【2026年4月から】在職老齢年金の基準額が引き上げ!役員報酬の設定における注意点を解説
高齢者の就労を促進|在職老齢年金の支給停止基準額が大幅に引き上げられている

在職中でも年金を受け取りながら働く「在職老齢年金」は、収入状況に応じて年金の一部または全額が支給停止となる仕組みです。
年金をフルで受け取るには基準額に合わせて仕事をカットする必要がありましたが、2026年4月から在職老齢年金の基準額が引き上げられることになりました。
この記事では、在職老齢年金の支給停止基準額の引き上げ内容についてわかりやすく解説するとともに、役員報酬を設定する際に押さえておきたいポイント・注意点も解説します。
制度を正しく理解し、収入と年金のバランスを最適化するための参考にしてください。
この記事の目次
2026年4月から在職老齢年金の支給停止基準額が大幅引き上げ!

在職老齢年金の支給停止基準額が大幅に引き上げられることが決まり、2026年4月から適用されています。
ここでは、具体的な改正内容と目的、引き上げによって変化する年金額のシミュレーションを紹介します。
具体的な改正内容
以前の老齢厚生年金が支給停止となる基準額は月50万円です。この基準額をもとにした調整額が毎年4月に発表されており、2025年度は月51万円でした。
しかし、月50万円前後だとまだ現役で活躍している役員・管理職の多くは、老齢厚生年金の支給が停止されているケースも少なくありません。
2026年4月からの改正から、基準額が月62万円まで引き上げられました。
具体的には、賃金(標準報酬月額+直近1年間に受け取った賞与の12分の1)と老齢厚生年金(基本月額)の合計が62万円以下なら、年金は全額支給されることになります。
また、万が一合計金額が62万円を超えてしまった場合でも、支給が停止されるのは62万円を超えた金額の2分の1までで、全額停止にはなりません。
改正の目的
在職老齢年金の基準額が見直された背景に、高齢者の就労ニーズが高まっている点が挙げられます。
平均寿命と健康寿命は年々増加傾向にあり、65~69歳の就業率も1990年の38.7%と比べて2025年は54.5%にも上っています。
しかし、働く高齢者が増える中で、在職老齢年金の支給停止になった人は、2022年度末で16%にも上ることがわかりました。
人手不足の業界も多い中で、高齢者の働きやすさを向上させることを目的に、在職老齢年金の改正が行われました。
引き上げによって変わる年金額シミュレーション
支給停止基準額の引き上げにともない、受け取れる年金額はどのように変わるのでしょうか。
例えば、賃金(ボーナスを含む年収の12分の1)が48万円、厚生年金が10万円だった場合、以前までは50万円がラインとなっていたため、超過した8万円の半額4万円分の厚生年金が支給停止となります。
一方、2026年4月からは月65万円が適用(法律上の基準額は62万円ですが、2026年4月から適用されるのは65万円)されるため、賃金48万円+厚生年金10万円=58万円がフルで受け取れることになります。
この例だと、あと7万円分多く働いたとしても年金は減額されないため、安心して働く時間を伸ばすことができます。
そもそも在職老齢年金とは?

在職老齢年金とは、年金を受け取りながら労働で収入を得ている人に適用される制度です。
賃金と年金の合計額によって受け取れる年金額が調整されます。ここで、在職老齢年金の特徴やメリット・デメリットについて、改めて解説していきます。
支給停止となる基準額がある
在職老齢年金は年金を受け取りながら働く高齢者のうち、一定以上の収入がある人には年金制度を支える側に回ってもらうことを目的に設けられた制度です。
そのため、働きながら年金を受け取っている人の厚生年金は、一定以上で支給を停止する基準額が設定されています。
基本月額(年金額)と総報酬月額相当額(給与+賞与)の合計が、定められた基準額を超えることで、その超えた分に応じて年金が減額されます。
賃金変動などに応じて毎年改定され、2022年度の47万円から2023年度は48万円、2024年度は50万円、2025年度は51万円と増額されていきましたが、今回の改正によって月62万円(4月の適用時は月65万円)まで大幅に基準額がアップしました。
在職老齢年金のメリット・デメリット
在職老齢年金のメリットとして、働きながらでも収入だけでなく年金を受け取れる点が挙げられます。
収入源が複数になることで生活の安定性が高まり、長く働く意欲にもつながるでしょう。
また、制度改正によって支給停止基準額が上がったことにより、以前よりも柔軟な働き方がしやすくなっています。
一方で、デメリットとしては一定以上の収入があると年金が減額される点が挙げられます。
これまでせっかく保険料を納めてきても、実際の受給額が減ってしまうため、「働いた分だけ得をする」わけではない点に注意が必要です。
さらに、給与設定や働き方によっては社会保険料の負担も増えるため、トータルの手取り額を意識した判断が重要になります。
役員報酬の設定で注意すべきポイント

