ココロオドル 杉本健司|多ブランドで30店舗超を展開。繁盛店を生む「勝ちパターン」とは
「今までに無い飲食店」を目指して。100店舗・年商100億円への挑戦

飲食店の倒産件数が過去最多の水準となるなど、厳しい状況が続く飲食業界。そのなかで、2019年の創業から数年で店舗数を伸ばしているのが、株式会社ココロオドルです。
同社は東京・神奈川・千葉・埼玉を中心に、地方都市への出店も進めており、グループ全体で34店舗(2026年10月現在)を運営しています。特徴は、1つのブランドを増やしていくのではなく、立地やターゲットに合わせて新しいブランドを次々と生み出している点です。
代表取締役の杉本健司さんは、約1000万円の借金を背負った状況から、どのように自分なりの「勝ちパターン」を見つけ、多店舗展開を実現したのでしょうか。コンセプトづくりや立地の考え方、組織づくりの苦労、これから飲食業で開業する方へのアドバイスまで伺いました。
1983年神奈川県平塚市生まれ。美容師から飲食業界へ転身し、レインズインターナショナルなどを経て2019年に独立。現在は株式会社ココロオドル代表として、関東や地方都市で複数の飲食ブランドを展開。
この記事の目次
1000万円の借金から始まった起業「やるしかなかった」
杉本:飲食業の仕事は、「牛角」や「しゃぶしゃぶ温野菜」などを展開する外食大手、レインズインターナショナルの店舗アルバイトスタッフから始まりました。働くうちに飲食の仕事のおもしろさにひかれ、25歳のときに正社員として入社し、店長として店舗運営の基本を学びました。
その後、居酒屋事業を中心に急成長していた企業で店長や本部の仕事を経験したあと、独立する先輩に誘われて、一緒に会社を立ち上げることに。私はナンバー2として、お金の管理も含めて経営を支える立場でした。ただ、複数店舗を出したものの、思うように業績が伸びなかったんです。仕入れ先との取引や店舗の契約を続けるために、私個人の名義を会社に貸していたのですが、支払いが追いつかず、その負債が私の個人名義で積み重なっていきました。気づけば、その額は1000万円を超えていました。
杉本:当時の私に残された選択肢は、自己破産するか、自分で経営して返していくかの2つでした。不幸中の幸いだったのは、西新宿にある「UMIバル」の物件の名義も私だったことです。先輩に事情を話してこの店を引き継がせてもらい、2019年3月に起業しました。スタッフもそのまま一緒に移ってきてくれました。
店もあり、一緒に働く仲間もいる。そう考えると、飲食で借金を返していく以外の道は浮かびませんでした。そもそも飲食の経験がいちばん長く、ほかにできることもありませんでしたから。とにかく「やるしかない」という気持ちでしたね。
売上を2倍に押し上げた、試行錯誤のSNS集客

杉本:集客にとても苦労していました。UMIバルはもともと立地があまりよくなく、黙っていてもお客さまが来てくれる場所ではなかったんです。前の会社のころから給料の支払いが遅れていたスタッフもいたので、一日でも早く売上を立てる必要がありました。そのためには、「この料理を食べに行きたい」と思ってもらえる商品で、わざわざ足を運ぶ理由をつくるしかないと考えました。
杉本:最初に取り組んだのは、店の前での呼び込みや、グルメサイトの掲載内容の見直しでした。多くの飲食店が取り入れている、基本的な集客方法です。ですが、ほとんど効果がありませんでした。「このままではらちがあかない」と思い、集客方法をひたすら調べて、いろいろな方法を試しました。そのなかで手応えがあったのが、Instagramを使った集客です。
そこで開発したのが、切った瞬間にチーズがあふれ出すシカゴピザです。思わず動画に撮りたくなるような見た目にこだわりました。インフルエンサーマーケティング(※1)を取り入れて紹介してもらうと、一気に話題が広がったんです。当時、この手法を取り入れている飲食店はほとんどなかったと思います。月商600万円ほどだった店が、引き継いでから数か月で1200万円ほどと、約2倍になりました。このとき「時代が変わってきている」と肌で感じましたね。
杉本:はい。増えた売上は、まず遅れていたスタッフの給料に充てました。そのうえで、このやり方ならほかの場所でも通用するはずだと考え、半年後の2019年11月に千葉に2号店を出しました。借金を返しながら、店舗で得た利益を少しずつ手元に残し、融資と組み合わせて資金を用意しての出店です。
UMIバルと同じ方法で情報発信したところ、2号店は初月から軌道に乗りました。ただ、オープン直後から一気にお客さまが来店されたので、料理の提供が遅れるなど、オペレーションが追いつかない場面がたくさんありました。人手が足りないぶんは、社員のマンパワーで補うしかありません。振り返ると、毎日目の前のことに必死でしたね。
※1 インフルエンサーマーケティング:SNSなどで多くのフォロワーを持つ人(インフルエンサー)に商品やサービスを紹介してもらい、認知や集客につなげる手法のこと。
新しい店舗のコンセプトは「内装」と「商品力」から考えた

