【やってみた】会社設立ソフトはどこまでできる?実際に使ってわかった設立後の注意点5つ
保険・役員報酬・社会保険料・仕訳など、設立後に迷いやすい実務を体験談ベースで紹介

会社設立ソフトを使えば、初めての方でも、登記までは驚くほどスムーズに進みます。ところが筆者の場合、設立が終わった後も「これ、どうすればいいの?」という場面が次々に出てきました。
具体的には、健康保険の切り替えや役員報酬の決め方、社会保険料の納付方法などです。会社設立ソフトは「どこで、何をやるべきか」は教えてくれても、「自分のケースでどう処理するか」までは自分で検討する必要があります。
この記事では、筆者が実際に設立後につまずいた5つの手続きについて、「何に迷い、どう調べて解決したのか」という順で紹介します。これから会社をつくる方が同じ場所で立ち止まらずに済むよう、実体験をもとにお伝えします。

日本大学文理学部卒業後、厚生労働省や不動産業界、保険業界で実務経験を積む。ハローワークで10年間の勤務経験があり、求職者・求人者双方の相談業務やマッチング支援を行う。ハローワークでの実務経験を活かして、社会保険や人事労務などの分野を中心に、これまで1200記事以上の執筆・監修実績あり。保有資格は1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。金融財政事情研究会会員。noteでも情報発信中。
この記事の目次
会社設立ソフトは想像以上にスムーズだった

会社設立ソフトを使った設立手続きは、専門知識のない私でも驚くほどスムーズに進みました。会社名・本店所在地・事業目的といった基本情報を、画面の案内に沿って入力していくだけで書類が整っていったからです。
実際に使ってみると、入力した内容に応じて必要な書類だけが自動で作成される仕組みになっていました。設立登記申請書や就任承諾書など、ゼロから自分で用意しようとすれば調べるだけで何時間もかかる書類が、フォーム入力の延長で完成します。
なかでも助かったのが定款(会社の基本ルールを定めた書類)の作成です。「初心者の自分でも大丈夫だろうか」と不安でしたが、実際には条文を自分で考える必要はなく、専門家への作成依頼まで画面上で完結しました。
ただし、設立後の具体的な実務は自分で調べる必要あり
会社設立ソフトは、「会社をつくる」ことに関しては手厚くサポートしてくれます。また、設立後に必要な手続きについて、「どこに・何を提出するか」まで案内をしてくれます。
ただ、その一つひとつを自分のケースでどう処理するのか、資本金の額をどう決めていつ支払うのかという実務判断までは教えてくれません。ここから先は、自分で情報を集める領域が残っていたのです。
会社設立後にわからなかった具体的な5つのこと

