法人設立ワンストップサービスが本格開始。起業の行政手続きのすべてがオンラインで完了

創業手帳

起業家のメリットはどこにあるのか。サービス提供の実務責任者である内閣府参事官に創業手帳・大久保が直接聞いた

起業家にとって法人の設立は、最初の大きな山場といえます。法人設立にはさまざまな法的な手続きが必要です。役所や複数の関連機関に対して数多くの書類を作成・提出しなければなりません。起業時はこれらの手続き以外の準備もあり、忙しいなか各所に出向き申請をするのは決して楽ではありません。

そこで、行政手続きを少しでも簡便に行えるようにと、2020年1月から法人設立での行政手続きにオンラインサービスが導入されました。それが今回紹介する「法人設立ワンストップサービス」です。

このオンラインサービス「法人設立ワンストップサービス」を提供する内閣府参事官の笹野健氏と創業手帳の大久保が対談。導入までの経緯や今後の展望について聞きました。

笹野健(ささのたけし)内閣府番号制度担当室 参事官
マイナンバー制度の基盤の一つである「マイナポータル」を担当。「マイナンバーカードをキーにした、国民の皆様の暮らしと行政との入口」であるマイナポータルの機能の拡充やUI・UX改善を進めている。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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法人設立ワンストップサービスとは

起業する時には、さまざまな手続きが必要です。自社に該当する手続きを選択し申請書類を作成。そして税務署などそれぞれの機関へ届け出を行う必要があります。

こうした手続きの煩雑さを改善するため、2020年1月に「法人設立ワンストップサービス」が開始されました。会社設立後に必要な行政手続きを、マイナポータルを利用しオンライン上でまとめてできるようにしたものです。

2021年2月からは、法務省関連の会社設立前の手続きまでサービスを拡充。これにより、法人設立に関わるすべての行政手続きについて、オンライン上でまとめて完結できるようになりました。

参考:法人設立ワンストップサービス(内閣府)

「法人設立ワンストップサービス」の特徴

「法人設立ワンストップサービス」の特徴は大きく3つあります。

1つ目は、「かんたん問診」による必要な手続きの明確化です。例えば、「Q.法人番号をお持ちですか?」などの質問に質問に答えていくだけで、必要な手続きが何なのか、すぐに知ることができます

2つ目は、オンライン申請の実現。「かんたん問診」で必要な手続きがわかったら、申請に必要な入力事項をWeb上で入力することができます。入力項目で共通するものは、一回だけ入力すれば済むため、これまでの申請とは異なり、手続きごとに何回も同じことを書く必要はありません。
また各機関への提出も、そのままオンライン上で「送信ボタン」ワンタップでできるようになっています。

3つ目は、申請状況の確認ができること。完了した手続きは何なのかなど提出後の申請状況がサービスを通して確認することができます。

法人設立ワンストップサービスでできる行政手続き

2021年2月26日から定款認証、設立登記、GビズIDの発行も行えるようにサービスが拡充され、法人設立ワンストップサービスでできる行政手続きは34種になりました。