杉本:創業から数年間は、物件ありきでコンセプトを決めていました。とくに見ていたのは、物件に残っている内装の雰囲気です。「この空間なら、どんなお店が合うか」を考えて業態を決めていたので、物件が変わるたびに新しい業態が生まれていきました。
ブランドを分けた理由はもう1つあります。都内の近いエリアに同じブランドを出すと、店同士でお客さまを取り合ってしまうんです。そうした事情もあって、業態の数が増えていきました。ただ、店舗数が増えた今は、業態を絞って出店する方針に切り替えています。
一方で、どの業態でも変わらず大切にしてきたのが看板商品です。UMIバルのシカゴピザのように、「この料理を食べに行きたい」と思ってもらえる商品があれば、立地の弱さを補えます。創業初期は、業態そのものよりも、商品の力とInstagramでの発信で勝負していました。
杉本:創業初期は、私自身が商品を考えて提案し、試作を重ねていました。商品のヒントにしていたのは、地方の飲食店で少しずつ流行り始めている料理です。全国的にはまだ知られていないけれど「これはいけそうだ」というものを、実際に現地の店を訪ねて探し、自分たちなりにアレンジして取り入れていました。
弊社で最も店舗数の多いイタリアンバル「ATTACHMENT」の溶岩パスタも、そうして生まれた商品の1つです。小さな土鍋でグツグツと煮立った状態で提供し、パスタを持ち上げるとチーズが絡みついてあふれ出します。オープン直後から大きな反響がありました。今は専属の商品開発担当がいて、マーケティング担当と連携しながら商品を作っています。
勝算のある立地を見極めるポイントとは?
杉本:重視しているのは、週末に人が集まるエリアかどうかです。弊社の店舗は土曜日の売上がいちばん高いので、平日に人が集まるオフィス街には基本的に出しません。駅からの近さも、今はそれほど重視していません。看板商品で来店の目的をつくれれば、多少不便な場所でもお客さまは足を運んでくださいます。
もう1つ大切にしているのが、初期投資を抑えて出店できるかどうかです。たとえば2019年に出店した千葉の2号店は、一等地とはいえない場所でした。ただ、前職で千葉に出店していた経験から、そのあたりの商圏はよく知っていました。加えて、家賃が比較的安く、居抜き(※2)で出店できる物件だったため、内装や設備にかかる費用も最小限で済みます。UMIバルで立地の不利を商品力で補えた経験もあり、この場所なら勝負できると考えました。当時は資金力がなかったぶん、無理のない範囲で勝負できる場所を現実的に選んだ形です。
杉本:2、3年前から、会社の信用を高める狙いもあって商業施設への出店を始めました。一方で、出店にかかる費用や、売上に応じて家賃が決まる仕組みなど、路面店(※3)とはコストの構造が異なります。実際に出店してみて、弊社の業態は路面店でも同じくらいの売上をつくれることがわかりました。そこで、今後は路面店を中心に出店していく予定です。
立地の大切さをあらためて実感したのが、ラーメン業態での経験です。ラーメンは客単価が低く、わざわざ食べに行くというより、生活の中で日常的に利用される業態です。そのぶん、立地が売上を大きく左右します。それまでの業態と同じように商品の力でお客さまを呼べると考えていましたが、思ったほど売上が伸びませんでした。最終的に1店舗は閉店し、もう1店舗は知人に事業譲渡しています。業態によって立地に求める条件が違うことを、身をもって学びましたね。
※2 居抜き:前のテナントが使っていた内装や設備が残ったままの物件のこと。初期費用を抑えやすい。
※3 路面店:商業施設の中ではなく、道路に面した場所に単独で出店している店舗のこと。
SNS集客の先へ。店の質を高める組織づくりの苦労と工夫

