生成AIを使用したビジネスの法的リスクとは?商用利用・顧客データ・契約の注意点を弁護士が解説
商用利用・顧客データ・契約・責任の範囲まで、事業を始める前に確認したいポイント

生成AIを使用することで、文章や画像、コードなどをこれまで以上に短時間で作れるようになりました。AIを活用した受託制作やコンサルティング、導入支援など、生成AIを軸にした事業も始めやすくなっています。
一方で、「AIで生成したものを商用利用してよいのか」「顧客情報をAIに入力してもよいのか」「AIが間違えたら誰が責任を負うのか」といった法律上の問題は、事業を始めてからでは対応が難しいこともあります。
本記事では、生成AIを活用して起業・副業を考えている人や、AIを使用した受託制作・導入支援を行う人に向けて、著作権・個人情報・契約上の注意点をはじめとする法的な諸論点を整理しました。北浜法律事務所の細井弁護士に、実際の相談の傾向も交えながら伺っています。
北浜法律事務所 弁護士。IT・知的財産・個人情報・データ分野を中心に、契約支援から訴訟・紛争まで広く取り扱う。国際知的財産紛争などのクロスボーダー案件や、産学連携・民間企業間の共同研究開発プロジェクトの支援、ベンチャー企業に対する知財戦略の策定支援を含む豊富な実務経験を持つ。東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒業後、2016年弁護士登録、2017年北浜法律事務所入所(東京事務所 所属)。2026年、米国コーネル大学ロースクール(LL.M.)に留学後、オランダ・アムステルダムの法律事務所にて外部研修中。
この記事の目次
生成AIを活用した事業では、どんな法律相談が増えている?

細井:典型的には、「どのような情報をAIに入力してよいのか」「AIが生成した画像や情報を、どのように利用してよいのか」といったご相談があります。そのほかにも、AIを利用したサービスの契約をどう設計するかや、共同開発の場合には、学習データの提供元となる協力企業と開発企業との間で、開発したモデル・プログラムの権利や、提供データの利用権をどう定めるかといったご相談もあります。
起業初期の方や企業の場合、先にサービスを走らせてしまって、法務面の検討が後回しになっていることが少なくありません。その結果、ステークホルダーとの認識のズレが後になって表面化し、思ったようにビジネスを発展させられなかったり、紛争に発展してしまうケースもあります。
細井:生成AIに関連する法的な問題には、著作権、個人情報、営業秘密、開発したモデル・プログラムの権利帰属をはじめとして、多くの論点があります。法務意識の高い方であれば、このうちいくつかの観点についてはすでに検討されていることもあると思います。ただ、実は論点そのものに気が付いていない、という可能性もあるんです。
深刻な場合には、事業を続けることそのものが難しくなるような見落としが含まれていることも考えられます。だからこそ、早めに専門家に相談していただくことが大切です。
AIで作った文章・画像・コードは商用利用してよい?
細井:AI生成物を商用利用できるかどうかについて、主なチェックポイントは次の4つに整理できます。
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- ① AIサービスの利用規約を確認する
- ② 生成内容が適法・適切かを確認する
- ③ 生成物を法的に保護する必要があるかを考える
- ④ AIを利用したことを明らかにする必要があるかを考える
① AIサービスの利用規約を確認する
細井:ChatGPTなどの生成AIサービスの利用規約は、サービスやプランによってさまざまなので、個別に確認するほかありません。特に注目していただきたいのは、次の3点です。
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- そもそも、ユーザーが想定している利用方法が認められているか。
- 生成物の利用権がユーザーに専属的に帰属するのか、それとも非独占的な利用権が認められるにすぎないのか。
- 第三者の権利を侵害してしまった場合に、最終的な責任を誰が負うのか。AIサービス側の責任は、免除または限定されているか。また、権利者のクレームに一次的に対応する責任を負うのはどちらか。
初期的な方法として、そのAIサービスのチャットに、これらの点を直接質問してみることも考えられます。ただ、それで100%正確な回答が得られるとは限りません。最新の利用規約の条項をご自身で(または弁護士に依頼して)参照し、回答が正しいかどうか丁寧に裏取りするのが確実です。
② 生成内容が適法・適切かを確認する
細井:まず、その生成内容が法令に違反するものでないかを確認します。例えば、他人の著作権を侵害するおそれがないか、景品表示法等の広告関連の法令に抵触するような虚偽や誇大な内容となっていないか、といった点です。
仮に、直ちに法令違反にあたるものではないとしても、倫理的・常識的に不適切な内容(虚偽の内容やミスリーディングな内容、過度な誇張など)が含まれていないかも検討します。
