Ambition22 羽生 直剛|元Jリーガーがオシム哲学で企業組織を変える
強みを掛け合わせてチームを変える。プロ16年の経験を「社会を動かす力」に

プロサッカー選手として16年間、公式戦500試合以上を戦い抜いた元Jリーガー・羽生直剛さんは、2020年に株式会社Ambition22を設立し、ビジネスの世界へ転身しました。
その事業の根底にあるのは、ジェフユナイテッド市原・千葉(以下、ジェフ)時代の恩師、故イビチャ・オシム元監督から学んだ哲学です。同氏のリーダーシップと、ストレングスファインダー(※1)を掛け合わせ、現在は組織変革・研修プログラム「ivica(イヴィカ)」を展開しています。
今回は羽生さんに、サッカーでの経験と学びを具体的な事業へと昇華させるまでの試行錯誤について詳しく伺いました。
※1 ストレングスファインダー:米Gallup社が開発した自己分析ツール。オンラインでの診断を通じて、34の資質から自分自身の強み(資質)を可視化できる。
千葉県出身。元プロサッカー選手としてジェフユナイテッド市原・千葉、FC東京、日本代表で活躍。オシム監督のもとで「個性は優劣ではなく強み」という価値観に触れる。引退後はストレングスファインダーを基盤に企業研修・組織開発コンサルティング事業を展開し、認定コーチとしてスポーツとビジネス双方の現場で強みを生かした組織づくりと人材育成を支援している。
この記事の目次
オシム元監督との出会いが事業構想のきっかけに

羽生:私たちが提供しているのは、個々の才能を可視化し、それぞれの強みを掛け合わせることで「成果を出せるチーム」へと導く支援です。この「欠点ではなく強みにフォーカスする」考え方は、現役時代の恩師であるオシム元監督から学んだ哲学がベースになっています。
私が2002年にプロ入りした翌年、オシム元監督がジェフの監督に就任しました。日本代表時代も含めて5年間、監督の下で過ごした時間は、それまでの自分の考え方が大きく変わるほどの経験になったんです。
羽生:圧倒的な威厳を持つ厳格な方でした。練習中も決して妥協を許さず、怒る時は徹底的に。一方で、素晴らしいプレーには「ブラボー!」と心から称賛を送り、練習が終われば足早にピッチを去る。非常にメリハリのある方でした。1対1で対話をする機会は多くありませんでしたが、日々の練習メニューや厳しい言葉の一つひとつに、プロとしての、そして人間としてのあり方が凝縮されていました。
特に印象に残っているのは、ある時、監督に呼び出されて「なぜお前は、そんなに自信なさそうにプレーしているんだ」と問いかけられたことです。私は当時、同年代のスーパースターたちと自分を比較してしまい、「自分は二流の選手だ」と勝手に限界を決めていたんです。
そんな私に、監督は「お前には90分間走り続けられる力があり、技術も賢さもある。何度弾き飛ばされても立ち上がり、相手が嫌がる場所へ入り続けろ。それができれば十分に優秀だ」と言ってくれました。
他の指導者であれば「体が小さい」ことを弱点と見なしたかもしれませんが、オシム元監督は私の強みに注目し、それを武器にする道筋を示してくれました。「自分には自分の戦い方がある」と自己肯定感が高まったこの経験が、現在の事業の核となっています。
38歳の決断。サッカー一筋から「起業」を選んだ理由
羽生:膝の不調が原因で練習すら満足にこなせない状態になり、「若手に背中を見せられないならチームに居続けるべきではない」と引退を決意しました。オシム元監督の「『できない』と言えるのもプロだ。常にチームの勝利から逆算しろ」という教えがあったからこそ、最後は潔く身を引くことができたんだと思います。
引退後は、FC東京でスカウトとしてセカンドキャリアをスタートさせました。有望な選手をクラブに招き入れる、企業の採用活動に近い役割です。現場の指導者よりも、経営側であるフロント業務を通じて「社会の仕組み」を学びたいと考え、この道を選びました。
羽生:サッカー一筋だった私にとって、稟議や意思決定のプロセスなど、組織運営の裏側を知ることはとても新鮮でした。ただ一方で、「自分はもっとリスクを背負い、勝負できる生き方をすべきではないか」という思いが強くなっていったんです。
プロ選手時代、常に結果で評価される厳しい世界にいたからこそ、再び自分の足で立ち、失敗すら自己責任となる環境に身を置きたいと考え、起業という選択をしました。
とはいえ、具体的なビジネスの構想はなく、まずは既存のご縁を形にすることから始めました。当時、個人として契約していた企業やクラブとの関係を法人契約に切り替え、事業の足がかりを作ったんです。自分の手で会社を運営し、社会の動向を肌で感じてみたいという知的好奇心の方が、当時は勝っていました。
「何でも屋」として駆け抜けた起業初期
羽生:FC東京でのスポンサー営業のフォローから、新規スポーツブランドの立ち上げアドバイザー、さらには千葉県での廃校活用プロジェクトへの参画など、分野を問わず走り回っていましたね。まずは会社としての基盤を作るために、一人の「何でも屋」として活動していました。
羽生:まさにそこが一番の課題でした。広く言えばコンサルティングですが、実態は営業代行に近い仕事もあれば、組織構築の支援もある。自分の経歴やネットワークに依存した仕事が中心だったため、事業としての価値を言葉にする難しさを痛感していました。
羽生:自分の経験を価値として言語化するために、ビジネススクールへ1年間通いました。それと並行して、外の世界を知るために経営者同士をつなぐマッチングサービスにも登録し、1年間でおよそ300人もの方とお会いしたんです。
とはいえ、その出会いの多くが直接ビジネスに結びついたわけではありません。頓挫してしまったプロジェクトもありました。ただ、その過程で地域のスポーツイベントや子ども向けのスクールを継続したことで、社会貢献という形での実績は積み上がっていきました。
試行錯誤を数年単位で繰り返す中で、元プロ選手としての経験と、企業が抱える課題の接点がどこにあるのか、少しずつ視界が開けてきたんです。
「オシム哲学×自己理解」で組織をアップデートする

