【第二回】「起業家知事」が進める、広島県の5つのイノベーション改革

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年02月に行われた取材時点のものです。

広島県知事 湯崎英彦氏インタビュー(2/2)

(2016/01/07更新)

2009年に広島県知事に就任以降、改革に熱心に取り組んでこられた湯崎英彦氏。 経済においては、「イノベーション立県」の実現というビジョンを掲げ、新たな産業及び基幹産業の育成・発展に力を注いでいます。自身もシリコンバレーのベンチャーキャピタルで学び、自ら設立した会社をIPO(新規株式公開)まで育て上げた視点や考え方が、創業支援も含めた施策にどのように活かされているのか、お話を伺いました。

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【第一回】「起業家知事」が語る、広島県のイノベーション改革3つのポイント

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湯崎英彦(ゆざきひでひこ)
1965年広島市佐伯区生まれ。東京大学 法学部卒業後、通商産業省 入省。1995年 スタンフォード大学経営学修士(MBA)取得。1998年 米国ベンチャーキャピタル イグナイト・グループ出向。2000年に通商産業省を退官し、株式会社アッカ・ネットワークス設立。2008年同社取締役を退任し、Office Y(アドバイザリー/コンサルティング業務)設立。2009年広島県知事に就任。

“広島発”のイノベーションに向けて

ー第一回記事で「計画を立てることが大切」というお話がありましたが、「イノベーション立県」の計画において、具体的にいつまでにこういうことを目指す、というゴールを決めていらっしゃいますか?

湯崎:「イノベーション立県」のゴールは、イノベーションが沸々と、次から次へと沸き起こってくる地域になるということです。その中で起業は一つの形態であり、既存の企業が新しいものを生んでいくこともまた一つ。起業にせよ、既存企業にせよ、オーナー企業の第二創業的なものにせよ、“広島発”で新しいものがどんどん生まれてくることが大事だと考えています。

それに対して、具体的な期限は設けていません。目指すビジョンも、そこに至る道筋も少し大雑把な面があり、事業計画のように進めることは難しい。ですから、「創業を促進する」、「人材の蓄積を作る」、「産学連携してオープン・イノベーションを進める」など、いくつかのブロックに分けて、それぞれが発展するように取り組んでいます。

ー「イノベーション立県」の実現に向けた具体的な施策というと、どのようなものが挙げられますか?

湯崎:まずは“人材育成”と“人材確保”。人材育成では、社会人に高度な研修を受けていただく取り組みです。典型的なものでは、大学院の学位取得の推奨〈※〉。県立広島大学では、2016年度から「MBA(経営専門職大学院)」が開講することになりました。また今年度から次世代の経営層の育成を図るため「ひろしまイノベーションリーダー養成塾」なども始めており、産業人材の育成に役立てたいと考えています。

広島県未来チャレンジ資金…大学院等専門課程で高度な知識を身につけ、「将来、広島県内企業等で働きたい」という人に対して、修学に必要な資金を無利子で貸し付ける制度。課程修了後9年間のうち,広島県内企業等で8年間就業すると貸付金全額の返還を免除(一部返還免除もあり)。

広島県イノベーション人材等育成補助金…県内に本社または本店を置く中小企業及び中堅企業が、社員を国内外の大学・企業・研修機関等へ派遣する取組に要する経費の一部を補助。大学院の学位取得に加え,知識・技術習得のための大学・企業等派遣も対象。
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人材、特に即戦力の確保という面では、首都圏等に集中している経験豊富な人材を県内企業に確保し、「ひと」と「しごと」の好循環を生み出すことを目的とした「プロフェッショナル人材マッチング支援事業」をスタートさせました。具体的には、県内の受入企業の掘り起こし、人材紹介会社と連携したマッチング支援、さらには受入企業への給与費等の一部助成などを行っています。

教育という面では社会人だけでなく、中学・高校からグローバルな視野を持った人材を育成するための「学びの変革」に取り組んでいます。こうした動きは今後、幼稚園や小学校へも広げていきます。

“創業を増やす”ための施策もいろいろな側面から行っています。(公財)ひろしま産業振興機構に「ひろしま創業サポートセンター」を設置し、創業希望者に各種セミナー等による集中指導を実施。創業の際には、中小企業診断士、公認会計士等からなる創業サポーターが事業計画策定から会社設立・経営まで最大2年間の一貫したアドバイスを行っています。また地元金融機関と連携し、創業支援融資など資金需要への対応を図っています。この結果、これまでの2年間で目標を超える674件の創業を達成しました。

既存企業のイノベーションで課題としているのは、やはり“産学連携”。特定の研究テーマ、例えば自動車産業などではマツダを中心に新しい動きが出てきていますが、もっと幅広い分野で深い連携を目指していきたい。また個別の産業で言えば、医療機器、航空機、環境、感性工学などの集積・振興に力を入れています。

広島をチャレンジの場に

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ー県内の起業家やスタートアップ企業に期待することは?

湯崎:社会的課題はいっぱいあるので、それを解決するためにどんどんチャレンジをして欲しい。第二創業においても、今ある技術や持っているものを新たな分野に応用していくことにチャレンジして欲しいです。

ー県外の起業家、今後広島を拠点にした活動を視野に入れている方々へのメッセージもいただけますか。

湯崎:地方で頑張っておられる方は、その地方で力を発揮して欲しいという思いがあるので、特に首都圏の方々にぜひ来て欲しいと思います。起業などに取り組むとワークライフバランスが崩れがちになるし、高いコストも必要になります。

その点、広島は住環境が良いし、人件費などのコストも抑えられる一方で、非常に優秀な人材のベースもあります。特にものづくり系に関わることであれば、知識、技術、サービスなどの蓄積も豊富で、リソースとなる企業のネットワークもあります。

また、2015年12月に「国家戦略特区」への指定も決まりました。日本の足場という観点から言うと、広島は外国のエキスパートが来ても非常に暮らしやすい。東京が優れている面もありますが、生活環境では広島の方が、海外の人が住んでいる環境に近いのではないでしょうか。ビザ要件の緩和や家事支援外国人の受け入れなどが実現できる予定ですので、優秀な海外人材の確保も積極的に図っていきます。

世の中に必要な「女性の力」

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ー湯崎知事は、都道府県知事として初めて育児休暇を取得した“イクメン知事”としても知られています。弊社では「創業手帳woman」を併せて発行していますので、女性起業家に向けても何か一言いただけますか。

湯崎:女性の方が、というと語弊があるかもしれませんが、柔軟で優秀な人が多いですよね。男性の方がまだまだ、ライフタイム エンプロイメント(終身雇用)の神話に縛られている部分もあるので。今でこそ、起業してメインストリームとなる人もでてきていますが、まだまだ優秀な人ほど大企業のコアな部分から出てこないことが多い。

女性はそういうところを超越して、優秀な人がどんどん出てくるので、別の企業に再就職する以外に、起業が一つの選択肢になり得ます。いろいろなことに柔軟に取り組む傾向が強い点も、起業に向いていると思います。男性はやたら気負い過ぎるか、逆にいい加減になってしまうようなところがありますが、女性は気負わず自然にこなせる人が多い。そうした力がこれからの世の中にもっと必要になってくると感じています。
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(取材協力:広島県知事/湯崎英彦)
(取材:創業手帳編集部)

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