シリコンバレー発VCに聞く「5つの投資判断ポイント」ペガサステックベンチャーズ日本代表・名雲俊忠氏インタビュー
投資家はベンチャー企業のどこを見て投資を決めている!?
(2016/10/13更新)
起業するにあたって、「投資家から資金調達が出来るのか」ということが気になる人も多いでしょう。今回お話を聞いたのは、ペガサステックベンチャーズの日本代表の名雲さん。
ペガサステックベンチャーズは、アメリカ・シリコンバレーに本社を置くグローバルなベンチャーキャピタル。全世界で85社もの投資先を持ち、日本でもDLE(ドリームリンクエンターテイメント)、マネーフォワード、エボラブルアジア、メタップス、テラモーターズなど他分野に幅広く投資しています。
投資家の目線から、投資の多い分野や、日本のベンチャーが抱えている課題、投資先を決める際にチェックする5つのポイントを教えていただきました。
野村総合研究所にて情報・通信業界の戦略コンサルタントとして活躍。2004年にコンサルティング会社を設立。長年に渡り、情報・通信業界に関わる市場調査、戦略コンサルティング、提携・M&A支援、ベンチャー支援、IRコンサルティングなどに従事した経験を持つ。株式会社フェノックス・ベンチャーキャピタル・ジャパンCEOを経てペガサステックベンチャーズ日本代表。
自分の使命は“新規事業を成長させること”
名雲:工学系の大学院を卒業後、最初は野村総研にいました。そこでは、ずっとテクノロジーやIT業界向けの戦略コンサルティングに従事していました。約10年前にそこを退職して、上場したての会社を支援するような、コンサルティングと投資を組み合わせた会社を作りました。
名雲:IPOした会社が次のステップに行くための、M&AとかIR(投資家に対する広報活動)とか、戦略の提案ですね。資金調達の支援はもちろん、営業支援も行いました。メンタリングという形でアドバイスもしましたね。
名雲:2012年ごろに、日本で活動を始めたばかりのアメリカのベンチャーキャピタル、フェノックスを紹介されたんです。最初は顧問先に資金調達が出来るか相談に行きました。でも、話しているうちに「フェノックスさんは日本のスタートアップに投資することも考えているけれど、日本の大企業を投資家として、事業開発やイノベーションをサポートすることを考えている」ということが分かりました。
すると、もともと野村総研でやっていたことと関連性が出てきて、フェノックスとの付き合いが始まりました。初めは、アドバイザーとして、新事業開発やグローバル展開、イノベーションなどに問題意識を持つ大企業の紹介をし、場合によってはそういった企業に対するアドバイスなどもしていましたね。
こうして振り返ると、事業再生とか既存事業の効率化というよりは、新規事業や新しい技術の活用についての仕事が多くて。大手企業相手でも、スタートアップ相手でも、新しいものを伸ばすという所に自分の立ち位置があるんだなと思います。
投資先の2分野“先端技術”と“タイムマシン”
名雲:フェノックス全体としては、全世界で85社くらいですね。5割~6割くらいはアメリカのアーリーステージからシリーズAぐらいが多いです。地域的にはアジアも中心になってきていて、日本と東南アジア、特にインドネシアが増えています。
名雲:日本では今までに10社強ですね。最初に投資したのはDLE(ドリームリンクエンターテイメント)ですね。鷹の爪のアニメーションの会社です。2012年に投資して、2014年にマザーズ上場。2016年の初めには東証一部上場を果たしました。
名雲:フェノックスはもともとグローバルに投資をしている会社ですから、日本の会社を選ぶときは、グローバル化(特に、アメリカ進出)や東南アジアのビジネスを手伝える余地があって、会社が一回り、二回り大きくなる場合に投資しますね。
名雲:最近だとマネーフォワードさん。上場した会社であれば、エボラブルアジアさん、メタップスさん。大きいところで言えば、テラモーターズさんにも投資しました。先日は、ジーニーというアドテックの会社にも投資しましたよ。
名雲:ありますね。投資先の分野としては、2つの考え方があります。
まずは、「先端技術」。次世代技術というところに注目しています。これは北米とイスラエルがメインですね。”バズワード”と言われているような人工知能、AI、ロボット、IoT、AR、VR(仮想現実)、ヘルスケアIT、フィンテックなどですね。ビッグデータを扱うアナリティクス系の会社にも投資しています。
もう一つは、「タイムマシン系」。東南アジアが多いですね。先進国では当たり前のビジネスでも、途上国では今まさに勃興しているビジネスなんです。eコマースにしても、ウェブサイト上の形としてはあっても、物流や決済などのプラットフォームはまだまだ不十分。フィンテックと言っても、プリミティブなフィンテックもあるでしょうし、ベイビー楽天やベイビーAmazonのような会社もありますから、そういったところに投資しています。
名雲:日本はどちらかと言うと、先進国寄りですね。でも、日本は他と違って、ベンチャー投資そのものの規模が小さいので、先端技術と言っても、まだ模索している段階です。
名雲:そうですね。「タイムマシン系」の投資という意味では、インドネシアが中心ですね。
名雲:これまでに我々はいろんな所で投資してきましたが、投資先の会社は他の会社のことをあまり知らないんですよね。我々は組み合わせることで、新しいつながりや新しいビジネスが出来るのを過去の経験から知っていますから、こういったマッチングを進めていくことが世界のためになるんじゃないかと思っています。
