Every WiLL 須藤俊明|常識を超えた「荷物を届けないサービス」で、物流の課題解決を目指す

※このインタビュー内容は2026年06月に行われた取材時点のものです。

MBA取得中に起業を決意。会社員の頃より仕事の主導権と誇りを持てるようになった


日本が抱える大きな社会課題のひとつが物流です。配送ドライバーの人手不足や長時間労働などの問題に対し、政府もさまざまな対策に乗り出しています。

こうした中「荷物を届けない運送サービス」で注目されているのが、株式会社Every WiLLです。同社は国土交通省の補助対象事業者に採択され共同でサービスを開発してきた他、多くのアクセラレーションプログラムやビジネスコンテストでも実績を上げています。

同社の創業者である須藤俊明さんは、意外にも物流業界出身ではなく、大手銀行を経てMBA取得中の2024年に起業しました。今回は須藤さんに起業の経緯や事業を成長させるコツ、今後の展望などを伺いました。

須藤 俊明(すどう としあき)
株式会社Every WiLL 代表取締役
大学卒業後は大手銀行へ入行、経営企画・DX推進・リテール事業統括部などを経験。その後早稲田大学大学院へ入学し、MBAを取得。大学院在学中の2024年10月に、同級生とともに株式会社Every WiLLを創業、荷物を届けない運送サービス「トリイク」事業を手掛ける。2025年には国土交通省「多様な受取方法等の普及促進実証事業」の補助対象事業者に、国内スタートアップ企業で唯一かつ初めて採択される。その他アクセラレーションプログラムでの採択やビジネスプランコンテストの受賞も多数。

「利便さの裏側で苦しむ人を救いたい」という思いで起業を決意

―御社が手掛けるサービス「トリイク」について、教えていただけますか?

須藤「トリイク」は、弊社の運営する無人受け取りスポットにドライバーさんが荷物をまとめて置き配するという仕組みです。受け取りスポットは商業施設や集合住宅の未利用スペースを活用して設置します。荷物を受け取る消費者はスポットまで赴く手間はありますが、その代わり電子ポイントがもらえるという特典を設けました。

日本では物流が大きな社会課題となっています。そもそも小さな荷物でも自宅に決まった時間帯に届けてもらえるというのは、世界的に見ても過剰なサービスと言えるのではないでしょうか。

我々のサービスは、まさに物流の社会課題の解決につながるものだと考えています。ドライバーは受け取りスポットへまとめて荷物を届けるため、個人宅へ荷物を届けるより運送コストを大幅に下げることが可能です。再配達を減らせるなどのメリットもあります。

弊社は2024年の10月に創業し、2025年には国土交通省と一緒になってこのサービスの実証事業に取り組んできました。その結果を踏まえ、これから本格的に全国へ展開していこうという段階です。

―物流の課題解決を目指そうと思われたのは、どのようなきっかけだったのでしょうか。

須藤:物流業界にいたわけではないんです。私は早稲田大学の大学院でMBAを取得しまして、その学びの中で「世の中の利便さの裏側で苦しむ人を救いたい」という思いが出てきました。その思いに共感してくれた大学院の同級生と、在学中にこの会社を立ち上げました。

今はデジタルで便利になる一方、現場で働く方々は大変になっていることが多いですよね。特にコロナ禍以降はECサイトの利用が増え、気軽にワンクリックで自宅にものが届くことが当たり前になっています。消費者としては便利ですが、その裏側では運送ドライバーの負荷はどんどん重くなっている。

ITで業務効率化を図る発想もありますが、すでにやっているんですよね。最近はスマホアプリが秒単位でドライバーの動きを管理していますが、逆にツールが増えて現場が大変になっている現状があります。

配達業務の効率化ではなく「届け先を減らす」、これが課題解決につながるのではというのが我々の発想です。荷物を受け取る側にはポイントという形で還元すれば、行動変容が起こせるのではないかと考えました。

―須藤さんの起業までのキャリアを教えていただけますか?

須藤私は大学で物理学を学び、新卒で大手銀行に入りました。銀行には約10年おりまして、最初は神奈川県内の支店に配属され、その後は当局や業界団体を担当し規制対応を進める部署に異動し、続いて、グループ全体のリテール戦略やDX戦略を企画したり、関係会社を統括する経営企画・事業計画立案に担う部署で多種多様な業務に携わってきました。

その頃の私は、銀行の社内人事的にはやや扱い辛いポジションにいました。在籍年数的にそろそろ異動させなければならなず、このまま本部ど真ん中の企画業務を担わせ続けるわけにもいかない。一方で、まだ30代になったばかりで責任者になるにはちょっと早い。そこで人事との会話の中で、社費でMBAを取得することを勧められ、早稲田大学の大学院へ入りました。

これが私にとって大きな転機になりました。銀行の外の世界を知り、さまざまな方と関わる中で社会課題の解決に関わりたいと考えるようになったんです。最終的に起業を決意しまして、銀行を退職して今はこの事業に集中して取り組んでいます。

国土交通省との実証実験で得たものは、数字だけではない

―最近はコンビニなどに宅配ロッカーも置かれていますが、「トリイク」はどんな違いがありますか?

