雛形でチェック!秘密保持契約書(NDA)作成のポイント

創業手帳

弁護士直伝!秘密保持契約書入門

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ある程度大きな会社と取引を行う際に、「まずはこれに押印して欲しい」と言われて渡されることがあるのが秘密保持契約書(NDA)である。また、取引を獲得するためのコンペに参加する場合にもサインさせられることが多い。

ビジネスを始めるとよく見かける秘密保持契約。いつも似たような内容だなと思っていないだろうか?見た目は同じでも、実はちょっとした違いで義務の負い方が大きく異なってくる。今回は情報管理の基本でもある秘密保持契約書作成のポイントを、雛形を参考に確認していこう。

1. 秘密保持契約書が相手側から出てくる場面とは?

NDAサンプル秘密保持契約は、企業秘密を開示する会社が、受領する側の企業に対して、企業秘密をしっかり取り扱うことを求めるために結ぶ契約である。NDA契約(Non-disclosure agreement)と呼ばれることもある。

一般的には、業務委託契約を結ぶ際に目にすることが多い。また、M&Aを行うかの判断をするデュー・デリジェンスを開始する際など、重要な場面では必ずと言っていいほど使われる。

秘密保持契約は、企業秘密を開示する会社の利益を守る契約のため、往々にして、対立軸が発生する。業務委託のように取引の片方のみが情報を開示し、もう片方が情報を受領するような場合が、特に当てはまる。

情報を開示する側には相手方にしっかりとした義務を負わせたいという要望がある。情報を受領する側にはできる限り煩雑な規定は排除したい。そこで秘密保持契約の内容で駆け引きが行われることになる。

もっとも、情報を受領する側(秘密保持の義務を負う側)は、相手(情報を開示する側)からお金をもらう立場になることが多い。特に創業期のベンチャー企業側は情報を受領する側になるケースが多いだろう。秘密保持の義務について「やりたくない」といって断るのは、ビジネスを断ることにつながるため、現実的には難しいはずである。

力関係が上位にある相手方から突きつけられた秘密保持契約書の雛形に大きな修正を求めるのは困難だ。だからこそ、自社がどのような義務を負わされているのかをしっかりと把握しておくことが大切である。

まずは、ここに一般的な秘密保持契約書の雛形を用意したのでダウンロードしよう。以下、雛形を参照しながら一般的な秘密保持契約書の重要ポイントをチェックしていこう。



2. 情報受領側になったときは必要以上の秘密保持の責任を負わない

2.1. 秘密情報に含まれる情報を限定する

一般的な秘密保持契約書の条項で、まず確認したいのが、そもそも「秘密情報」に含まれる情報がどのような情報を指しているかということである。当然、これに含まれる情報が少ない方が、情報受領者側としては、義務を負わされる範囲が少なくてすむ。

第2条(秘密情報)
1 本契約において「秘密情報」とは、本取引に関して、開示当事者が受領当事者に対して開示した営業上・技術上の情報で、書面(電磁的記録を含む、以下「文書等」という。)であると口頭であるとを問わず秘密とすることを明示されたものをいう。

この契約書案では、「本取引に関して、開示当事者が受領当事者に対して開示した営業上・技術上の情報」という部分に、複数の限定条件が加わっているが、重要なポイントは、「秘密とすることを明示されたもの」という限定が加わっている点である。

すなわち、開示した資料に「㊙」「CONFIDENCIAL」「部外秘」といった言葉で明示的に秘密であることを示したもののみが秘密情報として取り扱われることになる。この場合には、秘密情報の対象となる情報は限られており、管理は比較的容易である。

また、第2条第2項にあるように、秘密情報が公知になった(一般的に知れ渡った)場合の取り決めも確認しておきたい。これは後ほど解説する。

2.2. 秘密保持契約書において過度な秘密保持の負担を伴う条項が定められていないか

今回のサンプルには記載されていないが、情報受領側に負担となる作業を求める条項が定められていることがある。例えば、「企業秘密が記載された文書等を複製した場合には、その旨の記録し、情報開示者に報告しなければならない」などである。

このような条項が定められていても、実際には、相手(情報開示)側で、報告する事項等を定めた書式すら用意しておらず、当該条項どおりの運用はなされていないということは往々にしてありうる。「自分には甘く、相手には厳しい」場合だ。

