ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 後藤宗明|デジタル後進国の日本に必要な「リスキリング」とは?

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年12月に行われた取材時点のものです。

世界の動きから見えてきた、40歳でテクノロジー分野にキャリアチェンジした挑戦の先

「リスキリング」という言葉をご存知でしょうか。経済産業省では、リスキリングを「新しい職業に就くために、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。

海外では導入が進み、企業を成長させているリスキリングですが、日本ではまだまだメジャーとはいえない制度です。

そこで今回は、『自分のスキルをアップデートし続ける「リスキリング」』(日本能率協会マネジメントセンター)の著者であり、ジャパン・リスキリング・イニシアチブの代表理事を務める後藤さんに、リスキリングの重要性や企業が導入するうえでのポイントなどを創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

後藤 宗明(ごとう むねあき)
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事/SkyHive Technologies 日本代表

2021年、日本初のリスキリングに特化した非営利団体、ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。
2022年、AIを利用してスキル可視化を行うリスキリングプラットフォームSkyHive Technologiesの日本代表に就任。
石川県加賀市「デジタルカレッジKAGA」理事、広島県「リスキリング推進検討協議会/分科会」委員、経済産業省「スキル標準化調査委員会」委員、リクルートワークス研究所客員研究員を歴任。政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。
著書に『自分のスキルをアップデートし続ける「リスキリング 」』(日本能率協会マネジメントセンター)。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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「リスキリング」とは?


大久保:そもそも「リスキリング」とは、どういう意味の言葉なのでしょうか。

後藤:日本では学び直しと訳されたことから誤解されがちなのですが、リスキリングは個人がスキルを学び直すのではなく、企業が実施責任を持ち、企業の組織変革のニーズに基づいて従業員に新しい分野のスキルを習得させることをいいます。「組織が従業員をリスキリングする」というのが大元の意味なので、主語は組織なんです。

では、なぜ海外でリスキリングがこれほど導入され、成功しているかというと、AIなどの技術の進化によって起こる「技術的失業」を防ぐために、労働者のスキルを成長させ、今後の事業成長が見込まれる分野で仕事ができるようにしていかなくてはいけない。これを経済学用語で「労働移動」というのですが、なくなってしまう仕事から、新しく伸びていく成長事業や成長産業に移っていくための手段がリスキリングだと注目されています。

大久保:一般的に、キャリアアップのために資格取得等の勉強をする時間はプライベートで行うことがほとんどですが、リスキリングは、会社が実施責任をもって従業員をリスキルさせるものなので、それに費やす時間も給料の対象になるのでしょうね。従業員を次の時代に合うようアップデートすることで、結果として会社が得するわけだから将来的には利益が見込めますし。

後藤:はい。個人の自主性に任せてデジタル化が進むのであれば、日本はとっくにデジタル先進国になっていると思うんですよね。なので、個人の自主性に任せて支援をしていてもDX化は進まないと思っています。それは、今まさに大久保さんがおっしゃったように、個人が新たなスキルを習得するためには、モチベーションが高い方が自費で外部の教育機関に通うなど、ある程度お金や時間に余裕が必要です。でも、金銭的にも時間的にも余裕があり、モチベーションも高い方は限られていますよね。一方、リスキリングは、自分のスキルや所得に不安のある方々が「いかに仕事を失わず、成長産業に移れるか」ということが重要視されています。また、日本では「ベテラン中高年の方の雇用をどう守っていくか」ということもリスキリング分野においてよく話題になっています。

大久保:例えば、若い頃に身に着けた常識やスキルは、バージョンアップしていかないとだんだん陳腐化してきてしまいますからね。業界自体が廃れてしまう場合もありますから、そういう場合にリスキリングが必要になるんですね。

後藤:そうですね。

大久保:リスキリングは割と定義が広い言葉だと思いますが、その中でも学ぶ分野としてはどういった分野が多いのでしょうか?

