aicrew 明賀 大介|ブートストラップ起業のAI動画スタートアップは、なぜ急成長できたのか
博報堂を経て独立。AIだからこそ「人間力」を活かし、AI動画のトップランナーを目指す

外部から資金調達をせず経営する「ブートストラップ」。出資を受けない代わりに自由な経営ができるなどのメリットがあり、近年注目されています。日本でも、ブートストラップに挑戦するスタートアップが少しずつ増えてきました。
国内のブートストラップ事例として知られるのが、AI動画事業を手掛けるスタートアップのaicrew株式会社。博報堂出身の明賀大介さんが2024年に同社を立ち上げました。明賀さんは「独立時はVCも検討しましたが、無理して資金を集める必要がないと判断して、結果的にブートストラップになりました」と語ります。
当初は1人で起業、その後成長を続け3期目の今では業務委託・インターンを含め約30名の規模になったという同社。今回は明賀さんが起業に至った経緯や、AI動画事業を大きく成長させたコツなどを伺いました。
大阪府枚方市出身。神戸大学卒業後、新卒で博報堂に入社。IP・PR・営業・IMCプランニング・マスマーケティングからデジタル戦略まで幅広く従事。2016年、社内ベンチャー「オールブルー」に出向。2019年、取締役就任。2022年、博報堂グループ史上初のMBO(マネジメント・バイアウト)を実行し独立。2024年、aicrew株式会社を設立し代表取締役に就任。
この記事の目次
起業した大きな理由は、代表をやってみたかったから

明賀:博報堂ではコンテンツビジネスと営業の部署を経験しました。営業にいた時、自分の権限で社内ベンチャーであるオールブルー社と仕事をすることが多かったんです。
オールブルーはクリエイティブに強く、コンテンツの扱いがうまいなという印象でした。尊敬する先輩や一番仲のいい同期もいましたし、出向するのは必然だったと思います。その後オールブルーは順調に業績を伸ばしていき、博報堂グループで初めてMBO(※)によって正式に独立しました。
※MBO(Management BuyOut:経営陣が自社の株式や事業を買い取り、経営権を取得する手法)
明賀:一番の理由は、代表をやってみたかったからなんです。当時僕は40歳手前で、40歳になるまでに自分の会社を経営してみたかったというのが大きいですね。
僕の友人には経営者も多く、代表という立場からしか実現できないことがあると思っていたんです。
新しいことに挑戦してみたいというのも、独立した理由のひとつです。オールブルー社は順調に業績を伸ばしていたのですが、僕としては一度きりの人生の中で、もっと刺激的な分野で、オールブルーとは違う事業で、新しいことに挑戦してみたいと思うようになりました。
明賀:ぼんやりあったという程度ですね。当時もAIは注目されていましたが、実を言うと僕自身はあまり好きではありませんでした。それまで博報堂やオールブルーでは人とのコミュニケーションが仕事の中心で、いわばアナログな信頼関係を構築していくのが好きだったので。ただ近いうちにAIの波が来るだろうと予測はしていました。
僕が独立した当時は、AI動画のクオリティがまだ高くなかったんです。それまでテレビCMなどのプロモーションを手掛けていたので、特に映像のクオリティを重視するクライアントと仕事をしていました。ですから、当時AIを自分で使うことは正直あまりイメージしていませんでしたね。
ただ、僕が独立して1期目の終わり頃に、生成AI動画のクオリティが大きく上がってきました。まだ企業が本格的に活用し始める前のタイミングでしたが、「ここは一気に市場が広がる」と感じたんです。広告や映像の現場を知っていたからこそ、どのレベルまで品質が上がれば企業が使い始めるかもイメージできました。
これなら、これまでお付き合いのあるクライアントやテレビ局や芸能事務所などにも自信を持って勧められるなと思いました。
オールブルーとは独立する時も良好な関係で、バッティングしない事業をしたいと思っていました。そういう中でAIを使った動画はオールブルーと被りませんし、これまでの強みも生かせる。早い段階からこの領域に入れたことは、その後の成長にかなり大きかったと思います。
ブートストラップが実現した理由のひとつは、AI動画ビジネスのキャッシュフローの早さ

