起業後黒字化するまでの期間はどれくらい?素早く黒字化させるための方法を解説!

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起業1年目は赤字に陥りやすい


起業後1年間は事業運営のためにお金が必要になるにもかかわらず、資金不足になりやすいことから赤字経営に陥りやすいとされています。
中には資金繰りに失敗して、そのまま廃業してしまうケースも少なくありません。

今回は、起業後に黒字化にかかる平均期間や、素早く黒字化させるための方法を解説するため、ぜひ参考にしてください。

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起業後、黒字化までの平均期間とは?データで見る実態


東京商工会議所の「創業の実態に関する調査報告書」から、業歴別の収益状況(経常利益)が公表されています。

業歴 黒字 収支トントン 赤字
1年目 19.6% 16.1% 64.3%
2年目 33.3% 33.3% 33.3%
3年目 46.0% 24.0% 30.0%
4年目 49.2% 26.6% 24.2%
5年目 44.7% 35.5% 19.9%

1年目は黒字が19.6%、赤字が64.3%と、収益状況が赤字になっている企業が6割以上を占めていることがわかります。
しかし、2年目は33.3%、5年目では19.9%となっており、業歴を重ねるごとに赤字の企業が減っています。
業歴3年目からは半数近い企業が黒字化に成功していることから、約3年で黒字化する企業が多いといえるでしょう。

また、経済産業省の「2023年版 中小企業白書」では、経営者が同業で就業経験があるかないかによって黒字化達成までの期間に違いがみられるかどうか、データが公開されています。

就業経験の有無 早い やや早い やや遅い 遅い
就業経験がある 20.4% 26.0% 26.5% 27.1%
就業経験がない 19.3% 19.8% 27.2% 33.7%

経営者が同業での就業経験がある企業は、ない企業と比べて黒字化達成までの期間が「早い」「やや早い」と回答した人の割合が多いです。
逆に、就業経験がない企業は黒字化達成まで「遅い」と回答した人が3割以上います。
このことから、経営者に同業での就業経験があったほうが、起業後黒字化までの期間が短縮されやすいことがわかります。

起業後すぐは赤字になりやすい要因


起業後すぐは多くの企業が赤字になりやすいですが、その要因として以下の4点が挙げられます。各要因について詳しく解説していきます。

売上高が伸びない

赤字は事業の支出(経費)が収入(売上高)を上回ってしまうことで起こります。
起業後すぐは経費がかかっているにもかかわらず、売上高が伸びにくいため赤字になりやすいです。

売上高が伸びない要因として、集客対策が十分でないことや成約率が低いこと、客単価が低いことなどが挙げられます。
また、いくら集客対策していても、需要のある市場でなければ売上高は伸びません。
しかし、需要の高い市場はすでに競合も多く、競合にシェアを奪われてしまう可能性もあります。

粗利率が低い

起業後すぐは粗利率が低く、その結果赤字に陥ってしまうケースもあります。粗利とは、起業が商品・サービスを販売したことで得られた収益の一部です。
主に売上高から売上原価を差し引いた金額であり、その粗利が売上高に対してどれくらいの割合を占めているかが粗利率になります。

粗利率には販売費や一般管理費、さらに広告費や人件費なども含まれていません。
つまり、粗利率が低いと売上原価以外のコストを差し引いた時に赤字になりやすいといえます。

粗利率が低くなる要因として、販売価格の設定が適切でないことや、仕入れ額が高すぎることなどが挙げられます。
また、廃棄品・不良品の多さなどから無駄にコストがかかっていると、粗利率は低くなり赤字経営になりやすいです。

経費が多すぎる

売上高が伸びなくても経費がかからなければ黒字経営になりますが、反対に売上高が伸びていても経費が上回っていれば赤字になってしまいます。
経費の種類は多岐にわたりますが、主に「固定費」と「変動費」に分けることが可能です。

  • 固定費:売上(生産量や販売量)に限らず、一定にかかる経費
  • 変動費:売上に比例して増減する経費

売上高は伸びているものの赤字状態に陥っている場合は、固定費に問題がある可能性が高いです。
固定費は一定でも長期的に支払う必要があるため、経費削減を目指す際には固定費から見直すことをおすすめします。

投資先行型の事業構造である

飲食業や製造業、IT開発型ビジネスなど、初期投資が大きく、売上の立ち上がりが遅い業態では、収益が出る前に支出が先行する「投資先行型」の構造になりがちです。
このような事業構造は、損益分岐点が高くなり、赤字の状態が長引く傾向があります。
店舗の取得費用、内装費、人件費、システム開発費などが重くのしかかり、事業が軌道に乗るまでに数カ月〜数年かかることもあります。

起業後はデスバレー(死の谷)にも注意!


