A&L Project 國府島 誠|個人事業主から広告業界のトップランナーへ登り詰めた理由
学歴・職歴なしから年商3.3億へ。4年で売上を倍増させた「多角化」の全貌

東京ゲームショウをはじめとする大型イベントの制作や、バンダイなど大手企業のクリエイティブを手がけるA&L Project株式会社。イベント制作、動画制作、配信番組制作からコンサルティングまで、幅広い領域をワンストップで担い、売上は4年で1.5億円から3.3億円へと成長しました。多彩な事業を展開する同社は、いかにして成長を遂げてきたのか。代表の國府島誠さんに、創業の経緯と事業拡大の秘訣を伺いました。
A&L Project 株式会社 代表取締役
中高時代はアイスホッケーでインターハイ・国体に出場する傍ら音楽にも打ち込み、卒業後は単身カナダへ。2010年まで現地でプロベーシストとして活動するも、才能の壁やビザ問題で挫折し25歳で帰国。広告代理店でイベント制作を学び、2014年独立、2018年にA&L Project株式会社を設立。現在はイベントプロデュース、映像制作、ライブ配信などをワンストップで手掛けるディレクションのプロ集団を率いる。
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この記事の目次
広告業界の荒波で学んだ「圧倒的実行力」
國府島:イベント制作、CMやPVなどの映像制作、配信番組制作、広告デザインなど、クリエイティブ領域を幅広く手がけています。加えて、企業のマーケティング部門に対して「広告代理店との付き合い方」や「施策の内製化」を支援するコンサルティング事業も成長中です。代理店任せにせず、企業の担当者自身が施策の良し悪しを判断できるようになるためのノウハウを提供しています。

写真右端が國府島さん。ベーシストとして活動されていた頃の一枚。
國府島:高校卒業後に単身カナダへ渡り、2010年までプロベーシストとして活動していました。25歳で日本に帰国して音楽の道を離れたのですが、学歴も職歴もほとんどない状態だったので、就職活動は難航しました。そんな中、たまたま広告代理店がアルバイトを募集していたので、そこからキャリアをスタートさせたんです。
國府島:新規顧客へのアポイント獲得や営業アシスタントの仕事でした。営業経験はまったくありませんでしたが、なぜかアポイントが次々と取れたんです。ただ、先輩社員は既存案件で手一杯だったので、「では自分が商談に行きます」と手を挙げました。独学で提案書の作り方を学び、実際に受注につなげていくうちに、親会社である総合広告代理店の制作部に異動することになりました。
國府島:セールスプロモーションチームで、イベント制作のディレクターとして働き始めました。当時は十分な指導体制がなく、クライアント対応から見積もり作成、会場手配、当日の進行管理まで、すべて自分一人で回さざるを得ない状況だったんです。
たとえば、東京国際フォーラムを貸し切った大規模な展示会では、出展企業への対応から広告媒体の選定、効果測定、翌年度への改善提案まで一貫して担当しました。また、パシフィコ横浜での音楽ライブやトークショー、eスポーツ大会を組み合わせた複合イベントでは、チケット販売設計から当日のオペレーションまで、ほぼ一人で統括していましたね。
國府島:休みもほとんどなく、給与も決して高くはありませんでした。しかし、イベント制作のあらゆる工程を経験できたことは、今振り返ると非常に大きな財産です。在籍した約4年間で社長賞を2回受賞するなど、実績も残すことができました。この時期に身につけた「企画から実行まで全領域を見渡す力」が、現在の事業の土台になっています。
営業活動はほぼゼロ。実績と信頼が次の仕事を呼んだ
國府島:制作現場でさまざまな案件を手がける中で、社外の方々から声をかけていただく機会が増えていきました。ある時、仕事を通じて知り合った方から「独立するなら仕事を紹介するよ」と言っていただいたんです。その方は、当時急成長していた大手動画配信プラットフォーム関連の仕事をしていました。
