法律事務所ZeLo/株式会社LegalForce 小笠原匡隆|AIで契約に潜むリスクをチェック!起業家にベストな弁護士の選び方

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年05月に行われた取材時点のものです。

スタートアップが気を付けるべき「契約書に潜む罠」とは?


海外の動きを察知し、いち早くリーガルテクノロジーに着目。小笠原匡隆さんは「テクノロジーで法務業務を効率化させたい」と大手法律事務所から独立し、2017年に角田望さんとともに法律事務所とスタートアップを創業しました。

代表取締役共同創業者を務める株式会社LegalForceでは、AIを駆使し、契約書に潜むリスクを素早く正確にチェックするAI契約審査プラットフォームなどを提供しています。

今回は、法律事務所ZeLo・外国法共同事業の代表弁護士でもある小笠原さんに、起業家が留意すべき法律問題や弁護士の選び方について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

小笠原 匡隆(おがさわら まさたか)
法律事務所ZeLo 外国法共同事業代表弁護士/株式会社LegalForce 代表取締役・共同創業者
2009年早稲田大学法学部三年次早期卒業、2011年東京大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2013年森・濱田松本法律事務所入所。
2017年法律事務所ZeLoを創業すると共に、AI契約審査プラットフォームなどを開発する株式会社LegalForceを創業。日本ブロックチェーン協会(JBA)リーガルアドバイザー。主な取扱分野は、ブロックチェーン・暗号資産、FinTech、IT・知的財産権、M&A、労働法、事業再生、スタートアップ支援など。
主な著書に『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務、2021年)、『Japan in Space – National Architecture, Policy, Legislation and Business in the 21st Century』(Eleven International Publishing、2021年)など。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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法律領域におけるITの役割

大久保:起業された理由を教えていただけますか?

小笠原:私は元々、森・濱田松本法律事務所という大手法律事務所で、弁護士として大企業の事業再生や知的財産、紛争解決の領域を担当していました。業務を行うなかで、起業家と出会ったことをきっかけに「スタートアップを盛り上げて新しいビジネスを後押しし、世界に進出する企業を作っていかなければ日本は成長していかないし、日本の未来は危ういのではないか」と考えるようになりました。

また、当時アメリカなどでAIを用いて法律業務を効率化するテクノロジーが出てきたことから、テクノロジーを用いて新しいリーガルサービスを創れば、スタートアップから大企業に至るまで、すべてのお客様に対して高品質なリーガルサービスを届けられるのではないかと独立を考えるようになりました。「今後、必ず日本にもそういった流れが来る。だったら自分たちでやってみよう!」と角田(法律事務所ZeLo副代表弁護士)と話し合い、2017年に独立し、法律事務所ZeLoと株式会社LegalForceを設立しました。

大久保:海外の動きからチャンスを見出されたのですね。

小笠原:そうですね。テクノロジーに重きを置いたローファームは競争優位に立てるんじゃないかという思いがありました。今後10年ほどの年月をかけ、テクノロジーを使って業務を効率化していく流れがメジャーになっていくと考えています。

大久保:法務領域におけるテクノロジーが担う役割と、人が担う役割について教えてください。

小笠原:現在の技術では、弁護士の仕事をすべてテクノロジーで置き換えることは、ほぼ不可能だと思っています。例えば、株式会社LegalForceが展開する2つのサービスは、どちらも契約書にフォーカスしており、「LegalForce」では、契約依頼の受付から契約書に潜むリスクの洗い出しまでを一気通貫でサポートすることで契約審査実務を強化できますし、「LegalForceキャビネ」では、締結後の適切な契約の管理とリスクマネジメントを強化できます。しかし、提示されたリスクを受け入れるか否かなど、ビジネス上どう意思決定をしていくかは、個別に人が判断していく必要があるんです。

法務領域におけるテクノロジーの役割は、煩雑な法律業務の一部をサポートすることにあります。複雑でクリエイティビティがある業務や訴訟対応、先進的な法務領域などは今後もずっと残っていくと思います。法律事務所ZeLoでは、「LegalForce」「LegalForceキャビネ」を活用して、法務部の体制構築を支援する「Legal Process Outsourcing(リーガルプロセスアウトソーシング)」のサービスも提供しています。

優秀なメンバーを採用するために

大久保:法律事務所ZeLoとは別に株式会社LegalForceを創業された理由は何ですか?

