オンラインセミナーを始めよう! 上手な運営方法や事前準備のノウハウを伝授【後編】
オンラインセミナーの始め方・効果の上げ方をWebセミナーの達人、高橋龍征氏に創業手帳大久保がインタビュー
場所が要らず、手軽に参加できるけれど、その分主催者側にも工夫が必要なオンラインセミナー。リモートならではの準備のコツや、成功するために何が必要なのかを、創業手帳代表の大久保がオンラインセミナーの達人で『オンライン・セミナーのうまいやりかた 』の著者、高橋龍征氏に聞きました。
conecuri合同会社 代表社員
早稲田大学WASEDA NEO プログラム・プロデューサー
情報経営イノベーション専門職大学 客員教授
CSK、ソニー、サムスンの事業開発等、スタートアップ共同創業を経て、縁あって早稲田大学の社会人スクールWASEDA NEOで事業創造系プログラムのプロデューサーとなる。14年近く複数コミュニティの運営にも携わる実践家でもある。事業開発とコミュニティの手法をベースとしたセミナー企画の方法論を確立し、年200件の企画を実現。コロナ後はオンラインに一気にシフトし、その企画・実現の方法論とオンライン化ノウハウをnoteや著書『オンライン・セミナーのうまいやりかた』で発表。2020年に「学びでつながる場づくり会社」conecuriを立ち上げ、大企業、スタートアップ、大学を対象に、事業創造人材育成プログラム企画、マーケティングセミナー企画、コミュニティ構築などの支援を行っている。
Twitter→@Ryu_8cchobori
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創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
事前準備はオペレーションに注目
大久保:高橋さんはセミナーには準備が大事とおっしゃっていますよね。準備といってもいろいろあると思いますが、どこが特に重要なポイントかを教えて下さい。
単純なオペレーションで当日のトラブルを無くす
高橋:セミナーの準備には、コンテンツ(資料とファシリテーション)とオペレーションがあります。
コンテンツについてはリアルもオンラインもと同じになりますが、
オペレーションが大きく異なります。
オンラインの場合、オペレーションの基本は、可能な限り、
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- シンプルにする
- 自分が使い慣れたツール(ソフトもハードも)にする
- ユーザーが使い慣れたツールにする
のがコツです。
想定外のことが起こったことへの対応や、セミナーのファシリテーションや運営を考えると、なるべくシンプルで慣れたツールを使うことです。
自分だけでなく、ユーザーも使い慣れたものを使うということです。
使い慣れないTeamsで、さらにYoutube配信を組み合わせたときに、使い勝手が慣れたZoomと異なるため、最初に動揺し、それが最後まで後を引いて、アンケートの評価に響いたという経験が私にもあります。
ツールの使い方が新しいという発見よりは、セミナーのコンテンツに視聴者が集中できる環境を整えることのほうが本質的ではないでしょうか。
コンテンツに集中し、狙った成果を出すには、極力頭の余計なリソースを割くものを排除しましょう。
使い慣れないツールを使うときは練習しておくべし
高橋:とはいえ、どうしても使い慣れないものを使わざるを得ないこともあります。その場合は練習しましょう。一通りの機能確認だと分からないこともあるので、重要なものであればつき合ってくれる人を見つけ、本番環境で軽く流す、ちょっとしたリハーサルをした方がいいでしょう。
また些細なことですが、リアルに比べると「オンラインルームに入れない」という問い合わせが増えるので、集客案内への記載の徹底や、当日の問い合わせ対応を想定しておきましょう。
当日までに会議室へのリンクの連絡を入れておくと、問い合わせが減ります。
また、ネット接続はできれば有線にし、雑音の入りにくいイヤホンマイクにしておくのが無用なトラブルを減らすポイントです。
最初から完璧を目指さなくて大丈夫です。効率化を図るためのトライアル期間と決めて、とりあえずは試してみましょう。まずはひとりで始めてみて、無駄な工数がそぎ落とされ体系化できるところまで持って行きます。体系化されれば準備にかかる負荷も軽減されます。
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- 無駄をそぎ落とす
- 誰でも(訓練せず)できる化→テンプレート化、マニュアル化
- 省力化、自動化
トライアルなら、本当の見込顧客を沢山呼ぶのはリスクが高いので、関係値のある少数の人に付き合ってもらいましょう。そう思えば気楽ではないでしょうか。まずは試してみてください。
当日、成功させるための構成とファシリテーション
大久保:そうですね。まずはリハーサルやトライアルで慣れていけば、オペレーションもスムーズに行く気がします。オンラインセミナーならではの、成功させるためのコツはなんでしょう?