休日に副業として手伝っていたところ、その縁である外資系大手企業の担当者とつながりができました。そして「年間契約でコンサルティングをお願いしたいので、独立しませんか」というお話をいただいたんです。
もちろん、当時は契約社員という立場で将来への不安もありました。ただ、独立を決断できたのは、そうした不安からの逃避ではなく、「この人と一緒に仕事がしたい」と思ってくださる方が現れたからです。
國府島:最初はその外資系大手企業の専属で、新製品発表イベントのプロモーション全体を担当していました。会場選定から演出企画、メディア対応、当日の運営まで一貫して任せていただき、年間を通じて複数のイベントを手がけていましたね。
仕事が広がったきっかけは、担当者の方の転職でした。その方が別の大手メーカーに移られた際、「また一緒に仕事をしよう」と声をかけてくださったんです。その後も同じパターンが続き、担当者の方が転職されるたびに新しい企業との取引が生まれていきました。人気ゲーム機の日本市場向けローンチイベントを任せていただいた縁で、ゲーム業界全体とのつながりも広がりましたね。
振り返ると、積極的な営業活動はほとんどしていません。一つひとつの仕事でクライアントの期待を超える成果を出すことに集中していたら、自然と次の依頼につながっていった。信頼は、実績の積み重ねから生まれるのだと実感しています。
法人化の理由は「売上1億円の壁」と資金繰りの現実

國府島:個人事業主として4年ほど活動し、売上が1億円を超えた頃のことです。事業が成長するにつれ、個人事業主のままでは対応しきれない課題が出てきました。
一つは税務上の問題です。所得税の負担が大きくなり、事業への再投資に回せる資金が限られてきました。もう一つは資金繰りの問題です。イベント制作では、会場費や機材費などを事前に支払う必要があります。しかし、クライアントからの入金は納品から3〜4か月後、外資系企業の場合は半年後ということも珍しくありません。
國府島:かなり苦労しましたね。案件の規模が大きくなるほど、先に立て替える金額も増えていきます。たとえば、数千万円規模のイベントを受注した場合、その資金を数か月間は自社で負担しなければなりません。
銀行から融資を受けようとしても、個人事業主は法人と比べて審査のハードルが高いんです。事業としての実績があっても、「個人」という形態では金融機関からの信用を得にくい。法人化することで、金融機関との取引がスムーズになり、より大きな案件にも対応できる体制が整いました。
さらに、私たちの業界は公的な助成金や補助金の対象になりにくいという事情もあります。こうした現実的な課題を乗り越えるために、法人化を決断しました。事業を継続的に成長させていくためには、個人の力だけでなく、組織としての基盤を整えることが不可欠だったんです。
「御社のためのNO」が言えるか。柔軟な事業領域の広げ方
國府島:クライアントからの相談に一つひとつ応えていった結果です。「こういうこともできないか」「一緒に考えてほしい」という声をいただくたびに、自分で調べ、学び、対応してきました。個人事業主の頃は外注に頼らず、すべて自分の手で形にしていましたね。そうして試行錯誤を重ねるうちに、気づけばできることが増えていました。常に「新しい知識や技術をどれだけ吸収できるか」を意識してきた結果だと思います。
國府島:はい、収益の柱は毎年のように変わっています。コロナ禍以前はイベント制作が主力でしたが、コロナ禍では配信の需要が急増しました。実は、配信事業は10年ほど前から手がけていたので、急な需要増にも対応できたんです。
國府島:そうですね。加えて、私が大切にしているのは「是々非々」でクライアントと向き合うことです。クライアントから企画のアイデアを伺ったとき、「このやり方では成果が出にくい」と感じたら、率直にお伝えします。場合によっては「この案件は他社に依頼したほうがいい」とお話しすることもあるんです。その姿勢が結果的に信頼につながり、より大きな案件のご相談をいただくことも多いですね。
また、変化を恐れないことも大切にしています。売上トップのクライアントが翌年もトップということはほとんどありません。特定の取引先に依存せず、幅広い企業との関係を築くことで、安定した成長を実現してきました。
