株式会社SAZO ギル・マロ|25歳で7億円調達。AI×物流で「世界の買い物」を変える
韓国出身の若き起業家が仕掛ける、AI時代の越境EC革命

海外のECサイトで「欲しい」と思った商品があっても、言語の壁や複雑な関税計算、国際配送の手続きに阻まれて購入を諦めた経験はありませんか?
そんな越境ECの不便さを解消するのが、株式会社SAZOが運営するAI越境ECプラットフォーム「SAZO」です。ユーザーは海外サイトの商品URLを貼り付けるだけで、AIが商品価格・関税・送料を即座に算出。表示された金額をそのまま決済するだけで、国内通販と同じように海外の商品を購入できます。
創業からわずか2年足らずで約70名(子会社含む)の組織に成長し、約7億円の資金調達も実現している株式会社SAZO。今回は、創業者ギル・マロさんに起業の原点から資金調達のリアル、そしてグローバル展開の展望まで詳しく伺いました。
2000年8月11日韓国生まれ。
日韓共同理工系国費留学生として2020年から名古屋工業大学に留学。
兵役中に自身の越境売買経験から、越境EC(電子商取引)の不便さを解消するビジネスを構想。複数のビジネスコンテストで経済産業大臣賞を始めとする数々の賞を受賞。その後ビジネスプランを固め、2023年10月に株式会社SAZOを創業、代表取締役に就任。
この記事の目次
プログラミング少年、国費留学で日本の大学へ
ギル:私は小学生の頃からプログラミングが好きで、母が数学の先生だった影響もあり、数学や科学の分野にのめり込んでいました。中学時代には数学・科学のオリンピックでメダルを獲得し、高校は国が支援するサイエンススクールに進学してアルゴリズムの研究に没頭するなど、専門的なスキルを磨き続けていたんです。
同時に、当時韓国で起きていた日本文化ブームの影響で、アニメやゲームを通じて日本に憧れを持つようになりました。そんな中、高校1年生のときに先生から日韓共同の理工系学部への留学プログラムを勧められたのが日本に来るきっかけになりましたね。
ギル:当時の私は、ひらがなとカタカナ、あとは日本アニメで覚えた単語を少し知っている程度で、日本語はほとんど話せませんでした。ただ、このプログラムは試験がすべて韓国語で行われるので、日本語ができなくても挑戦できたんです。
何より大きかったのは、約5年間の生活費を日韓両政府が支援してくれる制度の存在です。留学できるほど経済的に余裕がなかった私にとって、これは本当にありがたい機会でした。「好きな国へ行ける」だけでなく「自力で道を切り拓ける」という条件が揃っていたんです。そして、2020年に名古屋工業大学に入学しました。
30代で起業するつもりだった私が、学生起業を決めた理由

ギル:原点は高校時代の個人輸入の体験です。当時、自分で作ったウェブサイトの広告収入でアメリカから音響機器を購入していました。ところが、英語のサイトで注文し、関税を調べ、国際配送を手配するのがとにかく大変で。
そして日本に留学してからは韓国の商品が恋しくなり、今度は日本から韓国のサイトで買い物をしていました。さらに、コロナ禍で大学1年生の時の授業がほとんどなかったこともあり、韓国に帰国し兵役に就いていた際、日本の商品が欲しくなり再び海外通販を利用しました。
そこで気づいたのは、アメリカから韓国、日本から韓国、韓国から日本と、どの経路で買い物をしても大変さがまったく同じだということです。言語、通貨の換算、関税の計算、国際配送の手配など、「買いたい気持ちはあるのにハードルがたくさんある」状況はどの国の組み合わせでも共通していました。「この課題を自分で解決したい」という思いが、SAZOの出発点です。
ギル:いえ、当時はビジネスマンとして専門性を身につけてから30代で起業できたらいいなと漠然と考えていました。ところが除隊後に名古屋工業大学へ復学し、興味本位で起業部「NaSH」に入部したことで、徐々に自分の中で起業が現実味を帯びてきたんです。
起業部では、「Tongali」という東海地区のビジネスコンテストに出場するのが主な活動でした。短期間で自分の手で形にできるテーマとして、温めていた越境ECのアイデアを選び、プロトタイプを作ってコンテストに臨んだ結果、優勝できたんです。この成功体験が、起業への決断を後押ししてくれました。
AI実装でプロダクトが現実に。フルコミットで駆け抜けた創業期