後藤:海外では8~9割がデジタル分野で、「デジタル分野の新しいスキルを身に付ける=リスキリング」という意味になりつつあります。デジタル分野を細かく分解をしていくと、「デジタルツールを使えるようになる」というレベルのリスキリングもあれば、「デジタルマーケティング分野の仕事に就く」とか、サービス開発をするという意味で「コーティングができるようになる」など、目指す職務によって内容とレベルは変わりますね。

大久保:ちなみに、リスキリングに似た言葉に「アップスキリング」や「アウトスキリング」がありますが、それぞれ何が違うのでしょうか。

後藤:まず「スキルアップ」という和製英語がありますが、それを英語では「upskill(アップスキル)」といい、今の自分のスキルをそのまままっすぐ伸ばすイメージで使います。なので、「アップスキリング」は経理部の方がより高度な経理のスキルを身に着けるなど、同じ職務内でスキルを向上させることを指します。一方「リスキリング」は、現状の職と異なる成長産業の技術を学び、新たな職業に就くので、横に動いていくイメージですね。

そして、日本ではまだほとんど行われていませんが、アメリカやイギリスで注目されているのが「アウトスキリング」です。これは、人員整理の対象になってしまった方が成長産業の仕事に就けるよう、退職前に会社がリスキルの機会を提供するというものです。アウトプレースメントの進化系と考えていただければ分かりやすいと思います。

ココ重要!
  • 「リスキリング」とは、企業が主導して自社の従業員をリスキルし、衰退産業から今後発展が見込まれる産業へ従業員の職を移行させる取り組みのこと。学び直しという意味ではなく、新しい分野のスキルを習得することをいう。

リスキリングが進んでいる海外の現状


大久保:リスキリングは、会社・従業員・社会にとって、それぞれどのような利点があるのでしょうか。

後藤:会社にとっては、その会社の未来の方向性ですね。DXなど会社の組織変革に基づき、それを支える人材が育つ。これが会社にとって一番のメリットになると思います。従業員に関しては、リスキリングが昇給と昇格に繋がることが海外のデータで明らかになっています。そして、社会は個人と会社組織の集合体ですから、世界の中で競争力が高い国になっていけるか否かが、このリスキリングにかかっているのではないかと思っています。

スイスの国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表している「世界デジタル競争力ランキング」において日本は、2020年度は27位、2021年度は28位、2022年度は29位と年々ランキングを下げています。日本ではコロナ禍を経て「ZOOMを使えるようになって、デジタル化が進んだ」といわれていますが、仮に、コロナ禍の日本でデジタル化が進んだ距離を5cmとするなら、世界は同じ期間で数m先に進んだんです。日本もデジタル化に取り組んではいるものの、他国のスピードが早すぎるので、相対的に日本のランキングが落ちてしまっているんですよね。

そもそも、アメリカでリスキリングが注目され始めたのが2016~17年頃なので、日本はすでに6年も遅れているんです。この6年の遅れが、世界デジタル競争力ランキングでの差を作り出していると私は思っています。なので、リスキリングをした貢献実績が尺度で測れるのはまだまだ数年後だと思います。

大久保:なるほど。ちなみに、リスキリングが最も進んでいる国はどこですか?

後藤:シンガポールですね。シンガポールは国家主導でリスキリングを行っているので、マネジメント体制が一番洗練されているなと感じます。アメリカは、政権交代に伴い、国ではなく州政府が独自に支援を始めています。その他に進んでいるのは、やはりデンマークやスウェーデン、フランス、イギリス、ドイツなどのヨーロッパですね。

大久保:シンガポールは、国が主導して国全体をハイテク産業へ移行させようとしていますからね。

後藤:まさにその支援の一環として、国の計画と戦略に基づきリスキリングを実施している感じです。

大久保:成長産業は人手が足りない一方、廃りつつある産業は人手が余ってるので、リスキリングは非常に良い制度だと思うのですが、なぜ日本ではリスキリングが進まないのでしょうか。

後藤:よく聞かれる質問なのですが、私はいつも「経営者がリスキリングをしてないからだ」とお答えしています。経営者が「デジタルを使って何ができるか」を理解していないから、デジタル化がいまいち進まないんだと思うんです。特に、大企業の経営者には秘書が何人もいて、口頭で指示をすればすべて片付いてしまうので、自らデジタルを駆使して効率化する必要がないんですよ。

