シェアリングエネルギー 上村一行|初期費用0円の太陽光発電サービスで資金調達76.3億円を達成。「シェアでんき」で目指す脱炭素社会

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年07月に行われた取材時点のものです。

従来のイメージを打破!画期的な新たな仕組みを構築して太陽光発電事業を改革


「シェアでんき」とは、初期費用0円で太陽光発電システムを設置し、電気料金が安価になるサービスです。

2018年創業のシェアリングエネルギーは、太陽光発電システムを「所有」するのではなく「利用」する第三者所有モデル(PPAモデル)と呼ばれる新たな仕組みを構築し、サービス提供しています。

代表取締役を務める上村さんは、学生起業時代の経験からコンサルティングファームでキャリアを積み、現在の起業に繋がるアイアンドシー・クルーズ創業を経てシェアリングエネルギーを設立しました。

​​上村さんの起業までの経緯や、太陽光発電事業の未来について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

上村 一行(うえむら かずゆき)
株式会社シェアリングエネルギー 代表取締役
デロイトトーマツコンサルティング株式会社(現アビームコンサルティング)にて大手総合商社の経営改革プロジェクト等に従事した後、2008年、株式会社アイアンドシー・クルーズを設立、代表取締役に就任。トーマツ日本テクノロジーFast50で3年連続Top5を受賞。2018年1月に株式会社シェアリングエネルギーを設立。2020年2月、株式会社アイアンドシー・クルーズを株式会社じげん(東証一部)にM&Aにより譲渡、当社取締役ファウンダーに就任。2021年3月、当社代表取締役に就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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学生起業後、あらゆる知見を得てシェアリングエネルギーを設立

大久保:まずは起業までの経緯についてお聞かせ願えますか。

上村:大学時代まで遡るのですが、仲間とともに始めたBTO(Build to Order)パソコン事業での学生起業からスタートしました。

当初は順調だったものの、経営に関する専門知識が乏しかったため、「ここから先、どうやって会社を大きくしていけばいいのだろう?」と悩んでしまいまして。スマホもない時代でしたので経営関連の書籍を購入し、片っ端から読み漁るようになりました。そこで読めば読むほど自身の知識や経験不足に気付かされたんですね。

当時はコンサルティングファーム所属のコンサルタントが執筆したノウハウ本が多かったこともあり、「先々のためにもきちんと経営を学んでおきたい。まずはコンサルティングファームで経験を積もう」と決意し、会社を譲渡した後、新卒で現アビームコンサルティングに入社しました。

大手総合商社の経営改革プロジェクトなどに3年ほど携わり、大手企業でのビジネスの進め方や経営に関する知見を得たところで、リクルート出身の先輩に誘われて人材ベンチャーの立ち上げに参画。執行役員として、2〜3年ほど関わりました。

今度はベンチャー企業の経営者との商談が多い業務内容、かつ経営陣のひとりとして事業拡大まで経験できたことが起業への後押しとなったんですね。「そろそろ自分自身で会社を立ち上げたい」という気持ちが高まり、2008年、ITベンチャーのアイアンドシー・クルーズを設立しました。

当時の主なサービスは、2009年に始めた戸建て居住者向けの再生可能エネルギー比較サイトです。太陽光や蓄電池を比較検討しながら導入できるサービスサイトを軸に、再生可能エネルギーへのアプローチを開始しました。

転機となったのは、太陽光発電の大幅なシステムコスト削減や、バリューチェーンの変化です。徐々に「脱炭素社会の構築を目指すなら、再生可能エネルギーや分散型エネルギーを普及させる事業への転換が最適ではないか?」と考えるようになったんですね。

こうした経緯で2018年、シェアリングエネルギーを設立しました。

良心的なサービス内容と信用力強化により引き合い増加に成功

大久保:アイアンドシー・クルーズはM&Aで譲渡したと伺っています。詳しくお聞かせいただけますか。

上村:ライフサービスプラットフォーム事業を展開する株式会社じげん(東証プライム市場上場)に譲渡しました。弊社が運営していた太陽光や蓄電池の比較サイトが、同社のビジネスにマッチングしたことが決め手です。