細井:特に画像生成の場面では、特定の作家の画風を強く反映した出力や、既存のキャラクター・実在の人物に酷似した出力が生成されるように促すプロンプトを入力するケースが挙げられます。
そのほか、画像素材の販売や、生成物を主体としたグッズ販売など、生成物をそのまま販売するビジネス形態も注意が必要です。万一その生成物を利用できなくなった場合の影響が大きいので、別の意味でリスクが大きいといえます。
ただ、AI生成物による著作権侵害の成否の基準については、様々な見解が提唱されていて、先例的な裁判例もないため、法的な枠組みがまだ定まっていないんです。したがって、ある程度保守的に判断するのが、実務的には妥当であると考えます。
③ 生成物を法的に保護する必要があるかを考える
細井:後ほど詳しくお話ししますが、AIの生成物には「著作権」による保護が認められない可能性が高いんです。そのため、利用した内容を第三者に模倣されても、法的に取れる手段がない、という結果になりやすいです。
ですから、ブランドの中核となるロゴやキャッチコピーなど、模倣されては困るものであれば、商標出願など別の枠組みで保護できないかを検討します。また、AIを使用せず、人の手で創作することで、「著作権」による保護の可能性を高めることを検討します。
どうしてもAIを使用するのであれば、著作権が認められる可能性が少しでも高まるように、AIの生成物をそのまま使用するのではなく、人の手で大幅に手を加えたり、プロンプトの中で具体的な表現を詳細に指定するといった工夫が必要です。
④ AIを使用したことを明らかにする必要があるかを考える
細井:最後に、AIで作成したものであること等を明らかにする必要があるかなどを検討します。
特にクリエイター関連の業界など、AIの使用がまだ一般的に受け入れられているとはいえない場合や、AIの使用自体が特別な意味を持ってしまうような状況があります。そういった場面では、AIを使用した事実を明らかにしないことが、炎上などのきっかけになることもあります。
AIで作ったものは、著作権で保護される?
細井:日本の著作権法上、「著作物」は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義されています(第2条第1項第1号)。ここでいう「思想又は感情」は、人間の思想又は感情であって、人間の創作的な寄与がほとんどないAIの生成物は、この定義を満たせないため、著作権の対象となる「著作物」とは認められない可能性が高いと考えられます。
また、この定義からも分かるとおり、著作権で保護されるのは具体的な「表現」であって、表現の背後にある「アイデア」ではありません。ですから、たとえプロンプトがオリジナルでユニークなものであったとしても、著作権による保護の根拠としては十分ではないんです。
どの程度人間が創作的に「表現」に関与すれば著作権が認められるのかについては、前述の侵害論と同様、現状、定まった議論はなく、判例もありません。不確実性が高い領域だといえます。
AIで作った成果物を顧客に納品するとき、権利や利用範囲はどう整理する?

細井:一口に「AIを活用した事業」といっても、AIがどのように関わる事業なのかによって、考えるべきポイントは変わってきます。ここでは、自社の業務の過程で生成AIを使用し、AI生成物を納品物とするケースを想定してお話しします。
大前提として、AIを利用して納品物を制作することについて、委託契約上認められているのか、また実態としても顧客の理解が得られているのかを、よく確認する必要があります。
そのうえで、次のような点について、契約上明確にしておく必要があります。
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- 納品物の利用権をどのように定めるか
- 納品物が他社の権利を侵害するものであった場合に、どのように責任を分担するのか
細井:先ほどもお話しした、AI生成物には著作権が認められない可能性が高いという点は、ここでも注意が必要です。
というのも、単に「成果物の著作権は〇〇に帰属する」と定めるだけでは、著作権の生じない成果物の利用権については何も定められていないと解釈される余地が生じます。すなわち、疑義を避けるためには、著作権の発生を前提としない形で、利用許諾条項や禁止事項を定める表現が適切だと考えられます。
細井:AI生成物特有の事情について、契約書に定めておくことは当然として、顧客にあらかじめ説明し、十分に理解していただくことが必要でしょう。具体的には、次のような点です。
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- ①著作権が発生しない可能性があること
AI生成物には著作権が発生しない可能性があり、第三者による模倣を排除できない場合があること。 - ②人の制作物と同じ水準の保証はできないこと
出力内容の正確性や、他者の権利を侵害していないことについて、通常の人間の制作物と同じ水準の保証はできないこと。 - ③顧客側での最終確認が前提であること
ファクトチェックや権利確認など、顧客側での最終確認を前提とすること。
- ①著作権が発生しない可能性があること
顧客情報や社内資料を生成AIに入力してもよい?