起業から一定期間赤字が続いても、徐々に赤字幅が縮小して黒字化していく企業も多くあります。
黒字転換すればある程度は安心できるかもしれませんが、黒字転換するまでには様々なリスクをともなうため注意が必要です。
ここで、起業後のデスバレー(死の谷)について詳しく解説します。

デスバレー(死の谷)とは?

デスバレー(死の谷)とは、起業から黒字転換するまでの期間を指します。
例えば開業から6カ月が経過し、顧客が増え始めていて赤字幅も縮小していた企業があったとします。
もう6カ月後には黒字化に至りそうな勢いで成長していましたが、途中で資金が底をついてしまい結局廃業に追い込まれるケースも少なくありません。

また、デスバレーは資金不足だけでなく、商品を量産化するための設備やノウハウが不足している場合でも起こり得ます。
しかし、投資も行わずに事業を続けていても、黒字化には時間がかかってしまいます。

デスバレーを乗り越える方法

デスバレーを乗り越えるためには、事業を開始する前に財務戦略を構築し、黒字化するまで資金不足に陥らないようにすることが重要です。
資金が不足してから資金調達をする場合には金融機関の審査に落ちてしまう可能性があるため、資金調達は創業初期かデスバレーを抜けて黒字転換したあとに実行してください。
デスバレーを乗り越えるためには創業初期に資金調達を行っておくことが大切です。

また、デスバレーを乗り越えるために伴走支援してくれるパートナーや協業先と適切な関係性を構築することなども重要です。
外部のパートナーであれば、事業に対する客観的な評価に加え、販路の拡大や人的リソースの補填などもサポートしてもらえるため、外部の起業支援・創業支援も活用してみてください。

事業を黒字化させるための方法・手順


起業後すぐは赤字になりやすいものの、工夫次第でなるべく早く黒字化させることも可能です。ここからは、事業を黒字化させるための方法・手順を解説します。

1.自社の現状を把握する

まずは自社の現状を把握するところから始めます。赤字の原因は各企業によって異なるものです。
売上高が伸び悩んでいたり、売上高は伸びているものの経費がかかっていたりすることなどが原因として考えられます。
赤字の原因を追求するためにも、売上・経費・利益の状態がどうなっているのか確認することが大切です。

現状を把握・分析する際にはフレームワークの活用もおすすめです。

  • SWOT分析:強み・弱み・機会・脅威の4つから自社の内部環境・外部環境を分析
  • PEST分析:政治・経済・社会・技術の視点で外部環境の変化を分析

これらのフレームワークをうまく活用しつつ、自社の現状を把握してください。

2.黒字転換に向けた目標を設定する

自社の状況を把握したところで、黒字転換へ向けた目標を設定しておきます。
目標を明確に設定していないと、成果が出たとしても「本当にこれで良いのか」と迷ってしまい、モチベーションの低下にもつながってしまいます。

目標設定する際には、定量的な目標を立ててください。定量的な目標を立てるなら、「1年後までに利益を○○%向上させる」「経費を○%削減する」などが一例です。
もし黒字転換の目標を設定できたら定期的に見直してください。
目標に届かなかった場合は、「なぜ目標達成に至らなかったのか」「今後はどのように活動をしていけばいいか」考えることも大切です。

反対に黒字化した場合、ノウハウ不足を解消するためにも、何をどのようにしたら目標を達成できたかの見直しが重要となってきます。

3.売上高の向上や経費削減の対策を考える

黒字転換の目標を決めたら、売上高の向上や経費削減の対策について考えていきます。売上高の向上に向けた対策と経費削減に向けた対策をそれぞれ紹介します。

売上高向上に向けた対策

売上高は「商品の単価×集客数×成約率」によって計算できます。いずれかの数字が改善されれば売上高も上がりやすくなります。
ただし、商品単価を安易に高くしてしまうと顧客離れが進んでしまう可能性があるため、集客数か成約率の向上を目指してください。

集客数を増やすための対策として、企業・店舗のWebサイトやブログ、SNSの活用がおすすめです。
SNSは有益な情報を発信すると多くのユーザーに拡散されていき、より多くの人から認知してもらえるようになります。
また、新規顧客ばかりではなく、リピーターを獲得するために商品・サービスの質を向上させていくことも大切です。