ギル:大きな転機は、2021年頃に登場したGPT-3というLLM(※1)との出会いでした。それまで私は、ウェブ上の情報を自動収集するプログラムを自作していましたが、サイトごとに設計が異なるため、メンテナンスに膨大な時間がかかっていました。
LLMを使えば、AIがサイトの文脈を理解し、どんなECサイトからでも商品名や価格、送料を正確に抜き出せるはず。このエンジニアとしての着想が、今の「URLを貼り付けるだけで海外商品が買える」というSAZOのコア機能につながっています。
ギル:最初のメンバーは、私を含め在学中や大学卒業直後の4人だけです。事務所にベッドを持ち込み開発に没頭する毎日でした。今のようにAIがコードを書いてくれる時代ではなかったので、すべてが手探りの手作業です。マーケティングなどは二の次で、とにかく「AIで越境ECのハードルをゼロにする」という一点に全員のリソースを注ぎ込みました。
ギル:はい。とくにシステムの技術選定では、経験不足から判断を誤ることも多かったです。そこで痛感したのは、自分たちに足りない経験を外部から補うことの重要性でした。
インターネットを通じてエンジニアのアドバイザーを探し、意気投合した方からさらに経験豊富なメンバーを紹介していただきました。プロの知見をチームに引き込めたことが、技術的な壁を突破できた最大の転機になったんです。
※1 LLM:「Large Language Model(大規模言語モデル)」の略。現在の対話型AIなどの基盤となっている技術。
日本の資金調達はハードルが低い?初めてのVC交渉で学んだものとは
ギル:まずは名古屋のVC(※2)を中心にアプローチしていましたが、製造業への関心が強い方が多く、ITやBtoC(消費者向けサービス)の分野ではなかなか関心を持ってもらえませんでした。そこで東京に出向き、多くのVCと面談を重ねたんです。
最初は断られ続けましたが、面談の回数を重ねるなかで少しずつ手応えが出てきて、最終的にはオファーをいただけるようになりました。ただ、振り返ると学びもあります。当時の私は、VCが投資家からお金を預かり、リターンを出す義務を負っているという構造自体を理解していませんでした。彼らが何を基準に投資判断をし、どんな条件を提示するのかが分からないまま交渉に臨んでしまったんです。
最終的には、信頼できると感じた方に出資をお願いすることに決めました。結果的にその判断は間違いではなかったと思っていますが、もしVCの仕組みをもっと理解した上で臨んでいれば、交渉の進め方にも幅が出たかもしれません。これから調達に臨む方には、ぜひ事前にVCという存在の仕組みを学んでおくことをお勧めしたいです。
ギル:ビザの問題でかなり苦労しました。経営・管理ビザの取得には資本金の要件があるのですが、最初の資金調達で使ったJ-KISS(※3)という仕組みだと、調達した資金が「資本金」としてカウントされなかったんです。
当時は「日本人を2名雇用する」という条件を満たす必要があり、創業直後にそれをクリアするのは大変でした。審査では、事業の継続性を示すためにさらに高い基準を求められる場面もあり、VCからの調達がなければ、外国人が最初にその壁を突破するのはかなり難しいのが現実です。
ギル:一番お伝えしたいのは、「一人で抱え込まず、先輩起業家の知恵を借りること」です。私自身、起業部やビジネスコンテストを通じて先輩起業家と出会えたことで、調達の進め方やVCとの向き合い方を直接学ぶことができました。まったくのゼロから交渉に臨むのとは、スタート地点が大きく変わります。起業家コミュニティやアクセラレーションプログラム、ビジネスコンテストなど、今は先輩起業家とつながれる機会がいろいろとあるので、積極的に活用してほしいですね。
もう一つ知っておいていただきたいのは、日本のシード期(※4)における調達環境は、実は他国と比べて恵まれているということです。バリュエーション(企業価値の評価額)が10億円以下の調達に関しては、どの国よりも資金が回りやすい環境だと感じています。韓国では20代で上場に成功した企業はほぼありませんが、日本にはたとえば株式会社タイミーの代表取締役・小川さんのような若い起業家の成功事例があり、学生起業への期待感も高いです。「まだ早いかも」と躊躇せず、この環境を前向きに活かしてほしいと思います。
※2 VC(ベンチャーキャピタル):高い成長ポテンシャルを持つ未上場企業に出資し、将来的な上場や売却(M&A)によるリターンを狙う投資機関。
※3 J-KISS:「Keep It Simple Security」の日本版で、スタートアップ向けの投資契約の一種。株式ではなく新株予約権として投資を受ける仕組みで、手続きが簡便なため初期の資金調達として普及している。
※4 シード期:創業前後の「種(シード)」の時期。プロダクトが未完成、あるいは市場での検証が始まる前の、最もリスクが高く、かつ爆発的な可能性を秘めた初期フェーズ。
AI時代にこそ活きる、SAZOの強みと将来性