法人設立ワンストップサービス 手続き一覧

申請可能な手続き 申請先機関
電磁的記録の認証の嘱託(定款認証) 公証役場
電子署名付委任状の申請 公証役場
執務の中止の請求(定款認証の取下げ等) 公証役場
設立登記の申請 ※株式会社の定款認証同時申請用 法務局
設立登記の申請 ※合名・合資・合同会社用及び株式会社の定款認証同時申請以外用 法務局
設立登記申請の取下 法務局
法人設立届出(必須) 税務署
給与支払事務所等の開設等届出(必須) 税務署
消費税の新設法人に該当する旨の届出 税務署
青色申告の承認申請 税務署
棚卸資産の評価方法の届出 税務署
減価償却資産の償却方法の届出 税務署
有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出 税務署
申告期限の延長の特例の申請 税務署
消費税課税事業者選択届出 税務署
消費税簡易課税制度選択届出(令和1年7月1日以後提出用) 税務署
消費税課税期間特例選択・変更届出 税務署
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請 税務署
電子申告・納税等開始(変更等)届出(税理士代理提出・法人開始用) 税務署
消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出 税務署
事前確定届出給与に関する届出(付表1:金銭交付用) 税務署
事前確定届出給与に関する届出(付表2:株式交付用) 税務署
事前確定届出給与に関する届出(付表1:金銭交付用、付表2:株式交付用) 税務署
法人設立・設置届(都道府県)(必須) 地方公共団体
法人設立・設置届(市町村)(必須) 地方公共団体
申告書の提出期限の延長の承認申請 地方公共団体
事業所等新設・廃止申告 地方公共団体
健康保険・厚生年金保険 新規適用届 年金事務所
保険関係成立届(継続)(一元適用) 労働基準監督署
保険関係成立届(継続)(二元適用労災保険分) 労働基準監督署
保険関係成立届(継続)(二元適用雇用保険分) 公共職業安定所
雇用保険の事業所設置の届出 公共職業安定所
雇用保険被保険者資格取得届(令和3年3月以降手続き) 公共職業安定所
GビズIDプライムアカウント発行申請 経済産業省

「法人設立ワンストップサービス」担当参事官に大久保がインタビュー

「法人設立ワンストップサービス」の施策に関わる内閣府の担当参事官である笹野健氏に、創業手帳代表の大久保がインタビュー。運用開始までの経緯や、今後の展望などについてお聞きしました。

本格運用で何が変わったか

大久保法人設立ワンストップサービスは2020年1月から始まったサービスですが、2021年でさらに変わったことがあるんですよね。

笹野:はい。2021年2月から、定款認証の嘱託と設立登記申請書の提出も加わりました。これまでは、後続の年金事務所などの設立後の手続きで定款や登記事項証明書の添付が必要だったのですが、それがなくなるというのは非常に大きいと思います。

そして、GビズIDの発行までを合わせて行えるようになりました。これにより本格運用といえるサービスになったと思います。

大久保GビズIDは補助金の申請なども使えるようになるということですね。今まではどこに申請手続きに行けばいいかわからないというような状況だったのが、ワンストップになって申請する側が分かりやすくなったということですよね。

笹野:そうです、そうです。

大久保:設立に関する費用は変わってくるんでしょうか。

笹野:株式会社だと登録免許税の15万円と、定款認証の手数料が5万円が必要です。法人設立ワンストップサービスでは、定款は電子定款になりますので、印紙代の4万円がかからなくなります

大久保:金額負担が少し減りますね。

笹野:はい。それに法人設立ワンストップサービスなら、役所が開いている時間でなくても手続きできるので、ぜひ有効に活用していただきたいです。

大久保:忙しい時に行かなくて済むというところが最大のメリットかもしれませんね。私も起業した時は、時間がなく、タクシーに乗って急いで手続きをしにいった記憶があります。そういうのがなくなりますね。

起業する時はただでさえあれもこれもと忙しく、手続きだけに追われてしまうのはもったいないです。起業する人は、少しでも考えることに時間を使いたいのが本音ですから。

2021年2月から利用者が増加

大久保:初期の計画段階と本格運用が始まってからでは手応えに違いがありますか。

笹野:2019年3月に、まずは定款認証の面談のオンライン化が開始されました。その後2段階で拡大し2020年1月には、設立後の27種の手続きを暫定的に導入しました。計画当初を思えばスムーズなことばかりではありませんでしたが、2月に定款認証やGビズIDの発行などを加えて、いよいよここからだと思っています。

大久保:全体をカバーするようになってからまだ間もないですが、利用数はどれくらいですか。

笹野:ざっくりとですが、2020年は、月100件ほどでした。年間で1200件。ですが、今年に入ってから1・2月の利用数は月200件ほどになっています。さらに、2月26日サービス拡充以降、3月は9日間で、すでに100件ほど利用されています。

