PDFにサクッと書き込む方法。都立大初ベンチャーの便利なサービスAxelaNote(アクセラノート)TransRecog小林敬明

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年02月に行われた取材時点のものです。

ミッションは「ITで世界中の人々の知的活動をより活発に」  人間が持っている認知(Recognition)能力の限界を超える(Trans)

PDFに手書きで書き込みたいと思ったことはありませんか?これまで、ありそうでなかったそんな作業を実現したサービスがTransRecogの「AxelaNote(アクセラノート)」です。

リモートワークが増え、課題のひとつになっているのが、紙でやりとりしていた図面や書類の扱いです。リモートワークでは、出社している時のように、書類を印刷して回覧することができなくなります。

コロナ禍による在宅勤務化でプリンターの売上が倍増したということですが、それだけ業務が紙に依存していたということでしょう。かといって、家で印刷して書き込んで、スキャナで取り込む作業も手間がかかり、破棄した資料から情報漏洩のリスクもあります。そのような課題を一度に解決してくれるのが、「AxelaNote」です。開発したTransRecog代表の小林敬明氏に起業やリモートワークに役立つお話をうかがいました。

小林 敬明(こばやし たかあき)
株式会社TransRecog代表
東京理科大学理学部応用数学科卒業。首都大学東京大学院社会科学研究科経営学専攻(MBAプログラム)修了。大学在学中にプレイステーション用ソフト「アランドラ」(株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントシステム)の開発にプログラマとして参加。卒業後、株式会社日立製作所、マイクロソフト株式会社、丸紅情報システムズ株式会社に所属しシステムエンジニア、プロジェクトマネージャとして官公庁、金融機関向けシステム、アプリケーションの開発に従事。2017年11月より現職。情報処理安全確保支援士。メンサ会員。

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世界中探しても見つからなかったソフトを作る決意


ーPDFに手書きで書き込むという発想はどこから生まれましたか?

小林:新卒である大手メーカーに入ったのですが、赤入れを伴う上長との資料やりとりは紙が中心でした。最初はなぜIT企業に入ったのに紙なんだろう?と不思議だったのですが、対応するツールがないことに気づいたんです。

既存ソフトの校閲機能では図にコメントしづらいし、PDF純正ソフトは高価な上に資料への書き込みという面で機能に限界があります。サードパーティ製PDFソフトは表示が完全ではないし、何よりも注釈禁止のPDFに書き込みができません。ペン入力にまともに対応していないのです。なるほど、ツールが紙以上の利便性を提供できていないのだと思いました。

そのうちそのようなツールが出てくるだろうと思って世界中のソフトを探しましたが、一向に出てこなかったので、自分で作ろうと決意しました。

ー大学との連携はどのようなメリットがありましたか?

小林:ネームバリューを活用できる点です。創業手帳さんには釈迦に説法ですが、日本では年間10万社以上の企業が生まれています。その中から少しでも目立てるようにすることはとても重要でした。

ー大学との連携で気をつけたほうが良いところはありますか?

小林:どこまで支援してくれるかと、支援体制です。これは大学によって全く異なりますので、気を付けたほうがいいと思います。

起業するまでのさまざまな経験が全て役に立った

ーどうやってPR・普及活動をしましたか?

小林:AxelaNoteは一見しただけだと既に同様のソフトがあると思われてしまいますので、違いを明確に訴求できるように注力しました。なので、同じ土俵に立たないように活動しました。その一貫としてエントリーした6つのビジネスコンテストで、中小企業庁長官賞を含む8つの賞を頂いたりしました。

ーどのように資金調達をしましたか?

小林:最初は自己資金で、その後VCから調達をしました。

ー起業で役立った活動や準備は何かありますか?