高橋:コツとしては構成と、ファシリテーション(会議や集団活動がスムーズにいくように支援すること)があります。
資料は大きな文字でシンプルに。双方向のやりとりを入れて飽きさせないように
高橋:まず構成に関しては、単調になりがちなので、こまめに双方向のやりとりを入れて飽きさせないことが大事です。
また、PC画面だけでなく、スマホなどの画面が小さい状況で見ている可能性もあるので、資料の文字を大きく、シンプルな構成にする必要があります。
こちらが資料を作っている環境ではない状況で見ている可能性があることを想定し、「一目で読み取れる」ようにするのが大事です。
ファシリテーションに関しては、会場からも双方向の参加を引き出すように、いろんなテクニックを真似しましょう。例えば、会場の知り合いに話を振ったり、チャットにコメントを投稿するなどの方法もあります。
また、通常のセミナーより短時間で疲れる傾向があるので、30~40分程度で1回、休憩や質疑などの双方向のやりとりをいれましょう。
表情や態度、雰囲気づくり、リアクションに気を付けることも大事です。
ひとりでもオンラインセミナーは開催できる?
大久保:オンラインセミナーなら1名でも運営できると聞きましたが、実際におひとりで行ってらっしゃるのでしょうか?
高橋:不安なのはわかります。でも、オペレーションをシンプルにして習熟すれば、問題なく1名でも行えますよ。
参加者の顔を見ながらプレゼンを全画面で操作しつつ、こまめにチャットの質問を拾うようにします。
ちなみに私は資料の右端を、顔が映るウィンドウの置き場として、文字や画像を置かないように空けています。ウインドウを重ねるとその部分が見えなくなってしまうからです。そんな「小さな工夫」を積み重ねる事も大事です。
起点は「ひとりでできる」と考え「そのためにどうすればいいか」の知恵を絞る事が大事です。
人がいると無駄に仕事を割り振ってしまいますが、ひとりでやらなければならないとなると、強制的に「効果につながらない無駄なことは削ろう」となります。
もちろん、「ひとりでやってみないとダメ」ということではありません。ラジオのように、もうひとりが合いの手を入れ、チャットの質問を拾い、参加者の観点で疑問を生じたときにツッコミを入れてくれると、登壇者は気持ちよく話に集中でき、参加者の知りたいことにも答えられ、満足度を上げやすくなるでしょう。
慣れていないことだと、いろいろなムダが発生するものです。
無駄を省き、責任者が全体を把握するためにあえてひとりに挑戦する、完全にできたら運用をラクにするために複数人にする、というのも手だと思います。
オンラインコミュニティは生命力の源であるつながりを作る場所
大久保:セミナー運営とは別に「オンラインコミュニティ」を運営されている理由は何ですか?
