法人化したら小規模企業共済はどうなる?継続・解約・手続きの違いを解説

個人事業主が知っておくべき継続・解約・税務の選択肢


中小機構の小規模企業共済は、退職金準備や資産形成に使われる制度です。
個人事業主として働くと会社のような退職金制度はないため、将来を見据えて加入している人も多くいます。
しかし、ずっと個人事業主の立場で居続けるとは限りません。

個人事業主から法人化した場合に小規模企業共済はどうなるのでしょうか。法人化したときの選択肢について把握しておきましょう。

この記事の目次

法人化すると小規模企業共済はどうなる?


個人事業主が法人化した後の小規模企業共済の扱いは、法人での立場や加入資格の有無によって異なります。
まずはどういった選択肢があるのか、制度全体を把握しておきましょう。

法人化=自動的に解約ではない

法人化すると、事業を行う主体は個人から法人へ変わります。もともと個人事業主としての立場も法人の代表者や従業員になります。
しかし、法人化していきなり小規模企業共済がすぐに使えなくなるわけではありません。法人化後の立場によって、小規模企業共済の対応が変わります。

小規模企業共済の加入対象は「個人事業主」「共同経営者」「会社等の役員」の3区分で会社等役員も対象に含まれています。
よって、代表取締役・取締役など会社等役員として加入資格を満たす場合は、「同一人通算」の手続きにより共済契約を継続できます
法人化するときには、その後の自分の立場についても考えておきましょう。

法人化後の選択肢は主に3つ

法人化後の選択肢は、主に次の3つに分けられます。①同一人通算で継続する、②解約または共済金等を請求する、③加入資格を満たせず継続できない、の3つです。

③の場合には、加入資格を満たさないため継続できず、準共済金等を受け取ることになります。
ただし、掛金の納付月数が12か月未満だと掛金は掛け捨てとなり、準共済金は受け取れません。

小規模企業共済は加入資格がなければ、継続ができません。
まず設立した法人で会社等役員としての加入資格を満たすかどうかを確認することが、最初に行うべき判断ステップです。

法人化後も小規模企業共済を継続できるケース


法人化後も小規模企業共済を継続するためには、設立した法人において会社等役員としての加入資格を満たすことが前提条件です。
どういった場合に小規模企業共済を継続できるのかまとめました。

設立した法人の役員になる場合

個人事業を廃止して法人を設立し、その法人の役員に就任した場合、一定の条件を満たせば同一人通算により共済契約を継続可能です。
つまり、法人化してから会社等役員として加入資格を満たすケースです。
この場合は、個人事業主として積み立てた掛金納付月数を通算して契約を継続できる同一人通算制度の対象になります。

個人事業主の共同経営者として小規模企業共済に加入していた場合も、 役員として正式に登記されれば継続できます。

小規模企業共済の加入資格を満たすためには、新設法人での役員としての登記や従業員数が所定人数以下であることが求められます。
同一人通算の申出ができるのは、法人成りしてから1年以内です。忘れることなく手続きしてください。

会社等役員としての加入資格

会社等役員として加入できる対象は、以下です。

  • 株式会社や有限会社の取締役・監査役
  • 合名会社・合資会社の業務執行社員
  • 合同会社の業務執行社員(登記済み)
  • 士業法人の業務執行社員など

加入にするためには、役員として登記され事業に従事していることが必要となり履歴事項全部証明書への記載が確認されます。

業種別の従業員数要件としては、建設業・製造業・運輸業などは常時使用する従業員数20人以下、商業・サービス業などは5人以下でなければいけません。
法人化をきっかけに事業規模を拡大する場合には、従業員数要件を外れることがないかチェックしておきましょう。

小規模企業共済の「同一人通算」とは?


小規模企業共済における同一人通算とは、事業上の立場が変わっても過去の掛金納付月数を引き継いで共済契約を継続できる制度です。
法人化のときに重要な手続きとなるので忘れないようにしてください。

掛金納付月数を引き継ぐ手続き

同一人通算とは、共済金等の請求事由が生じてから1年以内に新たな加入資格を得た場合に、共済金等を請求せず掛金納付月数を通算して契約を継続する仕組みをいいます。

小規模企業共済は、掛金納付月数によって、受取金額や元本割れリスクが大きく影響されます。
同一人通算を使用すれば個人事業主として積み立てた期間を、法人役員としての新契約に通算できるため、これまでの積み立て実績を無駄にすることはありません。