小笠原:独立当初は「テクノロジーを使って、次世代のトップファームを作っていこう」という思いが先行していました。「リーガルテクノロジーをどう活かすか」については、あまり定まっていなかったんです。しかし、契約書に潜むリスクを探し出すなど、AIで契約リスクの制御を可能にするには、優秀なエンジニアを登用する必要がありましたし、かなりの資金が必要でした。そこで、スタートアップエコシステムでサービスを構築し、エクイティファイナンスで資金を調達して急成長を目指すことでリーガルテクノロジーを世界に普及させたいと考え、法律事務所とは別にリーガルテクノロジーに特化した株式会社LegalForceを創業しました。

大久保:法律事務所と株式会社では、経営の仕方も変わるのではないでしょうか。

小笠原:全く違いますね。一番の違いは「外部投資家がいるか否か」という点です。法律事務所の場合は外部の投資家がいませんから、借入はあるものの、基本的には自己資本のみで事業を行っていきます。つまり、内部者がすべてのオーナーシップを持っていることになります。一方、株式会社LegalForceは株式で資金調達し、多くのVC(ベンチャーキャピタル)やエンジェル(投資家)に参入していただいています。そのため、イグジット(EXIT)することが義務づけられているといえますし、よりスピーディーな成長が求められます。

大久保:独立における最大のメリットは何だと思われますか?

小笠原やりたいことをやれることですね。独立するか否かの基準は、「今の法律事務所にいて、やりたいことをやれるか否か」だと考えています。大手法律事務所はすでに洗練されていて、質の高いリーガルサービスを提供することができます。しかし、何か新しいことに挑戦するには、いろんな人を巻き込み説得をして投資してもらうことが必要になる場面や、事務所を飛び出した方がやりやすいこともあります。どうしてもやりたいことを思いついたのであれば、実現するために独立するのも一つの手ではないでしょうか。

大久保:創業時を振り返り、起業の前にやっておいた方がいいことがあれば教えてください。

小笠原:実は私、起業時に貴社のセミナーに参加しまして、資金調達についての情報や方法など、大変勉強になりました。起業の際には、創業セミナーなどで起業のやり方や情報を一通り学んでおくことをおすすめします。

大久保:融資を受けるには1年目が断然有利ですからね。ちなみに、現在法律事務所ZeLoには多数の弁護士に加え、弁理士や司法書士も所属されていますが、どのようにしてメンバーを集められたのでしょうか。

小笠原:採用に関しては、徹底的にこだわるスタンスを創業当初から貫いています。特に弁護士の採用に関しては、「ビジョンに共感し創業者を超えるポテンシャルを有するか」を採用基準に入れています。理由としては、やはり次の時代のトップファームを作っていくという目標を掲げていますから、「人で妥協してしまったら、実現できるわけがない」と考えていました。とにかく自分たちよりも優秀なメンバーにオファーをし、口説き続けました。その結果、私たちのビジョンや実現したいあり方に対して「面白そうだ」と思ってくれる仲間が集まりました。

大久保:ベンチャーには、自分たちで組織をイチから構築していけるという魅力もありますよね。

小笠原:そうですね。2022年5月時点で、法律事務所ZeLoに所属しているメンバーは80名を超えましたが、「この先どう事務所を育てていくのか」に関しては大きな伸びしろがあります。自分たちで切り拓きながら事務所を作っていける点は魅力の一つです。

大久保:「自分よりも優秀な方にオファーをする」とおっしゃっていましたが、どのような点を重視して採用されているのでしょうか。

小笠原:現状の能力というよりも、ポテンシャルや伸びしろを重視しています。新任弁護士のリクルートに関してはインターンの期間を長く設けていて、課題を出したり、飲みに行ったりもします。インターン期間を通して、人となりや成長力をメンバー全員で見て判断しています。

難しい課題を解決していく過程を楽しもう


大久保:株式会社LegalForceのサービスについて、創業時の顧客獲得方法を教えてください。

小笠原:2018年にベータ版を作り、共同創業者の角田を中心に、大企業の法務部長などにサービスを提案したところ「面白いね!」と言っていただき、数十社のトライアル契約に繋がって「これはいけるな!」と手ごたえを感じました。その後、エクイティファイナンスをしてシステムの改良を重ね、トライアル契約を本契約に移行させていきました。各企業の法務の方々が、我々の試みを斬新だと感じ、背中を押してくださったのが大きかったですね。

大久保:最初はトライアル契約から始められたとのことですが、お客様の声を聞きながら製品を作り込まれたのでしょうか。

小笠原:今でもそうですが、お客様の声を聞きながらずっと改良を続けています。実は、創業当初、自分たちは「絶対いける」と思って作ったものが、お客様目線ではあまり必要ではなかったという失敗を経験しました。自分の思いを優先させるのではなく、お客様目線のいろんな声を集めて、しっかりと咀嚼して製品に落とし込むことは、サービスを提供していくうえで非常に大事なプロセスだと学びました。

大久保:サービスについてはお客様の声を聞くことが大切ですが、組織運営に関してはいかがですか?意見を聞きすぎてビジョンがブレてしまう懸念点もあるかと思いますが。

小笠原極力オープンな場で議論することを大切にしています。情報を共有し、意見を言える場を作ることを心がけていますね。また、オープンな場では言いづらい意見を集約するために、1 on 1ミーティングを頻繁に行っています。ただ、やはり変えるべきものと変えるべきではないものがあります。改善に必要な意見はなるべく取り入れながら、会社の成長や業績拡大にあたって、適宜意見を取捨選択し決定していくことが経営者に必要な素養だと思っています。