高橋:つながりから切り離された人々はことごとく死に絶えている、という原体験が発端です。
大学4年生の時から約8年お世話になった下宿先の大家さんは70代後半でひとり暮らし。ご主人がすでに他界され、子供もないし賑やかな方が良いと、学生を4人住まわせていました。
毎朝5時から家中の掃除を始め、朝食が済む頃になると、嫁入りからの付き合いのご近所友達が集まって茶飲み話。昼を済ますと、銭湯の一番風呂でいつもの面々と話し込み、夕方はまた同じ人達で茶飲み話、夜7時には床につき、早朝からまた掃除を始める。そんな地域とのつながりの中で暮らしてきたことで、80歳目前でもとても元気にされていました。
同じく大学時代のバイト先だった米屋の女将は90歳を超えてもなお現役で、店頭に毎日腰掛けて、常連さんをつかまえては長話を楽しんでいました。
そんな人々を見たり、いろいろな書物を読んできて「つながりは生命力の源」と確信したんです。生物としての活力を保つために、自らその場をつくろうと決めたのがそもそもの始まりですね。
奇しくも2020年、新型コロナが世界に広まり、長く深刻なものになるかもしれないと感じました。コロナの影響で突然人とのつながりが持ちにくくなり、それぞれが孤独にならざるを得ませんでした。
私同様、企業の研修担当、研修講師・研修会社、教員・教育機関、イベント会社等々、これまでリアル前提だった人々は、突然の否応ないオンライン化に苦闘しているという状況に陥りました。
前例がなくどうしていいかわからずひとりで悩み、死活問題という状況でした。
そこで3月1日、オンラインシフト(オンラインへの移行)のための知見を共有する、ゆるやかなコミュニティをFacebook上で立ち上げました。現在3000人を超える方に参加していただいています。
大久保:オンラインコミュニティを運営される上で、気をつけるべき点はありますか。
高橋:同じ趣旨のイベントを複数回実施し、その参加者をつなげることは、コミュニティの始まりになることも多いのですが、イベントを複数回実施したからといって、必ずしもコミュニティになる訳ではありません。
コミュニティは、「何のために、何を、どのようにやるか」「どんな人がこの場にいるべきか」がメンバーに共有され、メンバー同士の関係が構築され、活動が自走する状態になっていなければなりません。
実際の活動を通し、主催者が関係構築や合意形成をファシリテートする働きかけをして、人やことの巡り合わせのような「コントロールできない」要素が噛み合って、初めて「原始的な」コミュニティが立ち上がります。
また、コミュニティが失敗に至る病因は初期設定に内在していることが多く、適切な「コミュニティ観」で長期的に考えて施策を打っていかなければ、やがて矛盾が表面化し、それを解消して正しい姿に戻すのに、多大な摩擦とエネルギーを要することになります。
例えば、「場にそぐわない人」や、「意欲が低い人」が増えていくと健全性が失われます。
参加を審査性にする、あるいは2回目の参加を断るという手もありますが、こういった場にそぐわない人や意欲が低い人の参加は1回目では100%防ぐことはできません。
そうならないように主催者が、参加者をコントロールして、免疫をつけていくことです。中心的なメンバーが、好ましい価値観や雰囲気、文化を醸成していきます。
共通の価値観を明示することも、方向を揃えるコツです。また、規範・ルールを作っておくと対処がしやすいです。
また、コミュニティは一度始める以上、長く続けることが前程となります。負荷は高く、効果は漢方薬のように長期的・間接的なもので、分かりやすい短期的な成果を求める思考とは、なかなか相入れません。それらを理解した上で行うかどうかを判断する必要があります。
いいオンラインセミナーとはどんなもの?
大久保:高橋さんが過去に手掛けたセミナーでおもしろいものがあれば教えて下さい。いろいろユニークな仕掛けをしていましたよね。
高橋:過去には「起業のダークサイド」のような、本音をえぐったタイトルがヒットしました。
綺麗事ばかりではなく裏側の実情を聞きたい、というニーズをうまく捉えたのでしょう。
案内文の中に「エンジェルという名のデビル」「投資契約という名の愛人契約を提案された話」のような、ちょっと面白おかしいネタを散りばめたのも良かったのかもしれません。
これらは狙って企画したというより、たまたまそんな話をできる人がいて、この人に登壇してもらうならこんな話かな、という発想で作っています。
私は比較的人から発想することが多いです。テーマからとなると、どうしても検索して出てくるような「どこでも話している人」になってしまいますし、自分が深く知らないテーマであれば、中身はないけど単に知名度が高いだけの人を引き当ててしまい、少し詳しい人から見ると「中身のないやつを登壇させてるな」と思われてしまいます。
セミナーではなく、人の困りごとに焦点を当ててイベントにすることもあります。事務所にバーカウンターがあるので、忘年会でカクテルを作りたいと言う話を聞いて、銀座の高級バーの店長をしているバーテンダーの友人に頼んで、カクテルの作り方を学ぶ講座を企画して、大変好評だったこともあります。
かれこれ14年近く、中央区のご近所会もやっておりました。創業手帳も中央区で面白い会社も多いし、文化的なものも多いですよね。
中央区といえば築地本願寺だと、いつかはそこでイベントをやりたいと考えて色々活動していたら、僧職の方にご縁をいただく機会があり、実施に至りました。
これらの経験を分かりやすくまとめると以下になります。
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- 1)足を使え
- 2)困りごとを勝手に拾え
- 3)人を見たら登壇者と思え
というのが自分の考えです。
大久保:いろいろなイベントやセミナーを手掛けてきた高橋さんが「今日はいいセミナーだったな」と思うセミナーとはいったいどんなものでしょうか?