須藤:確かに街中で宅配ロッカーを見かけることも増えましたね。ただこういう宅配ロッカーは、配達業者やEC業者によって使えたり使えなかったりする。しかも宅配ロッカーを指定すると、荷物が届く日が遅くなることも。消費者からするとわかりづらいですし、使うメリットが少ないですよね。

一方で我々のサービス「トリイク」は、どんなECサイトで購入した商品でも、どの宅配事業者が運んだ荷物でも何でも受け取れる点が大きな特徴です。また宅配ロッカーでは1拠点に18個ぐらいしか同時に荷物を置けませんが、「トリイク」はもっと広いスペースなので、荷物を置ける数が数十倍程度でかなり多いというメリットがあります。

ただ「トリイク」を実現しようと思ったとき、ネックとなったのが法律です。どうしても法律上のグレーな部分がいくつかありました。そこで我々は経済産業省の「グレーゾーン解消制度」というものを使い、適法性を整理していったんです。その後国土交通省との実証事業に取り組みました。

―実証事業について教えていただけますか?

須藤:東京、大阪、北九州の3か所にそれぞれ受け取りスポットを設け、2025年から2026年にかけて期間限定でサービスを行いました。3か所にしたのは、それぞれ異なる特性を持つエリアで検証するためです。東京九段下ではオフィスビルの未利用スペースを使い、主にオフィス街で実験しました。大阪は梅田駅改札前の商業施設の一角にある未利用スペースを使い、駅利用者の動向を調査。北九州の小倉では集合住宅が近隣に多く、かつ国道がすぐ横を走るエリアを選び、あるマンションの1Fにある未利用スペースを使い、住宅地での検証を行いました。

―実証実験では再配達が0件になるなど、大きな成果があったようですね。

須藤:我々としては、再配達0件というのは、あくまで付随する効果と考えています。我々の受け取りスポットに置けば理論的に再配達はなくなりますから。やはり荷物を集約配送できたということが大きかったと思っています。

また国土交通省と一緒に事例を作れたことも重要だと感じています。会社の信用力に繋がりますから。我々のサービスを普及させるには、まず受け取りスポットをいかに増やせるかがポイントです。そうなると場所をたくさん持つ大企業とのアライアンスが必要ですので。そういう意味で、国土交通省と一緒に取り組んだという実績は強みになります。

KPIについては、ドライバーさんの業務時間の短縮ですとか、盗難等の事故発生を0に抑えることができたとか、そういう結果もあります。1つ驚きだったのが、スポットを設置した商業施設での「ついで買い」が生まれたことですね。これは新たな発見でした。

経営者として大きな壁になった「現状維持バイアス」。これを乗り越えた方法とは

―御社は数々のアクセラレーションプログラムやビジネスプランコンテストに参加されています。こちらも実績を増やす狙いでしょうか?

須藤:当初はそういう思いもありましたが、実際はプログラムに参加したからといって、すぐに手を組みましょうとはいかないですね。大企業の場合、担当者の方とのやり取りでは評価いただけるのですが、意思決定に至るまでいくつものレイヤーがありますので。

ただプログラムやコンテストを通じて、他の経営者と知り合うことができました。人脈が広がりましたし、他の経営者からいろいろと学ぶことができました。

―創業して約1年半ぐらい経ちますが、経営者として特に大変だったことを伺えますか?

須藤:1番大変だなと思ったのは、現状維持バイアスです。新しい挑戦をしようと思うと、どうしても現状維持バイアスがかかり不安になります。先延ばしにしたいとか、誰かに決めてもらいたいとか、スモールビジネスのままでいいんじゃないかとか。自分の殻を破ることは、すごく大変だなと感じました。

また失敗した時には当然経営者として、責任を取らないといけません。それまでの会社員としてのストレスとは全く異なるストレスがあると実感しました。

―どのように乗り越えていったのでしょうか?

