DOMA 近藤 直也|現役中に起業。元日本代表がスモールスタートから広げた事業づくり
セカンドキャリアは「引退してから」ではなく「現役のうちに」考える

Jリーグベストイレブンに選出され、日本代表にも名を連ねた元プロサッカー選手・近藤直也さん。選手として充実したキャリアを歩んでいた2011年、将来を見据えて株式会社DOMAを設立しました。
当時、経営の知識はほぼゼロ。それでも「サッカー選手ではなくなったとき、自分に何が残るのか」という危機感から、現役生活と並行して事業づくりに踏み出し、スモールスタートで一歩ずつ事業を広げてきました。
現在は、自身の愛称「ドゥー(Do)」を冠したサッカースクール「DO SOCCER CLUB」や、子どもの運動能力向上を目的としたスポーツ教室「みんなDE体幹トレーニング」を展開。2026年6月にはスポーツテック企業・株式会社Qonceptの取締役にも就任するなど、経営者として挑戦を続けています。
今回は、現役中に起業した背景や事業づくりの歩み、事業を広げる中で重ねてきた経営判断、そしてこれから新たな一歩を踏み出す人へ伝えたいことまで、近藤さんに率直に伺いました。
元プロサッカー選手、元サッカー日本代表。柏レイソル、ジェフユナイテッド市原・千葉、東京ヴェルディなどでプレー。現役時代の2011年に株式会社DOMAを設立し、サッカースクール「DO SOCCER CLUB」を展開。現役引退後も、子どもの運動能力向上を目的としたスポーツ教室「みんなDE体幹トレーニング」を展開するなど、スポーツを通じた子どもたちの成長支援に取り組んでいる。
この記事の目次
トップ選手でも直面する「アスリートのセカンドキャリア」の現実

近藤:2011年に柏レイソルがJリーグで優勝し、翌年には天皇杯、その翌年にはナビスコカップで優勝するなど、選手としては充実した時期で、すぐに引退を考えるような状況ではありませんでした。ただ、アスリートという仕事は、一般的な職業に比べてキャリアの終わりが早く訪れます。私自身、パフォーマンスが落ちる時期や怪我も多く経験してきましたので、来年の契約があるかどうかも分からないという危機感は常にありました。
きっかけは、選手仲間との何気ない会話です。「あの先輩、今は何をされているんだろう」と話していたときのことでした。当時チームのスターティングメンバーで活躍し、日本代表候補にも入るほどの実力を持っていた先輩選手が、引退後に地方のとあるサッカースクールで雇用されコーチとして指導にあたっていると知りました。
この事実に、正直なところかなり驚いてしまいました。もちろん、指導者として現場に立つこと自体は尊い仕事ですし、その先輩を否定する気持ちは全くありません。ただ、それだけの実績を持つ選手であっても、引退後に自分で選べる立場に立てるとは限らないという現実を目の当たりにした出来事でした。
その先輩でさえそうなったのだから、「自分はもっと厳しい状況に置かれるかもしれない」と強く感じたんです。
その場では周囲の選手も「大変だね」「引退後はどうする?」と話していましたが、話が終わればみんな忘れてしまいます。私は「その場だけの話で終わらせてはいけない」と思い、自分がサッカー選手でなくなったときに何が残るのかを真剣に考えるようになりました。そして、雇われる側ではなく、自分の力で経営を行っていきたいという思いが強くなり、起業を決意したんです。
「知識ゼロ」からの起業。なぜ“自分が表に立たない”体制を選んだのか

