PwCアドバイザリー 青木 義則|ベンチャー業界で話題のCVCレポート著者が語る「 今がチャンス。起業家は事業シナジーを追求しよう 」

資金調達手帳

PwCアドバイザリー 青木 義則インタビュー

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(2018/05/01更新)

近年、ベンチャー企業の資金調達方法の一つで、大企業がベンチャー企業に投資をする「CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)」を活用する手法が浸透しつつあります。

一方で、そんなCVCの近況をまとめたレポートがベンチャー企業の間で注目を集めています。PwCアドバイザリーが発表した「CVCファンドを活用したベンチャー企業とのオープンイノベーション」です。このレポートは多くの反響を呼び、日経新聞をはじめ多数のメディアで取り上げられました。

今回は、レポートの著者であるPwCアドバイザリーの青木 義則氏に、レポートを執筆した経緯と、CVC側の視点を踏まえた上で起業家はどう活用するべきかを中心にお話を伺いました。

青木 義則(あおき よしのり)
PwCアドバイザリー合同会社 ディールズストラテジー リーダー/パートナー
PwC Japanグループ テクノロジー・メディア・テレコムインダストリー
ディール部門 リードパートナー

IT企業の研究所での勤務を経て、戦略系コンサルティング会社にてM&A戦略、成長戦略、新規事業開発、事業戦略、ビジネスデューデリジェンス、オペレーション改革、事業再生など、多数のプロジェクトをリード。その後、独立系ベンチャーキャピタルにて、CVCファンドの運用に従事。投資先のソーシングから投資検討・実行を遂行すると同時に、投資先企業に対して社外取締役としてハンズオン支援を行う。また、ファンドレイズでも中心的な役割を担う。現在は、PwCディールズストラテジー部門のリーダーとして、M&A戦略からビジネスデューデリジェンス、統合後の戦略再構築など、M&Aにかかる戦略課題を中心にクライアント企業を総合的に支援している。博士(工学)

ブームが来つつあるCVCの魅力と難しさ

ーまずは、PwCアドバイザリーの事業内容を教えてください。

青木:PwCアドバイザリーの業務は、大きく3つに分かれています。
一つ目は、M&A、二つ目は事業再生・再編、三つ目はインフラ関連。これらの分野で高い専門性をもったプロフェッショナルが、クライアント企業の成長戦略/構造変革の実現を支援しています。

ーありがとうございます。基本的なことを伺いますが、CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)とはどのようなものでしょうか?

青木:CVCとは、端的に言うと、事業会社が社外のベンチャー企業などに出資するような投資活動のことです。

ファンド(資金を集めて得たリターンを配分する仕組み)を組成して、新設した投資子会社で自社運営する企業もあれば、外部のベンチャーキャピタル(VC)に運営委託を依頼する企業もあります。

投資家から資金を集め、ベンチャーに投資し、大きな※キャピタルゲインを得ようとする通常のVCとは違って、CVCでは協業や本業との事業シナジー(相乗効果)を狙って設立されるケースがほとんどです。

※キャピタルゲイン:株式や債券など、保有している資産を売却することによって得られる売買差益のこと。

ーなるほど。では、ここから本題に入らせていただきます。今回のレポートを出したきっかけについて、伺ってもよろしいでしょうか?

青木:2012年頃から大企業によるCVCファンドが本格的に立ち上がり始めたのですが、ここ数年はブームと言っていいくらい、毎月新しいCVCが生まれています。
ですが一方で、CVCまだまだ新しい取り組みであるため、各社とも有効な方法を試行錯誤しているのが現状です。

そこで、「CVCの皆さんは、どんなところで苦労しているのだろう?」という問題点や改善策の情報共有することで、CVCを立ち上げた企業の皆様の助けになれば、と思ったのがきっかけです。

実は、CVCは欧米だと歴史がある取り組みで、米国では1960年代くらいから始まったと言われています。
先ほど日本ではブームになりつつある、と申し上げましたが、まだまだ国内では実務に関する情報は少ないのが現状です。

そのような状況ですので、私たちのようなプロフェッショナル・ファームが情報発信をすることで、少しでもCVC関係者の助けになればと思っています。

半数近くが運用に課題を感じているのが現状。
(CVCファンドを活用したベンチャー企業とのオープンイノベーションより引用)

ー情報の共有がメインになっている、ということですね。そもそもの話なのですが、大企業がCVCを作る理由としてはどのようなことが考えられるのでしょうか?

青木:例えば、大企業が時代の変化に合わせてビジネスモデルを変えていかなくてはならない場合や、新規事業を創出していく必要性があるような場合です。自分たちだけでやろうと思うと難しいので、外部の知恵や人材を活用したい局面があると思うのですが、そのような場合に「ベンチャー企業の知恵や人材を活用するために投資をする」ということですね。※オープンイノベーションの一手法と言っても良いと思います。

ベンチャー投資も※M&Aの一形態とも言えなくはないのですが、通常イメージする大企業同士のM&Aのように進めようとすると上手くいかないので、ベンチャー企業に投資するための別スキームとしてCVCを設立することが多いです。

※オープンイノベーション:企業や大学・研究機関、起業家など、外部から新たな技術やアイデアを募集・集約し、革新的な新製品(商品)・サービス、またはビジネスモデルを開発すること。

※M&A:企業の合併買収のことで、2つ以上の会社が一つになったり(合併)、ある会社が他の会社を買ったりすること(買収)です。広義の意味として、提携までを含める場合もある。

ー今回のレポートでもCVCの動向や状況について触れていますが、青木さん自身が注目するポイントはどの点でしょうか?