羽生:軸に据えているのは2つです。1つは先ほどお話しした、オシム元監督の「強みを見るリーダーシップ」。もう1つは、個人の才能を可視化する「ストレングスファインダー」という診断ツールを用いた研修です。
この2つを掛け合わせ、まずはリーダー層の方々にオシム流のチーム作りを説いてマインドを整えてもらい、次に現場のメンバー層に対して「自己理解と相互理解」を深める研修を行っています。
羽生:「資質が社内の共通言語になった」という声をよくいただきます。「あの人はこういう強みを持っているから、この役割で活躍できるはずだ」という共通認識がチーム内に定着するんです。中には、プロジェクトが始まるたびにメンバー同士で「私はこういう資質です」と自己紹介し合ってからスタートする企業も出てきました。
羽生:そうなんです。コミュニケーションの質が劇的に変わり、「これまで存在しなかった会話が生まれた」「部下への見方が変わった」というフィードバックをよくいただきます。組織全体の空気感が変われば、成果が出るまでのスピードも自ずと早まっていくんです。
羽生:その通りです。優秀なプレーヤーによる「足し算」ではなく、全員の強みを引き出した「掛け算」で戦う。サッカーチームで起きたこの奇跡を、ビジネスの世界でも実現することが私たちの存在意義だと思っています。
起業家が学ぶべき「強いチームの条件」とは?
羽生:リーダー自身の「メンバーに対する捉え方」にあると感じています。オシム元監督がチームを変えたように、リーダーが「部下のどこを見ているか」によって、組織の姿は劇的に変わるんです。
逆に言えば、リーダーが「うちには優秀な人材がいない」と嘆いているうちは、組織は一向に変わりません。「一点突破のストライカーだけがいればいい」という極端な発想から、「つなぐ人、守る人、鼓舞する人、全員が機能してこそチームだ」という全体最適の発想に切り替えられるか。これこそがリーダーの役割なんです。
羽生:おっしゃる通りです。「チームの質を上げることが、本当に利益を生むのか?」という戸惑いの声も正直あります。しかし、人間関係の質を整えておくことは、中長期的な成長や離職防止において極めて重要です。
私たちの研修サービスもまだ発展途上ですが、導入企業での定性的な変化を一つずつ積み上げている最中です。「人間関係の質が向上すれば、結果として事業も加速する」という事実を、事例を通じて粘り強く伝えていきたいと考えています。最近では、こうした本質的なチーム作りに取り組もうとする経営者の方々が着実に増えているのを、肌で実感しています。
千葉から日本全国へ——元プロ選手が描くビジョン

羽生:まずは、地元の企業の方々に私たちのサービスを届け、地域活性化のサイクルを作っていきたいと考えています。幼少期からジェフ時代、そして起業後も含めて長年お世話になった土地ですから。
さらに、引退したプロサッカー選手のセカンドキャリアにも本気で向き合いたいと思っています。地元で愛されていたスター選手が、引退後に活躍の場を見つけられず路頭に迷ってしまう現状があるんです。
私が実践している「プロ時代の経験とスポーツの価値を活かして企業を支援する」というモデルを形にできれば、後に続く選手たちに新しい道を示せます。全国各地にいる元プロ選手が、それぞれの地元で企業や地域を支える力になり、日本が活性化していく未来を目指しています。
羽生:毎日が試行錯誤の連続ですが、ようやく進むべき道が定まってきました。だからこそ、同じように挑戦の真っ只中にいる方々と刺激し合いながら成長していきたいと思っています。
「リスクを冒す勇気を持ちなさい。誰かが意を決して前に出た時、初めて得点が生まれる」――。オシム元監督がよく口にしていたこの言葉は、起業家としてゼロから歩み始めた私自身の、何よりの支えになっています。
サッカーだけでなく、ビジネスも全く同じです。誰かがリスクを背負って一歩を踏み出さなければ、新しい価値は生まれません。これから起業を目指す方や、新たな挑戦を前に足踏みしている方は、どうか「チャレンジしたい」というご自身の直感を信じて前に出てみてください。たとえ思い通りにいかない日があっても、全力を尽くした自分に「今日も良いトライだった」と胸を張ること。そんな毎日を積み重ねることで、必ずあなた自身の道が切り拓かれていくはずです。
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