コロナ禍になる前は、アメリカと日本を半分ずつ行き来する生活をしたのですが、アメリカでは、デジタルが使えない経営者は生産性が低いのでクビになってしまうんです。日本みたいに秘書を複数人雇っているなんて株主から許されないんですよね。「5人も秘書がいるとは何事だ!どれだけ人件費を払っているんだ」と非難されてしまうんです。なので、ちゃんと自分でデジタルツールを使いこなして、生産性の高い仕事をしなくてはいけない。その差が大きいと思いますね。経営者がデジタル分野に疎いと、デジタル分野における投資の意思決定もできないですから。

大久保:たしかに、自分で使いこなしていなければ目利きもできませんからね。周りに頼って、経営者自身がデジタル分野に強くなくてもいいという恵まれた環境が、成長を妨げているんですね。

後藤:そう思います。

ココ重要!
  • 経営者がデジタルに疎いと目利きができないので、会社として導入すべきデジタル分野の意思決定ができない。そのため、経営者自らがデジタルツールを使いこなせるかが、デジタル化を進めるカギとなる。

40歳でテクノロジー分野にキャリアチェンジ

大久保:後藤さんは、どのような経緯でジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事に就任されたのですか?

後藤:大学卒業後、富士銀行(現:みずほ銀行)に入行し、営業とマーケティングを経て、人事部で教育研修を担当したのですが、そこで人材育成の仕事に興味を持ちました。入行してちょうど5年経った頃、HRのスタートアップを仲間と2人で始め、その仕事で渡米したのですが、残念ながら2カ月後に9.11のテロが発生し帰国命令が下りました。残るか辞めるか迷いましたが「アメリカに残ろう」と決意し、日本人および日本企業向けのグローバル研修を行う小さなコンサル会社を立ち上げ、8年ほど運営した後、日本に帰国し、社会問題をビジネスで解決する米国の社会起業家支援NPOアショカの日本法人の設立に注力しました。

それが約10年前で40歳の時だったのですが、すでに当時のアメリカの社会起業家は、テクノロジーを用いて業務を効率化し、組織を大きくしていくことがトレンドになっていました。そこで「これからはテクノロジーを知らなきゃいけない」と思い、それまではテクノロジーに興味がなかったのですが、思い切ってキャリアチェンジをしたんです。振り返ってみると、こうしてテクノロジー分野に自分のキャリアを振ったことが、リスキリングの経験でしたね。

大久保:テクノロジー分野として、具体的にどのような仕事を経験されたのですか?

後藤:NTTドコモと一緒にドコモ口座のサービスを立ち上げたり、通信ベンチャーの取締役として海外の新規出店や通信サービスの新規開発、アクセンチュアで採用戦略の立案と人事領域のDXを担当した後、AIスタートアップのABEJAにてアメリカ拠点の立ち上げ責任者として、1年の半分をアメリカで過ごしながら事業開発やAI研修の企画運営を行いました。そういった自らのリスキリングの経験を基に、2018年頃からリスキリングを広める活動を一人で少しずつ始め、リクルートワークス研究所の特任リサーチャーとして、リスキリングに関する研究レポートを共同執筆したことをきっかけに「リスキリングに特化した発信を重点的に行っていこう」とジャパン・リスキリング・イニシアチブを立ち上げました。

大久保:新しいスキルを覚えると、ビジネスパーソンとしての寿命が伸びると同時に、頭も活性化しそうですよね。

後藤:そうですね。私は40歳までデジタルとかテクノロジー領域に全く詳しくなかったのですが、そこからネットワーク、ソフトウェア、ハードウェアを少しずつ経験して、AIスタートアップの立ち上げ責任者を務めるまでなれたのは、自分自身とても嬉しかったですね。リスキリングで自分がバージョンアップすることで、今後の発展が見込める世界から自分を必要としてもらえるのは、人生の大きな方向転換に繋がりますね

