Haul 平田拓嗣|AIを使った次世代型の採用支援プロダクトで、企業の採用活動を変革したい
会社の魅力や個性を活かす新たな採用手法で、転職市場の流れを変える
人材不足が深刻化する今、多くの企業が「欲しい人材が採れない」という課題に直面しています。こうした中、従来とは異なる採用支援ソリューションで成長を遂げているスタートアップが、株式会社Haulです。
同社の創業者であり現在もCEOを務める平田拓嗣さんは、起業前にAIスタートアップで約4年修行されました。この経験が情報収集や人とのネットワークづくりに大きく役立ったと言います。今回は平田さんのキャリアや現在の事業内容、これから挑戦したいことについて創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
株式会社Haul 代表取締役CEO
2014年にAIスタートアップのABEJAに1桁社員として入社。Seed~Series Cフェーズにおいて、経営直下でAI×SaaSの事業開発や営業、マーケティング、採用(ビジネス、エンジニア、管理、デザイナー)を経験。
2018年HRBPとして独立、同年9月に株式会社Haulを創業し、代表取締役に就任。シリーズA~E、グロース/プライム、第二創業、経営再建など様々なフェーズ/業界でHR支援に従事。2022年に約50社のHR支援の経験を活かした採用マーケティングSaaSを開発。 同年に技術スタックサイト「What we use」を買収。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
「憧れだけでは起業したくない」と考え、AIスタートアップで修行
大久保:平田さんはもともと起業やスタートアップに関心があったのでしょうか?
平田:実は大学生の時から自分でビジネスを始めていたんです。私が大学にいたのは2009年~2013年なのですが、ちょうどiPhoneが出てきて、TwitterやFacebookも登場したような、IT業界が大きく変わるタイミングでした。ですから周りにもそういうビジネスで起業する人が結構いました。
あと2011年に京都でIVS(※編集部注:国際スタートアップカンファレンス)が行われて、現在IT業界で活躍されている方々とお話しする機会がありました。そういう意味では、学生時代からスタートアップは身近なものでした。
大久保:前職はAI、特にDeep Learningを手掛けるABEJAというスタートアップにいらしたそうですね。ABEJAに入ったいきさつを伺えますか?
平田:学生時代からやっていたビジネスでABEJAの経営陣の方々と繋がりがありまして、社会人2年目にABEJAへ転職しました。
将来を見据えて、ABEJAで修業をさせてもらいたいと思い、先方へお願いして入れていただきました。私が入った時は、ABEJAが創業して1年くらい経ったタイミングでしたね。
大久保:実際にABEJAで多くのことを学べましたか?
平田:そうですね。開発とバックオフィスのこと以外は、ほぼ全部やらせていただきました。例えば社長と一緒に営業をして、新しい人とゼロから関係を作っていくとか、人として信頼してもらった上で仕事を任されるというプロセスを経験できました。
ABEJAには4年弱いたのですが、あらゆることが勉強になりました。私は憧れだけでは起業しないと決めていたんです。ですから社長のすぐそばで起業の疑似体験ができたことは、すごくありがたかったですね。新しい市場を作ってうねりを起こすという経験は私にとって大きな財産です。
大久保:準備された上で起業にチャレンジしたわけですね。起業を目指す方に向けて、事前にこういうことをしておいた方がいいというアドバイスがあれば、教えていただけますか?
平田:あくまで個人的な意見ですが、投資家からのお金だけではなく自分のお金でキャッシュフローを回して経営するという経験はしておいた方がいいと思います。やはりお金に対してリアルな感覚がないまま起業しても、うまくいかないですから。
まず社員を数人雇えるぐらいの売上を作れるようになることは、経営者にとってすごく大事なことだと思います。
起業後すぐプロダクトを作るのではなく、コンサルで情報と経験を積み重ねた
大久保:その後平田さんは独立してHaul社を起業されました。起業直後はどんなビジネスをされていたのでしょうか?
平田:プロダクトはもともと作るつもりでしたが、最初はコンサルティングをしていました。コンサルによってキャッシュができましたし、いろいろな方とのネットワークを構築することもできたので、いい選択だったと思っています。
大久保:なるほど。現在は「RekMA(リクマ)」という採用ソリューションのプロダクトがメインですが、どのようにプロダクトが生まれたのでしょうか?
平田:採用関連のコンサル事業を通じていろいろなお客様とお話をする中で、お客様の困っている課題はほぼ同じでした。つまり当時はその課題を解決できるプロダクトがマーケットになかったわけです。
また経営者の方々と直接関わる中で、お客様がどういう課題に対してお金を払うのか、ということがわかってきました。あとは前職のABEJAの時から、海外製品についても、市場調査をかねて調べていたんです。
そういった情報や経験が組み合わさっていく中で、可能性がある領域が見えてきたので、プロダクトを作ることを決めたという感じですね。製品化した方が、より多くの方のお役に立てるのではないかという思いもありました。
単なる採用管理ツールではなく、成果を重視したプロダクトを開発
大久保:御社のプロダクトの強みについて、教えていただけますか?