大久保:株式会社LegalForceに関しては、出資者などの思いも背負われていますよね。

小笠原:そうですね。法律事務所ZeLoも株式会社LegalForceも、どちらも期待やプレッシャーはありますが、難しい課題を解くのは、人生においてとても面白いことだと思います。「これはもうできないんじゃないか」という困難な課題に挑戦するとみんなの力を結集しなくてはいけないし、自分も考えを絞り出さなくてはいけないからこそ、実現できたときは格別面白いんです。法律事務所ZeLoでは、クライアントのために次世代のリーガルサービスをどう生み出し、優秀なメンバーが面白く働ける環境をどう創れるか、株式会社LegalForceでは、お客様やVCに応えるべくどう急成長をしていくのか、それぞれ違った難しい課題が置かれていて、課題を解いていくのは非常に楽しいですね。

大久保:ゲーム的要素を見つけて楽しんで仕事をしていくことも大切ですね。

起業家が気を付けるべき法的問題とは?

大久保:企業がLegalForceを導入することで実現できることは何でしょうか。

小笠原:株式会社LegalForceでは、「全ての契約リスクを制御可能にする」をミッションに掲げています。契約書に潜むリスクを可視化することで、契約上のトラブルや紛争を回避できますし、適切に契約の交渉を行うことができるようになります。また、人手も時間も必要だった企業の契約審査業務を、最先端技術と弁護士の法務知見を組み合わせた「LegalForce」を使うことによって、スピーディーに行うことができます。会社や法律部の規模を問わず、様々な企業や法律事務所に導入していただいており、2022年3月現在での導入社数は2,000社を超えています。

大久保:起業家が特に気を付けるべき法的問題があれば教えてください。

小笠原:特にスタートアップは注意すべき点が多いのですが、ビジネスモデルが先進的であればあるほど、法的な枠組みも複雑になります。「このビジネスは日本の法規制上想定されているのか」「この事業形態は日本の法律で許容されているのか」という点に関しては、創業前に必ず法律家に意見を聞き、違法ではないと確認することをおすすめします。仮に、事業を開始した後に違法だと発覚すると、大きな負債を抱えることになりますし、ビジネスモデルを抜本的に変える事態に陥ります。特に先人のいない斬新な事業を始める際は、必ず最初に確認しておくべきです。

大久保:代表的なものとして、投資契約や秘密保持契約(NDA)、業務委託契約、雇用契約などが挙げられますが、特に注意すべきことがあれば教えてください。

小笠原:例えば、エクイティファイナンスで資金を調達する場合、最初はミニマムな額かもしれませんが、投資契約や株主間契約の内容をしっかりチェックしておく必要があります。起業家に不利な比率を課している場合もありますから、契約書の内容に公平さを欠く点がないか、必ず法律家に相談した後に契約を締結することが重要です

スタートアップに合う弁護士の選び方


大久保:弁護士を選ぶコツがあれば、教えていただけますか?

小笠原:設立当初は、資金調達や登記、商標登録、ビジネスモデルの構築など、やらなくてはいけないことが多岐にわたります。それらをトータルでサポートできる法律事務所を選ぶことが大切ですね。また、流動的に変化していくビジネスでは、ビジネスモデルや情報を常にキャッチアップしている弁護士に相談することが大事です。例えば、先進的な事業モデルに対して「実現は難しいと思いますよ」と対策案を考えることなく断言してしまう弁護士よりも、ビジネス視点で「この部分をこう変えればできるんじゃないか」といった提案ができる弁護士に相談するといいですね。

大久保:そもそも、起業家やIT系の人は先鋭的なので、柔軟に新しい概念を理解し相談に乗ってくれる弁護士でないと難しいですね。

小笠原:常に情報をキャッチアップできる弁護士でなければ、なかなか会話が噛み合わないこともありますね。例えば、「Web3.0(ウェブスリー)に関する事業をやりたい」と相談しても、「え?Web3.0って何ですか?」といった感じでは、相談内容を正確に理解してもらうことは難しいでしょうし、起業家が求める回答も得られないでしょう。日々、情報をキャッチアップして、新しいことを面白いと思える弁護士を探すのが非常に重要ですね。

なお、法律事務所ZeLoでは、弁護士だけでなく弁理士や司法書士、海外の弁護士資格を持つメンバーも所属しています。スタートアップ支援に特化したサービスを構築していることが強みです。

大久保:医師同様、弁護士にも専門分野があるのですよね。

小笠原:そうですね。専門分野を確認しながら、自社に合う弁護士や法律事務所を探されるといいでしょう。また、スタートアップを数多くサポートしている法律事務所には、パターンごとの知見が蓄積されています。成功事例はもちろん、アンチパターンなど、ビジネスモデルに潜む潜在的なリスクも把握していますから、失敗のリスクを軽減するアドバイスも期待できると思います。スタートアップの場合は特に、多くの起業家をサポートしている法律事務所に相談することをおすすめします。

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(編集:創業手帳編集部)

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