会社設立ソフトは、設立後に必要な手続きの一覧や提出先までは確認できました。
ただし、すべての手続きがスムーズに進んだわけではありません。一連の手続きの中では、経営者として調べたり、決定したりしなければならないことがあります。筆者が、会社設立後につまずいた具体的な内容を解説します。
1. 健康保険の切り替え(マイナ保険証)でつまずいた
会社の設立に伴って、国民健康保険から社会保険へ切り替える必要があるのは分かっていました。ただし、券面(カードに印字された情報)のないマイナ保険証だと、「どう手続きするのか」が正確に理解できていませんでした。
「年金事務所に任せてしまえばよいのか」「自分で何か行う必要があるのか」など、さまざまな疑問が生じました。
調べてわかったのは、年金事務所で社会保険の資格取得手続きをすれば、マイナ保険証の情報は自動で更新される点です。つまり、私自身が新しい保険証を発行する手間はありませんでした。
国民健康保険の脱退は、市区町村の窓口で手続きをすることなく、自動で行われました。後日、マイナポータルから自分の健康保険の状況をみると、国民健康保険から協会けんぽへと切り替わっていることが確認できました。※
※国民健康保険の脱退手続きが必要かどうかは、住んでいる市区町村に確認する必要があります。
更に詳しく起業したら社会保険加入をどうしたらいいのか知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
2. 役員報酬をいくらにすればいいのか分からなかった
役員報酬を税務上の損金にするには、原則として事業年度開始から3か月以内に金額を決め、毎月同額で支給する必要があります。この期間内に決めた金額を以降は同額で支給しないと、税務上の経費(損金)として認められません。
この毎月同額で支給する報酬を「定期同額給与」と呼びます。定期同額給与の改定は、原則として事業年度開始の日から3ヶ月以内に行わなければなりません。期の途中で増減させると、その差額分は損金にできず、税負担が増えてしまいます。
スポットで税理士に相談したところ、「設立当初は無理のない金額で設定するのが無難」「一人社員でも、役員報酬を決めた事実がわかる書類の作成と保管は必要」との回答を得られました。筆者の場合、「業務執行社員の同意書」を作成し、決定日・報酬額・適用開始月を記載しました。
起業した際の役員報酬の決め方について、更に詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてみてください。
3. 社会保険料をどう納めればいいのか分からなかった
社会保険の加入手続きの案内はあっても、実際の納付方法まではイメージできていませんでした。これまでは社会保険料が天引きされるか、届いた納付書の指示通りに納めていたためです。自分が会社の経営者になるのが初めてで、「経営者として社会保険料を納める」という全体の流れがイメージできなかったのです。
年金事務所に問い合わせたところ、まず新規適用の手続き後に年金事務所から「納入告知書」という請求書が届きます。納付方法は金融機関窓口・口座振替・電子納付の3種類で、法人ではクレジットカード払いはできません。
保険料の納付期限は翌月末日で、その日が休日にあたる場合は翌営業日となります。納付の手間を省くため、私は口座振替の手続きを選びました。
4. 資本金を払い込んだときの仕訳が分からなかった
資本金を払い込んだものの、帳簿にどう記録するか分かりませんでした。「個人口座への払い込みと法人口座への移動は、どう考えればよいのか」が、イメージできていない状況でした。調べたところ、設立時はまだ法人口座がないため、いったん発起人の個人口座へ払い込みます。
法人口座ができた後にその資金を移すので、設立時に発起人の個人口座へ資本金を払い込んだ時点では、会社側では「預け金/資本金」と処理します。その後、法人口座へ資金を移したときに「普通預金/預け金」と仕訳します。
ここで混同しやすいのが、創立費や開業費との区別です。これらは設立前後にかかった費用であり、資本金の払い込みそのものとは別の項目として処理します。実際の帳簿付けに関しては、会計ソフトでスムーズに行えました。
さらに詳しく資本金の移動や仕訳処理について知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
5. 登記完了まで時間がかかり、手続きのタイミングに迷った
ここで押さえておきたいのが、「設立日」と「登記完了日」は別物だという点です。設立日は登記を申請した日を指し、登記完了日は法務局での審査が終わった日を指します。
私の場合、2026年4月16日に登記を申請しましたが、実際に登記が完了したのは5月下旬でした。このずれのせいで、4月分の役員報酬や社会保険料をどう扱えばよいのか迷いました。
また、登記事項証明書は、法務局による登記が完了してからでなければ取得できません。法人口座の開設には登記事項証明書の提出が必要だったため、「役員報酬は2カ月分まとめて払ってもよいのか」「社会保険の加入日はいつになるのか」など、さまざまな疑問が生じました。
調べてわかったのは、役員の社会保険の資格取得日は、原則として就任日になるという点です。4月分から役員報酬が発生し、保険料も発生します。
なお、年金事務所に問い合わせたところ、「法人設立したタイミングでは、2~3カ月分の役員報酬をまとめて払うケースが実務上多いので、心配しなくてもよい」旨の回答を得られました。
筆者の場合、4月分を「未払金」として帳簿に計上し、後日まとめて支払う処理でも問題ないとわかり安心しました。
わからなかったことは総じて「運営・お金」のこと