小林:起業するまでの経験が全て役に立ちました。たとえば特許出願は新卒で入った会社で必須業務だったので身に付きました。

プロジェクトマネジメントや見積の手法も役に立っています。地味なところだとそれこそ無意味だと思われがちな会社の冗長な書類作成です。本来ならば私の性格上合わないはずなのですが、後天的にこなしたおかげで起業してから役立ちました。また、MBA取得によって戦略やマーケティングを知ることもできました。

ー起業までのキャリアや経緯を教えて下さい。

小林:新卒で日立製作所に入り、その後マイクロソフト、丸紅情報システムズに勤めました。公共や金融のシステムエンジニアが中心でしたが、特定の顧客に依存しない製品の開発にも携わりました。その経験が起業に生きています。その間に首都大学東京(現東京都立大学)にてMBAを取得しました。

ー今までで一番嬉しかった、大変だったことは何でしょう?

小林:お客様からとても役に立っていると評価頂いたことです。社交辞令かと思っていろいろ聞いてみましたが、どう聞いても本当に役に立っていることがわかって、ジワジワと嬉しさを感じました。

大変なことは、全部です(笑)。特に近い人から、そんなことやってないでマジメに仕事しろ、みたいなことを言われるとツライですね。遊んでいるわけではないので余計にツライです。ただ、それは結果で証明してみせようとがんばっています。

ー趣味や好きな本はありますか?

小林:趣味は、いろいろな統計資料を見ることです。数字から何かを語るのが好きなんでしょうね。最近好んで読んでいる本は、経営学系とIT系が中心です。自己啓発的な本はあまり読みません。

ITの力で人間の限界を超える日を目指して。苦労も起業家の醍醐味

ー会社のミッションとビジョンを教えて下さい。

小林「ITで世界中の人々の知的活動をより活発に」です。

世の中には、人々の知的活動を阻害する2つの壁があります。1つ目の壁は「人間の情報処理能力の限界」です。人間は世の中にあまねく全ての情報を得ることはできませんし、100%合理的に意思決定できるわけではありません。どんな物知り博士でも、記憶の達人でも、切れ者でも、限界があるのです。

2つ目の壁は「社会や科学が個別に最適化された結果から生まれた限界」です。個別最適が組織、制度、システム、企業戦略の境界を越えた連携を困難にしています。ITの力でこの2つの壁に風穴を開け、はしごをかけることで、人間が持っている認知(Recognition)能力の限界を超える(Trans)ようにします。

ーリモートワークのコツや役立つノウハウがあれば教えて下さい。

小林自分にあった環境を見つけることが重要だと思います。この表は私がどんな環境なら仕事や学習が進むのか探索的に調べたものですが、結果としてコワーキングスペースが最もはかどることがわかりました。人によって項目や指標は変わると思います。いろいろ試すことで自分に合った環境を見つけることができます。

ー起業家向けに役立つツールやサービスがあれば教えて下さい。

小林市場調査には国会図書館がおすすめです。無料ながら日本一の蔵書数であり、とても高い白書なども蔵書されています。

あとは、国や自治体の補助金・助成金ですね。返済不要で株式割当の必要がありません。申請書作成が大変で敬遠する人が多いようですが、サラリーマン時代に培った膨大な書類をこなす能力のおかげでうまく採択されています。

ーリモートワークで役立つツールやサービスがあれば教えて下さい。

小林:Jabraという会社が出しているコールセンター向けヘッドセットです。プロ用なので音も明瞭でマイクも音質がよく、何よりも壊れにくい点がすばらしい。

ーメンバーはどのようにして集めましたか?

小林知り合いのツテとハローワークです。ハローワークは馬鹿にできません。なんだかんだいって、日本最大の人材データベースであり、しかも無料です。見栄を張らずに使い倒すべきです。

ー起業家に向けて一言お願いします

小林:メルカリ商業者の山田進太郎さんは「自分しか知らない真実を証明するのが起業家」といっています。たとえ世界中に理解されなくても、歯を食いしばってそうでないことを証明するのが起業家だと思います。サラリーマンでは一生体験できない素晴らしいことと苦労を同時に高速で体験できるので、一緒にがんばりましょう。

ーありがとうございました。

これまでありそうでなかったPDFへの書き込みアプリ。たしかに、注釈機能では表現しきれないものが多々あります。この手書き機能を求めている人はたくさんいそうですね。小林代表の開発に対する熱意と、多大な苦労が伝わってくるインタビューでした。

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(取材協力: 株式会社TransRecog 代表 小林敬明
(編集: 創業手帳編集部)



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