Cellest 佐々木 宏志|ライブコマースの買い物はエンタメ!目指すは日本でのインフラ化

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年10月に行われた取材時点のものです。

中国ではライブコマースでの買い物が当たり前。日本でも「買い物を通じたエンタメ」を多くの人に届けたい


ライブコマースは、専用のプラットフォームやSNSのライブ配信機能を用いて、オンライン上で商品紹介から販売までをライブ配信する、エンターテイメント型のネットショッピングです。

ライブ配信の視聴者は、実際の着用感を見せてもらったりリアルタイムで商品についての質問ができたりするため、オンラインでありながら実店舗のような臨場感を持って買い物を楽しむことができます。中国ではライブコマースが買い物手段の1つとして浸透しており、そのユーザー数は5億2千万人とも言われます。

そんなライブコマースにいち早く目をつけ、「日本でもライブコマースをインフラ化する」という目標を掲げているのが、株式会社Cellest代表取締役CEOの佐々木さんです。

今回は佐々木さんに、ライブコマースと従来のネットショッピングの違いや、ライブコマースの今後についてお伺いしました。

佐々木 宏志(ささき ひろし)
株式会社Cellest 代表取締役CEO
高校卒業後、2年間勤めていた会社を退職し、同志社大学へ進学。在学中の2017年にライブコマースを始め、卒業後の2019年に株式会社Cellestを設立。当社のコンセプト「細胞(cell)を最大化(-est)」のもと、事業の枠組みを超えた繋がりによる相乗効果で企業価値の最大化を目指す。
▼twitter
https://twitter.com/hiroza1220

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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メルカリで出会った「ライブコマース」で起業を決意


大久保:佐々木さんは一度社会人をご経験されてから大学に行かれたんですよね?どのような経緯で起業をされたのでしょうか?

佐々木:僕は高卒で就職して2年間働きました。その後、20歳で脱サラをして1年間の勉強期間を経てから同志社大学に入学しています。

大学生のころには、関関同立の専門塾の立ち上げをしました。僕が高卒で同志社大学に行ったことが話題になっているのを見て、自分の勉強方法を教えようと考えたんです。

大久保:では、最初からライブコマースで起業したわけではないのですね。

佐々木:そうなんです。専門塾の立ち上げ後に、今度はメルカリで物を売るようになりました。そして、2017年にメルカリにライブコマースの機能が実装されていることに気づき、試してみたんです。すると、商品が本当に飛ぶように売れました。

そこでライブコマースについて調べてみると、中国では爆発的に流行っているのだと知りました。実際に中国に足を運んでみると、町中でライブ配信をしている人達がいて、1日で10億円などとんでもない額を売っていました。

日本のテレビショッピングもライブコマースに変わるのではと感じて、僕も参入することに決めましたね。

大久保:でも、メルカリのライブコマースはなくなってしまいましたよね。

佐々木:おっしゃる通り、メルカリでは2年たたず終わってしまいました。僕がライブコマースに参入したのが2017年で、ライブコマースの会社である株式会社Cellestを立ち上げたのが2019年。メルカリでライブコマースが終わった翌月に会社を立ち上げた形になりました。

メルカリが終わってしまったことに衝撃は受けましたが、何かそこで苦労をしたわけではありません。インスタのライブ配信機能を使ってECサイトに飛ばすなど、他の方法はいくらでもありましたので。

人材不足に業界課題を感じて「ライブコマーサー」育成をスタート

大久保:御社はどのような流れで、今の業態にたどり着かれたのでしょうか?

佐々木:メルカリが終わってからは、楽天が「楽天ライブ」を始めたので、そちらでライブコマースを実施していました。楽天ライブも終了してからは、インスタライブを使ってECサイトに誘導する方法に移行しましたね。

その間、各プラットフォームでずっとトップの成績である「トップライブコマーサー」の成績を出していたんです。すると、人からアドバイスを求められることが多くなりました。

僕自身も「うまく配信できる人がいない」という業界課題を感じていたこともあり、「ライブコマーサーを育成する必要がある」と考えて事務所を立ち上げました。それがライブコマーサーのためのエージェント事務所「セレスト」です。

Cellestでは、ライブコマースの底上げを目的に、商品の仕入れの方法からセールストークまでを教えます。さらに、プラットフォームが出ては潰れる現状を鑑みて、現在はプラットフォーム自体を作ることにも挑戦していて、年内にモール型のライブコマースアプリを発表できる予定です。

大久保:御社で教えているのは、具体的にはどのようなことですか?

