Mellow 石澤正芳|キッチンカーから始まった「移動型店舗」プラットフォームの軌跡

※このインタビュー内容は2026年08月に行われた取材時点のものです。

新たなインフラを目指す「SHOP STOP」の描く未来とは

街中でキッチンカーを見かける機会が増えたと感じる人は多いのではないでしょうか。この光景を仕組みとして支えているのが、株式会社Mellowが運営する日本最大級のキッチンカー・プラットフォーム「SHOP STOP」です。

全国1,400か所の出店スペースと4,500店のキッチンカーをつなぎ、年間15万回以上もの出店機会を生み出しているMellow。代表取締役社長兼CEOの石澤正芳さんは、2000年代初頭に自らキッチンカーを開業し、その後20年近くにわたってこの業界を一から作り上げてきました

今回は石澤さんに、起業の原点から立ち上げ期の困難、そして今後の展望に至るまで、詳しくお話を伺います。

石澤 正芳(いしざわ まさよし)
株式会社Mellow 代表取締役社長兼CEO
2000年代初頭、キッチンカー事業者の「個の強さ」に感銘を受け、空きスペースとキッチンカーのマッチング事業を立ち上げ、当時都内最大規模まで成長させる。その経験から移動販売ビジネスのDXに着目し、2016年株式会社Mellowを共同創業。2018年より代表取締役。社会にとってより良い持続可能な賑わい創出、ローカルコミュニティの再構築など、様々なステークホルダー視点を取り入れながら移動型店舗のプラットフォームを創造している。

SEから移動販売カフェを始めるまで

ー起業前のキャリアについて教えてください。

石澤:実家が東京の下町で町工場を営んでいて、いずれ家業を継ぐつもりでいたので、それまでは大企業でSEとして働いていました。当時はインターネットが普及し始めたばかりの時期で、人とのコミュニケーションがほとんどないまま、パソコンとサーバーに囲まれた部屋で明け方まで働く日々を送っていました。

ある徹夜明けの朝、出勤してくる人の波を窓の外に眺めながら、「組織の一部であること」に息苦しさを感じている自分に気づき、それをきっかけに会社を辞めて家業を継ぐことにしたんです。

ただ、家業を継いでからも、事業を広げていける実感は正直得られませんでした。ちょうどその頃、mixiのようなインターネット上のコミュニティが盛り上がっていました。その様子を見ながら、「それなら逆に、ネットの中ではなく実際に人と人が顔を合わせられる、リアルなコミュニティの場を作れたら面白いのではないか」と思うようになったんです。

SE時代からくすぶっていた「人と関わる仕事がしたい」「いろいろな人に出会いたい」という気持ちも重なって、家業とは別に、中古車をDIYしてコミュニティカフェの移動販売を始めることにしました。GPSで出店場所を発信する仕組みも取り入れていて、これが今の「SHOP STOPアプリ」の原型になっています。

行列を見て気づいた、キッチンカーの価値と出店場所の課題

ー実際にご自身でカフェの移動販売を始めてみて、手応えはいかがでしたか。

石澤:苦みにこだわったコーヒーを提供していたところ、次第に常連のお客さまがついてくださるようになりました。多くの方に受け入れられなくても、「これを求めていた」と思ってくださる数人のお客さまに届けば、事業として続けていけるという実感を得ましたね。

ただ同時に、営業場所を確保する難しさにも直面していました。道路上で営業を続けるのは法律上難しいですし、私有地を借りたいと思っても、どこの誰かもわからない個人事業者に、土地を貸してくれるオーナーはいませんでした。

そんな中、オフィスビルが立ち並ぶ虎ノ門のあたりで、信じられない光景を目にしたことがあって。お昼になるとビルから一斉に人が出てきて、路上で営業しているキッチンカーに一直線に向かい、行列を作っていたんです。周辺には飲食店もコンビニもあるのに、並んでまでそのキッチンカーで買いたいと思う人がこれだけいるのかと、衝撃を受けました。

人気のキッチンカーに共通していたのは、「旅行先で出会った味を再現したい」「自分がいいと思ったものを届けたい」といった店主の熱量にお客さまが惹かれていること。そして店主側もまた、お客さまの反応をその場で直接受け取れる、対面販売だからこそのやりがいを強く感じていました。この実感こそが、体力的にきつく安定とは言い難いビジネスを、彼らが続けられる理由なのだと気づいたんです。

ーそれほど魅力のあるお店が集まっていたのに、キッチンカーが一つの業界として広がっていかなかったのは、何が理由だったのでしょうか。

石澤:一番の原因は、営業できる場所を確保する仕組みそのものが存在しなかったことです。路上に停めれば取り締まりを受けますし、私有地を借りたくても、個人にはオーナーが土地を貸してくれません。つまり、正式に場所を借りるという手段自体が、ほとんど存在していなかったんです。