大久保:「自分はここまでしかできない」と思い込んでしまうと、「ああ、もう自分はだめだ」と思ってしまいがちですが、新たなスキルを習得することによって能力が拡張されると、「私の可能性ってこんなに広がっていたんだ」とポジティブになれますよね。結果として、幸福度が上がり、健康にも繋がるでしょうから、国の医療費などの社会保障費的にもプラスになりそうですよね。

後藤:実際、リスキリングと社会保障費は切っても切れなくて、リスキリングをせず失業してしまった場合と、失業しないようコツコツリスキリングしたのとでは、社会保障費の負担レベルが全然違うんです。リスキリングは、会社が廃業したり失業しないための予防策なので、日本に求められているのはそういった考え方の転換だと思います。

日本におけるリスキリングの未来


大久保:シンガポールは国が、アメリカも自治体が主体となってリスキリングを行っていますが、日本はどのような感じなのでしょうか。

後藤:今年10月3日に行われた臨時国会の所信表明演説で、岸田首相が「リスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と表明されたり、「日経リスキリングサミット」に岸田首相が出席されたことを踏まえると、いよいよ国策レベルで取り上げられるようになってきたなと感じています。

大久保後藤さんから見えている、リスキリングにおける世界の動きを教えてください。

後藤:現状はデジタル化のためのリスキリングが注目されていますが、ヨーロッパやアメリカを中心とした新しい流れとして、脱炭素化に向けた人材育成として「グリーン・リスキリング」が注目され始めています。特にヨーロッパでは、デジタル化と同レベルで、このグリーン分野の地域事業を創れる人材を育てる動きが物凄い勢いで進んでいます。今後は、世界的にグリーン化の法的制限がなされていくと思うので、おそらく日本でも強制的にグリーン・リスキリングを実施していく必要があると考えられます。

例えば、アメリカのセールスフォース・ドットコム(salesforce)では、2019年から企業における温室効果ガスの排出量などの環境データを収集・分析して、ダッシュボードに可視化するクラウドサービス「Net Zero Cloud」を導入していて、セールスフォース・ジャパンでも今年から国内提供が開始されました。どのような業種であれ、各企業がどのくらいの二酸化炭素を出しているのか、カーボンフットプリントの義務化は近いと思うので、一般のビジネスパーソンがグリーン分野のリスキリングをしなくてはいけない時代がもうすぐそこに来ていると思います

大久保:新しい取り組みに対して「やってみよう」という勢いが弱いのが日本全体の問題ともいえるのですが、リスキリングを進めていくためにアドバイスをいただけますか?

後藤:「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」ということわざがあるように、各企業がやる気にならない限りは無理なんです。やはり、外部環境の激しい世界でこれからも会社を存続させていくためには、マインドセットの変更が必要です。企業や従業員の強み、これから会社をどう成長させていきたいのかという方向性を会社として明確にし、それに基づいて実施することが重要だと思います。

また、新しい分野のスキルを学ぶことは簡単なことではないので、挫折をしないよう学び合う仲間を作ることが大切ですね。海外でも「ブレンディッド・ラーニング(Blended Learning)」という、オンライン学習と複数人の受講者が現地に集まって行う集合学習を有機的に組み合わせた学習方法が主流になってきています。オンラインは、時間や場所を問わずに学べるので手軽でとてもいいのですが、強制力が弱いので、よほど個人の意志が強くない限りドロップアウトする確率が高まるんです。会社がリスキリングを進めていくためには「いつまでに、何をやるか」を定めることが重要なので、ある程度の強制力を持つために、オンライン講座での知識習得に期限を設け、それを定着させるために集合研修をセットで行うことが世界のトレンドになっています。

日本でのリスキリングの成功事例


大久保:私が明治大学でMBAの客員教授をしていて感じることは、せっかく賢くなっても、職場で活かせない人が多いんですよね。職場で同じレベルに賢い人がいないから、むしろ賢くなった人が苦しくなって辞めてしまうこともあって。だからリスキリングにおいても、トップランナーを育てるのも大事ですが、組織全体の平均値を上げることが大切かもしれませんね。