通算して引き継ぐことで、将来の共済金受取額の算定基礎となる掛金納付月数が継続されるため、長期的な退職金準備を途切れなく続けることができます。

手続き期限は「事由発生から1年以内」

法人化した場合には、同一人通算の申出を行います。手続きの期限は「事由発生から1年以内」と定められており、この期限を過ぎると通算手続きができません
法人設立の手続きで多忙であったとしても、同一人通算の手続きを放置すれば継続の機会を失ってしまいます。
法人設立の手続きと並行して早期に確認・申出を行うようにおすすめします。

小規模企業共済が継続できないケース・注意すべきケース


小規模企業共済は、法人化の条件によっては継続できなくなってしまいます。
加入資格を満たさない場合や手続きに不備がある場合には、通算が認められないだけでなく、修正申告が必要になるケースもあるので十分に確認してください。

法人役員として加入資格を満たさない場合

小規模企業共済に加入できるのは一定規模以下の個人事業主や役員です。
実質的に役員とみなされる立場であっても、履歴事項全部証明書に役員登記されていない場合は、会社等役員として加入することができません

加えて使用人兼務役員(常勤役職員)や中退共等の被共済者、外国法人の役員などは加入が認められていません。
NPO法人・医療法人・社会福祉法人など直接営利を目的としない法人の役員も対象外となるため、設立する法人の種類を事前に確認してください。

加入資格がなかった場合は取り消し・修正申告の可能性も

同一人通算をした後に加入資格がなかったことが判明した場合には、通算手続きを取り消され掛金も返還されます。小規模企業共済は、掛金に対して所得控除を受けられます。
返還された掛金についてすでに所得控除を受けていた場合は、修正申告が必要になる可能性があるので注意してください。
取り消しのタイミングによっては申告済みの税務処理にも影響が及んでしまいます。

同一人通算を申し出る前に、税理士または中小機構に加入資格の該当可否を確認しておくことが、取り消しリスクを防ぐうえで最も効果的な対策です。

解約・共済金等を受け取る選択肢もある


小規模企業共済を続けるかどうかは、資産形成の戦略も考えながら決定しなければいけません。継続せずに法人化のタイミングで共済金等を受け取ることもひとつの選択肢です。
ライフプランや資金計画に応じて継続するかどうかを比較検討しましょう。解約・共済金を受け取る場合について以下で紹介します。

法人化をきっかけに受け取ることも可能

個人事業を廃止して法人化した結果として加入資格がなくなった場合は、「準共済金」の請求事由に該当します。
準共済金は、任意解約時の解約手当金より有利であるものの共済金Aより受取額が少ない区分であり、掛金納付月数に応じた額が支払われます。

共済金を受け取ることでプライベートや事業に活用する選択肢も検討してください。資金繰りやライフプランによっては法人化時に一時金を受け取ることも合理的な判断となります。
小規模企業共済を継続して積み立てるのか、受け取るのかどちらが有利かを事前に試算してください。

受け取った一時金の所得区分

共済金等の税法上の取扱いは受け取り方法・事由・年齢によって異なります。
準共済金を一括で受け取る場合は退職所得扱いです。個人事業主の法人化で加入資格はなくならなかったが解約したというケースでも、税法上の扱いは退職所得です。

具体的な課税関係は、掛金納付月数など個々の事実関係によって異なります。受け取りを検討する際は必ず税理士に確認したうえで判断するようにおすすめします。

小規模企業共済を継続するメリット・デメリット


法人化したときの小規模企業共済は、同一人通算で継続する場合のメリットとデメリットを理解したうえで判断が必要です。
法人化してからの掛金設定なども見直すようにおすすめします。継続するメリット・デメリットをまとめました。

継続するメリット

同一人通算で小規模企業共済を継続すれば、個人事業主時代の掛金納付月数が引き継がれ、将来受け取れる共済金の算定基礎を損なわずに積み立てを続けられます。
法人の役員として加入を継続できるので、掛金が引き続き小規模企業共済等掛金控除の対象として所得控除による税制メリットを享受可能です。

小規模企業共済に加入しておけば、共済契約者は比較的低金利の貸付制度が利用できます。
掛金から算定した貸付限度額の範囲内で無担保・無保証人で利用できるので、緊急時の資金調達手段として役に立ちます。

継続するデメリット・注意点

小規模企業共済の掛金は、個人の支出であり法人の経費には計上できません。あくまで個人の所得税に対して効果を発揮します。

また、小規模企業共済は元本割れするリスクがあります。掛金納付月数が240か月(20年)未満で任意解約した場合には、解約手当金は掛金合計額を下回ります。
継続後に短期間で解約するとかえって不利になる可能性があるので、支払いを続けられるかどうかも考えなければいけません。