大久保:確かにじげんは多彩なポータルサイトを手掛けていますよね。お互いにメリットがあったので譲渡が決まったということでしょうか。

上村:はい。譲渡以降、事業もさらに伸びているようです。じげん社はメディア事業のノウハウがありますので、強みを活かしたWEB集客に成功しているんだなと事業譲渡後にあらためて実感しました。

大久保:たとえばサービスローンチ後に、その分野で業績をあげている企業に譲渡するのもひとつの手といえそうですね。

上村お互いにプラスになる事業譲渡を目指すことが大事だと思います。

大久保:スタートアップはVRやメタバースなど、流行りのワードでの事業展開を狙う傾向がありますよね。一方で上村さんは、比較サイト運営時から太陽光発電事業にフォーカスしてきました。この選択が、その後の資金調達に影響した側面はありましたか?

上村:一般ユーザーの中には、太陽光発電事業に対してマイナスイメージを持っている方が少なくありません。これには3つの理由があります。

まず1つ目は、従来の顧客へのアプローチ手法である訪問販売を通じて「高く売りつけられるのではないか?」という先入観が一部に定着してしまっていることです。

大久保:確かに既存の太陽光発電ビジネスでは、訪問販売に対する印象が良いとはいえないですよね。

上村:はい。加えて2つ目の理由として、太陽光発電設備の設置による景観や自然破壊の弊害が繰り返し報道されたことで、ネガティブな感情を抱いている方々がいらっしゃるんですね。山を切り拓いて設置する設備と、戸建ての屋根の上の設備では大きく異なるのですが、混同されている方も少なくありません。

3つ目は弊社の事業に関してなのですが、「無料で太陽光発電を設置して、電気代をおトクに!」というコンセプトで「シェアでんき」をサービス展開しているため、事業開始当初は怪しがられることが非常に多かったんですね(笑)。

大久保:「騙されるのでは!?」と勘違いされてしまいそうですね(笑)。

上村:サービス開始初期は、太陽光発電業界における新しいサービス、かつユーザー視点で開発された良心的な事業であることを理解してもらい信用を得るのに苦労しました。

そこで創業以来、各地域で信頼されている企業との協業を積極的に行ってきました。信用が重要だと思っていますので、今後も信用力向上を重視する理念は変わりません。

大久保:全国各地での信用力強化に努めた結果、地方銀行の紹介も含めて驚くほど引き合いが増えたと伺っていますが、地方銀行が地域企業を紹介してくれるようになったということでしょうか?

上村都市銀行から地方銀行のご紹介が増えました。

将来的には、地方銀行の取引先であるハウスメーカーや工務店などを紹介していただく、あるいは住宅ローンを希望する銀行の顧客に対して脱炭素化事業を絡めた優遇サービスの提供という方向性を考えています。

初期費用0円の画期的なサービス「シェアでんき」

大久保:業態転換で太陽光発電ビジネスにシフトしたわけですが、御社の場合はまったくの畑違いからの参入ではないので、太陽光・蓄電池の比較サイトを運営していた際の人脈やノウハウを活かせた面もあるのではないでしょうか?

上村:はい。比較サイト運営時に取引していた各地域の施工会社が現在のビジネスパートナーですので、事業を進めるうえでメリットが大きいです。

当時は比較サイトというWEB上で集客し、施行会社を紹介してマッチングフィーをいただくビジネスモデルでした。一方現在は、シェアでんきを推進する中で施工を依頼しています。日本全国で同じクオリティ、同じ価格でサービス提供するためにも、比較サイトで培ったネットワークが非常に役立ちました。

大久保:現在のシェアでんきのサービス内容をお聞かせください。

上村:シェアでんきは、初期費用0円で太陽光発電システムを設置し、電気料金が安価になるサービスです。一定期間経過後は、システム一式を顧客に無償譲渡しています。

月額費用も一切かからず、発電したエネルギーは一定期間、無料で利用可能です。一定期間経過後に有料となっても、たとえば東電から購入するより3割〜4割安い単価で電気を使うことができます。一方で、各家庭で余った電力を弊社が電力会社に売電し、採算が取れるようになっているんですね。