明賀:僕の場合、1期目は「自分の中で何をやるかを定める」という期間でした。2期目が事業を始めてみて整える期間、3期目の今は、人を増やして売上を伸ばす期間というイメージです。
ですからですから1期目からAI動画をどんどん作っていたわけではなく、「自分の中で何をやるかを定める」ために最初は顧問業が中心でした。
引き続きオールブルーと関わりつつ、それ以外にも独立前にお付き合いのあった会社さんからお声がけいただき、顧問として関わらせていただく機会もありました。博報堂やオールブルー時代に培った広告・マーケティングの経験と、それまでのクライアントとの信頼関係が、独立直後の事業基盤になったと思います。
また、他のメリットはいろいろな会社を見ることができたことですね。僕自身、オールブルーと博報堂以外の会社を知らなかったので、経営者としての学びがたくさんありました。
明賀:僕も最初は、事業を起こすにはVCなどから資金を集める必要があるかなと考えていました。ただ僕の場合、「もうこの事業に命を懸ける」というものではなく、「これならいけるかな」という感じで始めました。ですから結果的にはスモールスタートになったわけです。
AI関連はスピードが大切だから最初から投資が必要、という考え方も当然あると思います。でも僕は事業がうまくいくか最初の時点でははっきりしていなかったので、多額の投資を受けられる感じではありませんでした。それに大掛かりな開発ではなく、すでにあるシステムを使おうと思っていましたので、自己資本だけで回せるかなと考えたんです。
もうひとつ外部からの資金調達をせずに軌道に乗った理由は、キャッシュフローですね。AI動画の制作はキャッシュフローが早いんです。動画制作は最初のオリエンテーションから納品までだいたい2~3週間でできます。早ければ1週間というケースもあります。ですから今月請求書を出せば、来月には入金されるわけです。これによって黒字を維持できたのも、自己資金だけでできた理由かなと思います。
スモールスタートという意味では、振り返ると、最初から大きな固定費を持たなかったことも大きかったと思います。正社員を大量に抱えるのではなく、まずは少人数で始めました。
独立当初は僕一人で、既存のお客様との信頼関係や、広告・マーケティングの経験があったので、小さく始めながら事業を伸ばすことができ、売上が伸びてきたところで1人採用しました。
クリエイターについては業務委託でお願いしていましたね。ちなみに、一番はじめに声をかけたAIクリエイターは業務委託期間でお互いが尊重し合えるビジネスを構築し、信頼関係を積み重ね、今はaicrewのCCOです。
明賀:2期目までで事業モデルが見えて、黒字を維持しながら案件も増えてきました。そこで3期目は、「今がアクセルを踏むタイミングだ」と判断しました。AI動画の市場が一気に広がる中で、ここで人材や組織に投資しなければ圧倒的トップランナーにはなれないと思ったんです。3期目になって一気に正社員を人を増やし、業務委託やインターン含めて20人以上の体制にしました。
正社員採用は今のところ全員リファラル(※知人などからの紹介)採用です。信頼できる人からの紹介ですから同じ空気感がありますし、僕がこれからやりたいと思うことに共感してくれる人たちが集まってくれています。結果的に採用にかかる費用も抑えられました。
AIを扱うからこそ「人間力」が大切。個性的なメンバーが大きな強み