法人化直後は役員報酬の設定・社会保険料の負担増など資金繰りが変化するタイミングです。
毎月の掛金負担が経営を圧迫しないよう掛金額の見直しを検討するようにしましょう。

法人化時に必要な小規模企業共済手続きの流れ


法人化時の手続きは順序と期限を遵守してください。加入資格の確認・通算申出・掛金見直しの3ステップで進めることが基本となるので、流れを確認しておきましょう。

まず法人化後の加入資格を確認する

小規模企業共済の手続きは、設立する法人において役員として登記される予定があるか、また履歴事項全部証明書に役員として記載されるかを法人設立前に確認することが出発点です。

建設業等で20人以下、商業・サービス業等なら5人以下といった形で業種に応じた常時使用する従業員数の要件があるので、設立予定の法人が満たすかどうかを事前に把握しておかなければいけません。
手続きの前提として、法人化してから加入資格があるかどうかを確認しましょう。

同一人通算の申出を行う

同一人通算の手続きを進めるには、退任後等の履歴事項全部証明書(商業・法人登記簿謄本)や新たな法人の履歴事項全部証明書など複数の書類が必要です。

必要書類はいずれも交付後3か月以内の原本を用意しなければいけないので法人登記完了後に速やかに取得・提出の準備を進めます。
同一人通算の申出は小規模企業共済の業務を委託している金融機関や委託団体の窓口、またはオンライン手続きで行うことができます。期限は事由発生から1年以内なので厳守してください。

掛金額も見直す

法人化後は役員報酬の額・社会保険料の負担・法人税等の税負担が変わります。従来の掛金額が資金繰りに与える影響を改めて試算するようにしましょう。

掛金は月額1,000円から70,000円の範囲で500円単位に変更でき、法人化直後の負担軽減のために一時的に減額するという選択も可能です。
長期的な資産形成のための制度なので無理のない掛金額を設定して契約を継続することが、将来の退職金準備と目先の資金繰りを両立させるうえで最も実践的なアプローチです。

法人化時によくある小規模企業共済の質問


法人化したときの小規模企業共済の扱いについては、多くの人が疑問を持っています。代表的なものをまとめました。

法人化したら小規模企業共済は解約ですか?

法人化したからといって必ず解約になるわけではありません。設立した法人の役員として加入資格を満たせば同一人通算の手続きにより継続が可能です。
継続するためには事由発生から1年以内の通算申出が必要であるため、解約前提で動く前にまず加入資格の有無を確認するようにしてください。

個人事業主時代の掛金納付月数は消えますか?

同一人通算の手続きを行えば個人事業主時代の掛金納付月数は消えず、法人役員としての契約に通算されて将来の共済金算定に反映されます。
通算が認められるのは、共済金等を請求せずに事由発生から1年以内に新たな加入資格を得て申出を行った場合に限られるため期限を厳守してください。

法人化後に役員報酬を受け取っていても加入できますか?

株式会社の取締役など会社等役員として役員登記されており加入資格の要件を満たしていれば、役員報酬を受け取っていても小規模企業共済に加入できます。
ただし、使用人としての性格が強い立場など、加入対象外となるケースもあるため注意が必要です。
加入資格を満たすかどうか不明な場合は中小機構の窓口に事前に確認してください。

解約した場合の税金はどうなりますか?

共済金等の税法上の取扱いは受け取り方法・事由・年齢によって異なります。共済金A・Bおよび準共済金を一括で受け取る場合は退職所得扱いです。

65歳未満で任意解約した場合の解約手当金は一時所得扱い、65歳以上で任意解約した場合は退職所得扱いになります。
法人成りに伴う解約・請求の場合も事由の種類によって課税区分が変わるため、具体的な税務処理については税理士に相談したうえで判断するようにしてください。

まとめ:法人化前に小規模企業共済を「継続するか・受け取るか」を決めておこう

個人事業主が法人化しても小規模企業共済は継続できる可能性があります。設立した法人で会社等役員として加入資格を満たすかどうかが継続の可否を決めるポイントです。
継続を選ぶ場合は、事由発生から1年以内に同一人通算の申出を行うことが必須であり、期限を過ぎると掛金納付月数の引き継ぎができなくなってしまいます。
解約・受け取りを選ぶ場合は共済金の種類や受け取り方によって課税区分が異なるため、法人化手続きと並行して税理士や中小機構に確認するようにおすすめします。

(編集:創業手帳編集部)