近藤:当時は会社の作り方はもちろん、「会社とは何か」すら分かっていませんでした。周囲に現役でスクールを経営している人もおらず、相談する相手もいない、完全な手探り状態です。会社を作ること自体は司法書士や税理士に依頼すればできますが、その後の「スクールをどう始めるか」「コーチをどう手配するか」といった実務は誰も教えてくれません。それでも、自分がやりたいことだったので、苦労というより、ゼロから物事を進めていく楽しさのほうが大きかったですね。
近藤:実はプロサッカー選手は、時間の使い方が意外と自由なんです。シーズン中の全体練習は1日2時間ほどで、それ以外の時間をどう使うかが重要になります。私は誰よりも早くクラブハウスに行き身体の準備をし、誰よりも遅くまで居残って個別のトレーニングや身体のケアをすると決めていましたが、それでも1日は24時間ありますから、残りの時間を有意義に使いたいと常々考えていました。サッカー以外のことを考える時間は良い気分転換にもなりましたし、会社を始めたことで多くの経営者と接する機会が増え、ビジネスパーソンとしての社会性をより一層磨くことができたと思います。
同時に、この頃から「自分がずっと現場に立ち続けることはできない」という前提で、事業の形を考えるようになりました。練習や試合、遠征というプロ選手本来のスケジュールと、日々の指導の現場を両立させること自体に、そもそも無理があったからです。だからこそ、自分が直接現場に立たなくても回る仕組みを、最初から作っておく必要があると考えたんです。
近藤:おっしゃる通り、最初は自分が常に現場に立たなければ子どもたちが集まらないのではないかという懸念もありました。ただ、考えれば考えるほど、自分が看板として現場に立つことは、将来的に大きなデメリットになると思うようになったんです。
というのも、いくら現場に立つ時間を作れたとしても、自分を看板にしてスクールを続ける以上、何らかの理由で現場を離れざるを得なくなったとき、子どもたちや保護者は「近藤選手に教えてもらえるから入ったのに」と離れていくはずです。自分が顧客の立場でもそう思うでしょう。
そこで、自分が直接教えなくても、現場のコーチを通じて自分の伝えたいサッカーを届けられる仕組みを作ることにしました。私自身はスクールに頻繁には顔を出しませんが、訪れた際には子どもたち一人ひとりにアドバイスを送り、コーチとは指導メニューについて毎週ミーティングを重ねています。
スモールスタートから始めた「現役選手」と「経営者」の両立

近藤:会社を設立した当初は、まず自分のマネジメント業務を受け持つ会社としての形を整えるという目的が中心で、事業内容はまだ決まっていませんでした。何をやっていくかを考える中で、自分が長年培ってきたサッカーを活かしたスクールを立ち上げようという話になり、2013年4月にスクール事業を本格始動させたんです。
最初のコーチは、小学生時代から知る友人に声をかけました。求人媒体で募集しても人物像が分かりにくいため、まずは信頼できる身近な人と一緒に少しずつチームを作っていったんです。開始当初は友人と私の2人体制。最小人数で固定費をかけない経営を意識した、本当にスモールなスタートでした。
集客は、地元のスポーツ少年団を回って地道に宣伝するところから始めました。なかでも効果が大きかったのは、現役のプロサッカー選手が地元でスクールを立ち上げるという話題性から、地域の新聞社に取材していただいたことです。この記事をきっかけに、初期は30人ほどの生徒が集まり、その後は広告費をかけず、口コミで少しずつ広がっていきました。
近藤:スクールを立ち上げて数年後に、駅前の好立地に専用コートを持てたことは大きな転機でした。それまでは複数の民間フットサルコートを曜日ごとに借りていたので、自分たちの拠点を持てたこと自体はありがたい一方、好立地ゆえに家賃も高く、固定費の負担は一気に増えてしまったんです。
契約は7年間で、「7年経てば家賃を下げる」という話を口頭ではいただいていたのですが、書面での取り決めはありませんでした。実際に7年が経過するタイミングで先方から持ちかけられたのは、家賃を下げる話ではなく、契約満了をもって退去してほしいという話だったんです。想定と違う展開に慌てて新しい移転先を探すことになりました。この経験から、どんなに関係性が良好でも条件は書面に残しておくべきだと痛感しましたね。

結果的に、今年の4月には新しい土地を契約し、以前の1.5倍ほどの広さを持つ、人工芝の自前コートを新設できました。金融機関からの融資を受けての建設のため返済は発生しますが、以前の家賃負担に比べるとコストは大幅に下がっています。
堅実に事業拡大してきたように見えるかもしれませんが、創業から10年以上が経った今も、こうした想定外の壁は次々とやってきます。その一つひとつに経営判断を下し、乗り越えてきたことの積み重ねが、今につながっていると感じています。
現役引退後、スポーツ教室とFC展開で事業を拡大

近藤:はい。サッカースクールで子どもたちを指導する中で、運動能力が高い子ほど上達も早いと実感していました。特定の競技の技術を学ぶ前に、土台となる基礎的な運動能力を高めるアプローチが重要だと考え、2020年に現役を引退したのち、2022年にスポーツ教室「みんなDE体幹トレーニング」を立ち上げました。
つくば市と流山市に直営店を構えたのち、フランチャイズによる多店舗展開を進め、印西市、辻堂・湘南エリア、そして今年8月には川崎市にもFC店舗をオープンしています。