細井:顧客の営業情報や、顧客が取り扱っている個人情報を外部の生成AIに入力してよいかどうかについては、顧客の同意に基づいて対応することが原則です。
ただ、個人情報については、保護の対象はその個人本人です。顧客の同意だけでは不十分である場合があるので、慎重な検討が必要です。
個人情報は「第三者提供」か「取扱いの委託」かがポイント
細井:個人情報保護法上、適法かどうかを考えるうえでは、個人情報を外部の生成AIに入力することが、法令上本人の同意が必要とされる「第三者提供」にあたるのか、それとも同意が不要な「取扱いの委託」として整理できるのかが、最大のポイントになります。
非常にざっくりいえば、次のようなイメージです。
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- 「第三者提供」にあたる可能性が高いケース
入力したデータがAIサービスの再学習(モデルの訓練)などに利用されるなど、顧客の事業以外の目的のために使用される場合 - 「取扱いの委託」と整理できる可能性が高いケース
入力したデータが再学習に利用されず、もっぱら顧客の事業の目的のために使用される場合
- 「第三者提供」にあたる可能性が高いケース
通常、「第三者提供」にあたるケースでは、提供にあたり本人の同意が必要となりますが、「取扱いの委託」であれば本人の同意が不要となります。
この整理にあたっては、提供先となるAIサービス側での利用実態と、利用規約上の定めの両面を確認する必要があります。
また、提供先となるAIサービスの提供者が外国の事業者である場合には、「外国にある第三者への個人データの提供」に関する規制(越境移転規制)にも対応する必要があり、より複雑になります。
これらの点は、そもそも法律の仕組みが複雑であることに加え、具体的な状況によって結論が変わり得るもので、ざっくりと整理するのが難しいところです。個別に慎重に検討することが必要です。
細井:法人向けプランを利用すると、一般に、入力データの学習利用がデフォルトでオフになっている、データの保存期間をコントロールできる、といった利点がありますが、具体的な条件・設定内容についてはよく確認する必要があります。また、学習利用がオフになっていることなどによって、「第三者提供」ではなく「取扱いの委託」と整理できるとしても、個人情報保護法上の委託先への監督義務があり、提供先で漏えい等のインシデントが起きた場合の当局への報告義務などもありますので、どういう責任を自社で負うのかを整理し、適切に履行することが求められます。
細井:匿名化は一つの手段になり得ます。ただ、法令上の「匿名加工情報」の要件を満たすことは、一般に想像されている以上に実務上のハードルが高いもので、簡単に利用できるものではありません。
細井:注目すべき点として、2026年7月10日の国会において可決、成立した改正個人情報保護法で、AI開発や統計作成の目的に限って、本人の同意なしで個人データの第三者提供を認める「統計作成等の特例」が新設されたことが挙げられます。
施行時期や規制の詳細はまだ明らかになっていませんが、今後は個人情報を生成AIに入力するハードルが大幅に下がることが期待されます。これからの動向を注視したいところです。
細井:事業者としては、ここまでお話ししたような要素を総合して適切な利用方法を検討し、従業員に守ってもらうために、明文の社内ルールに落とし込むことが考えられます。
ただ、創業したばかりの企業では、社内ルールを策定する余力まではないのが通常かと思います。ルール自体の把握や、対外的な契約の整備は当然必要ですが、事業の拡大のステップに応じて、明確な社内ルールの整備にまで手を広げていくのがよいと思います。
AI導入支援・AIコンサルの契約書には何を書く?

