ゴーレム 野村 大輔|建設業界の古い「仕組みそのもの」にデータとAIで切り込む

※このインタビュー内容は2026年06月に行われた取材時点のものです。

36歳で起業、大手ゼネコンを株主に。「自分の仮説は自分で証明する」

「紙とExcel、担当者の勘と経験」日本の建設業界では今も、そんな現場が当たり前です。

設計から施工まで、同じデータが関係者間で何度も手作業で転記され、ベテランの知見は引き継がれることなく失われていきます。生産性の低さは慢性的な課題でありながら、長年変わらずにいました。

そこに真正面から切り込むのが、株式会社ゴーレムの野村大輔さんです。同社が挑むのは、勘と経験と手作業で長年動いてきた建設・不動産業界の「仕組みそのもの」を書き換えることです。

AIとデータ解析技術を活用したツール「GORLEM PLATFORM」を通じて業務効率化やCO2排出量の算定を支援し、国内大手ゼネコン・デベロッパー複数社が株主として参画しています。今回は野村さんに、創業の背景から事業の独自性、今後の展望まで詳しく伺いました。

※1 ゼネコン:「ゼネラルコントラクター(General Contractor)」の略。建設工事を元請けとして受注し、設計・施工を総合的に管理する大手建設会社のこと。

野村 大輔(のむら だいすけ)
株式会社ゴーレム 代表取締役
大手素材メーカーの生産技術エンジニア、外資コンサル新規事業責任者、スタートアップBizDevを経て、ゴーレムを創業。建設・不動産業界におけるデータ利活用とAI実装を推進し、CO2排出量算定からコスト分析・購買管理・工程最適化まで支援領域を拡大している。

会社員時代に感じた「ジレンマ」が起業のきっかけに

ー野村さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

野村:大学卒業後、大手素材メーカーに入社し、自動車用ガラスの製造工程をコンピューターシミュレーションで最適化する仕事に6年ほど従事していました。実際に製造に着手する前に複数の条件をコンピューター上で試し、「どの方法が品質・効率ともに最も優れているか」を事前に検証するという仕事です。

ーそこからどのようなきっかけで転職を?

野村:技術者として新しい製造方式へ切り替えるべきだと確信していましたが、私の役割は旧来の方式の精度を高めることでした。そのため、私の改善努力は、皮肉にも旧方式の延命につながり、会社の変化を妨げる構図になっていたんです。

そして製造方式の切り替えを判断できる立場に到達するには、当時の組織構造からすると若くても50代にならないと難しくて。当時の私は30歳。現状を簡単には変えられない構造的な限界にジレンマを感じ、戦略を立案し実行を支援できる技術系のコンサルタントに転職しました。

ただ、コンサルタントはクライアントに助言はできても最終的な判断はクライアントが下す立場です。「こうすべきだ」という確信があっても、自分で決断して実行できないもどかしさがある。そのもどかしさを解消しようとスタートアップへ転じたのですが、やはり最終的な経営判断を下すのは創業者です。だからこそ、「自分の考えが正しいかどうかは、自分で事業を起こさなければ確かめられない」と思い、36歳のときに起業を決めました。

コストデータの中にこそ「業界を変える突破口」があると気づいた

ー建設DX事業に着目したきっかけは何だったのでしょうか?

野村:前職のスタートアップで建設業界に関わる中で、業界全体の構造的な課題が見えてきたからです。

建設業界では「BIM(ビム)(※2)」という、建物に関するあらゆる情報を3次元データとして一元管理する仕組みが十数年前から推進されてきました。ところが普及が進まない現場を観察するうちに、本質的な問題が見えてきました。3次元モデルという形式にこだわるあまり、「社内に散在するデータをまず整理して再利用可能な状態にする」という本来優先すべき課題が後回しになっていたんです。

ーデータが整理されていないと、具体的にどのような問題が起きるのでしょうか?

野村:たとえば、同じ「板ガラス」という建材ひとつをとっても、数量の記録の仕方は担当者によって異なります。縦横のサイズと枚数で書く人もいれば、面積(平米)で書く人もいて、単位も呼称もバラバラです。

そもそも建物を建てる際、発注者・ゼネコン・下請け業者は全員、もとをたどれば同じ設計図をもとに動いています。それにもかかわらず、各社・各担当者が異なるフォーマットで資料を作成するため、引き継ぐたびに受け取った側が手作業で自社形式に整理し直さなければなりません。

この非効率な集計・変換作業がサプライチェーンの各段階で繰り返されていることが、業界全体の生産性を下げる本質的な課題だと感じました。

ー業界全体で、同じ作業が何度も繰り返されているわけですね。その課題解決にどのように切り込んでいったのですか?