在職老齢年金の改正によって支給停止基準額が引き上げられましたが、経営者の中には役員報酬の見直しや再設定を検討する人も多いかもしれません。
しかし、役員報酬を再設定する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。支給停止基準額ばかりに目が向いてしまわないように、ここで注意点を紹介します。
報酬を上げすぎるリスク
まず、支給停止基準額の引き上げにともない報酬を上げすぎてしまうのは注意が必要です。役員報酬は、自分の会社だからといって自由に設定してもいいわけではありません。
業績や役割などに見合っていない、不相当に報酬を上げた場合、損金不算入となる可能性があります。
損金不算入になれば修正申告が必要となり、場合によっては追徴課税なども発生するリスクがあるため、注意が必要です。
社会保険料とのバランス
年金を受け取りながら働いている場合、厚生年金に加入している限りは引き続き厚生年金保険料と健康保険料が課されることになります。
つまり、年金を受け取りつつ、同時に年金保険料も負担しなくてはなりません。
70歳未満だと厚生年金と健康保険料が給与から天引きされますが、75歳以降は後期高齢者医療制度が年金から天引きされることになります。
在職老齢年金の支給停止基準額が引き上げられ、年金の支給停止が緩和された場合、働く時間を増やして賃金が増えたとしても、その分社会保険料の負担も増えるため、単純に手取りが増えるとは限りません。
ただし、厚生年金に加入し続けることによって、将来受け取れる年金額の増額につながる可能性はあります。
このことから、社会保険料とのバランスも加味した上で収入を上げるか検討することが大切です。
役員・経営者が在職老齢年金を踏まえて検討したいポイント

役員や経営者は自分で役員報酬を設定できる立場にあるため、在職老齢年金の仕組みを理解した上で収入設計を行う必要があります。
単純に報酬を高くすれば良いわけではなく、年金の支給停止や社会保険料とのバランスを見ながら、最適な受け取り方を検討することが必要です。
ここで、在職老齢年金も踏まえた上で検討したいポイントを紹介します。
標準報酬月額を下げる
在職老齢年金の支給停止は、標準報酬月額に大きく影響されます。
そのため、役員報酬を調整して標準報酬月額を一定以下に抑えることで、年金の減額を防ぐことが可能です。
ただし、標準報酬月額を下げてしまうと、将来受け取れる年金額や社会保険給付にも影響が出る可能性があります。
短期的な手取りだけで考えるのではなく、中長期的な視点をもって標準報酬月額を下げるかどうか検討することが大切です。
標準報酬月額・標準賞与額の上限額を活用する
標準報酬月額や標準賞与額の上限額を活用すると、損をせずに働ける場合があります。
例えば、年収1,000万円とすると月給のみで受け取った場合は1,000万円÷12=83万3,000円になりますが、標準報酬月額の上限は65万円までとなるので、総報酬月額相当額は65万円ということになります。
一方、毎月65万円の月給(65万円×12=780万円)と、残り220万円を賞与として年2回受け取っていた場合、標準報酬月額は65万円、標準賞与額は220万円(1回の上限は150万円のため、標準賞与額220万円はそのまま)となります。
総報酬月額相当額は、65万円+(220万円÷12)=83万3,000円です。
これにより、在職老齢年金の計算に有利になるだけでなく、保険料も抑えられます。
個人事業主としての働き方も選択肢になる
会社役員ではなく、個人事業主として収入を得る形にした場合、在職老齢年金の影響を受けにくくなります。
これは、個人事業主だと厚生年金ではなく国民年金が対象になり、給与ベースでの支給停止の仕組みが適用されないためです。
ただし、その分厚生年金の上乗せ部分がなくなるため、将来の年金水準が下がる可能性があります。
また、社会保険の保障内容も変わるため、単純な比較ではなく総合的に検討する必要があります。
社会保険の適用関係を踏まえて受け取り方を確認する
在職老齢年金に加え、社会保険の適用関係も踏まえて報酬の受け取り方を確認することも重要です。
報酬の受け取り方によっては保険料の負担が増えたり、保障内容が薄くなってしまったりするケースも考えられます。
例えば、社会保険が適用されない非常勤役員や相談役、顧問などの立場になって報酬を受ければ、年金を減額されることなく報酬を得られます。
しかし、実態として常勤の従業員・役員とほとんど変わらない働き方をしている場合は、社会保険の適用を受けてしまう可能性が高いです。
また、配偶者の扶養やほかの収入との兼ね合いによっても最適な形は変わります。年金の受給額や社会保険料、手取り収入のバランスをトータルで見ながら、自社や自分の状況に合った受け取り方を検討してください。
役員報酬の変更方法・手順