佐々木:まずは仕入れです。トレンド商品や売ってはいけないもの、逆に売るべきものといった基本的な仕入れの知識ですね。

続いて商品の見せ方です。きれいに見える撮影の仕方、読みやすい説明文のライティング方法、SNSへの投稿の仕方を伝えています。

最後は実際の配信部分です。例えば20商品紹介する場合には、どのような順番で紹介すると盛り上がるのか。例えば「1円のApple Watch」といったフック商品、誰もが知る人気商品、利益を取れる商品の組み合わせや配分について教えています。

大久保:ライブコマースに向いている人は、どのような人でしょうか?

佐々木:明るくてよく笑う人、オーバーリアクションな人には向いています。さらに、商品について圧倒的に詳しいことも必須条件ですね。

ライブ配信で、いろいろ商品について聞かれるので、商品に詳しくない人だと「この人は、好きじゃない商品を売ってるんだな」と思われてしまうんです。

さらに、営業力も必要です。ここでいう営業力は、カリスマ性やタレント性、才能とも言い換えられるかもしれません。営業力があればそれ以外の能力を磨くことはできるのですが、逆に営業力がない人にテクニックを伝授しても一定値で止まってしまいます。

eコマースはToDo型、ライブコマースはエンタメ型


大久保:従来型のeコマース、つまり昔からあるネットショップとライブコマースの違いを教えていただけますか?

佐々木:従来のeコマースは、ToDo型のショッピングです。

例えば、洗剤や米がなくなったから買おうとか、卒園式に着るジャケットを用意しなければとか、必要なものが明確なショッピングです。ですから消費者は、能動的に買う場所を探さなければいけません。

一方ライブコマースは、エンタメ型のショッピングだと言われます。

「渋谷に遊びに行こう」「アウトレットに買い物に行こう」という買うものが明確でない買い物の場合、たまたま出会った商品を購入することも多いですよね。ライブコマースでも同じように、配信者から様々な商品をおすすめしてもらったり、ちょうどタイムセールを始めたから購入するといった「偶然の出会いでの購入」が可能になるんです。

ライブコマースを活用するメリット


大久保:ライブコマースを活用するメリットを教えてください。

佐々木:まず、購入者にとってのメリットは、大きく4つあります。

1つ目は、コミュニケーションを楽しめること。テレビショッピングは一方通行のコミュニケーションしか図れず、そもそもeコマースはコミュニケーションを取ることができません。一方、ライブコマースは双方向にコミュニケーションを図ることができます。例えば、自分の好きな有名人からコメントが返ってきたり、買い物仲間とチャットルームで会話したり。買ったものをシェアすることで、承認欲求を満たすこともできますね。

2つ目は、安心であること。ネットで物を買ったけれど届いたものがイメージと違った、という経験は誰もがしていると思います。しかしライブコマースなら、実際に服を着用した様子をライブで見たり、リアルタイムで質問に答えてもらったりしたうえで商品を購入できるので、買ったときのイメージと実際に届いたものとのギャップが少ないんです。緊張して店員さんに質問ができない人にとっては、リアルよりも安心して購入ができるかもしれませんね。

3つ目は、便利であること。田舎で近くに行きたいお店がない人や、仕事が忙しくて買い物に行く暇がない人、病気や怪我で外に出られない人など、本当は実店舗に行きたいけれど行けない人もたくさんいますよね。ライブコマースはそのような人達に、よりリアルに近い買い物体験を提供できるんです。

4つ目は、お得であること。配信限定のタイムセールを利用すると、実店舗やネットショッピングよりも、ほしいものが安く手に入ります。と言いますのも、企業と連携してライブコマースに取り組むときは、「ライブコマース限定価格にしてください」とお伝えしているんです。企業側も「テレビショッピングと同じですね」と快諾してくれますので、ライブコマースでの買い物には購入者もお得感を持ってもらえます。

大久保:販売者側のメリットはいかがでしょうか?