さらに当時はSNSもなく、参考になる情報もインターネット上に出回っていなかったため、お客さまが出店情報を得る手段も、開業したい人が参入するきっかけも見つけにくい状況でした。その結果、どれだけ魅力的なお店であっても、出店場所を確保できなければ営業を続けられず、廃業していく。そういう例を間近で何度も見てきました。

信用を得るために法人化を決意

ーキッチンカーが一つの業界として広がりきれずにいる状況を目の当たりにして、そこからどのように今のプラットフォームの構想へとつながっていったのでしょうか。

石澤:先ほどもお伝えしたように、ビルオーナーからすれば、素性のわからない個人のキッチンカー事業者に土地の利用を許可する理由がなく、直接交渉してもまず話を聞いてもらえません。

そこで、個人ではなく法人として動けば状況が変わるのではないかと考えました。実際、会社として出店交渉をすると、それだけでも話を聞いてくれる担当者は増えました。

ただ、それですぐに事業が軌道に乗ったわけではありません。当時はまだ、オフィスワーカーがキッチンカーでランチを買うという文化自体が浸透しておらず、担当者からは「あやしいお店なのでは」という目で見られることも少なくありませんでした。この状態から抜け出すのに、最初の2、3年はかなり苦労しましたね。

ー法人であれば話を聞いてもらえるとわかったのであれば、そのまま既存の事業体の中で続けるという選択肢もあったのではないかと思うのですが、なぜ独立して起業を?

石澤:事業部のままでは、会社全体の意思決定に合わせて動く必要があり、機動的に規模を広げるのが難しかったんです。全国に事業を広げていくには、自分たちの判断で外部から資金を調達できる体制も必要でした。そこで2016年、共同創業メンバーとともに株式会社Mellowを立ち上げ、独立した会社として意思決定と資金調達ができる体制を作りました。

ー会社を立ち上げた後、信頼を広げていくうえで、どのように動いていったのでしょうか。

石澤:ひたすら実績を積み上げていくことに注力しました。一か所で導入が実現したら、そこを利用するお客さまにどれだけ喜んでもらえているかを、次の交渉先に具体的に伝えていきました。

同時に、オーナーの方々に実際の出店の様子を見に来ていただいたり、キッチンカー事業者と直接顔を合わせる機会を作ったりすることで、決してあやしい存在ではないと肌で感じてもらう機会を増やしていったんです。

認知を広げていくうえでは、出店場所の選び方も工夫しました。1台だけが単独で出店するよりも、複数台がまとまって出店している方が、通りがかる人の目に留まりやすく、話題にもなりやすい。そのため、ある程度台数を集められる規模感のある場所を、戦略的に狙って交渉するようにしていたんです。

ー法律や制度の面でも障壁はありましたか。

石澤:今も向き合い続けている課題ではありますが、代表的なものが「公開空地(※1)」に関する制約です。

たとえばビルの前にある広場が、総合設計制度の許可に伴って設けられた公開空地である場合、自由に営業利用できるわけではなく、自治体の運用基準や個別の許可条件に応じた手続きが必要になります。

なぜその場所が公開空地として設けられているのか、制度ができた背景まで一つずつさかのぼって調べ、「この条件を満たせば、移動販売にも活用できるはずだ」という考え方を組み立てていきます。そのうえで、自治体やスペースオーナーと一件ずつ協議を重ね、必要な承認や手続きを得ていく。この調整には多くの時間と労力がかかりますが、それこそが私たちにとって解決したい課題でもあるので、地道に向き合っています。

※1 総合設計制度による公開空地:建築物の敷地内に、歩行者が日常自由に通行または利用できる空地を設けることなどにより、容積率や高さ制限の緩和を受ける制度によって整備された広場や通路のこと。

毎日違う車が来るから面白い。賑わいを設計するビジネスアイデア

ーSHOP STOPのサービス設計でこだわっている点を教えてください。

石澤:スペースを貸してくださるオーナーが真に求めているのは、キッチンカーが敷地内で営業することそのものではなく、周辺地域の賑わいや地域住民、近隣ワーカーにとっての利便性の向上です。

そのため、ただ空いている場所とキッチンカーをマッチングさせるのではなく、どんな店舗をどの場所に配置すれば街の賑わいにつながるのかまで考えたうえでマッチングし、運営しています。そして、出店するキッチンカーの売上の一部をいただき、その一部をオーナーにお支払いする、レベニューシェア(※2)に近い仕組みで運営しています。

