ウェルモ 鹿野 佑介|累計55億円超調達。介護DXのパイオニアが明かすロビイングと社会課題解決

※このインタビュー内容は2026年10月に行われた取材時点のものです。

介護のバックオフィス業務をDXし現場の負担を減らす

ウェルモ鹿野 佑介氏

超高齢化社会、日本。人手不足とアナログな業務体制に苦しむ介護業界。しかし、そのDXを阻んでいたのは介護保険法などの厳格な「制度の壁」でした。

今回お話を伺ったのは、介護DX事業を進めるウェルモ代表の鹿野佑介さん。マネタイズまで時間がかかる構造の中、累計55億円超もの資金を引き寄せた気鋭の起業家です。

400箇所の現場取材で見えた真の課題から、国を巻き込むルールメイキングの裏側、折れないメンタルの保ち方まで、困難な社会課題に挑むすべての起業家へ贈る秘訣を伺いました。

ウェルモ鹿野 佑介氏
鹿野 佑介(かの ゆうすけ)
株式会社 ウェルモ 代表取締役会長兼社長 一般社団法人日本ケアテック協会 会長 東京大学 高齢社会総合研究機構 共同研究員

大阪府豊中市出身。株式会社ワークスアプリケーションズ(現 株式会社Works Human Intelligence)にて人事領域のITコンサルタントを経て東証一部上場企業人事部へ。その後、介護現場の働きがいに課題意識を持ち8カ月間にわたり仙台から東京、福岡まで、計400法人を超える介護事業所にてボランティアやインタビューを実施。2013年ウェルモを創業。累計55億円調達。Forbes JAPAN 2018 NEW INNOVATOR ⽇本の担い⼿99選出。2019 経済産業省主催 ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト、Slush Helsinki 2019等、創業より14賞受賞。

「昭和のまま」の現場に激震。400法人を足で稼いで掴んだ「真の問題意識」

ウェルモ鹿野 佑介氏

ーまずは株式会社ウェルモの事業内容と、「milmo」シリーズを中心としたサービスについて教えてください。

鹿野:介護をする人、される人、介護に関わるすべての人が快適に過ごせるように、AIやICTの力で現場を支援しています。プロダクトとしては、訪問時の会話や会議の内容を録音するだけでAIが文字起こし・帳票に沿った要約を行い、自動で記録を作成してくれる「ミルモ レコーダー」、データから業界特有の帳票作成や事務作業をAIで効率化するプラットフォーム「ミルモ AI」、介護ソフトへの入力などパソコンでの定型業務を自動化、繰り返しの作業をAI・RPAが代行し、転記業務を削減してくれる「ミルモ オートメーション」の3つです。この3つをレゴのように組み合わせ、自動化したり推論して作文したりすることで、バックオフィス業務を劇的に楽にすることに取り組んでいます。記録にかかる時間が1日1人あたり60~90分ほど短縮され、残業の削減や紙の使用量の削減につながったという事業所からの反響も多数いただいている状況です。

また、生成AIやRPAを学ぶ、DX人材育成のためのオンライン研修「ミルモ ラーニング」や在宅介護の地域資源情報を集約するプラットフォーム「ミルモ ネット」、文章生成や提案によるケアプラン作成支援AI「ミルモ プラン」なども展開しています。

ー鹿野さんご自身のキャリアについても伺います。人事領域のITコンサルタントを経て、介護業界へ挑戦された経緯を教えてください。

鹿野:大学の時にカントリーリスクの分析をしていて、日本が高齢化して財源的に逼迫する未来は当時から見えていました。実際に自分の目で介護業界を見た時に、国目線でどうにかしないと、と危機感を覚えたことが大きなきっかけでした。

前職で人事領域のITコンサルタントをしている時に、お客様に介護業界の方がいたり、同僚のエンジニアのお母さんがケアマネージャーだったりというご縁で話を聞く機会があり、土日を使って現場にボランティアに行ったんです。

仕事でやり取りがある大企業と比べて、昭和のような業務環境にまず驚きました。作業量が膨大な上に、やらなければならない作業はアナログで非効率この上ない。これから日本はもっと高齢化していくのに、このままではどこかで立ち行かなくなると感じ、この領域のデジタル化をやろうと決意して会社を辞めました。今の会社を始める前に8カ月現場に入り、介護業界の課題を探り、プロダクトの方向性を模索しました。

ー8カ月にわたって全国400法人以上の介護事業所を訪問されたそうですね。

鹿野:はい。仙台から東京、福岡まで、計400法人を超える介護事業所にてボランティアやインタビューを実施しました。介護保険法の本を読んでいて、例えば「なぜこんな運営基準になっているんだろう」と疑問に思っても、現場の雰囲気を知らないとなかなかピンと来ません。介護保険法の解釈と現場のオペレーションを繋げるのに、現場を体験しないと理解できないものがありました。介護のどこの領域からデジタル化を始めるのがもっとも効果的なのかを見定める上で、前職のITコンサルタントの経験と現場の経験が非常に役立ちました。