弊社のシェアでんきが従来の太陽光発電ビジネスと大きく異なるのは、太陽光発電を「売る」のではなく「場所をお借りする」新たな概念のビジネスモデルという点です。2018年前後にシステムコストが大幅に下がった際、アメリカをはじめとした大規模な太陽光発電システムを稼働させている国で登場しました。

公式HPでも「無料で太陽光発電を設置して、電気代をおトクに!」とうたっていますが、お得感たっぷりなことが特徴です。きちんと説明して認知していただければ、導入促進が見込めるサービスを構築できたため、事業展開の道すじを立てることができました。

大久保:太陽光発電とテスラの家庭用蓄電池「Powerwall」を組み合わせたサービス提供も行っているんですよね。利用イメージをお教えいただけますか。

上村:昼間は、太陽光発電システムで発電した電気を利用します。リアルタイムで自宅や電気自動車で使用し、余った電気を蓄電池に貯めるんですね。それでも余った電気は、先ほど申し上げた通り電力会社に余剰売電しています。

夜間になったら日中に貯めた蓄電池の電気を使い、足りない分だけ電力会社から購入する仕組みです。ただし、一般的な家庭であれば外から買わなくても暮らしていける設備を提供しています。

また万が一の停電時には、蓄電池から自宅に電力を供給できることも大きなメリットです。

内閣主導の政策による太陽光発電事業への追い風

大久保:先ほど太陽光発電業界のイメージが良いとはいえない中で、地道に信用力を高めながらサービス展開してきたとお話しいただきましたが、最近では業界イメージも向上してきましたよね。事業開始以降、業界全体や御社のビジネスを後押しする流れはありましたか?

上村:大きな転機は、2020年10月に菅元総理が宣言した「2050年カーボンニュートラルの実現」です。続いて同宣言に基づき、2021年には各地域における脱炭素を目指すための「ビヨンド・ゼロ」実現までのロードマップが内閣から発表されました。

このロードマップには重点対策の記載があり、環境省支援事業の①が「屋根等を活用した自家消費型の太陽光発電の導入支援事業」となっています。奇しくも私たちの事業にスポットライトを当てていただく形となり、あらゆる企業における重要なトレンドになったことは大きかったです。

また、国土交通省からは「今後、新築戸建ての屋根の上には太陽光発電システムの設置を義務化するべきだ」という見解が出されました。現在は努力目標に訂正されていますが、先駆ける形で東京都では2022年9月の条例改正で「一戸建て住宅を含む新築の建物に太陽光発電のパネル設置を義務化」として成立を目指すことになっているんですね。

それから原油をはじめとした資源高が続く中で、急激に電気代が上昇している社会情勢も弊社のシェアでんき普及の後押しとなっています。昨年7月頃と比較すると、同程度の電力使用量でも1ヶ月あたり2,000円ほど高くなっていますからね。

こうしたあらゆる経緯から、私たちとしては大きな流れが来ていることを実感しています。

大久保:日本は地震大国ですので、今後は防災対策のひとつとして家庭用太陽光発電が重要になってきそうですね。

上村:はい。防災やレジリエンス確保の視点で考え、「電力需要と直結している戸建てや施設の屋根上への太陽光発電設置が主流になるべき」という進め方をしています。

また山を切り拓く必要がある大型設備の設置とは異なり、建物の屋根の場合はリサイクルやリユースのサイクルを作ることができるのも大きな利点です。

形はどうあれ、やり抜いた人間が一番強い


大久保:最後に、起業家に向けてのメッセージをいただけますか。

上村:これまでの経験を踏まえて考えてみると、形はどうあれ「やり抜いた人間が一番強い」と実感しているんですね。

もちろんビジネス展開や戦略立案も大事なのですが、やはり最も重要なのはニーズがある分野できちんと価値を生み出しながらやり続け、やり抜くことだと思います。

そのためにも、まずは自分にとって「やり抜くに値する何か」を見つけることが先決ですね。

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(取材協力: 株式会社シェアリングエネルギー 代表取締役 上村 一行
(編集: 創業手帳編集部)



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