野村:課題は明確でも、見積もりや発注といったコストデータは経営上の機密情報であるため、外部の人間が簡単に触れられる領域ではありません。そこで着目したのが、CO2排出量の算定という切り口でした。

2015年のパリ協定(※3)以降、建設業界ではCO2排出量算定への対応が求められる一方、企業には専門知識を持つ人材がいないという課題が顕在化していたんです。「建設業の業務知識とCO2算定の両方がわかる」という強みがあれば、通常は開示されないコストデータにもアクセスできるのではないか、という仮説を立て、事業の入り口として据えることにしました。

※2 BIM(ビム):「Building Information Modeling(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」の略。建物の設計・施工・管理に関するすべての情報を3次元モデルに統合して活用する手法。

※3 パリ協定:2015年に採択された、気候変動対策に関する国際的な枠組み。各国に温室効果ガスの排出量削減目標の設定を求めている。

たった1人の創業期。「CO2算定×建設知識」という希少性で大手の扉を開けた

GORLEM 排出量算定 画面イメージ
GORLEM 排出量算定 画面イメージ
ー創業初期はどのような状況でしたか?

野村:いざ会社を立ち上げてみると、創業メンバーがそれぞれ家庭の事情で離脱し、気づけば自分1人ですべてを回す状況になっていました。

それでも、AI開発については以前の職場や業界のつながりで知り合ったエンジニアに協力してもらいながら進めました。「どんな仕組みが必要か」「建材の名称がバラバラな場合にどう処理するか」といった設計の方向付けは自分が担い、技術的な実装は協力者に委ねる形です。顧客獲得についても、コンサル時代や前職のつながりをたどりながら、自ら足を動かして進めていきました。

その過程で強みになったのが、「建設業の知識を持ったうえでCO2算定もできる」というポジションです。当時、CO2算定の専門家はまだほとんどいなかったため、この希少性が初期の信頼獲得に直結しました。

また、顧客のアプローチ先として最初から大手企業に絞ったことも、結果的に正解でした。スタートアップのIT支援では中小企業向けに数を売るモデルが一般的ですが、大手と組んだほうが業界理解が深まり、データも蓄積できる。その判断が、後の競争優位の土台になっています。

ーそのような状況で、最初のメンバーを採用する際はどのようなことを意識されましたか?

野村:「問題が生じたときにも建設的な議論ができる人かどうか」を重視しました。たとえば「進捗が少し遅れているのでは?」という指摘を、批判や叱責として受け取るのではなく、今すべきことをフラットに議論できる人がいいなと。

お互いへの気遣いが優先されて誰も踏み込んだ話ができないと、チームの問題は解決できません。「いい仕事をするために議論をしている」という共通認識を持てるチームづくりを意識しました。

大手ゼネコンが株主に。横断的な業界データが生む圧倒的な強み

ーあらためてGORLEM PLATFORMの強みを一言で表すとしたら、どのような点でしょうか。

野村:建設業界に特化した膨大なデータと専門知識を、AIと組み合わせている点です。もちろん汎用のAIツールに建設の資料を読み込ませれば、それらしい回答は得られます。しかしそれでは差別化になりません。

強みの本質は、建材の名称や単位の表記ゆれ、業者ごとの見積もりの書き方の違いなど、「建設業ならではのデータの複雑さ」を解消できるノウハウにあります。これは汎用ツールでは代替できない、実際に大手企業の現場に深く入り込んで積み重ねてきたものです。

ではなぜ、それだけの知識を蓄積できているのでしょうか。それは、大手ゼネコン複数社とお取り引きいただき、多くの現場データを横断的に扱えることが大きいです。

1社が独自にシステムを作る場合とは比べものにならないデータ量と業界知識が蓄積できていますし、開発コストも複数社で実質的に分担しているような状況なので、「自社単独で作るよりGORLEM PLATFORMを活用する方が合理的」という状態が自然と生まれています。