高橋:イベントやセミナーの良し悪しは、リアルの場合は参加者の表情や空気感のようなもので判断します。特に、イベントやセミナーが終わっても人が残っているような時は、満足度が高く、逆にサーと人が帰ってしまうものは、そうでもなかったと考えます。
オンラインでもリアルでも、質問が多く出るのは内容が響いているということだと思いますし、質問して色々知りたいことを答えてくれたから満足度が高いというものもあるでしょう。
長期的には、その講座を受けた人が何かしら新しいアクションを起こし、究極的には人生を変えたというようなきっかけを作れたら、非常に嬉しく思いますね。
私自身のコンテンツで「カオスマップの作り方」というものがああり、これを聞いて実際にカオスマップを独力で作り、起業につなげた人もいました。彼は律儀にもそのことを報告してくれたのですが、とても嬉しかったです。
大久保:セミナー講師として習熟するコツはありますか?
高橋:私が企画した講座で、アナウンサーやテレビディレクターの方にそのような質問をぶつけたことがあります。一番効果的なのは、自分で自分の話している動画を見ることだそうです。オンラインだと、録画ボタンひとつでできるからやりやすいでしょう。
さらに文字起こしをすると、自分の話し方で聞きづらい癖や説明がこなれていないところ、自分が聞き手の関心に的確に答えられていない点などが分かり、改善のヒントになります。
私も何回か記事化のために、自分で自分が話しているのを聞いたことがありましたが、大変苦痛でした(笑)。
私の著書でも、阿部さん(元アナウンサー)や三木さん(元NHKディレクター)の話が参考になると思います。
『オンライン・セミナーのうまいやりかた』高橋龍征 クロスメディア・パブリッシング
きちんと準備し、実際に登壇し、改善を重ねることを、できるだけ短期間で集中的にやることで、構成も資料も話し方やファシリテーションも改善していきます。
特に最初は短期間で複数回やるのがコツで、「ああ、ここをこうすれば良かったな」というのが頭の中で鮮明に残っている間に、実際に改善したものを試すといいでしょう。
また、実施したらその日のうちに改善のメモを記録しておくことも大事です。違和感や気づき、改善点だけでなく、原因を分析し、具体的な改善施策に落とし込み、資料の修正など、すぐにできることはその日のうちに対応しておくことで、頭の中に定着するようになりますし、次の登壇の時には自然と改善しているものです。
なお、そもそもの話で言うと、単に流暢にしゃべること以上に、ターゲットの関心をちゃんと理解し、それに適切に答えられているかの方が重要だったりするので、あまり小手先の改善にとらわれず、まずは本筋のところを意識することをおすすめします。
大久保:ありがとうございます。最後に、セミナーに挑戦する読者に向けてメッセージをお願いします!
高橋:繰り返し述べてきたのは、参加者観点や本質を忘れないことと、仮説検証と改善を重ねて確実性を高めていくことです。
最初から大々的にやろうとするのは「見栄」で、それが本質を見失わせます。まずは気軽にやってみてはどうでしょうか。やれば必ず見えてくるものがあります。
私は、誰でも何かしら人に伝えるべきことを持っていると思いますし、人が人に伝えることで、自分もいきいきできるし、人の人生に良い影響を及ぼせるし、その連鎖がより良い社会を作る一助になると考えています。こうしたノウハウを公開し、伝えているのは、それを実現するためでもあります。
皆さん、ぜひ良いコンテンツを形にしてください!
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(取材協力:
高橋龍征 conecuri合同会社 代表社員)
(編集: 創業手帳編集部)