スタートアップと、投資家と、事業会社。こういったものを組み合わせてエコシステムを実現するための一つの手段として、「Startup World Cup」というものも初めて企画したんですよ。
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日本はPRが下手。チャンスを逃している。
名雲:私見ではありますが、ベンチャーキャピタル業界は意外と閉鎖的なんです。アメリカの大御所ベンチャーキャピタルも、大きいところしか見ていません。極端に言うと、アメリカだけでも充分にネタがありますし、リターンを生むにはアメリカだけでも問題ないんですよね。
そうすると、小さいところに投資しようという動きが生まれにくいんです。特に、日本には外資系のベンチャーキャピタルは少ないですよね。
あと、新興国に比べると日本って冷やかというか、そういう温度差を感じます。
名雲:東南アジアとかイスラエルなどは、国を挙げてスタートアップをサポートしてくれるんです。でも、日本ってあんまりそういうのがないですよね。でも、この2~3年で多少変わってきている気もしますが。
日本で起業する外国人も増えていますし、2、3年後にはもっと環境も変わるでしょうね。
名雲:やっぱり、スタートアップに限らず、日本全体のPRが足りないと思います。日本は大したベンチャーがないよと言われるんですが、それなりにちゃんとやっているところはあるんですよね。でも、外国人から見ると、日本って何をしているのか分からないんです。私たちは、国内にいるから当たり前と思っているだけ。
でもそれは、ちゃんとプロモーションをしていないのが問題。ジブリとか、ポケモンとか、世界中に知られているようなものや、そういったものになる可能性のある卵は、もっとたくさんあるんです。でも発信ができていない。
名雲:海外のベンチャーキャピタルの人と日本の投資家が話すと、「なんでもう1ステップアップを考えないの?」と言われるんだそうです。いい国なんですけど、もう一段外に目を向けてPRすれば、もっとチャンスは有る。そういったところや、経営的な人材面をフォローしてあげることで確実に芽が出てくるんじゃないかと思っています。
余裕のない資金調達がスピードを奪う
名雲:そうですね。PRもそうですが、もう一つ日本のビジネスの改善点があります。それは、資金はギリギリに投下するのではなく、ある程度余裕を持って入れるべきだということ。特に日本の場合は、スタートアップの資金調達もギリギリのところで行うから、常に次のラウンドのお金の話が出てくる。社長さんがビジネスのことより、資金繰りで駆け回らなきゃいけないという印象を受けます。そこがスピードを落としてしまうんですよね。
名雲:海外の会社と比べても、技術的には遜色ないんだけれど、機動力が足りませんよね。我々から見て残念なところです。だから、良い技術に対してはしっかりとした投資をしながら支援したいと考えています。
投資先を決める5つの基準
名雲:大きく分けて判断しているポイントは5つあります。ステージによっても変わりますから一概には言えませんが、少なくとも我々が投資を考えるにあたっては、まず1つ目に「市場のポテンシャルが大きいか」を見ています。対象マーケットのサイズはどんなに少なくても100億円。もっと大きいのがいいですね。
2つ目に、その中で「どれくらい競合がいるか」ですね。面白くて成長の余地があっても、競合が多ければ、優れているのはどれかと比較します。
3つ目に「そのサービスの値付け」もかなり重視しています。例えば、家庭用ロボットであれば、1000ドルを超えると厳しいけれど、500ドル位の値付けであればまあ行けるかなと、こういった要素を見ていきます。
名雲:4つ目として「経営のチーム」も見ています。経営者たちのバックボーンや過去の履歴」を大事にしています。分かりやすく言えば、過去に会社を何個作って、エグジットしているという実績がある場合は、ポイントが高くなるんです。
5つ目にあげるとしたら、「Exit経験あるいは計画」ですかね。シリコンバレーでベンチャーキャピタルが投資先を判断する時にも、過去にマイクロソフトに事業を売ったとか、アップルに売ったという実績があって、その次の事業であれば比較的好意的に受け止められます。ただし、日本ではExit経験がある起業家は少ないので、Exitに向けた計画を持っているかを考慮します。また、過去にどういう会社でどんな経歴があるのかとか、どんな大学を出たとか、そういった点は確認します。
あと、経営者一人の場合はなかなか投資しづらいんです。だから、複数人でチームを組んでいるっていうのが大前提。
名雲:日本の場合は、経営者1人で、周りに何人かいる、という形式が多いですよね。でも、それだと真ん中の人に何かトラブルが合った場合に、代わりがなくなってしまいます。変な話、経営者が3人いれば、何とかなるよねということです。
まとめると、
- ビジネスのポテンシャル
- 競合の中でどんなポジションか
- サービスの価格
- 経営チームの編成
- Exit経験あるいは計画
を見ていくという感じですね。これを見た上で、細かい部分を検証していきます。CEOや取引先の社長、従業員にもヒアリングしますよ。
名雲:深いレベルに入ったら、とことんやります。
(取材協力:株式会社ペガサステックベンチャーズジャパン日本代表/名雲 俊忠)
(編集:創業手帳編集部)