ーただマッチングするだけでなく、配置や日程まで考えるとなると、運営の手間はかなり大きくなりそうです。実際にはどのように回しているのでしょうか。

石澤:おっしゃる通りで、これを人の手だけで回すのは現実的ではありません。だからこそ、会社を立ち上げる段階から、このスケジューリングをシステム化できるかどうかが事業のカギになると考えていました。私自身はプログラミングが得意な人間ではないので、それを実現できるメンバーと一緒に創業したんです。現場の実務を知る自分たちと、それをシステムに落とし込めるメンバーの力が合わさったことが、良いスタートにつながったと思います。

こうして仕組みを整えていく中で、サービス名にも変化がありました。実は「SHOP STOP」という名前は、創業当初から使っていたわけではありません。最初は「TLUNCH(トランチ)」という、ランチという言葉を含んだ名前で展開していました。

ただ、キッチンカー以外の移動型店舗にも領域を広げていくことを見据えたとき、「ランチ」や「フード」を前面に出した名前では、その先の広がりをイメージしてもらいにくくなります。そこで、バス停(BUS STOP)になぞらえて「お店の停留所」を意味する「SHOP STOP」という名前に変えました。私たちが一貫して大切にしてきたのは、お店が移動するというモビリティの力で、それまで何もなかった場所に新しい価値を生み出すことなんです。

※2 レベニューシェア:事業から得られた収益を、関係者同士であらかじめ決めた割合で分け合う仕組みのこと。

移動販売プラットフォームから「防災インフラ」へ

ー資金調達の状況について教えてください。

石澤2022年にはシリーズB(※3)ラウンドで、上場企業やCVC(※4)など9社から10億円の資金調達を発表しました。

移動販売というビジネスは、まだ成功パターンが十分に確立されていない領域です。だからこそ、社会課題の解決につながる想いやアイデアから生まれる個性豊かな移動販売車と、それを支えるプラットフォームが社会に必要だと、日本を代表する企業の皆さまに共感していただけたことは、大きな一歩だったと感じています。

ー「プラットフォームが社会に必要だ」という考え方は、他にどのような形で表れていますか。

石澤2019年に立ち上げた「フードトラック駆けつけ隊」も、その一つです。被災地を支援したいというキッチンカー事業者をうまく送り出せなかった経験から、平常時の出店ネットワークを災害時の支援にも生かせる仕組みとして取り組んできました。

2025年6月には、政府による「キッチンカーの災害支援登録制度」も始まり、私たちのこれまでの活動実績が、その制度設計にも役立てられています。

また、2026年7月に発生した令和8年熊本地震に対しても、発生から1週間後となる8月4日から支援活動を開始し、5日間で約2,000食を無償で提供しました。今回、さまざまな調整を経て発災から1週間というタイミングで動けたことに手応えを感じています。

※3 シリーズB:スタートアップの資金調達段階の一つ。事業がある程度軌道に乗り、さらなる拡大を目指す時期に行う調達のこと。

※4 CVC:「Corporate Venture Capital」の略。事業会社が自己資金でスタートアップに出資する仕組みのこと。

「起業家」を目指す前に、「実現したい未来」を描こう

ー今後Mellowとしてどのような未来を描いていらっしゃいますか。

石澤:まずは全国にSHOP STOPがある状態を作りたいですね。今は人が集中する主要都市のオフィスエリアでの展開が中心ですが、地方都市にも定着させ、食だけでなく、サービスを必要としている場所に移動型店舗を配置できるビジネスへと広げていきたいと考えています。

固定店舗では採算が合わず、シャッター商店街になってしまうエリアも、移動できる店であれば解消できるはずです。人がいる場所にサービスが届く仕組みを作ること、それがプラットフォームとしてのSHOP STOPの役割だと思っています。

社会インフラとして根付くには、まだ長い時間がかかると思います。ただ、その一歩一歩を積み重ねていくこと自体に手応えを感じていますし、だからこそ、これからも長期的にチャレンジを続けていきたいです。

ー最後にこれから起業を目指す読者へメッセージをお願いします。

石澤:私は最初から「起業しよう」と決めていたわけではありません。実際にキッチンカー事業者の方々と関わる中で、彼らが持つポテンシャルや仕事への熱量に触れ、この面白さを何とか形にして残したいと思うようになりました。その思いを実現する手段として、自然と起業にたどり着いたんです。

もし今、やりたいことがあるなら、起業はあくまでその手段の一つです。何を実現したいのか、どんな景色を見たいのか。そこさえ自分の中ではっきりしていれば、道のりが長くても、必ず前に進んでいけると思います。

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