そうそう 日下 上総|終活に新たな選択肢を。人と人との縁を感じられるライフエンディング
自分の強みとペインを掛け合わせて生まれた「終活のデジタルサービス」

株式会社そうそうは、終活をデジタルで行えるエンディングプラットフォーム「SouSou」を提供するテックスタートアップです。「SouSou」は、『日経クロストレンド未来の市場をつくる100社【2026年版】』や『日本オムニチャネル協会DXイノベーション大賞2025』などを受賞するなど業界からも注目を集めており、2025年9月には累計3億円の資金調達を実施されています。今回は代表取締役の日下さんにそうそうの事業内容や、事業への想いについて伺いました。
慶應義塾大学総合政策学部卒。卒業後は新卒でデロイトトーマツグループに入社し、政府公共セクターを中心にデジタル技術を活用した街づくりであるスマートシティなど、多くのプロジェクトを手掛ける。父の死を契機に従前から課題意識を持っていたエンディング業界に関する新しいデジタルサービスの提供を目的に、2022年「株式会社そうそう」を設立。
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この記事の目次
デジタル終活に立ちはだかる「セキュリティ」の壁をマイナンバーカードの活用で解決

日下:「SouSou」は、残す人と残される人の「想い」をつなぐデジタル終活サービスです。日本では少子高齢化に伴い亡くなる人の数も年々増加傾向にあり、2040年までには年間170万人を超えると言われています。また、近年では高齢者の9割がスマホを所有していることから、遺言の電子化が注目されているのが現状です。しかし、実際にデジタル終活に取り組んでいる人の割合はわずか3%。その背景には、個人情報漏洩への懸念があるとされています。フィッシング詐欺の被害も年間170万件ほど報告されており、セキュリティへの不安が行動の妨げになっているんです。
そこで当社では、マイナンバーカードを活用した厳格な本人確認と、電子証明書を用いたセキュアなログイン方法を実装し「なりすまし」ができないシステムを構築しました。さらに、マイナンバーカードの情報を活用して「デジタル上で人が亡くなったこと」を判定できる仕組みも開発。生命保険や携帯電話会社など外部サービスとの連携も実現した世界初のサービスとなっています。昨年7月にリリースして以来、ダウンロード数は1万件を超え、App StoreとGoogle Playでも4.8、4.6と高評価をいただいています。
日下:「縁起」という言葉は縁起が良い・悪いという意味ではなく、本来は人とのつながりの中で生じる存在を意味します。生まれることと亡くなることは、全ての人に共通する数少ないイベントの一つ。そうした節目に、自分が生きてきた軌跡をきちんと残し、周りの人が供養をする時間を確保できるよう、手続きの負担を減らしていくことが重要だと考えています。私たちの仕組みが実現したとき、亡くなられるご本人も、その周りにいる方々も、お互いの縁を感じられるようなサービスを目指しています。
公的個人認証と外部連携によって実現した、サービスの唯一無二性