AIが進化すればするほど、私たちのデータと組み合わせることでより精度の高い成果が出せる。この構造そのものが競争優位につながっています。

ー強みのデータや知識を、実際の業務にどこまで根付かせられるかも重要ですね。

野村:そこも私たちが重視している部分です。汎用のAIツールを担当者が個人的に使ってみることと、会社全体の正式な業務として導入することは、まったく別の話です。全社導入となると、社内のIT部門との調整、セキュリティ要件の確認、各部署への運用ルールの整備など、越えなければならないハードルがたくさんあります。

だからこそ、「ツールを渡して終わり」ではなく、導入後の定着まで伴走できることが、私たちの大きな強みになっています。「実際の見積もり業務や発注管理の中にGORLEM PLATFORMをどう組み込むか」まで一緒に考えられる。これが企業から継続的に信頼していただいている理由だと思っています。

ベテランの知見をデータに変え、日本の建設技術を世界へ

ー現在、事業はどのような広がりを見せているのでしょうか?

野村:当初のCO2算定から始まり、今では見積もり・発注データをコスト分析や購買管理、工程計画の最適化にまで活用いただけるようになっています。整理されたデータは用途が広く、「次はこの業務にも使えますね」という形で事業領域が自然と拡張していきました。ここ数年の建設費高騰もあって、ゼネコンもデベロッパーもコストを徹底的に分析したいというニーズが非常に高まっています。「なぜコストが上がっているのか」「どこで無駄が生じているのか」を可視化できるため、そのニーズは今後もさらに強まると感じています。

ー今後の展望についても教えてください。

野村:建設業のもう一つの本質的な課題は、「ベテランの知見が属人化している」という点です。実際に、打ち合わせでお会いする各社のエース級の方は55〜60歳前後が多い。「こういう条件のプロジェクトにはこの工法が合う」「このコストはここで抑えられる」といった判断軸は、今はその方々の頭の中にしかありません。引退されると、その知見はそのまま失われてしまいます。

だからこそ今、私たちはそのデータ化を早急に進めています。ベテランの知見がデータとして整理されていれば、過去の類似案件をAIで参照しながら工事計画や調達計画を立てられるようになります。「経験豊富な担当者が集まって経験則で決める」意思決定を、データとAIで補完・継承していくこと。これが私たちの目指す姿です。

そしてこのデータ化は、国内の業務改善だけにとどまりません。日本の建設技術は世界水準で見ても高いものがありますが、それが「ベテランの頭の中」にある限り、海外では再現できません。データとして蓄積されて初めて、日本のノウハウを海外の現場に持ち込めるようになります。

その実現に向け、すでに大手ゼネコンと組みながらグローバル展開の検討を進めていて、現在は東南アジアとヨーロッパ、特にイギリスで検証が進行中です。EUはCO2算定などの環境規制ルールが統一されているためシステムの汎用性が高く、東南アジアは今後の建設市場の成長が見込まれます。国内で積み上げたデータを基盤に、海外展開を強化していく予定です。

起業とは、自分の仮説を自分で検証できる舞台

ー最後に、これから起業を目指す方や創業まもない方へメッセージをいただけますか。

野村:起業は、多くの方が構えるほどリスクの高いものではないと思います。転職もある、業務委託もある、うまくいかなければ別の道に戻ることもできる。選択肢はたくさんある中で、「やりたいことがあるなら、まずやってみる」という姿勢がいちばん大切だと思っています。

私自身が起業を決めた背景には、「自分の判断が正しいかどうかを確かめるには、自分でやるしかない」という思いがありました。前職でも「こうすべきだ」という確信はあったけれど、他者の判断のもとで動く立場ではそれを試せない。起業とは、自分の仮説を自分の責任で検証できる場だと、今も思っています。

ー野村さんがこれほど力強く動き続けられる原動力は何でしょうか。

野村:若い頃からずっと、日本の産業が世界の中での存在感を失っていくのを目の当たりにしてきました。そして私が30歳の頃に当時の職場を見渡すと、40〜50代の人たちが業界の変化に対してどこか諦めているように見えました。気づけば自分がその年齢に差し掛かり、自分はそうなりたくないという思いがあったんです。

だからこそ、体力的にも判断力的にも動ける今のうちに、精一杯やってみようと思ったんです。それは自分自身のためでもありますが、次の世代に何かを残したいという思いでもある。日本の産業を次の世代につないでいけるように、そして「私は精一杯やった」と子どもに胸を張って言えるように。この2つが、私が動き続けられる理由です。やりたいことがあるなら、今が一番若い。もし今起業を迷っているなら、まずは行動してみてほしいと思います。

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