帳簿をつけてない個人事業主でも大丈夫?リスクと今すぐできる4つの対策
記帳義務・加算税・税務調査対応まで、状況別に徹底解説

「売上げはあるが帳簿はほとんどつけていない」「確定申告は済ませたが帳簿の作り方がわからなかった」——こうした悩みを抱える個人事業主は少なくありません。
帳簿の未整備は即座に罰則を受けるわけではありませんが、税務調査や申告のタイミングで深刻なリスクに直結します。
この記事では、記帳義務の法的根拠から、帳簿がない場合に発生する具体的な金銭的リスク、状況別の対処法、そして今日から始められる実践的な対策まで解説していきます。
これから独立して会計処理を始める人もぜひ参考にしてください。
この記事の目次
そもそも帳簿は「義務」なのか?

帳簿をつけていなくても、利益があれば事業は継続できるし問題ないと考えている人もいるかもしれません。
しかし、一定以上の所得があれば原則として毎年確定申告をする義務があります。
確定申告は、青色申告と白色申告に分けられます。青色申告は、税制優遇を受けられる一方で複式簿記での記帳が義務です。
ただし、白色申告者であっても所得税法上の記帳義務があり、どちらを選んでも事業所得・不動産所得・山林所得を生ずる業務を行って一定以上の所得があれば帳簿を付けることになります。
税務調査では、仕訳帳や総勘定元帳などの証憑書類が確認されます。
帳簿の提示を調査で求められて提示できなくても、すぐに罰則が科されるわけではありません。しかし、提示できない場合は加算税が加重されるリスクがあります。
令和5年分の申告所得税からは、帳簿不提示・記載不備に対する加算税の加重措置が新たに施行されており、記帳義務は以前より厳しく強化されるようになりました。
個人事業主が帳簿をつけていない場合のリスク

帳簿をつけていないことは、売上げや経費の根拠を示せないことを意味します。
税務調査で売上げや経費の根拠を示せない場合には、売上げや経費が否認されてしまう可能性もあります。
足りない分の所得税を支払うとともに、過少申告加算税として新たに納める税額の10〜15%が追加で課されるリスクもあるので注意してください。
令和5年度の申告分からは、帳簿の提示等をしなかった場合や売上記載が本来の2分の1未満だった場合には、過少申告加算税・無申告加算税の割合がさらに10%加重される仕組みになりました。
青色申告の承認を受けている場合は、帳簿要件が設定されています。
帳簿をつけていなくて要件を満たさない実態が調査で判明すると、最大65万円の青色申告特別控除の適用を失うリスクがあるのです。
税務調査で帳簿や証拠書類が揃わない場合には、税務署が同業他社の平均的な利益率を用いて課税額を算定する推計課税が適用されることがあります。
そのため、実際の所得より高く課税されるおそれもあります。
帳簿をつけないことによって、税制の優遇を受けられなかったり本来の税額よりも多く支払わなければならなかったりと、経営に直接ダメージを与えるかもしれません。
【状況別】あなたはどのケース?

今まで帳簿をつけていなかった人は、すぐにでも帳簿付けを始めましょう。
確定申告前か後か、税務調査の通知が届いているかどうかによって、取るべき対応は大きく異なります。
最も効果的な対策を選ぶために、まずは自分の状況を正確に把握してください。
ケースA:確定申告前で、帳簿がまったくない
まだ確定申告の期限前であれば銀行通帳やカード明細を手がかりにして、帳簿を遡って整備する方法があります。
申告に間に合わせることを最優先にして取引きや経費の記録を確認してください。
大量の帳簿つけは大変と考える人もいるかもしれませんが、会計ソフトの一括インポート機能を活用すれば金融機関のCSVデータから短期間で帳簿の骨格を作ることができます。
確定申告前に帳簿を整理するために現実的な方法なので、これをきっかけに導入を検討しましょう。
ケースB:申告は済んだが帳簿を作っていない
確定申告が完了していても帳簿の保存義務は継続しています。青色申告の場合には、原則として7年間の保存で、一部の書類は保存期間が5年間です。
白色申告者であっても法定帳簿を7年、そのほかの書類を5年保存する義務が所得税法上課されています。
確定申告を終わらせていたとしても書類の保存義務はあり、税務調査で提示を求められる場合もあります。
調査の事前通知が来る前に自主的に帳簿を整備することで将来の調査リスクを大幅に軽減できるので、速やかに記帳環境を整えるようにしてください。
また、帳簿を整備する中で申告内容の誤りに気づいた場合は事前通知前に修正申告を行うことで、過少申告加算税がかかりません。
ケースC:税務調査の通知が来てしまった
確定申告も終わり、税務調査の事前通知が来た場合でも更正を予知する前の修正申告であれば、通常の過少申告加算税(5%または10%)で済みます。
調査開始日時までに帳簿を準備して遅滞なく提示できる状態にしておけば、加算税10%加重措置を回避できる可能性があります。
どうすればいいのかわからないからと何も対策せずに当日を迎えるのは避けてください。税理士に早急に相談して対応方針を決めるようにしましょう。
当日までに可能な限り情報を集めて、帳簿の有無や証拠書類の状況を専門家に正確に伝えることが調査結果を左右します。
ケースD:何年も放置している(複数年)
税務調査は原則3年遡及、不正が疑われる場合は7年まで遡られることがあるため、複数年の未整備であるほど調査されることでリスクが拡大する深刻な状態です。
複数年分の会計処理を整備するには膨大な作業量が必要となります。
自分だけで対応できる分量には限界があります。税理士に依頼して優先順位を付けながら計画的に遡及整備を進めてください。
今からできる!過去の帳簿を遡る手順