成約率を向上させるためには、ターゲット層別に成約率を計算し、より成約率の高い顧客層に向けてアプローチをかけたり、購入後のサポートを充実させたりしてください。

経費削減に向けた対策

経費を削減するための対策として、まずは固定費の見直しをするところから始めます。
主な固定費として、人件費や通信費、水道光熱費、広告宣伝費、家賃などが挙げられます。
人件費を削減するためには、残業時間の削減や業務効率化を進めていき、残業代がかからないようにすることも大切です。

また、通信費や水道光熱費を削減する際には、インターネット回線の料金プランや電気プランなどを見直し、より最適なプランがないか探してみてください。

  • 広告宣伝費を抑えるために効果測定を行って費用対効果の高い広告だけを活用する
  • 家賃を抑えるために価格交渉をしたり安い地域への引越したりする
  • リモートワークを導入して事務所の規模を縮小する

上記を行うことでも経費削減につながります。

4.対策の実行および結果の分析・見直しを図る

売上高の向上や経費削減に向けてどのような対策を講じるかが決まったら、実行に移します。
ただし、単に実行するだけではどれくらい効果があったのかがわかりません。

一定期間対策を実行したらその結果を分析し、本当に効果があり黒字転換が可能かどうかを確認します。
そこであまり効果が出ていなかったら、対策の見直しを図ってください。
対策の見直しが完了したら再び実行に移し、一定期間を行ったら結果の分析に入ります。

このように、PDCAサイクルを回すことで対策が自社に最適化されていき、より素早い黒字化を目指せます。

起業後黒字化に向けて押さえるべきポイント


起業後赤字から黒字化に至るまで、押さえておきたいポイントもあります。ここで4つのポイントについて解説していきます。

短期的な利益だけを追わず、長期的な成長を目指す

まず重要なポイントとして、短期的な利益だけを追わずに長期的な成長を目指すことが挙げられます。
起業後は早く黒字転換させるために、短期的な利益を求めがちです。
しかし、短期的な利益だけを求めすぎてしまうと、本来投資したほうが良い開発費用などを抑えてしまうことになり、企業としての成長を妨げる可能性があります。

また、ひとつの商品で売上高が伸ばせたからといって、そればかりに固執しすぎると市場の反応が変わった時に経営が悪化する可能性もあります。
そのため、1年目は黒字化を意識しすぎず、中長期的に事業をどう発展させていくか、企業をどのように成長させていくかを考えて、運営していくことが重要です。

創業融資を活用する

創業後に資金繰りで失敗しないためにも、創業融資を活用するのがおすすめです。
日本政策金融公庫の創業融資は、新たに事業をスタートさせる人または事業を開始してから税務申告を2期終えていない人を対象に、原則無担保・無保証人で受けられる融資になります。
設備資金は20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金は10年以内(うち据置期間5年以内)と、返済期間がある程度長く設けられています。

立ち上げ時のノウハウを仕組み化させる

新規で立ち上げた事業がどうしてもうまくいかなかった場合でも、その経験を糧に立ち上げ時のノウハウを仕組み化させることも可能です。
立ち上げ時のノウハウが仕組み化されていれば、次回新たな事業を立ち上げる際の成功率が上がります。

また、起業したばかりであれば、インターネットの情報などを参考にしながらノウハウを学んでおくことも重要です。
同じ業界で成功している企業の例を参考にすると、成功しやすくなるかもしれません。

定期的に固定費などの経費を見直す

経費を削減するための対策として固定費の見直しを紹介しましたが、ここで押さえておきたいのが「長期的に実施すること」です。
固定費の中には削減するべきではない項目もあります。
人件費を削減しようと従業員の給料を減らしてしまうと、従業員のモチベーションが下がって生産性の低下につながる恐れがあります。

固定費を一気に削減するよりも、コツコツと無理のないペースで固定費を削減していくことも重要です。
そのためには固定費の見直しを定期的に行い、長期的に取り組んでいく必要があります。

まとめ・起業後は黒字化に向けて対策を講じよう

起業後すぐに黒字化できる企業もありますが、多くの企業は約3年かけて黒字化しています。
事業を黒字化させるためには、自社の現状を把握して最適な対策を講じ、定期的に分析・見直しを図ることが重要です。
今回紹介した対策方法なども参考にしつつ、黒字化を目指してください。

創業手帳(冊子版)は、これから創業する人や現在経営で悩んでいる人に向けて、様々な情報をお届けしています。経営・ビジネスにぜひお役立てください。

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(編集:創業手帳編集部)

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