杉本:SNSは今も、来店のきっかけをつくる大切な手段です。ただ、SNSだけに頼る集客は長く続かないと考えています。創業から数年が経ったころ、他社もSNSでの集客を積極的に取り入れ始めました。今では競合が増え、以前ほど動画も伸びません。その変化を見て、「このやり方だけでは長く続かない」と感じたんです。
もちろん、空間・接客・料理は、飲食店にとってもともと欠かせない要素です。弊社もそれまで大切にしてきましたが、新宿に「ATTACHMENT」を出店したタイミングで、この3つにより一層力を注ぐ方針に切り替えました。SNSをきっかけに来店してくださったお客さまに、もう一度来ていただけるか、よい口コミを書いていただけるかは、お店の質次第だからです。そこで内装への投資を増やし、社内教育にも力を入れました。今では新店でも、オープン当初からよい評価をいただけるようになっています。
杉本:社内教育を全店に浸透させることには、とても苦労しました。方針を切り替えた当時、店舗数は10店舗ほど、社員は30人ほどいました。評価制度を取り入れるなど、既存店も含めて教育の仕組みを見直しましたが、全員に同じ考えを根づかせるのは簡単ではありません。
加えて、私自身の関わり方にも課題がありました。もともと心配性なので、以前は「あれはどうなっている?」「ここを直して」と、細かく指示を出していたんです。ところが、指摘したその場では改善されても、長続きしません。それどころか、私の顔色をうかがいながら働く社員が増え、現場にやらされ感が広がってしまいました。
杉本:細かく指示を出すのをやめ、現場の判断に任せる体制に切り替えました。すると、社員が自分たちで課題を見つけ、PDCAを回しながら改善するようになったんです。結果として、店舗の業績も以前よりよくなりました。それが唯一の正解かはわかりませんが、少なくとも弊社にはこのやり方が合っていたと思います。
実際、私が経営している別の会社では、運営をほぼ現場の責任者に任せていますが、順調に業績を伸ばしている状況です。そのぶん今の私は、「会社をここまで大きくしたい」「業界にインパクトを与えたい」といった目指す姿を社内に示すことに力を注いでいます。
杉本:任せる以上、その責任に見合った報酬で応えたいと考えています。そのため、役職者の報酬は他社より高い水準に設定しています。
もう1つ大切にしているのが、社員に夢を持って働いてもらうことです。私の起業は借金を抱えたマイナスからのスタートでしたが、今は多くの店舗を運営できるようになりました。まさに一発逆転、“成り上がり”です。幹部にはこうした私自身の経験も直接話していて、社員にも同じような経験をしてほしいと思っています。
飲食業界で働くことのイメージを変えたい。100店舗の先に描く未来

杉本:これまでは関東を中心に出店してきましたが、今は地方都市への出店に大きな可能性を感じています。すでに宇都宮や富山、新潟などへ出店しており、さらに2027年には福岡への出店が2店舗決まっています。
全国の地方都市に広げていくにあたり、業態は「ATTACHMENT」「Mr.Gentleman」、そして「あなたに会いにゆきます。」をはじめとする居酒屋の3つほどに絞り、同じブランドで出店を重ねていく予定です。最終的には、100店舗・年商100億円を目指しています。
杉本:飲食業界で働くことのイメージを変えていきたいですね。私が業界に入った15年ほど前は、長時間労働が当たり前で、給与面でも将来に夢を描きにくいと感じる人が多かったように思います。今は業界全体で改善が進んでいますが、それでも「大変な仕事」というイメージを持つ方はまだ少なくありません。
だからこそ、会社が利益をひとり占めせず、従業員へしっかり還元していきたいと考えています。飲食業界で働いていてもしっかり稼げて、時間にもゆとりを持てる。そうした働き方を弊社から広げていくことで、業界に少しでも貢献できればうれしいです。
杉本:私の独立は特殊な経緯だったので、参考になるかはわかりません。そのうえでお伝えするなら、「自分なりの勝ちパターン」を見つけてから独立することが大切だと思います。勝ちパターンとは、「こうすれば勝てる」と言える自分なりのやり方のことです。私の場合、創業期はSNSを活用した集客がそれにあたりました。今は、「このエリアで、この席数、この業態ならうまくいく」という地方都市での出店の型が、新たな勝ちパターンになりつつあります。逆に、こうしたやり方を持たないまま独立すると、ギャンブルに近くなってしまいます。勝ちパターンが見えないうちは、独立を急がないほうがいいかもしれません。
では、その勝ちパターンをどう見つけるか。とくに集客については、とにかくいろいろな方法を試してみることです。いろいろな人に話を聞くのも大切ですね。私も創業期は思いつく限りの方法を試し、ようやく1つが当たりました。そうして試行錯誤を重ねるうちに、自分のエリアや業態に合うやり方が見えてくるはずです。
本来は、人通りが多く集客しやすい路面の物件を借りられるのが一番です。ただ、都心でそうした物件を借りるのは簡単ではありません。だからこそ、立地に頼らずにお客さまを呼べるよう、最低限の集客の手法は身につけておいたほうがいいと思います。
飲食業は開業のハードルが比較的低い一方で、続けていくのが難しい業界です。だからこそ、開業したあとも勝ちパターンを探す視点を持ち続けてほしいですね。皆さんの挑戦を応援しています。
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