過去の取引きを再現するためには、公的・私的を問わず残存する記録をかき集めることが出発点です。
以下の5ステップを順に実行することで、帳簿のない状態から申告に耐えうる記録を整備できます。
ステップ1:銀行通帳・入出金明細をダウンロードする
ビジネスのやり取りを調べるには、金融機関の入出金明細を照会してください。事業用口座の通帳や電子明細は取引きの日付・金額・相手方が記録されています。
帳簿再現の最も信頼性の高い基礎資料となるため、最初に全期間分を取得するようにおすすめします。
多くの金融機関では、インターネットバンキングの管理画面からCSV形式でダウンロード可能です。
会計ソフトへの一括インポートに活用することで入力作業を大幅に削減できます。
事業用と私的な出費が混在している口座の場合は、事業関連の入出金に印を付けて明確に区分する作業が必要になります。
プライベートでの取引きと事業での取引きの区分が後の経費認定の正確性を左右する工程です。
私用とビジネスが混在した口座はミスにもつながるので、可能であれば事業用の口座を用意することも検討してください。
事業用口座については、以下の記事も参照してください。
ステップ2:クレジットカード明細を揃える
クレジットカードの利用明細には日付・加盟店名・金額が記録されており、業務に関連する支出を再現する際の証拠書類として税務上も信頼できる資料です。
カード会社のウェブサービスから明細をPDFまたはCSVで取得できる場合があるので、必要分をダウンロードしておいてください。
プライベートの支出と事業経費が混在するカードを使用している場合は、明細上で事業経費に該当する項目をひとつずつ確認・分類する作業が発生します。
仕入れや経費など使う機会も多いので、事業用にクレジットカードを用意しておくようにおすすめします。
ステップ3:保存している領収書・請求書を集める
手元に保存されている領収書や請求書の控えは、取引きの相手方・金額・日付を証明する一次資料であり、帳簿の記載内容と照合することで申告の正確性を担保できる書類です。
紛失した領収書については取引先に再発行を依頼する方法がありますが、再発行が困難な場合は支払事実を別の書類(振込記録・通帳明細等)で補完することが記録整備の現実的な手段です。
取引きの証明になる書類として、請求書や納品書、クレジットの明細書も探してみてください。自社で作成した出金伝票や支出証明書も補足資料になります。
ステップ4:会計ソフトに一括インポートする方法
主要な会計ソフトには金融機関やクレジットカードの明細データをCSV形式で一括インポートする機能が備わっています。
データを一括インポートすれば手入力の大幅な削減と転記ミスの防止が同時に実現可能です。
インポートしたデータに対して勘定科目を設定する際は、事業の実態に即した科目を選択する必要があります。
最初に正しく設定しておくことが後の修正作業を最小限に抑える鍵なので、どういった理由でその勘定科目を選択するのか意識して処理してください。
会計処理は、いきなり知識なしに取り組むと大変な手間や時間がかかります。
会計ソフトの無料体験版や低コストのクラウド型サービスを利用すれば初期費用を抑えながら帳簿整備を開始できるので、帳簿整備の第一歩として導入を検討してください。
ステップ5:電子取引データの保存対応(インボイス含む)
2024年の1月からメールやサイト経由で受け取った領収書や請求書について電子取引データの保存が完全義務化されました。
メール添付のPDF請求書やオンラインで受領したデータを紙に印刷して保存する方法では原則として法令上の要件を満たせません。
青色申告、白色申告問わずに電子取引データのままで保存することが義務付けられています。
電子取引データは、検索可能な形式(日付・金額・取引先で検索できる状態)で保存することが国税庁の要件として求められています。
ただし、売上規模など一定の条件を満たせば検索要件などの対応は不要です。
インボイス(適格請求書)に関しては、登録番号・税率・税額等の記載要件を満たした形式で取引先から受領・保存することが仕入税額控除の適用を受けるために求められます。
過去分の不備は遡る必要があり、自ら追記はできないのでインボイス再発行を依頼するなど適切に対処してください。
税務調査が来た場合の対処法