5つを振り返ると、つまずいたのはすべて「設立後の運営・お金まわり」でした。会社名の入力や定款の作成といった「会社をつくる手続き」では、ほとんど迷っていません。
「会社を作る」手続きは、ソフトの案内どおりに進めれば完了します。一方で会社運営やお金まわりは、役員報酬の金額や保険料の納付方法のように、自分の状況に応じて判断する場面が多いのです。
だからこそ、ソフトの案内が及ばない領域が残りました。役員報酬をいくらにするか、保険料をどう納めるかは、どれも正解が一律ではありません。経営者である自分で考えて、決める必要があります。
わからないことがあったときの対処法

設立後にわからないことが出てきたら、相談先は大きく2つに分かれます。ソフトの操作や書類に関することはサポート窓口へ、手続きそのものに関することは管轄の役所へ問い合わせるのが確実です。
会社設立ソフトのサポートに質問する
ソフトの入力でつまずいたときは、まずサポート窓口を頼るのがおすすめです。書類のどこに何を記入するか、画面のどの項目が自分のケースに当たるかといった疑問は、サポートが的確に答えてくれます。
主要なサービスでは、メールでのサポートに加え、専門家への依頼まで用意されています。電子定款や設立手続きのサポートは専門家に依頼でき、操作に関する疑問はメールサポートも利用できるケースが一般的です。
ただし注意点があります。サポートが答えてくれるのは、あくまでソフトの使い方が中心です。役員報酬をいくらにするかといった経営判断そのものは、サポートの範囲外になる点に注意しましょう。
管轄している役所に確認する
手続きの中身に関わる疑問は、管轄の役所に直接聞くのが一番です。
問い合わせ先は内容によって分かれます。社会保険に関することは年金事務所、税金に関することは税務署が窓口です。健康保険の切り替えや国民健康保険の脱退は、お住まいの市区町村が担当します。
| 役所・窓口 | 主な手続き・対応内容 | 提出期限の目安 |
|---|---|---|
| 法務局 | 会社設立登記(設立はここで完了)、登記事項証明書・印鑑証明書の取得、印鑑カードの発行 | 設立日=登記申請日 |
| 税務署(国税) | 法人設立届出書、青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書など | 設立後2か月以内(青色申告は3か月以内等) |
| 都道府県税事務所(地方税) | 法人設立届出書(事業税・都道府県民税) | 各自治体の定め(おおむね設立後15日〜2か月以内) |
| 市町村役場(地方税) | 法人設立届出書(市町村民税)※東京23区は都税事務所が一括対応のため不要 | 同上 |
| 年金事務所(日本年金機構) | 健康保険・厚生年金保険の新規適用届、被保険者資格取得届、被扶養者届 | 設立後5日以内 |
| 労働基準監督署 | 労働保険(労災保険)の保険関係成立届、概算保険料申告書 | 従業員雇用後10日以内(概算保険料は50日以内) |
| 公共職業安定所(ハローワーク) | 雇用保険の適用事業所設置届、被保険者資格取得届 | 設置届は雇用日翌日から10日以内 |
| 金融機関 | 法人名義の銀行口座開設 | 任意(登記完了後) |
電話でも回答は得られますが、書類の書き方を確認したいときは窓口へ足を運ぶほうが確実です。担当者に実物を見せながら相談できるため、安心感があります。
まとめ
会社設立ソフトは、設立作業を大きく楽にしてくれる心強い味方です。基本情報を入力するだけで書類が整い、専門知識のない人でも迷わず登記までたどり着けます。
ただし「設立後にやること」は、別途自分で情報を集める前提でいたほうが安心です。今回つまずいたのは、いずれも運営やお金まわりの実務でした。
特に保険の切り替え・役員報酬・社会保険料・資本金の仕訳の4つは、事前に軽く調べておくと戸惑いが減ります。ソフトに任せきりにせず、設立後の流れも頭に入れておくと、スムーズに事業を開始できると感じました。
(編集:創業手帳編集部)
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