このままのペースでいけば3月は300件ほどになるのではないかと期待しています(2月インタビュー時)。とは言っても、月間の法人設立件数は1万件ほどですから、法人設立ワンストップサービスの利用数は全体の数パーセントほどです。

セキュリティについての考え

大久保:紙からデジタルに移行することで、セキュリティについてはどうお考えですか。私は、データ化はセキュリティ面の改善になるという考えです。

笹野:そうですね。最近問題になっているのは、国家資格の登録状況は紙面やEXCELで管理されているようなケースもあると聞いています。データで管理することで解消されるメリットがたくさんあります。

大久保:データだと不安という声が根強いですが、天災などで紙で保管している重要情報が無くなったりすることはありえますよね。じつはクラウドの方がバックアップを取れるので安全とも言えます。昔からの習慣で紙のほうが安全と思いがちだが、じつはそうでもないという状況ですよね。

笹野:そうなんです。紙だといつなくなるのかわかりませんし、誰かが勝手に見ても誰かが破棄してもいつ行われたのかわからないです。

大久保:データが犯罪に使われる可能性もありますが、紙も精巧なコピーなどが取れるようになって、偽造されてしまう。逆にデジタルに対応したほうが、そこに対抗できるんじゃないかということですよね。

笹野:デジタル媒体だったら、少なくともいつそのデータが無くなったのかログが残ります。紙は情報が残らないので、そうした違いはあります。

法人設立ワンストップサービスの課題や今後の展望

大久保:課題や今後の展望について教えていただけますか。

笹野:今回ご紹介いただいている「法人設立ワンストップサービス」では、行政側の手続きだけがオンラインでできる状況です。しかし、会社設立には行政手続き以外にもさまざまやるべきことがあります。例えば、法人の金融機関口座開設などですが、これらは私たちのサービスでは提供できません。

まずは第一歩として会社設立の入口を整えた段階です。

今後は、ソフトウェアベンダーの皆さまのお知恵を借りて、民間での手続きにも利用できるよう、本サービスのAPIをご利用いただいて、官民両方の手続きをワンストップでできる仕組み作りを進めていきたいです。

大久保:そうですね。会社設立に関する一連の作業が一カ所で完結できるようになると、日本の起業率ももっと上がるのではと期待できます。

笹野:そうなんです。例えば、ソフトウェアベンダーの皆さまのお力を借りて、行政書士や税理士など士業の方が利用していただけるサービスがリリースされれば、士業の方を通じて間接的にマイナポータル法人設立ワンストップサービスをご利用いただけることになります。このような広がりを推進したいと思っています。

大久保:最後に創業手帳の読者へメッセージをお願いします。

笹野:このプロジェクトは2021年9月にはデジタル庁に移管されます。

デジタル庁は民間から加わっていただく150人前後の方々も含めて500人程度の組織としてスタートする予定です。

今回の「法人設立ワンストップサービス」のように、役所の業務の流れそのものを変えることなどに、積極的に取り組みます。民間の情報技術に長けている方にご参画いただき、どんどん改善していかないといけないと考えています。

法人設立ワンストップサービスは、行政にありがちなとっつきづらいインターフェースにならないよう努力して作ったつもりです。ぜひ幅広く皆さまに使っていただき、UI・UXの更なる改善のため率直なご意見をいただければ幸いです。

大久保:これからの広がりが楽しみです。ありがとうございました。

創業手帳(冊子版)は、起業後に必要なノウハウについて、多角的な視点で掲載。全国の金融機関や、官公庁、士業、インキュベーション施設など、創業支援業界で多く利用されています。起業間もない時期のサポートにぜひお役立てください。
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(取材協力: 内閣府番号制度担当室)
(編集: 創業手帳編集部)

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