例えば介護テクノロジーにも排泄支援、見守り、食事・栄養管理支援など様々な分野があり、弊社は介護業務支援というジャンルに該当します。いわゆるバックオフィス部門ですね。この領域がデジタル化するにあたって効果的だろうと見込んで事業を立ち上げましたが、反応を見ると正解だったと感じています。

テクノロジーと現場の両方が分かるという方は日本には少ないので、そこは自分の強みだと思っています。

将来の日本のために、法律をあるべき姿へ。10年かけたロビイング戦略

ウェルモ鹿野 佑介氏

ー創業当初は、介護DXという考え方自体がまだ一般的ではなかったと思います。事業を立ち上げる上で、最初に何から取り組まれたのでしょうか。

鹿野:研究開発や、法律を変えるのにかなりの時間が必要なため、マネタイズするまで非常に時間がかかることは最初から分かっていました。創薬ベンチャーのJカーブ(※)のようなイメージですね。その前提で資金調達をして、ファイナンス先行で進めてきました。法律を変えるのには最低でも6年ほどかかるのですが、コロナも重なって結局10年ぐらいかかりました。

※Jカーブ:長い赤字期間から、急激な企業価値・利益の上昇に至る英字の「J」のような成長曲線のこと

ー事業を立ち上げる上で、どのように法律を変える必要があったのですか。

鹿野:介護業界をデジタル化するなら、そのオペレーションを縛っている運営基準などを変える必要があります。生産性を上げても法律で人を減らすことができないなら、生産性を上げる意味がなくなってしまいますから。

2000年に施行された介護保険法で、例えば高齢者1人あたり何人のスタッフをつけなくてはいけない、という基準が定められているんです。また、対面原則があるとか、ハンコを押す必要があるとか、デジタル化する上では壁になるルールが細かく定められているため、介護保険法改正や報酬改定を実現する必要がありました。

民間企業という立場では法律を変えるように働きかけることが難しいため、2020年に業界の有志の方々とともに一般社団法人日本ケアテック協会という業界団体を立ち上げました。会長として自民党の「ケアテック活用推進議員連盟」の会合や総会に出席し、現在は介護DXや生産性向上のための提言を行ったり、介護保険制度の政策の提言を行ったりしています。ここまで来るのに、かなり時間がかかりましたね。2025年には、私が提唱してきた「介護テクノロジー」という言葉が「骨太方針2025」に掲載され、造語の掲載は歴史上初ということで感慨深かったですね。

※2 骨太の方針:政府が毎年夏頃に閣議決定する、国政運営や経済財政政策の基本方針のこと。正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」

ー最初のサービスをローンチするまでには、どのような苦労がありましたか。

鹿野:苦労したのは、プロダクトを作るときに必要なデータの収集です。AIを用いたプロダクトの場合、データが大きな意味を持ちますが、このデータを集めるのに苦労しました。2026年7月に改正個人情報保護法が施行され、主なポイントとしてAI開発のための本人同意の要件が緩和されましたが、私がデータを収集していたのは改正前だったため、当時は匿名加工が必須でした。自治体からデータをいただく際にも、「匿名加工の費用は誰が負担するのか」「コストをかけて民間企業にデータを提供する意味があるのか」という話になり、議会を通す必要が出てくるため結局提供できない、ということが何度もあったんです。

原付飛び込み営業とビジコン活用。フェーズごとの「人・組織」の壁の突破法

ウェルモ鹿野 佑介氏

ー創業期はどのように仲間を集め、チームをつくっていったのでしょうか。採用や組織づくりで大切にしていたことを教えてください。

鹿野:最初は知り合いや大学の後輩に声をかけて、3人で創業しました。組織づくりという点では苦労しましたね。会社のフェーズが進化する中で、その時々に必要とされる役割やスキルも変化していきます。私たちは、現在は正社員・契約社員・派遣社員・業務委託など、様々な雇用形態の優秀な方にジョインしていただいており、みなさんのそれぞれの強みを発揮できる柔軟でダイナミックな組織体制を構築しています。

みなさん一人ひとりの人間性を尊重し、その人らしさが最大限に輝く環境づくりを大切にしています。個性を活かしながら、共に高い成果を目指し、互いに成長し合えるチームでありたいと考えています。これからも、常に変化と成長を続ける組織で、私達と一緒に新たな価値を創造していける仲間を歓迎していきます。

ー営業や広報活動はどのように進められましたか。介護事業者に新しいサービスを広げるために、特に工夫されたことはありますか。

鹿野:広報に関しては、ブランディングとしてビジネスコンテストに出ることはおすすめしたいですね。経産省主催のヘルスケアビジネスコンテストやSlush Helsinki 2019など、いろいろなコンテストで様々な賞をいただきましたが、知名度も上がりますし、採用面でも大きなメリットがあります。営業に関しては、この業界はアナログなので原付で一軒一軒飛び込み営業をやっていました。車だと事業所に駐車場が無かったりするので、効率が下がるんですよ。

