職前の年収がそのまま前年の給与収入になったと仮定した概算になります。

※国保は新宿区の令和8年度料率(40歳未満:所得割計10.58%・均等割計67,073円)、任意継続は協会けんぽ東京都の令和8年度保険料率(10.08%・標準報酬月額の上限32万円)で試算
実際の金額は住む自治体・家族構成・年齢によって大きく変わるため、必ず個別に試算してください。
適した保険を判断するためのポイント

適した保険を選ぶには、保険料の単純比較だけでなく、家族構成や今後の所得見込みも考慮する必要があります。同じ年収でも扶養家族の人数によって結論が逆転する場合もあるため、次の4点をあわせて確認しましょう。
- ・扶養家族がいるか
- ・開業初年度の所得見込みはどの程度か
- ・健保組合の付加給付があるか
- ・切り替えの期限に間に合うか
扶養家族がいるか
扶養家族が多い人ほど、任意継続が有利になりやすい傾向です。任意継続では扶養家族が何人いても保険料が変わらないのに対し、国保には扶養の概念がなく、加入する家族の人数分だけ均等割が加算されるためです。
例えば新宿区では、18歳以上の家族が1人増えるごとに、年間67,073円(令和8年度・40歳未満)の均等割が上乗せされます。配偶者や子どもを扶養している人は、任意継続の「扶養家族分の保険料がかからない」というメリットを意識しましょう。
開業初年度の所得見込みはどの程度か
開業初年度にどの程度の所得を見込めるかも、重要な判断材料です。国保の保険料は前年所得で決まるため、会社員時代の所得が高かった人は、独立して収入が減っても1年目の保険料は高いままになります。
反対に、初年度から会社員時代を上回る所得を見込めるなら、2年目の国保料はさらに上がります。その場合は、保険料がほぼ一定の任意継続を2年間継続するほうが、トータルの負担を抑えられるでしょう。
健保組合の場合は付加給付を確認する
健康保険組合に加入していた人は、保険料に加えて「付加給付」の有無も確認しましょう。付加給付とは、法律で決められた給付に組合が独自に上乗せする給付です。組合によっては、任意継続中も利用できる場合があります。
代表的なのは、1カ月の医療費の自己負担が組合の定める基準額を超えたとき、超過分が払い戻される制度です。持病があり通院が多い人は、保険料の差額以上に給付で得をすることもあるため、保険料だけで決めないようにしてください。
切り替えの期限にも注意する
任意継続を選ぶなら、退職日の翌日(資格喪失日)から20日以内に申請しなければなりません。この期限を過ぎると、原則として任意継続には加入できなくなります。
加入には、退職前に継続して2カ月以上の被保険者期間があることも条件です。また、加入期間は原則2年間で、保険料を納付期限までに納めないとその時点で資格を失います。迷っているうちに選択肢を失わないよう、退職前から比較を始めておきましょう。
正確な保険料の確認先

有利・不利の最終判断は、概算ではなく正式な金額を確認してから行うのが安全です。国保は自治体、任意継続は協会けんぽや健康保険組合と、確認先が異なります。どちらも退職前に調べられるので、必ず両方の金額を突き合わせて比較しましょう。
国保は自治体窓口
国保の保険料は、住んでいる市区町村の国民健康保険窓口で確認できます。前年の所得がわかる源泉徴収票や確定申告書の控えを用意して相談すると、正確な金額を試算してもらえます。
自治体によっては、Webサイトで計算方法や試算シートを公開しているところもあります。まずは「自治体名 国民健康保険料 試算」で検索してみてください。
任意継続は協会けんぽ
任意継続の保険料は、協会けんぽの都道府県支部か、加入していた健康保険組合で確認できます。協会けんぽの場合、Webサイトの保険料額表に退職時の標準報酬月額をあてはめれば、自分でも計算可能です。
標準報酬月額がわからないときは、給与明細や会社の人事・総務部門で確認しましょう。健康保険組合は料率や上限が組合ごとに異なるため、直接問い合わせるのが確実です。
独立後の保険料を抑える方法

加入する制度を決めた後も、保険料の負担を軽くする工夫は残されています。切り替えのタイミングや減免制度の活用など、知っているかどうかで年間数十万円の差がつくこともあります。すぐに実行できる3つの方法を見ていきましょう。
2年目に任意継続から国保に切り替える
1年目は任意継続を選び、2年目に国保へ切り替える方法が有効です。独立1年目の所得が会社員時代より下がっていれば、前年所得で計算される2年目の国保料は、任意継続より安くなるケースが多いためです。
令和4年1月の制度改正で、本人の申し出により任意継続を途中でやめられるようになりました。申し出た月の翌月1日に資格を失い、その後国保へ切り替える流れです。毎年、確定申告で所得が確定したタイミングで両者を比較し直すとよいでしょう。
減免制度が使えないか確認する
国保を選んだ場合は、軽減・減免制度を使えないか確認してください。倒産・解雇・雇い止めなど非自発的な離職であれば、前年の給与所得を100分の30とみなして保険料を計算する軽減制度があります。該当すれば保険料は大幅に下がり、任意継続との比較結果が変わることも少なくありません。
所得が一定以下の世帯への均等割軽減(7割・5割・2割)は申請不要ですが、非自発的失業者の軽減は届出が必要です。非自発的失業者に該当する場合、雇用保険受給資格者証を用意して、自治体の窓口に相談しましょう。
雇用保険受給資格者証は、ハローワークで失業保険(基本手当)の受給申請手続きを行うことで交付されます。まだ手続きをしていない場合は、先に最寄りのハローワークで申請を済ませてください。
業種によっては国保組合も検討する
デザイナーやライター、建設業など一部の業種では、「国民健康保険組合(国保組合)」への加入も検討する価値があります。国保組合とは、同業の個人事業主などで組織される国保の一種で、保険料が所得にかかわらず定額の組合が多いのが特徴です。
例えば、文芸美術国民健康保険組合(文美国保)の令和8年度の保険料は、組合員1人あたり月額26,000円です。このほかに子ども・子育て支援金分600円が加算され、40~64歳はさらに介護保険料6,100円がかかります。所得に連動しないため、所得が高いフリーランスなら市区町村の国保より大幅に安くなる可能性があります。
ただし、加入には業種の要件や所定の業種団体への加入が必要です。保険料や条件は組合ごとに異なるため、自分の業種に該当する組合があるか調べてみてください。
まとめ
国保は前年所得と世帯人数、任意継続は退職時の標準報酬月額で保険料が決まります。退職で収入が大きく下がる人や所得が低い人は国保、前年所得が高い人や扶養家族が多い人は上限のある任意継続が有利になりやすい傾向です。
判断の際は、開業初年度の所得見込みや健保組合の付加給付、20日以内という申請期限もあわせて確認しましょう。
また、減免制度や業種によっては国保組合の活用なども、保険料負担を抑える選択肢になります。正確な金額は自治体と協会けんぽの双方で確認し、比較したうえで決めることが大切です。
(編集:創業手帳編集部)
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