少ない資本金で起業は大丈夫?本当に必要な金額とは
「起業できる=企業として継続できる」ではない!少額資本金でも資金繰りについては考えておこう
資本金1円からでも起業できるようになり、起業のハードルはずいぶんと下がりました。少ない資本金しか用意できなくても法人として起業することは可能です。ただし、起業できることと、会社として存続し続けることができるかどうかは全くの別の話です。
利益を出しながら経営して、長く会社を存続させるには少額資本金では困難なケースが多いです。少ない資本金で起業した場合でも、起業してからの資金繰りについてはあらかじめ考えておく必要があります。
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
会社法改正により1円でも会社がおこせるようになった
会社法の改正によって、資金面での起業のハードルは低くなりました。政府も企業をサポートしているため、ビジネスにつながるようなアイディアがあればすぐにでも起業してビジネスを始めることができるでしょう。
起業が増えることで会社設立を代行する会社も増加して、より簡単に会社をおこせるようになっています。はじめに会社と資本金の関係についておさらいしておきましょう。資本金の決め方やその性質についてまとめました。
そもそも資本金って何?
起業して法人を設立する場合、資本金の払い込みが必要です。資本金は企業を運営するための資金。会社が自由に使うことができるお金です。勘違いされることもありますが、銀行からの融資などの借入金はいずれ返済しなければいけないため、資本金とすることはできません。
会社を設立するときに作成する定款には、会社の資本金の額も記録されます。資本金の払い込みが終わらないと法人の設立手続きは完了しないため、あらかじめ設立費用として資本金を準備しなければいけません。
資本金はどうやって決める?
会社設立時の資本金の手続きは具体的には、法人名義で開設した銀行の預金口座に資本金を振込み、その明細を提出します。この振り込んだお金は企業を運営するときに使う運転資金にすることができます。
法人として安定した利益を出せるようになるには時間がかかります。商品を開発したり、宣伝したりといったビジネスが軌道にのるまでの費用として資本金を活用することが多いです。
法人として起業するときの資本金の金額は1円でも構いません。資本金が1,000万円以上ないと会社設立できなかった時代もありますが、今の法律では資本金の最低限度の金額が定められていません。そのため、資本金1円の株式会社や合同会社も設立することができます。
資本金1円でも起業のコストはかかる
現行の法律に従えば、資本金1円でも法人を設立することができます。つまり、ほとんど資金がなくても会社をおこして社長になることができるのです。
ただし注意しなければいけないのが、実際の会社設立には手続きなどでまとまったお金がかかるということです。
登録免許税など
株式会社なのか、合同会社なのか選ぶ会社の形態によっても違いますが、株式会社の場合は登録免許税が最低でも15万円必要です。さらに会社設立時には定款を作ることになるため、定款謄本手数料として2,000円程度、加えて定款認証に5万円かかります。また電子定款でない場合は、収入印紙代として4万円かかります。
合同会社の場合は定款の認証手数料がかからず、登録免許税が6万円ほどかかるため、定款謄本手数料として2,000円程度、収入印紙で4万円ほどかかります。
株式会社でも合同会社でも電子定款であれば収入印紙代はかかりません。ただし、専門家に依頼した場合は別途費用がかかります。
印鑑代
上記以外の費用として法人用の印鑑を作成する際も費用がかかります。定款への押印や法人口座を作るときに法人用の印鑑が必要です。実務上、実印が1本だけしかなくても問題はありませんが、紛失などのリスクを避けるために実印とは別に角印や銀行印を用意することが一般的です。
印鑑の値段はピンキリですが、一般的には2~3本セットで数千円から数万円程度かかります。
このように設立手続きで必要なコストだけでも、合計すると最低でも10万円程度は費用を用意しなければいけません。
資本金の額で変わること
資本金は開業資金や運転資金に使われる以外にも、意味があります。それは社会的信用です。
起業してから運転資金や新規事業資金として銀行からの融資を受けることもあるでしょう。資本金には、内部留保、会社のもしもに備えるために蓄えておく資金という意味もあるため、資本金が少ないと信用面で劣ると見られてしまうことがあります。
その結果、直接でなくても融資を受ける際に少額資本金だと不利になる可能性もあります。逆に資本金が潤沢であれば、取引先や株主、債権者にとっても安心感があります。
ここぞというときに融資を受けられないと、ビジネスチャンスを逃したり、会社経営が危うくなってしまうことがあります。
今後取引先や顧客を増やしていくためにも、資本金はある程度あったほうが有利と言えます。
少ない資本金でここが困った!考えておきたいパターンを紹介
資本金が少額で問題になるケースは、決して珍しいことではありません。具体的にはどのようなパターンがあるのか例を挙げて紹介します。
少ない資本金ってどのくらい?
少額資本金という言葉は明確な定義があるわけではありません。銀行が融資の審査をする場合も、銀行によって審査基準が違うため、いくらから少額資本金とはっきりと断言はできません。
ここではあくまで一般論として10万円未満、つまり1円会社から数万円くらいをイメージして紹介します。起業時にコンサルタントや税理士を利用する場合は、どの程度だと少額と思われるか、相談すると良いでしょう。
資本金が少ないと法人口座が作りにくい?