須藤:やはり周囲の起業家の方や経営者の方との交流が大きかったですね。

経営者は自分のコンディションを整えた上で、頭をクリアにして意思決定していく必要があります。例えば頭が冴えていない中で指示を出してしまうと、会社に混乱を招きかねません。それに経営者自身が体調を崩すと、会社全体が止まってしまうこともあります。

健康で規則正しい生活をしながら、頭もクリアな状態で生き生きしていないとダメだと実感しています。周囲の経営者の方と接する中で、自分の生活の主導権を取り戻すためのコツやテクニックを学びました。

起業時の経済的不安は解消できる。だから起業にチャレンジして欲しい

―今後の展望について伺えますか?

須藤:まずは受け取りスポットを増やすことに注力していきます。例えばチェーンストアに導入されれば、その実績をもとに他へ展開できますから。すでに何社か大きな事業者さんとお話をさせていただいています。

また自治体との連携にも取り組んでいるところです。公民館など自治体の持つ施設には、まだまだ活用できていない空きスペースがたくさんあります。自治体にとっても物流は住民の安心・安全な生活を守るためのインフラです。我々のサービスは置き配の盗難件数を減らすなどの防犯効果もありますから、連携できると考えています。

受け取りスポットの多様化も考えていて、より狭いスペースでも展開できるような小型宅配ボックスタイプの受け取りスポットも検討しています。

あとはアプリの開発も進めていきたいですね。最近レシートの写真を撮るとポイントがもらえるというアプリがありますが、それに近いイメージです。自宅に届いた荷物の伝票を写真に撮ってアプリに載せると、ポイントがもらえるようなことを想定しています。当社独自技術による伝票写真の解析等によって、物流の負荷軽減にどれだけ貢献できたかが可視化できる仕組みです。物流への貢献度合いに応じてポイントを上げて、消費者の行動変容を起こしていければと思っています。

資金についてはエクイティファイナンスの他、国や自治体からを含め、約1億円の資金調達が見込めています。この資金を2年くらいかけてしっかり使い、勝ち筋を定めていきたいですね。

―スタートアップでは資金調達に悩むケースもあります。やはり社会課題の解決につながる点が評価され、資金調達がスムーズに進んでいる のでしょうか?

須藤:そういう面もあると思いますが、どちらかというと我々はロビー活動や政策提言、省庁との連携に力を入れています。簡単に言うとルールメイキングです。ルールメイキングというのは、法律を変えるだけではなく、商慣習などを変えるという意味もあります。

例えば2026年3月31日に「総合物流施策大綱」という、国の物流における中期経営計画のようなものが策定されました。この中で、国として地域の受け取り拠点を整備することが明記されました。また自宅の対面以外で荷物を受け取る率を、2030年度までに50%へ引き上げるという目標も掲げられています。

これはもちろん弊社の提言だけではありませんが、我々も関わりました。その結果国の方針として出たことは、やはり大きな意味があります。我々のサービスの利用者が今後も伸びるという期待感が大きくなりますので、資金も調達しやすくなるわけです。

―そういった活動では、前職の銀行でのご経験が生きているのではないでしょうか?

須藤:おっしゃる通りです。前職の銀行員時代では、社内でも社外でもさまざまな人と交渉してきましたし、大企業という組織での立ち回り方が身に付きました。正直なところ、スタートアップの経営者になって銀行での経験が活きるとは全く思っていませんでした。

―最後に社会起業家を目指す方へ向けて、メッセージをお願いします。

須藤:シンプルですが、まず起業した方がいいということをお伝えしたいですね。私もそうでしたが、大企業で安定した収入があると、コンフォートゾーンから出るのはすごく勇気がいります。私の場合、実は起業とほぼ同じ時期に第1子が生まれました。普通に考えると大企業を辞めるタイミングではないですよね。

ただ、収入面での不安はある程度解消できます。今の時代、起業しながら副業として会社員より高い単価で仕事をすることもできるからです。そういう仕事を探せるサービスも増えていますので。私自身、起業当初は銀行にいた頃と同じ仕事内容でも単価がずっと高い案件をやっていたこともあります。

ですから収入面での不安を感じすぎないで欲しいですね。生活は何とかなりますし、むしろ主体的に仕事を選べるようになるので、生き生きします。

会社員の頃は毎日仕事で疲れ切って、土日も寝ていることが多かったんです。でも起業した今、勤務時間自体はそれほど変わりませんが、そういう疲れはありません。自分のやりたいことをやっているからです。そのおかげで土日も元気に息子と遊べています。

あとは息子が大きくなって「パパの仕事は何?」と聞かれた時、自信を持って今の仕事を話せる。これは会社員と大きく違うなと思っています。自分の人生に主導権と誇りを持てるというのは、すごく人生を彩り豊かにすると実感しています。

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