バトンズ 神瀬 悠一|ゼロから始めるだけが起業じゃない。M&Aが広げる起業のかたち
「継ぐ」「買う」が当たり前になれば、起業はもっと自由になる

起業といえばゼロから事業を立ち上げるもの——そんな常識が変わりつつあります。
後継者不在の会社を引き継いだり、既存事業を買収したりする「M&Aから始める起業」が、経営者になる新たな道として注目されているのです。日本最大級のM&A・事業承継支援プラットフォーム「BATONZ」を展開する株式会社バトンズは、2026年4月21日にグロース市場へ上場し、M&Aを大企業の成長戦略から個人の起業まで幅広く、身近な選択肢となることを目指しています。
今回は同社の代表取締役CEOである神瀬さんに、起業家のM&Aプラットフォームの活用方法やM&Aのメリットなどについて伺いました。
株式会社バトンズ 代表取締役 CEO
大学卒業後、2000年にITエンジニアとして日本ユニシス(現BIPROGY)に入社。コンサルティングファームでコンサルタント職を経験後、リクルートに入社。リクルートマーケティングパートナーズなどグループの事業会社3社で役員を歴任したのち、2019年4月にバトンズに参画。取締役CMOとしてマーケティングやプロダクト企画開発の部門を管掌し、創業期よりバトンズの成長を牽引。2022年3月に代表取締役に就任。
この記事の目次
プラットフォームとSaaSでM&Aを支援
神瀬:ファーストキャリアはシステム開発のエンジニアでした。5年ほどエンジニアを経験し、システムを作ることにやりがいを感じつつも、その背景にある経営課題や意思決定に興味が湧き、NTTデータの子会社に転職しました。
コンサルタントとして、課題分析や経営課題に対しての戦略作りなどに6年ほど従事したのですが、今度は事業を行いたいという思いが強くなり、リクルートに転職し、様々なマッチングビジネスを担当しました。
バトンズはM&A仲介の社内ベンチャーとして立ち上がったのですが、事業を会社として分社化するタイミングで、マーケティングやプロダクト、マッチングビジネスに強い経営メンバーを探されているときにお声がけいただきました。その際、「事業承継に悩まれている方に廃業以外の選択肢を届ける」という創業の想いに共感し、最初は取締役として参画したんです。その後2022年に代表に就任し、今に至ります。
神瀬:「誰でも、何処でも、簡単に、自由に、M&Aが出来る社会を実現する」というビジョンのもと、M&AプラットフォームとSaaSの2軸でM&A支援をしています。プラットフォームというのは、買い手や売り手ご本人に登録していただき、マッチングをする出会いの場です。ただ相手を見つけるだけではなく、デューデリジェンスやコンサルタントによるサポートに関するサービスなども提供しています。
買収から始める経営、売却前提の起業。M&Aと起業の様々な関係性とは

神瀬:メリットとしてまず挙げられるのは時間の短縮ですね。サービスや商品ができあがっていて、従業員や顧客がいるという状態でスタートできることは強みだと思います。起業は8割が失敗すると言われていることもあり、M&Aで経営者になる方が成功率が高い可能性はあるはずです。
ただM&Aに伴うリスクチェックをしっかり行い、前オーナーとの関係性の構築、従業員や顧客を丁寧に引き継ぐなど、押さえるべきところをしっかり押さえる必要はあります。
デメリットとしては、避けたいことですが場合によっては簿外負債を引き継いでしまう可能性もあることです。例えば「ある組織や個人の保証人になっていた」という事実を知らずにその企業を買収してしまい、ある日突然高額の請求書が来たというケースもあります。そのようなリスクを防ぐため、会社譲渡ではなくて事業の譲渡を選ぶという対策もありますが、やはりM&Aにあたっては、専門家の意見を聞いてきちんとしたプロセスを踏み、デューデリジェンスをしっかりとすることが欠かせません。そういったプロセスにかかる費用を惜しまず、きちんと行うことをお勧めしたいですね。
神瀬:最近非常に増えていると思いますね。自分で起業して売却する方もいますし、M&Aで買収した事業を成長させて、買収した時よりも企業価値を上げて売却する方もいらっしゃいます。「ゼロイチで起業して、一生70歳までこの会社を経営するぞ」という思いの起業よりも、いつかは誰かに売却しようという前提での起業の方が、アメリカではむしろスタンダードだと思います。
例えばゼロイチで立ち上げるのが得意な人もいれば、立ち上げたあとに1を10に拡大するのが得意な人、10を100にするのが得意な人もいますよね。全工程が得意な経営者がいればそれがベストですが、人それぞれに気持ちや熱量が入りやすいフェーズがあると思うんです。事業を立ち上げるのは好きだけど、伸ばすのはもっと上手な人にまかせたいという人がいるとしたら、選択肢が増えるという意味で、事業の売却や買収が自由にできる環境は、起業にチャレンジしやすい環境といえるのではないでしょうか。だからこそアメリカって起業家が多いのかなと思いますし、今の時代、売却前提で起業というのは経営者のひとつの選択肢として当たり前になりつつあると思います。むしろ、立ち上げるのが得意な方がシリアルアントレプレナーで何個も企業を作った方が日本のためになるのではと思いますね。
神瀬:帝国データバンクの調査によると、2025年における日本企業の後継者不在率は50.1%でした。
国としても少子高齢化が進む中、事業承継を課題と捉え、M&Aや親族内承継にかかる専門家への費用、引き継ぎ後の設備投資や廃業費用などを幅広くサポートしてくれる「事業承継・M&A補助金」を設定するなど、様々な環境作りに取り組んでいます。一時は60%を超えていた後継者不在率は、国の取り組みが功を奏して、少しずつ下がってきている状態です。ただ、国内企業の99%以上が中小企業と言われており、その多くの企業の後継者が決まっていないという実情があります。
M&Aは後継者問題に対して有効な手段ではあるので、我々の業界が事業承継に悩まれている方により貢献できればと思いますし、若い経営者のM&Aや資本提携などが盛んになってきているのも歓迎すべき流れですね。売却といっても、若い経営者だと大手の傘下に入ってまだ事業を続けるケースもあります。大手の力を借りながら、自分が作った事業サービスをもっと成長させるためというポジティブで資本提携的な売却も一種のM&Aです。
M&Aの前後まで支援する。バトンズが目指す次のステージ