日下:私は前職がコンサルで、政府公共セクターの仕事をしていました。デジタル技術を活用した街づくりに携わっており、マイナンバーカードを活用したデジタルサービスにも精通していたんです。そんな折に父を亡くし、さまざまな手続きを行うなかで情報の扱いにまつわる課題の多さを痛感しました。例えば、相続などの手続きには戸籍謄本が必要です。本籍と居住地が異なる場合は書類を取り寄せなければいけませんが、その際の本人確認が非常に簡易的なものだったことに衝撃を受けました。また、それら重要書類は郵便によって送られてきます。つまり、ポストに手を突っ込めば、誰でも簡単に個人情報を入手できてしまうんです。そこで、これまで自分が携わってきたマイナンバーカードを活用した本人確認システム構築の知見を活かしてこれらの課題を解決したいと考えるようになりました。
日下:私のアイデアをITプロダクトへの落とし込みができるSIer、実際にコードを書けるエンジニア、そして法律面をサポートする弁護士が必要だと考え、自らスカウトしました。人選の際には、パフォーマンスの高さはもちろん、思考がフラットかどうかも重視していましたね。というのも、葬儀業界は宗教の問題も絡んでおり、センシティブかつタブーもたくさんあるんです。実際、とある企業が葬儀サービスを始めた際には業界関係者から反対声明が出されたこともありました。だからこそ、難しい環境の中でも既存のしがらみにとらわれず、フラットに切り込める仲間を集めたんです。
「終活をポジティブに」情緒的なアプローチで利用者拡大を目指す
日下:「終活は絶対にやったほうが良いけれど今じゃなくて良い」これが多くの方が抱えている終活の本音です。明日死んでしまうかもしれないし、10年後も元気かも知れない。いつ死ぬのかは誰にも分かりません。だからこそ、「終活してみよう」と前向きに取り組めるような情緒的なサービスを多く盛り込んでいます。亡くなった後にご家族や友人に手紙を残せる「タイムカプセルレター」の機能は「終活にポジティブに取り組みたい」というユーザーの声を反映したものです。また、少しでも終活が必要だと感じた際にすぐサービスを提供できるよう、検索エンジンで「終活」と調べた時に一番上に表示されることを目指し、最適化に力を入れています。
日下:サービスローンチまでに自費でモニターアンケートを実施し、ユーザーの目線も積極的に取り入れました。本来のサービスの目的とは離れてしまいますが、年配ユーザーの声を反映し、終活情報を印刷できるPDF出力機能を追加したんです。ただ印刷できるだけではなく、電子署名を用いて本人が作成した正式な文書であることを示すQRコード付きの出力も可能にしました。
日下:正直なところ、狙ってやった広報や営業施策はほとんどありません。先述の通りオーガニック検索強化は行いましたが、それも最低限です。現在はストア広告を少し出していますが、それでも月に100万円程度ですね。ありがたいことにメディアに取り上げていただく機会が多く「SouSou」のメインターゲット層とメディアの読者層が近しいおかげで、メディア経由でユーザー数が増えているように感じます。
日下:この年代になると、親を亡くされている方の割合が4割を超えてきます。親の葬儀で親戚の連絡先が分からなかったり、銀行口座が凍結されて葬儀費用が引き出せなかったりといったトラブルを経験し「自分の時には子どもに迷惑をかけたくない」という明確なペインを持っていらっしゃる方も多いんです。実際にアンケートを実施し、サービスが一番刺さったのも50代の女性でした。また、後期高齢者よりもデジタルネイティブな方が多いため、サービスとの相性も良いのがこの世代です。
一方、もっと高齢の方々へのリーチも大切だと考えており、地方自治体と連携して市役所で案内してもらう取り組みも進めています。特にお一人様問題なども含めて、行政の終活支援と連携することで、より幅広い層にサービスを届けていきたいと考えています。
日下:起業後も、個人でコンサルの仕事を続けていたので開発資金は自己資金から捻出していました。まずは自己資金で構想をしっかり練って、ある程度形になったタイミングで資金調達を行う方が、短期間でしっかり調達できると考えたからです。実際、自分からのアプローチより、先方からのお声がけの方が多かったですね。VC選定の際に意識していたのは、サービス内で連携できる可能性がある企業様がどうか。そのため、ただ資金拠出をお願いするだけではなく、サービスの強化も図れるよう、当社のVCの多くは事業会社さんとなっています。
しがらみのある業界だからこそ「関係者と一緒に」前に進めていく

日下:タブーもしがらみも多い業界だからこそ、利害関係者との相互理解が大切だと感じています。そのためには「自分たちはスタートアップだから」といってなりふり構わず尖ったことをゴリゴリ進めるのでも、相手に首を垂れるのでもなく、相手を「巻き込む」。これが一流の仕事の進め方だと思っています。当社の株主の中には僧侶や骨壷会社の方もおり、業界関係者の方との関係性も良好です。何百年も続く業界だからこそ伝統と歴史に敬意を払いながら、関係者と共に進めていくアプローチが、結果的には成功への近道になると思います。
日下:私たちが目指しているのは「亡くなった後に全ての手続きが一括完了する世界」です。そのために直近で力を入れているのは、E2E暗号化を活用したサービスの開発です。E2E暗号化とは、データが送信者のデバイスから受信者のデバイスに届くまでの間、通信経路上の誰も内容を解読できないようにする通信の安全な保護方式のこと。ユーザーが生きている間は暗号化されているパスワードを、亡くなった後にご家族だけで復元できるようにする仕組みを、今サービス内で開発しています。この仕組みが実現することで、スマホのロック解除や、2段階認証も突破でき、SNSやサブスクの処理も可能になります。将来的には、電子遺言の実装や、自分の望む形でのお葬式の準備など、終活全体のデジタル化を推進していく予定です。
日下:社会課題をテーマに起業したいのであれば、会社自体が大きくなるストーリーをしっかり描くことが重要だと考えています。社会課題の解決だけが目的ならNPOという選択肢もありますが、継続的に解決していくには事業として成立することが必要です。私の場合、コンサルというサービス業では生産性の限界があると感じ、デジタルプロダクトのリリースに至りました。課題が大きければ大きいほど、それはビジネスチャンスも大きいでしょう。構造的かつ継続的に問題を解決するためには、きちんと収益が生まれるプロダクトを設計することが必要不可欠だと考えています。
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(取材協力:
株式会社そうそう 代表取締役 日下 上総)
(編集: 創業手帳編集部)