少額資本金で起業する問題点として、まず挙げられるのが資金面からみた信用力の低さです。メガバンクや地方銀行など銀行によっても違いますが、少額資本金だと法人口座が作りにくい場合があります。
これは会社の実態や信用性が疑われて審査が通らないためです。各銀行が資本金いくら以下から開設不可と開示しているわけではありませんが、地方銀行や信用金庫、メガバンク問わず、少額資本金は審査が通りにくいのが実態です。
銀行側は、法人口座が悪用されるリスクもあるため、運営している実体がない会社や単なる箱として作った会社ではないかと確認が必要になる場合も。資本金が少なすぎると会社としての実態を疑われてしまう可能性があるのです。
小さく始めたければ地方銀行や信金を活用
創業者の中には小さい事業規模からスタートして成長を目指したい人も多いでしょう。そのような場合は創業支援に積極的な地方銀行や信用金庫であれば口座を作りやすいことがあります。
創業時は事業や売り上げ規模が小さいため、いきなりメガバンクで口座開設しようとするのは基本的に難しいと考えてください。銀行の審査の基準は明かされていないため、断言はできませんが、資本金が少ないことは不利な要因として捉えられることが多いです。
少ない資本金だと増資が難しい?
少額資本金で起業してもその後、増資して資本金を増加させればいいと考えている人もいるかもしれません。事実、法的には会社を設立してすぐに増資することは可能です。しかし現実的には起業後の増資は考えているよりも困難なことが多いです。
増資の難しさは資本金が少ないことと直接関係しているわけではありません。増資には基本的に払い込み先となる法人口座が必要です。しかし、資本金が少ないことが原因で法人口座を作れなければ、増資という手段を選べないのです。
もちろん増資して資本金が増えれば銀行口座が作れるでしょう。しかし、その増資のための口座がないため増資するすべがない、結局手詰まりとなってしまいます。
方法として法人への貸し付けや現物出資を利用するテクニックもありますが、これはあくまで打つ手がない時の苦肉の策でしかありません。税理士などの専門家の助けなしに、対処するのは現実的ではありません。
少ない資本金で身動きが取れなくなる負のスパイラルとは?
少額資本金が原因で、経営や運営に支障をきたすのは、今までに説明した負のスパイラルが原因です。法人口座が作れず、着金ができないことで、目的であるはずのビジネスがスタートできないという本末転倒に陥ってしまいます。
上記の負のスパイラルを避けるために、例外的に法人が代表の個人口座を指定する形で取引できないことはないとも考えられます。ただし、この方法だと法人が使う口座なのに口座名義が個人になってしまいます。
法人名と口座名義がバラバラになってしまうことで、法人として信用できない印象になってしまうリスクがあります。そのため一般的には、個人口座を法人口座として流用することは選択肢には入れません。
ビジネスとして戦うためには少ない資本金での起業は不利
ビジネスでお金はあるに越したことはありません。少ない資本金で起業するデメリットとして挙げられることは社会的信用以外にもいろいろあります。
資本金は、営業開始前の創業資金のほか、運転資金、トラブルなどリスクに備えるための資金として使うことができるお金です。
コンサルタントなど自分の技術を売り物に起業する場合もありますが、小さくてもオフィスや機器を用意する場合は資金が必要です。飲食店や小売店の場合は仕入れに使うお金も必要になります。
黒字倒産に注意
会社の運転資金はある程度の余裕が必要です。多くのビジネスでは利益よりも先に費用がかかります。
販売業であれば、売上げが上がるよりも前に仕入れやテナント料、光熱費、人件費の費用がかかります。また売掛金、受取手形などの売上は利益は出ても、実際にお金を受け取るのは先になるため資金が不足してしまうことがあります。
利益が出ていても倒産してしまう、いわゆる黒字倒産はこのようなキャッシュフローの悪化や売上金回収のタイミングが悪いことが原因で起こります。
またビジネスの効率、スピードをアップさせるためにも資金は必要です。例えば売上げを効率よくアップさせるには、宣伝や広告、営業力が必要です。しかし、最低限の自己資金しか用意していない場合だと、宣伝に費用を割くのも難しくなってしまいます。
潤沢な資金があれば優秀な人材を雇ったりアウトソースしたりと経営の選択肢も増えます。優秀な人材を用意するにもお金が必要なのが現実です。
事業は始めてみるまで分からなかったコストがいろいろな場面でのしかかります。起業した人からも百万円単位のお金がすぐに無くなるという声がありました。
利益が安定するまでに用意した初期資金はすぐに枯渇することを覚悟しましょう。ビジネスを有利に戦うためにも資金は潤沢に用意するに越したことはありません。
まとめ
資本金を少額しか用意できない状態での起業は一般的におすすめできません。ただし、絶対に避けるべきというよりも、リスクを理解して慎重に検討すべきと考えてください。
資本金の重要性があまりイメージできていない人も『資本金=会社の体力』と考えれば理解しやすいはずです。
資本金は多いほうが審査に有利に働くため、借入可能額にも影響します。創業してプロモーションにお金をかけたい、ビジネスチャンスに仕入れを増やしたいときに少しでも多くの融資を受けられれば、その後のビジネスも変わってくる可能性もあります。
事業計画を実現できるだけの資金が用意できていないなら、まだ起業のタイミングではないのかもしれません。働きながらでも事業計画を立てて起業資金を用意するくらいの準備期間は最低限必要と考えるべきです。
どうしても自己資金が用意できない場合もさまざまな手段があります。創業時に創業のための経費の一部を補助してもらえる創業補助金や創業プランを応援する補助金などもあります。また、税理士など専門家からのアドバイスを受けながら進めるのも有効です。
創業手帳が発行する資金調達手帳は、融資の受け方など資金についての情報が満載です。起業して間もない時期の資金面の情報サポートにぜひお役立てください。お取り寄せは無料です。
(編集:創業手帳編集部)