青木:業種が広がってきたと感じます。CVCが出始めてきた頃は、通信・IT・メディアを手がけている企業が多かったですが、現在は製造業や食品・鉄道・不動産などにも広がってきていますね。

また、CVCの取り組みは、大企業だけでなく中堅企業にも広まってきていることがわかりました。もはやCVCは、いわゆる大企業だけの取り組みではなくなってきている、と言えると思います。

ーそれだけ、ベンチャー企業の知識や技術を必要としている企業がある、ということですね。ベンチャー企業には成長をブーストしてくれることでいい環境とも言えそうです。

青木:そうですね。
大企業の中にも次々に新規事業を生み出す企業もありますが、実際には、先述した通り、新規事業を生み出すのが難しいと感じている大企業の方が圧倒的に多いと思います。

そういう時に、ベンチャー企業の協力を得ることが、新規事業を生み出す近道だという考えが浸透してきたことが、今回のCVCの広がりに繋がっているのだと思います。

ーベンチャー企業から見ると出資してくれるというメリットがあるCVCですが、他にはどういうメリットが考えられますか?

青木:まずは、大企業と協業することで、大企業が保有しているアセットを活用させてもらえるチャンスを得ることが出来るということが挙げられます。大企業が抱えている顧客基盤、営業部門、開発リソースなどを活用させてもらえるのであれば、ベンチャー企業にとって大きなメリットになるのではないでしょうか。

また、資本・業務提携したことをプレスリリースなどで公表することで、信用の補完にもつながります。大企業が持っている資産を使って、事業をもっと伸ばしていくことができるということと併せて、こちらも大きなメリットと言えるかもしれませんね。

ただし、あまりアピールし過ぎると、特定の大企業の色が付きすぎてしまうというデメリットもあります。ベンチャー企業側としては、大企業のCVCから出資を受けることによるメリットとデメリットについて、出資を受ける際にしっかり考えて決めていきたいところですね。

大企業はベンチャー企業に何を期待しているか?を考えよう

ーCVCにおいて、※キャピタリストなど様々な役割の人がいると思いますが、例えばキャピタリストだと、どんな経歴の方が多いのでしょうか?

※キャピタリスト(ベンチャー・キャピタリスト):ベンチャービジネスが発行する株式への投資を行い、資金を提供すると同時に、経営支援を行う者のこと。

青木:VCから転職してこられる方もいなくはないですが、むしろ大企業の社内で新規事業立ち上げの責任者のような企画を担当されていた方が多いと思います。そのような方の中に、研究者や技術者をやっていた方が少しいらっしゃる、という印象です。現状では、VC出身の方はそんなに多くない、ということですね。

どちらかというと、ベンチャー企業と組むことで、企業にどんな事業シナジー(相乗効果)を与えることができるのか?を考えている方が多い印象です。

多くのCVCが事業シナジーを求めている。
(CVCファンドを活用したベンチャー企業とのオープンイノベーションより引用)

ーCVCは起業家に事業シナジーを求めている、ということですね。他に、ベンチャー企業がCVCに対して持っておくべき視点はあったりしますか?

青木大企業側が、自分たちに何を期待しているのか?を考える視点を持つと良いのではないでしょうか。これに関しては、企業によって期待しているポイントが違います。なので、担当の方としっかり話をして、中長期的に一緒にやっていけそうなパートナーになるかどうかを見極めながらやっていく、という考えを持っておいたほうがいいですね。

ー確かに、一般的なVCへのプレゼンに慣れている方がそのままプレゼンをしようとすると、「※IPOが目的だろう!」と勘違いしちゃうかもしれませんね。

※IPO:「Initial Public Offering」の略で、「新規公開株」や「新規上場株式」を指す。具体的には、株を投資家に売り出して、証券取引所に上場し、誰でも株取引ができるようにすること。

青木:そうですね。CVCの場合は、必ずしもIPOが目的ではありませんから。今までの経験も大事ですが、相手が何を求めているのかは常に考えておきたいですね。

ですが、CVCからの出資が欲しいからといって、起業した時のビジョンまで変える必要はありません。
同じサービスでも、切り口を変えるだけで新たな一面を見せてくれるものがあります。そういう風にサービスの活用法を探すことによって、事業シナジーを生み出せそうな提案をしてくれる大企業にアプローチするという視点も必要ですね。

ーでは最後に、ベンチャー企業へメッセージをお願いします!

青木:ベンチャー企業にとって、環境は良くなってきていると思います。

IPOして成功に結びついた先輩起業家の方々が、今はエンジェル投資家としてベンチャー企業を支援してくれています。VCに関しても、まとまったお金を出資してくれることが多くなりました。それに加えて、先ほどお話しした通り大企業のCVCもブームになりつつあります。つまり、ベンチャー企業を支援してくれるエコシステムが、日本でも徐々に整備されてきている状況ということです。

ですが、大企業側もまだまだ手探りの状況ですので、ベンチャー企業の方は、一緒にやることで自分たちにどんなメリットがあるのか、をしっかり見極めながらパートナーを決めていく姿勢が必要です。

その点をしっかりやっていけば、今の状況を上手に使いこなすことができると思いますよ。

(取材協力:PwCアドバイザリー合同会社/青木 義則
(編集:創業手帳編集部)

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