もっとも、これらの義務を果たさない限り、形式的には契約違反という状況になっており、一度、紛争などになった場合には、このような契約違反も裁判のやり玉にあげられる可能性がある。

相手方から報告や記録等の過度に負担のある契約書案を示された場合には、相手から必要な報告書面の書式を渡して欲しいと求めるなどすると良い。相手側が運用できていなければ、書式もないはずだ。相手側は書類を作成することになるのでこちらで運用フローで悩む必要がなくなるか、相手方が書類の作成が面倒ならその項目の削除を検討することになる。


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3. 情報開示側になったときは秘密情報保持の有効期限に注意

自社でウリとなるような企業秘密を持っている場合、自社の企業秘密を取引相手に開示することもあるだろう。この場合、基本的には情報受領側と逆に考えればよいが、特に以下の点に注意しよう。

3.1. 秘密保持契約書の秘密情報に含まれる情報を広くする

情報を受け取る立場だったときとは逆に、秘密情報に含まれる情報を広くすることにより、自社の企業秘密の漏えいを幅広く防ぐことが期待できる。上記の「第2条」の例でいえば、「秘密とすることを明示されたもの」という部分を削除すれば、保護される秘密情報の範囲は広くなる。

3.2. 秘密保持契約終了後も続く効果に注意する

契約の有効期間について、一般の契約書では、1年ごとの自動更新というような内容のみが定められており、契約終了後どのように取り扱うかといった点が記載されていないことも多い。 

しかし、秘密保持契約の場合はそう単純に考えない方が良い。契約終了後の取扱いについて定めておかないと、契約終了後には秘密を保持しなくてもよいとも解釈されかねない。以下のように、契約終了後についても、定めておくべきである。

第6条(有効期間)
(中略)
2 本契約が終了した場合といえども、本契約第2条ないし第4条で定める義務は本契約終了後5年間存続する。


4. その他の秘密保持契約のチェックポイント

4.1. 秘密情報からの除外

第2条(秘密情報)
(中略)
(1)受領当事者が開示当事者より受領した時点で既に公知であった情報
(2)受領当事者が開示当事者より受領後、受領当事者の責めに帰すべき事由によらずに公知となった情報
(3)受領当事者が開示当事者より受領後、守秘義務を負うことなく第三者から合法的に入手した情報
(4)受領当事者が、秘密情報によらず独自に開発した情報

情報提供者側が提供した情報であれば、何でも秘密情報の範囲に含まれるというのは常識的に考えても不自然だ。通常は上記のように、既に世間に公知になっているような情報などについては、秘密情報と取り扱わないと定めるのが一般的である。

もっとも、仮に裁判になった場合には、公知になっているかどうかの証明が問題となることもありうるので、注意が必要である。

4.2. 事業所への立ち入り

秘密保持契約書の雛形サンプルにはない項目だが、相手方と力関係に差がある場合、相手方の事業所への立ち入りを可能とするような条項が定められていることがある。例えば以下のような条項だ。

開示当事者は、受領当事者の秘密情報の取扱い状況につき疑義を生じたときは、受領当事者に事前に通知することにより、受領当事者の事業所に立ち入った上で、秘密情報の取扱い状況について監査することができるものとし、受領当事者は、正当な理由がない限りかかる監査を拒否することはできない。

もちろん、いついかなる時でもというわけではなく、秘密情報の取扱いに問題がある時に限ってだ。

実際に、事務所への立ち入りが発生するような問題が起こることはほぼないとは思われる。だが、情報受領側にあまりにも不利益な条項であり、よほどの機密情報を扱っているような会社が当事者の場合を除き、このような定めを設けるべきではないだろう。

5. 秘密保持契約書作成のチェックポイントのまとめ

秘密保持契約書の雛形サンプルは、ビズ商事株式会社がベンチャー株式会社に対して継続的に業務委託するに際して締結することを想定したものである。一般的に用いられている内容が含まれているので、活用していただけければ幸いだ。




なお、秘密保持契約を締結していないからといって、相手方から受領した機密情報を自由に使っていいということにはならない。不正競争防止法との関係等も問題となりうるし、また、企業の情報管理が問題となっている現在、レピュテーションリスク(企業に対する否定的な評価や評判が広まり、企業の信用やブランド価値が低下して損失を被る危険度)等もあるため、契約書作成以前に情報管理にはくれぐれも注意したい

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(監修:田中尚幸 弁護士)
(編集:創業手帳編集部)

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