佐々木:販売者は、販売数に一番メリットを感じていますね。1日で店の1ヶ月分の売り上げを上回ることも少なくないためです。

例えば、アパレルやコスメの実店舗に入って、お客様が10人もいると「この店は流行っているな」と感じませんか?しかし、僕たちのライブコマースですと、平均で250人から300人が同時に接続しています。つまり、常に「お店に入ると300人のお客様がいる」という状態なんです。

さらに、販売商品にも寄りますがライブ配信を最後まで見ていただいたお客様は、平均で7割以上の方が購入してくれます。ですから、ライブコマースを導入すると、とにかく商品が売れるんです。

家賃や電気代、スタッフの人件費などのランニングコストがかからない点、夜中の1時でも2時でも配信できる点も販売側のメリットですね。

Amazon1か月の売り上げを2時間の配信で超える

大久保:「とにかく売れる」というお話でしたが、売れなかったものが売れるようになった事例もあるのでしょうか?

佐々木:ありますね。長野県のあるお味噌メーカー 山高味噌さんの事例なのですが、2時間の配信で200個売れました。これは、Amazon約1ヶ月分の売上を2時間で達成したことになります。

実は弊社のライブコマーサーの1人がそのお味噌の大ファンで、「うちのライブコマースで販売したい」と、自らその味噌のメーカーさんに電話したんです。ところがメーカーさんは「今までライブコマースなんて、したことがないから」と前向きな回答をもらえませんでした。しかし、ライブコマーサーが「どうしても売らせてほしいと」頼み込んだところ、メーカーの営業さんが熱意を買ってくれて、社内に話をつけてくれたんです。

そして、2時間の配信でその味噌を販売したところ、なんと200個近くも売れました。そもそもECで1ヶ月で100個売れたら良い方だったメーカーさんは、驚きすぎて言葉が出なかったそうです。ライブコマースに対する考え方は180度変わり、今はそのメーカーのセールスマンたちが、配信を見てトークの勉強をしているとおっしゃっていますね。

最近ですと、おやつのサブスク「snaq.me」を提供するスナックミーさんの商品を販売して、1時間の配信で期待を超える契約数を獲得し、感謝の声をいただきました。僕たちもサブスクの販売は初めてでしたが、良い結果となり改めてライブコマースの可能性を感じました。

これらの事例以外にも、10分で100万円分売れたり10分で1,000個売れたりすることはめずらしくありません。基本的にどこのメーカーさんのものを販売しても、「こんなに売れるなんて信じられない」という反応をもらいます。

大久保:ライブコマースで、そこまで売れる理由はなんでしょうか?

佐々木:Amazonなどのネットショップで売っている場合、セールスはできませんよね。反対にライブコマースは、こちらから売り込める点が大きいですね。

大久保:ライブコマースには若者向けというイメージがあるのですが、実際はいかがですか?

佐々木:2023年8月から9月にかけて、弊社が運営するライブコマース販売事業「ぞうこちゃんねる」の利用者へアンケートを実施したところ、25歳以下は10%しかいませんでした。35歳から54歳の方が60%以上を占めていて、職業については会社員が70%にも上ることがわかったんです。ですから、どちらかというと時間とお金に余裕がある方の利用が多いですね。

ライブコマースはこれから日本でも流行る?

大久保:ライブコマースは中国で伸びているというお話も伺いましたが、他の国ではいかがでしょうか?

佐々木:すでに日本以外の東南アジアの国々ではかなり流行っていますね。韓国、フィリピン、インドネシア、タイでも、ライブコマースで買い物をするのが当たり前になっています。

中国の市場規模は、現在約33兆円にもなります。しかし日本では、ECの市場規模は14兆円で、その中でもライブコマースの割合が3%ぐらいだと言われています。

大久保:では、日本のライブコマースの市場規模は4,500億円ぐらいになるんですね。

佐々木:そうですね。ただ僕の感覚では500億ぐらいだと思います。

大久保:アメリカではいかがでしょうか?