サッカーはすでに地域ごとに競合が多く、成長に限界があります。一方、運動能力の向上に特化した教室は競技を問わず幅広い子どもに関心を持ってもらえるため、様々な地域で展開しやすい強みがあると考えているんです。
ただ、フランチャイズの知識は当初ゼロでした。SNSで情報発信している専門家に直接連絡を取り、話を伺いながら自分なりに仕組みを構築していきました。現在はまだ公式な募集はかけておらず、知人からの相談をきっかけとしたテスト加盟という形で運営し、実績を積んでいる段階です。
近藤:私が最も重視しているのは、指導メニューの内容以上に「指導者の熱量」です。子どもたちは指導者の姿勢を直感的に感じ取ります。声が小さく暗い雰囲気のコーチより、シンプルな練習でも明るくポジティブな声かけを続けるコーチのほうが、子どもたちにとって魅力的です。
だからこそ、その熱量をスタッフ全員にどう浸透させるかを、経営者として最も大切にしています。先ほどお話ししたサッカー部門でのコーチとの週次ミーティングと同様に、スポーツ教室事業でも、直営店とFC加盟店のスタッフ全員が参加する週次のミーティングを設けています。
スポーツテック企業との協業で、新たな領域にも挑戦

近藤:株式会社Qonceptは、私の高校の先輩が経営する会社です。大学時代に起業し、現在はエンジニア集団として映像解析やシステム開発を手がけています。プロ野球球団に導入されている投球の映像解析システムなども開発しており、新しくサッカー向けのアプリを伸ばしていきたいということで、サッカー界との橋渡し役として参画することになりました。
まずはスマートフォンでシュートスピードを計測できるシンプルな機能のアプリを開発し、サッカー大会やJリーグのスタジアムのイベントブースで、シュートスピードを競うプロモーションを行っています。今後は指導コンテンツも追加していく予定で、その第一弾として、名古屋グランパスなどで活躍した元日本代表の阿部翔平さんにご協力いただき、キックの技術解説動画を収録しました。
Qonceptの強みは、要望に応じて幅広い開発ができる技術力にあります。知人の運送会社の社長から、倉庫内でのトラックの速度超過が安全上の課題になっているという相談を受け、スマートフォンで撮影するだけで車両の速度を自動判別できるシステムを共同開発しているところです。スポーツの枠にとらわれず、人々の困りごとと自分たちが持つ技術をマッチングさせていく仕事にも、面白みを感じて取り組んでいます。
「完璧を待たず、まず一歩」セカンドキャリアや起業を考えている人へ

近藤:DOMAの主軸は、引き続き「スポーツ×子ども」という軸を崩さずに進めていきたいと考えています。教室に通う子どもたちの中には、発達障害を抱えていると思われる子も一定数在籍しており、運動に取り組むことで表情や行動が前向きに変化していく様子を何度も見てきました。そこで、運動療育に特化した「放課後等デイサービス」の開設を構想しています。
また、子どもたちの祖父母世代にあたる高齢者にとっても、運動や健康維持は大切な課題です。リハビリに特化した高齢者向けデイサービスについても、現在市場調査を進めています。
近藤:私自身、起業した当時は特別な経営知識やスキルがあったわけではありません。ですから伝えたいのは、「すべての準備が完璧に整うまで待つ必要はない」ということです。どんなに小さくても、まず一歩を踏み出してみる。実際に動いて初めて見えてくる課題があり、失敗したらその都度原因を考えて修正すればいいと思います。
現役のアスリートの方には、引退が決まってから慌てて次のキャリアを探すのではなく、現役中から様々な業界の人に会い、興味のある分野に触れておくことをおすすめします。プロスポーツ選手は一生続けられる職業ではありません。「競技が終わったあと、自分は何をやりたいのか」を早い段階から考えておくことで、次のキャリアへの移行はスムーズになるはずです。
人生はいつ何が起こるか分かりません。だからこそ、やりたいと思ったこと、今できることには、私も失敗を恐れず挑戦していきたい。40代になった今も、その気持ちは現役時代と変わっていません。皆さんの挑戦も、応援しています。
創業手帳
創業手帳0
補助金ガイド
飲食開業手帳