「ユニークすぎる強み」を持つ人材が集まる理由
國府島:社員8名の体制です。2018年の法人化当時は私一人で、あとは外部パートナーとの協業でした。その後、社内にいた方が効率的に回るポジションから、少しずつ採用を進めてきました。
たとえば、デザイナー2名は前職時代の後輩です。当時の職場環境が過酷で体調を崩し、フリーランスに転向していました。ただ、経理などのバックオフィス業務が苦手だというので、「それなら一緒にやらないか」と声をかけたんです。本人の強みを活かせる環境を用意することで、お互いにとってプラスになる関係が築けています。
國府島:「一芸に秀でていること」と「柔軟な思考を持っていること」の2点ですね。「何でも幅広くできます」というタイプよりも、何か一つ突出した強みがある人の方が、その専門性を起点に仕事の幅を広げやすいと考えています。
たとえば、動画編集を担当している社員がいます。彼はコロナ禍で就職先が決まらなかった時期に、自粛期間を利用して小説を書き、小学館のライトノベル新人賞を受賞しました。現在は作家と映像編集者の二足のわらじを履いています。彼が作家仲間とのネットワークを持っていることで、他の作家のPV制作の仕事が弊社に入ってくるようになりました。
また、eスポーツのリプレイ映像制作を専門とする社員もいます。この技術を持つ人材は全国でも数名しかおらず、希少な存在です。こうした「ユニークな強みを持つ人材」が集まることで、思いもよらない事業領域が開拓されていくんです。
採用においては、スキルだけでなく「この人と一緒に働きたいか」という直感も大切にしています。結局、会社は人の集まり。互いの強みを認め合い、補い合える関係性があってこそ、組織として成長できると考えています。
「貪欲さ」と「結果への執着」の先に、想像以上の未来がある

國府島:現在は、受託制作だけに頼らない収益基盤をつくることに注力しています。受託の仕事は案件ごとに売上が発生しますが、継続的な収入にはなりにくい。そこで、自社が権利を持つコンテンツや、売上の一定割合が継続的に入る仕組みをつくろうとしているところです。
具体的には、エンターテインメント企業のIP(知的財産)の製作委員会に参画し、アニメ化やゲーム化といったメディアミックス展開のまとめ役を担っています。こうした関わり方をすることで、作品がヒットすれば継続的な収益が見込めるわけです。
また、海外展開も進めており、現在シンガポールを拠点に、アジア向けの広告制作やVRゲームの海外プロモーションなども手がけています。
こうした投資を行う背景には、会社の将来を見据えた考えがあるからです。私自身も社員も、いつかは最前線で走り続けることが難しくなるときが来ます。そのときに備えて、労働集約型のビジネスモデルから、権利収入を含む多角的な収益構造へと移行していきたいと考えています。5年後を見据えた種まきの時期ですね。
國府島:起業を目指す方に伝えたいのは、「自分はまだ何者でもない」と素直に認めることの大切さです。「何者かになりたい」という思いが強すぎると、かえって成長の妨げになることがあります。
「この仕事しかできません」と領域を限定してしまうと、新しい機会を逃してしまう。一方で、「何者でもない」と認められれば、あらゆることを貪欲に吸収できます。目の前の課題を一つずつ解決していくうちに、気づいたときには想像もしなかった場所にたどり着いている。それが私自身の実感です。
ただし、吸収するだけでは不十分で、結果を出さなければビジネスの世界では評価されません。「自分なりに頑張った」ではなく、他者から認められる成果を積み重ねることが必要です。厳しい言い方かもしれませんが、これが現実だと思います。
私は学歴も職歴もなく、特別に優秀なタイプでもありませんでした。ただ、アルバイトからスタートして、少しずつ前に進んでこられたのは確かです。SNSなどの情報に惑わされすぎず、自分の足で現場に行き、自分の目で見て感じたことを信じる。その積み重ねが、未来を切り拓く力になると信じています。
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