コインチェックテクノロジーズ 天羽 健介│現場から見たNFTの未来 ~第3回 – NFTを扱う上で気をつけるべき点
NFTはまだまだ未成熟
NFTは、たびたび高額売買がニュースになり、利益機会ばかりに目が行きがちですが、市場が未成熟ゆえに気をつけるべき点は少なくありません。特に、NFTは一点モノで画像などのコンテンツが紐付いている分、同じくブロックチェーン上の資産である暗号資産にはない注意点が存在しています。
今回は、日本の暗号資産業界におけるリーディング企業であるコインチェックの子会社、コインチェックテクノロジーズ 代表取締役の天羽健介氏からの取材と著書『NFTの教科書』をもとに、全3回にわたりNFTを活用する未来がどのようになっていくのかを探っていきます。
最終回となる第3回は、日本国内でも率先してNFTのマーケットプレイスを展開している当事者からの視点で、NFTを扱う上で気をつけるべき点に注目していきます。
コインチェック株式会社 執行役員
コインチェックテクノロジーズ株式会社 代表取締役
日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)NFT部会長
大学卒業後、商社を経て2007年株式会社リクルート入社。複数の新規事業開発を経験後、2018年コインチェック株式会社入社。主に新規事業開発や暗号資産の新規取扱、業界団体などとの渉外を担当する部門を統括し暗号資産の取扱数国内No.1を牽引。2020年より執行役員として日本の暗号資産交換業者初のNFTマーケットプレイスや日本初のIEOなどの新規事業を創出。2021年日本最大級のNFTマーケットプレイス「miime」を運営するコインチェックテクノロジーズ株式会社の代表取締役に就任。日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)NFT部会長。著書に『NFTの教科書』(朝日新聞出版)。
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
初心者がまず注意すること
天羽氏によると、まずは偽物を掴まないことが重要だといいます。
実際に、NFTの偽物の問題は既に深刻になっています。2022年2月1日付のCoinPostのニュースによると、世界最大のNFTマーケットプレイスのOpenSea(オープンシー)では、OpenSeaが提供しているNFTの発行機能を使って新規に発行・生成されたNFTのうち、80%が著作権違反などの盗作、スパム、偽物であると報じられています。
NFTはデジタルやメタデータ等の組み合わせであり、あくまでもコンテンツを識別することができる技術であるということに留意する必要があります。
また、天羽氏は、NFTだからこそ意味のあるものを持つべきだといいます。現状、単に画像や動画のコンテンツが紐付いたNFTデータが数多く流通していますが、これらは右クリックして「名前を付けて保存」をするだけで、コンテンツそのものを簡単にコピーすることができます。このようなNFTは、本質的にはあまり意味がないものといえます。
逆に持つべきものは、NFTを持っていることで何かしらのインセンティブが生じるものだといいます。例えば、ファンコミュニティのNFTを持つことで特定のコンテンツが閲覧できるNFTは、NFTを持っていたからこそできることです。
また、メタバースの土地のNFTも、画像や動画と異なりコピーする事ができないため、NFTらしいといえます。とはいえ、慣れないうちは、どのNFTが「NFTだからこそ」というのは判らないかもしれません。そのため、天羽氏はシンプルに「最終的には自分が納得したものを」と表現しています。
すべてのNFTが永続的なデジタル所有物とは限らない
多くの人が、NFTの発行や流通にはデータの永続性があるブロックチェーンが使われているので、NFTにも永続性があると思いがちです。
しかし、実際にはすべてのNFTが永続するわけではありません。この事実を知らないと、自分が買ったNFTやコンテンツが、ある日気がついたら消滅していたという事態に遭遇することになってしまいます。
NFTの発行や流通に利用されるブロックチェーンは、一種のデータベースです。データベースの管理のされ方により、NFTが永続するかどうかが決まってきます。
ブロックチェーンは、データベースの管理のされ方が主に2パターンあります。プライベートチェーン(コンソーシアムチェーン含む)は、特定の組織によってデータベースが管理されています。そして、パブリックチェーンは、インターネット上の有志によって不特定多数でデータベースが管理されています。
プライベートチェーン、パブリックチェーンは、メリットデメリットがそれぞれあるので、それを知っておく必要があります。
プライベートチェーンは、特定の組織によって管理されています。管理が集中化している分、取引が高速であったり、暗号資産を使わなくて良いというメリットが存在しています。しかし、組織がいつまでも持続するとは限りません。
倒産などの理由により、組織がブロックチェーンの運用を終了することになった場合、その上で発行されているNFTもブロックチェーンと一緒に消えることになります。
日本国内では、既にプライベートチェーンでNFTを取り扱うサービスがいくつか登場しているため、それらのサービスは将来的にNFTの消滅リスクがあることに留意すべきでしょう。
一方で、パブリックチェーンは、不特定多数で運営されており、すでに広く普及しているブロックチェーンであれば、消滅するリスクを低減できると考えられます。
例えば、Ethereum(イーサリアム)と呼ばれるパブリックチェーンは、インターネット上の有志が用意した5,886台のコンピューターで管理されています(ethernodesより、2022年3月25日時点)。
これら5,886台は、世界中に分散しており、そのうち1台さえ残っていればEthereumが維持される仕組みになっています。
現実的に、5,886台のコンピューターが一度に全部消えることはないため、Ethereumを使って発行されたNFTが消滅するのは難しいといえます。
しかしながら、EthereumはNFTの取引だけでなく、さまざまなサービスで使用されており、需要過多の状態が続いています。こうなると送金が遅くなったり、Ethereumのブロックチェーンに支払う手数料が高額になったりと利便性がやや劣る傾向にあります。
加えて、Ethereumのようなパブリックチェーンを使ってNFTが発行されているからといって、それが永続するとは限らない場合があります。厳密には、NFTというメタデータそのものは永続するものの、それに紐付いているコンテンツが永続しない場合があります。
一般的に、ブロックチェーンそれ自体には大容量のデータを格納することができません。
そのため、多くの場合、NFTには「このNFTのコンテンツデータは○○の場所にある」というコンテンツの参照先情報が書き込まれています。
つまり、参照先が永続しないデータストレージになっている場合、将来的にNFTに紐づくコンテンツデータが消滅してしまうということになります。このようなリスクを避けるためには、コンテンツデータがFilecoin(ファイルコイン)やArweave(アーウィーブ)などの分散型ストレージに格納されているNFTを保有することになります。
NFTはまだまだ進化する
これまで、3回にわたりNFTの可能性や規制、そして扱うための注意点について注目してきました。
現状、NFTは市場も技術も未成熟であり、今回の記事で述べたように、偽物を掴むリスクや永続的に所有することができないリスクといった問題が存在しています。
しかし、ブロックチェーン業界の進化スピードはものすごく速いため、このような問題はいずれ解決されていくことでしょう。
最後に、天羽氏は業界のスピード感について興味深い言葉を残していました。
「この業界は、スピードが速すぎて3ヶ月先が見えません。サーフィンみたいに波に乗り、常に軌道修正することが前提になります。miimeを買収する際に、コインチェック社内でNFTのトレンドが2~3年後に来ると想定しながら買収を進めたら、実際にトレンドが来たのは2週間後でした。」
それくらいNFTの進化も速いものになります。
おそらく3ヶ月後には、現時点で誰も想像できていなかったNFTのサービスが登場していることでしょう。
一連の記事を読んでNFTの可能性を感じた方は、自分が納得できる一点モノのNFTを持ってみてはいかがでしょうか。
(取材協力:
コインチェックテクノロジーズ株式会社 代表取締役 天羽 健介)
(編集: 創業手帳編集部)