細井:具体的な業務の性質や、成果物の性質・内容などによって個別に検討する必要がありますが、基本的には、次のような観点に気を付けるのがよいと思います。
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- ①契約の目的と業務内容を明確にする
- ②業務の性質を明確にする
- ③利用するAIサービスの要件を定める
- ④データの提供と利用制限を定める
- ⑤成果物の権利帰属と利用範囲を定める
- ⑥責任に関する事項を定める
①契約の目的と業務内容を明確にする
最近は、契約の冒頭(第1条など)に、契約の目的を詳細に明記するスタイルの契約書が増えてきており、これは当事者間での契約の前提を明確化できる点において優れています。AI関連の契約においては、たとえば、顧客側でどのようなニーズがあるのか、どういった理由・狙いでAIを業務に組み込むのかといった前提を、可能な範囲で明文化できるとよいと思います。
より重要なのは、委託される業務の内容を、具体的かつ明確に記載することです。たとえば、「コンサルティング」「導入支援」といった抽象的な用語だけでは、前提を知らない第三者が見たときに、受託者がどういった役割を負っているのか理解できないことが多いです。
こういった用語の使用を避ける必要は必ずしもありませんが、具体的な業務の内容や、業務の内容に含まれない事項を明確化しておく必要があります。その中で、AIの使用自体が業務の重要な要素であれば、その旨もここに書いておく必要があります。実務的な方法として、別紙を活用して委託業務を定義することも考えられます。
②業務の性質を明確にする
成果物の納品が予定されている契約の場合、契約の性質が「準委任」なのか「請負」なのかを明確にしておくのが適切です。一般に、AIを使用した業務は成果の予測がしにくいことを考えると、準委任としておき、「善管注意義務をもって業務を遂行する」ことを明記しておくのが、受託者側としては安全です。もし顧客の要望で請負にする場合は、検収の基準などをできる限り客観的なものにしておくことが望ましいです。
③利用するAIサービスの要件を定める
利用するサービス名を限定するかどうか、学習利用の可否などを定めることが考えられます。
④データの提供と利用制限を定める
顧客からデータを提供してもらう必要がある場合は、そのデータの提供条件・利用条件・秘密保持・目的外使用の禁止などについて定めることが考えられます。
⑤成果物の権利帰属と利用範囲を定める
成果物について、(権利が発生する場合に)どちらに権利が帰属するのか、また受託者と顧客のどちらが、どのような利用権を持つのかを、具体的に定めることが考えられます。先ほどもお話ししたとおり、AIが生成した成果物には著作権が認められない可能性が高いことに注意が必要です。
⑥責任に関する事項を定める
生成AIを利用した業務において、受託者として負う責任の範囲を、そうでない業務の場合以上に限定することが考えられます。たとえば、以下の事項を定めることが考えられます。
・成果保証の範囲
AIの出力の精度や正確性などを保証しない旨を明記することが考えられます。
・提供データに関する責任
顧客側が提供したデータに誤りや違法性があった場合の責任について定めることが考えられます。
・成果物の利用に関する事項
顧客側で成果物を利用する際に、AIを利用していることの明示が必要な場合は、その旨を定めることが考えられます。また、顧客側での最終確認を前提としたものであり、出力された情報に誤りがあったにもかかわらずそのまま使用した場合の責任は顧客側にあることを明記することも考えられます。
・第三者の権利の侵害が発覚した場合の通知や協力手続に関する事項
・責任の制限
前記の保証の範囲にかかわらず、受託者側に何らかの責任が生じる場合に備えて、受託者の損害賠償責任について、損害の種類を限定したり、金額の上限を設けたりすることが考えられます。
「AIが出した回答だから」だけでは責任を免れない
細井:単純に「AIが出力したものだから」という理由で、受託者が責任を免れることは、原則としてできません。受託者は、自己の業務遂行のためのツールとしてAIを選択し、使用している以上、そのAIの働きについても、いわゆる善管注意義務を負うと考えられるためです。
そのため、先ほどご説明したように契約書の責任条項をしっかりとデザインして、当事者がそれぞれ負うべき責任を明確に定めておくのが適切です。
生成AIを活用して起業する前に、最低限やっておくべきことは?
細井:実務的なまとめとしては、やはり次の2つが重要です。
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- ①利用するAIサービスの規約などをチェックすること
- ②顧客との契約で、双方の義務や責任などを明確にしておくこと
ただ、よりマクロな視点でいえば、展開する事業で自社が重視するポイントと法務上の整理がおおむね一致していること、最低限、致命的な法務リスクがない状態で事業をプランニングしていくことが、何より重要です。
細井:たとえば、早い段階で大企業の顧客と結んだ契約や、ひな型として使っている契約の条項が、顧客側に有利なものになっているケースです。そうすると、その業務から得られた技術やノウハウを横展開できないなど、その後の事業展開にうまくつながらないことがあります。その契約を結ぶ前に弁護士に相談していただいていれば、と思うことがありますね。
細井:弁護士に相談するときは、単に「この契約をチェックしてください」という依頼の仕方ではなく、その契約を通じて得られるものを、将来の事業でどう生かしていきたいかといったビジネスのビジョンを共有して依頼していただくのがおすすめです。そうすることで、その契約で本当に守るべき部分を、弁護士が一緒に考えることができます。
細井:現代において、AIは科学技術の最先端であるとともに、私たちの生活にも密接に関わるものになってきていて、その重要性は言うまでもありません。AI関連の事業での起業は、大きな社会貢献につながる将来性のあるものです。一介の弁護士として、皆様の挑戦を心より応援しています。
(編集:創業手帳編集部)
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