平田:最近HR関連のサービスはいろいろとありますが、管理系が中心ですよね。業務をデジタル化したり、データを効率よく保存・参照できたりするようなサービスが主流です。
一方で私たちのプロダクトは成果創出型です。採用は営業やマーケティングに近いものだと考えておりますので、管理だけではなく「求める人材を採用する」という成果を意識した作りになっています。
私たちは従来の企業目線でふるいにかけるような採用手法ではなく、候補者1人1人に自社の魅力を伝える「アトラクト採用」を目指しています。
もう少し具体的に言いますと、例えば一般的な採用管理システムでは、面接官が候補者のことをどう思ったかをフリーテキストで入力するのが普通です。一方で私たちのプロダクトでは、面接官や候補者が感じたことを定量・定性データで取れる作りにしています。
そのデータをもとに「どう候補者とコミュニケーションをとれば採用につながるか?」をAIが提案してくれるわけです。
これによって、企業はなぜ欲しい人材を獲得できなかったのかがわかります。つまり会社の課題に気づくことができるというわけです。採用におけるプロセスもそうですし、もっと根本的なところ、例えば働き方に課題があることもあります。
社内の認識と外部の認識にギャップがあれば、それも明確になります。例えば社内では自社の強みは製品力だと思っていたけれど、それは全く入社の決め手にならず、むしろその事業が伸びるか不安だから入社を断っていた、ということが見えてくる感じですね。
こういう情報を活用すれば、求職者のニーズに合わせて企業が正しく自社の魅力を伝えられるようになります。実際にあった事例では、エンジニアを募集してもなかなか採用できないという課題がありました。そこで私たちのプロダクトを使っていただいたところ、候補者に断られた理由がわかり、その点を改善したら、その後5人連続でエンジニアを採用できました。
大久保:まさに会社をひとつの商品と考えたマーケティングですね。これまで面接官のスキルに頼っていた部分が、御社のプロダクトによって仕組み化されているという感じでしょうか。
平田:おっしゃる通りです。トップリクルーターがやっているプロセスを、このプロダクトに詰め込んでいるイメージですね。
大久保:御社のプロダクトは、人材不足が進む今の時代にすごく求められていると感じます。
平田:そうですね。今は市場では中途採用の比率がどんどん増えています。新卒で入った人が3年後には3割やめる時代ですし、企業としてはやはり即戦力を求めているわけです。
一方で「人員計画に対して予定通りの人数を確保できている会社は4割しかいない」というデータもあるんですよ。多くの会社で求める人材が似通っているので、なかなか採用できていないのが現状だと思います。
大久保:今までにない画期的なプロダクトだと思うのですが、この先に見えているものはありますか?
平田:将来は、履歴書、職務経歴書に続く、人の価値判断をする第3のデータを作りたいと考えています。履歴書や職務経歴書は、自己申告型ですよね。これらよりももっと客観的なキャリアクレジットを作りたいと考えています。
これによって自分に何ができて、どんなことが得意なのか、どんなタイプの人かということがわかりやすくなるのではないかと思っています。
プロダクトを通じて、企業の採用活動を根本から変えていきたい
大久保:起業で1番大変だったことと一番よかったこと、達成感があったことについて教えていただけますか?
平田:大変だったのは、1人目、2人目、3人目と最初に社員を採っていくときでした。達成感については、正直言うとまだないですね。そういう意味では、まだ満足していません。
ただ先月にプロダクトのリリースを踏まえ、これまでお世話になった方々にお礼を伝えるイベントを行ったんです。これまでの取引先の方々や前職で関わっていただいた方などが50~60人ぐらい、会場のキャパシティギリギリまで集まってくださり、すごくうれしかったですね。
大久保:2024年7月には5億円を資金調達されたそうですね。これからの展開がすごく気になるところですが、会社もしくは平田さん個人として、今後目指していることを教えていただけますか?
平田:企業が人を採用する場合、現在はどうしても採用手法(How)の差別化で頑張ることが多いですよね。私としては、そうではなく会社の魅力を磨くところを頑張るようになればいいなとずっと思ってきました。ですから、これから私たちのプロダクトを通じて、企業の採用活動を根本的に変えていきたいですね。
Who、What、Howというマーケティングのフレームがありますが、採用においてはほとんどの会社がWhoを定めておらず、Whatも磨いていません。Howの差別化に走っているように感じます。
Howはプロダクトで解決できるようになってきましたが、そもそもその会社にとって誰と働くことがいいのか、その人が来てくれるためには何が必要なのかなど、会社の価値・魅力を磨くことにリソースを投資していくべきだと思います。
そうしないと結局はROIなど、説明がつくことで採用を進めてしまいます。そうなると会社としてのユニークさというか、尖りがなくなってしまう。
でも本来は、そういう会社としての尖りを意図的に作っていく方がいいはずです。これがないと、求職者が転職市場を見たときにどの会社が自分に合うのかがわかりづらいですから。こういうところをこれから変えていきたいと考えています。
大久保:最後に読者である起業を目指す方、もしくは起業して間もない方に向けてメッセージをいただけますか?
平田:起業するからこそ、自分の直感とか、説明できないものを大事にして欲しいなと思います。ロジカルに考えたら、起業しない方がいいという発想になってしまいますから。
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(取材協力:
株式会社Haul 代表取締役CEO 平田 拓嗣)
(編集: 創業手帳編集部)