後藤:仰る通りだと思います。企業からの問い合わせで多いものの一つが「優秀な方が会社を辞めないよう、どのような成長機会を与えるべきか」ということです。そしてもう一つが「能力に不安がある方をどうやって戦力化すればいいのか、ベテラン中高年の再戦力化も含めたボトムアップ」です。目的に応じ、企業の中でこの二つを両方行う場合もありますし、ボトムアップや中高年の方々の再戦力化に予算をかけている会社もあります。その辺は会社の方向性次第ではありますね。

大久保:日本企業における、リスキリングの導入事例があれば教えてください。

後藤:SMBCグループでは、自社のRPAの導入経験をお客様に提供するために、新たにSMBCバリュークリエーションというRPA専門子会社を設立し、従業員の方にDX研修を行うことで、人員整理をすることなく収益部門で働けるようリスキリングした成功事例があります。従業員を再戦力化するだけでなく、「どのようにしてデジタル人材を育成していくのか」という研修まで販売できるので、ビジネスとしても非常に素晴らしい事例です。

また、従業員数400人弱の西川コミュニケーションズという、1906年創業の電話帳印刷を行っていた老舗企業は、電話帳の利用ニーズの低下に伴い、早い段階から事業変革に取り組み、リストラをすることなく、デジタルマーケティングや3Dグラフィックなどへ事業内容をピボットした成功事例です。2013年からリスキリングを開始したのですが、社長の「学びを止めると収入が下がる」という合言葉を基に、業務時間の20%をリスキリングに充てているようです。なくなってしまう分野から、AIなど今後も発展していく分野に事業を移行させた、リスキリングの王道ともいえる成功事例ですね。

大久保:技術的失業を防ぐためには、やはりリスキリングが重要なのですね。

後藤:はい。海外の流れを見ていると、部分的に自動化が始まり、それが集合体として広がると丸々一人分の仕事がなくなり技術的失業に繋がるんですよね。例えば、ファミリーマートがドリンク補充にロボットを導入すると発表しましたが、仮にこのドリンク補充の仕事を今まで1店舗につき1名が行っていて、他社のコンビニエンスストアも含めて全国約57,000店舗でロボットが導入されるとして、57,000人分の仕事がなくなるのか、それとも人間にしかできない仕事をするのかは、会社の判断になります。ただし、低スキルでできる仕事ほど、リスキリングをしないと将来的に仕事がなくなる可能性が高まると考えられます。

また、NTTドコモも、全国2,300店舗のドコモショップのうち700店舗を2025年度までに閉鎖すると発表しました。人員整理はせず、メタバース店舗でのオンライン接客や、法人顧客サポート業務へ業務を移行すると宣言していますが、この時に重要なのが「店舗の仕事というものが変容しつつある」ということをきちんと捉え、仮に大手携帯電話会社が追随した場合は、約8,000店舗で仕事がなくなる可能性があると認識することです。会社は、時代の流れや傾向を正確に捉え、従業員に仕事がどう変質していくのか前もってきちんと提示をする必要がありますし、従業員は会社の言っていることを鵜呑みにするのではなく、「自分の仕事はこのままで大丈夫かな」と危機感を持ち、リスキリングに取り組むことが大切です。

大久保:もはや起業自体がリスキリングともいえますが、リスキリングにチャンスを見出して起業する方もいらっしゃると思います。これから起業される方に向けて、メッセージをお願いします。

後藤:私も29歳で起業してからずっと起業家人生を送っていますが、起業家ほど自分自身をリスキリングすることが求められる仕事はないと思っています。それは、競合他社の動きに合わせて、大なり小なりピボットしていく必要がありますから、その際には必ずリスキリングが発生します。また、「ここからここまでが私の仕事」という人の集まりではスタートアップは回っていかないので、自分がやったことのない領域をリスキリングし合えるのが強いスタートアップのチームだと考えています。リスキリングは、起業家にとって切っても切れない制度だと思って、ぜひ取り組んでもらえたらと思います。

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(取材協力: 一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事 後藤 宗明
(編集: 創業手帳編集部)



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