ギル:SAZOにとっては、むしろ追い風だと考えています。確かに、ソフトウェアだけのサービスは今の時代すぐに模倣されてしまうでしょう。しかしSAZOは、AI技術に加えて物流倉庫や通関対応といった物理的な基盤も自社で持っています。日本国内の福岡と東京に倉庫があり、韓国やアメリカにも拠点を構えている。ユーザーがURLを貼るだけで商品が届く裏側では、SAZOのメンバーが現地での仕入れ、通関手続き、国際配送まですべてを担っているんです。
ギル:そうですね。たとえばAIエージェント(※5)の時代が来れば、「韓国でこの商品を買いたい」と伝えるだけでAIが商品を探してくれるようになるでしょう。しかし、見つけた商品を現地で仕入れて、通関して、ユーザーの手元に届けるところまでは、AIだけでは完結できません。そこをSAZOが物理的な拠点とオペレーションで担う。つまり、AIが便利になればなるほど、「最後の実行部分」を持つ私たちの価値が高まると考えています。この「AIと物流の両方を一気通貫で持つ」体制は簡単には真似できませんし、投資家の方々にもこの点を成長性の裏付けとして評価していただけたのだと思います。
※5 AIエージェント:ユーザーの指示に基づいて情報収集やタスク実行などを自律的に行うAIシステムのこと。
全世界の買い物を変える「新しい当たり前」を目指して

ギル:現在は日韓間の取引が中心ですが、今後はグローバル展開を加速させていきたいと考えています。目指しているのは、世界中のECサイトから、自国の通販サイトで買い物するのと同じ感覚で購入できる世界です。国ごとに通関の仕組みも物流事情も異なるので簡単ではありませんが、難しいことにこそ挑戦する価値がある。世界中の距離をぐっと縮めて、誰もがどこからでも欲しいものを手に入れられる、そんな「新しい当たり前」を作っていきたいと思っています。
ギル:起業を志す方は、すでにやりたいことや強い意志を持っている方が多いと思います。ただ、私自身が最近痛感しているのは、「自分一人で頑張る力」以上に「いい仲間を集める力」が大切だということです。
私自身、創業期にネットで偶然つながったアドバイザーの方から人を紹介していただき、そこから組織の中核メンバーが集まっていきました。今では約70名の体制になりましたが、事業が大きくなるほど、自分一人でできることには限界があると感じています。能力のある人に出会い、その人たちが本気で「一緒にやりたい」と思える環境を作ること。仲間を大事にし、人を成長させる力こそが、最終的に大きな成功につながるのだと思います。
もう一つお伝えしたいのは、起業は論理的に考えても、早く始めたほうが有利だということです。起業の成功は、挑戦した回数とそこから得られる学びの積み重ねで決まる側面が大きいと思っています。であれば、挑戦を始める時期が早いほど試行錯誤の機会も増えますし、若いうちのほうが経済的に背負うものも少ない。情熱だけでなく、そうした冷静な視点で見ても、早く動き出すメリットは大きいはずです。ぜひ、思い立った今のタイミングで一歩を踏み出してみてください。
(編集:創業手帳編集部)
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