神瀬:まずは我々のM&Aプラットフォームをもっと知っていただきたいですね。2026年4月に上場したのも、より多くの方に選択肢として知っていただきたいというのが理由のひとつでした。日本では、毎年60,000~70,000社が廃業していて、そのうち約半数の企業が黒字でも廃業を選択している実情があります。廃業する前に誰かに渡すことができれば、事業が未来に残っていくので、そういった選択肢を知っていただきたいですね。また、地域の金融機関や士業の先生との連携をより深め、AIなどのテクノロジーを活用してサービスの品質や生産性を改善していき、現在の成約数を上げることが目標です。
次に、他社と業務提携してM&Aの前後にハイクラス人材を採用できるサービスを共同開発しています。M&A支援をしている中で「M&A後に会社を引っ張ってくれるような人材が欲しい」という声があったため、お客様の課題を解決する手段としてスタートしました。
また、中小企業の方にとって独自開発のハードルが高い、経理や総務、人事のようなコーポレートシステムの作成を支援できるサービスなど、M&Aをして成長していきたいと思っている企業の課題に手を差し伸べられるようなソリューションメニューの展開を始めています。個人向けのM&Aパーソナルコーチングも始めました。経営やM&Aのノウハウを学んだり、企業を買収した後のPMI(M&Aにおける統合プロセス)を学びながら実行したりできる、起業家の様々なキャリアパスを応援するサービスになっています。
最後に、海外展開も将来的には視野に入れていきたいと思っています。日本の経営者の平均年齢は上昇し続けていますが、いずれ事業承継に関して日本と同じような構造になる国も特にアジア諸国で出てくるのではないかと思います。まだ先にはなると思いますが、グローバルの架け橋になれるようなプラットフォーム作りも進めていけたらと考えています。
経営者は熱量を持って粘り強く挑戦することが重要
神瀬:事業の売却や買収という意味で検討していただくことがメインだとは思いますが、例えば飲食で起業されて自分で一店舗目は立ち上げたけれども、複数展開していく時に飲食店を何店舗も買うお客様がいるように、成長戦略のひとつとしてとらえている方も最近は多くいらっしゃいます。また先ほども触れたようにM&Aについて学べるプログラムも用意していますので、経営に関する引き出しを増やす意味でもM&Aについてぜひ深く知っていただきたいですね。
最後に、本当に売却するかしないかはともかくとして、現在の会社がどれぐらいの価値があり、どんな方が興味を示してくれるのかということを知っておくことも経営をしていく上では大切だと考えます。プラットフォームというと、ネット上に情報が載っているだけでドライなものだと思われがちですが、コンサルタントが企業価値の評価に関してご相談に乗ったり、お客様の課題や悩みを解決できるように伴走していますので、お気軽にご相談していただければと思います。
神瀬:弊社自身、まだスタートアップのフェーズの中だと思っています。弊社がスタートした2018年頃は、「会社の売買という重要な意思決定にあたってインターネットを使うなんて考えられない」「こんなおもちゃみたいなものを作ってうまくいくわけがない」という厳しい声をお客様や専門家からいただくこともありました。最初から順風満帆ではなかったですし、実際に事業の勝ち筋を見つけるまでは試行錯誤の連続でした。
よくスタートアップの5年生存率が15%と言われます。つまり85%の起業家が5年以内に廃業しているということです。私も皆さんと同じスタートアップ立ち上げの経験者として、重要なのは自分が実現したいビジョンへの熱量を失わないことだと思います。自分の中で、起業や創業における失敗とは諦めることだと思っていて、自分のビジョンを軸に置きながら、提供するサービスをお客様に受け入れられるように調整しながら諦めずにしつこく続けていれば、風向きが自分の方に向いてくることもあると思うんですよね。
もちろん、起業も経営も簡単なことではないですけれども、5年10年と成長を続けている事業の経営者の共通点は粘り強いことではないかと感じています。起業家は、これからの日本に重要な事業を立ち上げる貴重な存在なので、ぜひ多くの方に起業に挑戦してほしいですし、私たちがその一助になれたら光栄ですね。
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