在職老齢年金の改正にともない、役員報酬を変更したい場合、どのような方法で変更すれば良いのでしょうか。ここでは、役員報酬の変更方法と手順を解説します。
役員報酬は年1回・期初から3カ月以内に変更可能
そもそも役員報酬は、原則として年に1回、事業年度が開始してから3カ月以内に変更手続きを済ませる必要があります。
例えば、4月から新しい事業年度が始まる場合、4~6月の3カ月間が役員報酬を変更できるタイミングです。
ただし、それ以外の期間でも要件を満たせば役員報酬を変更することは可能です。
例えば、年度の途中で役員が降格となった場合や、経営状況が大幅に悪化してしまい役員報酬を減額せざるを得なくなった場合などが挙げられます。
在職老齢年金を踏まえた役員報酬の変更は、上記の例外には当てはまらないため、注意が必要です。
役員報酬を変更する際の流れ
役員報酬を変更するには、まず役員報酬の金額を決定し、株主総会を開催します。株主総会の中で、普通決議で可決されれば変更することが可能です。
株主総会で決まった役員報酬の変更については、議事録に残しておく必要があります。
税務調査が入った場合、議事録が正しく手続きをしている証拠になるため、必ず作成・保管するようにしてください。
また、必要に応じて月額変更届なども提出します。
例えば、役員報酬の変更で健康保険や厚生年金の等級も変更となる場合、管轄の年金事務所へ届け出を提出しなくてはなりません。
在職老齢年金や役員報酬に関するよくある質問(Q&A)

最後に、在職老齢年金や役員報酬に関してよくある質問と回答をまとめました。気になることがあれば、こちらもぜひチェックしてください。
支給停止になる対象期間はいつ?
老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計額が65万円を超えた月が、支給停止となります。
毎月65万円を超過していればずっと一部支給停止の状態が続き、途中で65万円を超えなくなった場合は全額支給されるようになります。
支給停止といっても後で戻ってくるわけではないので、注意してください。
基準額に賞与は含まれる?
在職老齢年金の支給停止基準額には賞与も含まれます。支給停止基準額を構成しているのは、「基本月額」と「総報酬月額相当額」です。
基本月額は老齢厚生年金の年額を12で割った金額(1カ月分の支給額)であり、加給年金・経過的加算額は含まれません。
一方、総報酬月額相当額は、給与の標準報酬月額と標準賞与額(直近1年の賞与の総額を12で割った金額)の合計額を指します。
役員報酬は途中で変更できる?
役員報酬は途中で変更することも可能です。原則事業年度が開始してから3カ月以内に変更する必要があります。
3カ月を過ぎてしまっても役員報酬を変更することは可能ですが、一部損金不算入となる可能性があるため、基本的には事業年度が開始してから3カ月以内に変更するようにしてください。
まとめ・制度の改正内容を理解して役員報酬を最適化しよう
在職老齢年金は2026年4月からの改正にともない、支給停止基準額が月62万円、2026年度の調整額が月65万円と、大幅に引き上げられました。
今回の引き上げにより、「収入を得ると年金が減る」という問題を緩和させることができ、高齢者の就労を促進します。
経営者や役員は、今回の改正内容を理解した上で役員報酬を最適化するようにしてください。
(編集:創業手帳編集部)
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