ー今回、累計55億円を超える資金調達を実現されていますが、投資家から評価されたポイントは何だったとお考えですか。

鹿野:事業に社会的な意義があることや、日本の現状の課題を見て今後の一層の拡大を期待できるという部分で中長期的に評価していただいていると考えています。

ー今回調達した資金は営業・カスタマーサクセス体制の強化に充てられるとのことですが、今後どのような成長戦略を描いていますか。

鹿野:市場には浸透してきたと思っていますので、今後はひたすら広げていくフェーズだと思っています。介護保険の報酬改定とは、介護事業者が利用者へサービスを提供した際に受け取る介護報酬の単位数や算定ルールを見直すことで、原則として3年に1回行われるのですが、過去に提唱してきた「在宅高齢者へのケアテック推進に向けた次期報酬改定への要望」が2027年あたりにようやく受け入れられそうなので、現在取り残されている在宅高齢者に対するケアのデジタル化がかなり推進されるのではないかと考えています。その流れに乗って、我々のサービスの社会実装を広げていけたらいいですね。

ーAIプロダクトを社会実装していく上で、組織づくりや人材採用ではどのようなことを重視されていますか。

鹿野:我々の組織には、介護現場の専門職や、理学療法士など、専門性が高い研究開発のチームと営業サイドのチームがあり、つまり畑が全然違う人達がたくさんいるわけです。そこが強みでもありますし、組織づくりで苦労しているところでもありますね。

論文を書いている人たちと営業の人たちって文化が違うので、事業を進める上で意見の相違が起こることも多く、両方の立場を理解できる人が間に立って通訳することが大事だと痛感しています。両方の人が参加するミーティングを行うことも意識していますし、その際はだいたい僕が通訳をしています(笑)。

座右の銘は「百折不撓」。諦めずに行動あるのみ

ー日本は世界でも有数の高齢化社会ですが、この環境をどのような可能性として捉えていますか。

鹿野:介護給付費は2000年以降急速に伸び続けており、2040年までに現在の2.4倍まで拡大するという厚労省の試算があります。現在13兆円ぐらいですが、2040年に25.8兆円に達するという予測ですね。ただ、この費用の過半数が人件費なので、働き手が足りないことが予想される現状では、ここまで伸びるのかという疑問があります。今でも介護業界の人手不足は問題ですが、今後より加速していくため、市場の成長が予測される以上に、社会的な問題の方を危惧しています。

ーウェルモが目指す介護DXの先には、どのような社会を実現したいと考えていますか。

鹿野:介護DXで現場の業務効率を上げようと全力で取り組んでいますが、それだけでは限界があります。高齢者が要介護にならないような予防も重要なので、高市政権が「攻めの予防医療」を掲げているのは歓迎すべき流れだと思います。これから政策が明文化され、予防領域に対する予算がしっかり割かれることに期待したいですね。これからはデジタル化と予防の二軸が重要になってくると思います。

介護保険法のDXに関しても道半ばなので、法律の整備に関しても引き続き取り組んでいきたいと考えていますし、デジタル技術を使いこなせる人材を育成し、現場のDXスキルを底上げすることも、持続可能な未来には不可欠です。

また、日本の人口構造の変化は、世界がこれから直面する課題の先取りでもあります。まずは日本において、持続可能な超高齢化社会のモデルを作り、ゆくゆくはそれを世界に輸出したいですね。

ー福岡、東京、横浜、札幌と本社と支社を精力的に行き来してお忙しい日々だと思いますが、ストレスなどはどのように乗り越えていらっしゃいますか。

鹿野:ストレスマネジメントには意識して取り組んでいます。なんとなくでやっている方も多いですが、ストレスの種類によって解消方法は違うので、自分の状態を分析しながら細かく対処することをおすすめします。

例えば煮詰まってきて先が見えない時は場所を変えたり、海外旅行に行ったりするのがいいですね。気分転換になるので。精神的に人間関係に疲れている時は体を動かした方がいいので、趣味のスキーやテニスに打ち込みます。あとは自然にふれるのもいいですね。時間がない時は、FPS(※3)などのゲームやピアノで気軽に気分転換しています。すごく集中して無になれるので、現実から離れたいときや頭がぐるぐる回っている時はおすすめです。

※3 FPS(First Person Shooter):ゲームのジャンル。一人称視点シューティングのこと

ー最後に、社会課題の解決を目指して起業したいと考えている方へメッセージをお願いします。

鹿野:短期で利益を出そうと思っている方にはおすすめしません。逆に、ミッションドリブンで事業をやりたい、ライフワークとして社会課題を解決したい方には、ぜひこの分野で起業していただきたいですね。起業を考えている方は、まず自分がどのような事業に向いているかをよく考えていただけたらと思います。

私の座右の銘は「百折不撓(※4)」なのですが、物事を中途半端でやめるのは絶対に嫌なんです。これはもう性格ですね。何かに挑戦したら、諦める前にやれることは全部やってみますし、悩むのは時間の無駄なので、行動あるのみだと思っています。

※4 百折不撓(ひゃくせつふとう):何度失敗や挫折を経験しても、決してくじけずに初めの意志や志を曲げないことを表す四字熟語

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