明賀:AI動画だからこそ、人間力を重視しているところですね。AI自体はみんなに平等で、それを誰が扱うかによって全然結果が変わってくるのが、AIの面白さだと思っています。ビジネスの本質的な判断もまだまだ人間に依存します。
AI動画は成長分野ですから、これから競合が当然出てくると思います。そういう中で、僕らは1年以内にAI動画の分野で圧倒的ナンバーワンになっていきたい。その先のビジョンはもっと大きなものがあります。そのためには、まず圧倒的な数、圧倒的なクオリティが必要になってきます。ですからまずは制作数や導入数を増やしていき、高い品質を安定して提供できる体制が必要になります。圧倒的なアウトプットがあれば、それだけ信頼感・安定感につながりますから。
もうひとつナンバーワンになるために、動画をあらゆる分野に提供していこうと思っています。今では、動画は日本のほぼ全ての業界に関わるものになっています。AI動画を活用して、いろいろな業界の仕組みをアップデートしていけたらいいなと思っているんです。
例えば、AI動画は、障がいのある方にとっても、新しい仕事の選択肢をつくれる可能性があると思っているんですよ。AI動画を作る作業って、基本的に生成AIに文字を打つだけでそこそこのクオリティはすぐに作れるようになるんです。そんなAI動画の制作スキルを身につけていただき、その後の就労支援まで行う。こうした取り組みもできるのではないかと考えています。
他にも例えば政治・行政の領域でも、マニフェストや政策をAI動画によって視覚的に伝えることで、情報の届け方そのものをアップデートできる可能性があります。
また不動産で言うと、これまで不動産を買う時は間取り図と写真だけを見ることがほとんどだったと思います。でもAI動画なら実際に家族が暮らしている映像を作ることができます。売る側にとってもいい販促ツールになりますし、買う側もより具体的なイメージが湧きやすいというメリットがあります。
ただこれらを実現するには、人間力が必要なんです。コミュニケーション力や独創性を持ち、いろいろな分野に精通した多彩なメンバーがいてこそ、単なる動画制作ではなくストーリー性を持ったものができて、業界を変えるところまで目指せる。
弊社のメンバーには、アスリート、アイドル、映画プロデューサー、ダンサーなど自分の「好き」がはっきりしたさまざまなバックグラウンドを持つ人材がいるんですよ。例えるとゲームのドラクエとか漫画のワンピースみたいな感じでしょうか。いろいろな個性やスキルを持った人たちがいて、一見バラバラですが1つのチームとして同じ方向を向いて進んでいます。それぞれ得意なことは違いますが、お互いの強みや個性を尊重し合っているので、すごくまとまっているし、いい空気で仕事ができています。
まず挑戦してダメなら軌道修正する。このくらいの気持ちが起業には大切

明賀:経営で難しいと感じたのは、どのタイミングで事業をスケールさせるかの判断ですね。どこでアクセルを踏むか、ブレーキを踏むか、それぞれのタイミングを見極めるのが難しいと感じました。例えばメンバーを増やすというのも、アクセルを踏む作業のひとつです。
アクセルを踏むのが遅いと全速力にならない可能性もありますし、一方で早すぎたらエンストを起こしてしまう。ブレーキも同じで、踏むのが遅すぎても良くないし、早すぎてもチャンスを逃してしまう。
そういう時は、周囲の経営者の友人や知人に相談することが多かったですね。僕は基本的に人とのコミュニケーションで答えを見つけていくタイプです。人が好きで、いつも人と話している感じなので、よく周りの人に聞いていました。
明賀:先ほどお話ししたように、1年以内にAI動画の圧倒的トップランナーになり、その先のさらに大きなビジョンに向かって最速で進みたいですね。さらにAI動画を作るだけではなく、大手メディアと組んでカバー領域を広げていく予定です。いろいろな業界のアップデートや課題解決につなげて、aicrewらしい社会貢献活動も積極的に打ち出していきたいと思っています。
あとはAI動画を広げていくには、エリアを制覇することも大切だと思っています。今月ちょうど関西支社・福岡支社を立ち上げましたので、3拠点の体制になりました。拠点を自ら作るだけではなく、今後は地方経済圏をすでに持っている会社をM&Aして、よりエリアを広げていけたらいいなと思っています。
生成AIを使ったビジネスというと、オンラインで完結するイメージがあるかもしれません。でも僕らはAIだからこそ、人と人のコミュニケーションに重点を置き、人間味のあるやり方でエリアを広げていきたいと思っています。
明賀:「思いついたらまず始めてみる」ということが大切だと思っています。僕自身、起業する前、学生の頃から常に直感に従ってきました。迷ったら自分がいいな、かっこいいなと思う方向に進みます。やってみなければ正しいかどうかわからないじゃないですか。考え込んでいる時間は本当にもったいないと思うんですよ。
違うなと思えば軌道修正すればいいわけですから。試してみてダメでもそれが次に活きる。だからまずやってみることがすごく大切だと思います。起業家というとすごく特別な感じがしますよね。でも実際に起業してみて感じたのは、起業したり代表になったりすることは、特別ではないということです。
僕の場合、ちょっとやってみたら進んでいったという感じなんです。それが結果としてブートストラップという形につながりました。自己資金だけですから、軌道修正もやりやすい。
起業そのものにあまりハードルを感じすぎないでほしいですね。思いついたらまず試すくらいの気持ちでいいのではないでしょうか。
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