税務調査のお知らせを受け取って不安に感じている人もいるかもしれません。
しかし、税務調査は、事業をしていればどの会社や個人事業主でも受ける可能性があり、何か疑われることを意味しているわけではありません。
ここでは、いざという時に備えて税務調査が来た場合の対処法をまとめました。
通知を受け取ったらまずやること
税務調査の事前通知を受けた直後は税理士への相談が最優先です。対象年分・税目・調査官の所属部署までの情報を正確に伝えるようにしてください。
調査開始日時までの準備期間に帳簿や証拠書類を可能な限り整備しておくことで、帳簿不提示による加算税の加重措置を回避できる場合があります。
税理士に依頼すると調査の立会いや事前の書類確認も対応してもらえます。税務調査のリハーサルもできるので調査当日まで万全の準備を徹底してください。
調査前に自主的に修正申告するメリット
確定申告の内容に不安がある場合には、調査前に自主的に修正申告することも検討してください。
税務調査の事前通知前に自主的に修正申告した場合は、過少申告加算税がかからないケースがあります。
事前通知後でも更正を予知する前の修正申告であれば、帳簿不備による加算税の加重を重ねて課されるリスクを回避可能です。
修正申告で増えた納税額は提出日が納期限です。修正申告と同日に税額を納付することで延滞税の発生を最小限に抑えるようにしましょう。
ただし、自主的な修正申告によって調査対象期間が延長されるリスクもあるため、内容や対応方針については事前に税理士へ相談するようにおすすめします。
「慌てて帳簿を作る」ことの注意点
調査通知後に事実と異なる内容で帳簿を作成する行為は重加算税(35〜40%)の対象となるリスクがあるので絶対に避けるようにしてください。
整備できる帳簿はあくまで実際の取引きに基づく正確な記録に限られます。
銀行明細やカード明細、領収書など客観的な証拠に基づいて誠実に整理してください。
手持ちの資料で帳簿を完全に再現できない場合は、その事実を税理士に正直に報告した上で対応方針を立てることが税務上の損害を抑えるためにできることです。
個人事業主の帳簿の続け方のコツ

個人事業主になって初めて帳簿を付けるようになった人の中には、忙しくて帳簿まで手が回っていない人も多いかもしれません。
ここでは個人事業主が帳簿を付け続けるためのコツをまとめました。
会計ソフトの自動連携(銀行・カード)で入力ゼロを目指す
帳簿を付けること自体が負担であると感じるなら、クラウド型会計ソフトの銀行口座・クレジットカード自動連携機能を設定してください。
日々の取引きが自動で取り込まれるため手入力の手間がほぼゼロになり、記帳継続の最大の障壁を取り除けます。
自動連携で取り込んだデータに対して勘定科目を一度設定しておくと、次回以降は類似の取引きが自動で同じ科目に仕訳されるAI機能が働きます。
そのため、日常の記帳作業が数分程度に短縮できるでしょう。
国税庁は記帳義務の適正な履行に向けて会計ソフトの利用を積極的に推奨しています。
ソフトの利用は帳簿不備リスクの根本的な解決策であると同時に将来の税務調査への最も確実な備えといえます。
記帳ルーティンを作って帳簿づけを習慣化する
帳簿を続けるコツは「取引きが発生したタイミングで記録する」習慣を作ることです。
領収書やレシートをその日のうちに会計ソフトへ入力するルーティンは記帳漏れを防ぐ最も確実な方法のひとつです。
週単位や月単位でまとめて記帳する場合は、曜日や日付を固定してカレンダーに登録しておくことで作業が習慣化しやすくなり、確定申告前に慌てて1年分を処理する事態を避けられます。
また、帳簿づけ習慣化が難しければ領収書は受け取ったその場でスマートフォンアプリで撮影・登録する方法が手軽です。
紙の紛失リスクを減らしながら記帳の手間を日常動作の中に組み込むことができます。
白色申告でも使える簡単な帳簿テンプレ紹介
白色申告者は所得税法上、売上・仕入・経費の別に取引きの年月日・相手方の名称・金額を記録した帳簿を作成・保存することが義務付けられています。
白色申告の帳簿は複式簿記でなく簡易な方法(単式簿記)でよく、売上・仕入・経費の種別ごとに日付・相手方の名称・金額を記録するシンプルな形式でも法令上の要件を満たせます。
帳簿の様式は明確には決まっていません。国税庁が共有する「帳簿の様式例(事業所得者用)」のようなテンプレートもあるのでチェックして抜け漏れがないようにしましょう。
まとめ・帳簿をつけていない個人事業主でも今から対策できる
帳簿の作成は白色・青色を問わずすべての個人事業主に法律上課せられた義務です。
令和5年度申告分から帳簿不提示や記載不備への加算税加重措置が導入されたことで、義務の重さはさらに増しています。
帳簿が未整備であっても、銀行明細・カード明細・領収書といった客観的な記録を活用すれば過去分を遡って整備することは十分に可能です。
現状を把握してすぐに行動を始めることが最大のリスク回避策となるでしょう。
会計ソフトの自動連携と月次の締め作業ルーティンを組み合わせることで、記帳の継続を無理なく実現できる環境が整います。
「帳簿が続かない」という悩みを精神論で解決するのではなく、続けやすい仕組みづくりで確実に解消してください。
創業手帳(冊子版)は、個人事業主や中小企業の事業主に向けたコンテンツを多数掲載しています。事業継続のパートナーとして創業手帳を活用してください。
(編集:創業手帳編集部)
創業手帳
創業手帳0
補助金ガイド
飲食開業手帳