佐々木:実はアメリカでは、日本と同じくらい難航しています。5年前ぐらいにAmazonやフェイスブックでライブコマースを導入したのですが、うまくいかなかったんです。

でも僕は、日本では今後かなり伸びると思っています。

大久保:日本で今後伸びると思われる理由を教えてください。

佐々木コロナの影響で、ネットショッピングや電子決済、スマートフォンの普及率がようやく伸びてきたからです。

日本はこれまで現金主義の国だったため、ネットで物を買うこと自体があまり発展してきませんでした。また、中国を含め海外はどこに行っても電子決済できますが、日本は電子決済が使えないところもありますよね。さらに、海外の方は高齢であってもネットでどんどん物を買いますが、日本はこれまでスマートフォンの普及率が高い方ではありませんでした。

ですから日本ではネットで買い物をしたくても、まだDX化されていない状況だったんです。ネット上で実店舗の買い物を体験できる点ではライブコマースが最先端だと思うので、電子決済やスマートフォンが普及してきた今後、流行らない理由がないと僕は考えています。

スタートアップならではの悩み。開発や資金調達も自分で


大久保:会社を経営されている中で、大変だったことをお伺いできますか?

佐々木:ちょうど今行っている、アプリの開発に苦労しています。

これまでのマーケティングやセールス、CSなどは、CEOという立場の僕自身がすべてできたんです。でも「開発」という領域は、いわゆるCTOという役職の分野です。僕自身では何もできないため、1から10まで「こうしてほしい」と指示をしないといけないのがしんどいですね。

また、2023年6月に資金調達が完了したのですが、「バリュエーションってどうやって決めるんだろう」「資本政策はどのように策定していくんだろう」などのファイナンスの部分は、調べても答えのある問いではないので、考えるのに苦戦しました。

CTOやCFOを雇えば楽になるかもしれませんが、スタートアップなので財力が足りません。「自分の領域外もすべてやらなければならない」という、まだまだ大変な地点にいると感じますね。

全世界で使ってもらえるアプリを作りたい

大久保:今後の展望を教えてください。

佐々木:まずは今開発しているモール型のライブコマースアプリを普及させることで、日本でもライブコマースをインフラ化して、「物を買うならライブコマースだよね」という世界を作りたいですね。

それに加えて、海外からの日本のスタートアップの評価を変えたいと考えています。

僕はライブコマースの仕事で月に1回は海外に行っています。そのときに耳にするのが、「日本ではスタートアップが伸びない」「日本はブランディングやマーケティング戦略が下手だ」という評価です。

そんな評価を変えるために、今のTikTokのように全世界で使ってもらえるライブコマースのアプリを作ろうと考えています。「打倒TikTok」の気持ちで、Cellestを世界で戦える企業にしたいですね。

大久保:最後に起業した方に向けてメッセージをください。

佐々木僕が一番大事にしてるのは、継続することです。「結果が出ないからすぐに辞める」では、成功できません。とにかく続けてほしいと思いますね。

そもそも続けることができないようなことなら、やらなくてもいいのではないでしょうか。目先のお金を稼ぐためのビジネスや誰でもできそうなビジネスをするくらいであれば、いい会社に就職してできることを増やしてから起業した方がいいと思います。

さらに、たくさんの人に会って学ぶことも大切です。ビジネスは環境によって変わりますから、その環境下で最高のパフォーマンスを出していたとしても、あくまでもその環境での話なんです。少し上に行くと全然違う世界が見えることもあるので、どんどん高い環境に入って学ぶことが大事だと思っています。

大久保写真大久保の感想

自分もかつてネットでものを売るEC業界にいました。

ネットで物を売るにはどうしたら良いか?ですが

・顧客層に合わせたモデルや事例で利用シーンをイメージさせること
・リアル店舗のようにコミュニケーションをとって接客すること
・色々な角度で写真を載せ情報リッチにすること
・不安をなくすこと

などで、これがネット通販の成功のコツと長らく体験的に言われてきました。しかし現実問題として従来のネットショップの表現力、技術ではなかなか実現するのが難しかった。

これらネットで物を売る成功の法則のど真ん中を、意識せずとも実現しているのがライブコマースです。動いている人が実際に使って話しながら売るわけですから、実は上の売るための要素をすべて満たしており、それは売れるはずだ、というわけです。

しかし、インフラが追いつかないなどで、中国ではすごいが来る来る言われながらなかなか日本では普及してこなかったライブコマースですが、日本でも動画の浸透など普及の土壌ができてきており、いよいよ本格的に発展していきそうです。

今後、少資本や地方でも熱意と良い商品とノウハウがあればできる、こうしたライブコマースが発展していくと良いなと思っています。
そんなジャンルに挑戦している佐々木さんの今後に期待ですね!

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