成功の鍵を握るスタッフ【美容室・サロンの開業手帳 ~8.スタッフを雇う~】
技術だけでなく「おもてなし」のスキルを兼ね備えた優秀なスタッフの探し方・育て方
(2015/03/04更新)
「キレイになって喜んでもらいたい」「美しくなって夢を叶えたい人をサポートしたい」という想いだけでは生き残れないのが、美容業界。
業界規模は、約2兆円ですが、美容室の数はコンビニの約4倍と言われ、非常に競争の激しい業界です。
また、近年増えているサロンですが、廃業率は1年以内が6割、3年以内が9割と言われています。
美容室・サロンは、店舗の固定費がかかるため、開業前に廃業するかしないかが決まっていると言っても過言ではありません。
開業前に情報を集め、きちんと準備をして、必ず成功させましょう!
美容室・サロンの開業前から開業後までを、ゼロから解説する、開業手帳シリーズ。今回は、「8.スタッフを雇う」です。
この記事の目次
人材採用の種類
サロンの技術スタッフという専門性の高い人材を探すために、紙媒体やWebを通しての求人から各種学校への新卒採用まで様々な方法がありますが、それぞれにメリットもデメリットもあります。今回は4つの方法をご紹介しましょう。
1.新聞、雑誌、フリーペーパーなどの紙媒体
紙媒体を活用することのメリットは、不特定多数に向けて求人情報を発信できることです。
しかし同時にそれがデメリットにもなります。望んでいない情報が逆に入ってきたり(関係のない営業や問い合わせなど)、欲しい世代や条件を満たした人以外の人々が応募してくることも多いのです。
紙媒体への掲載期間は大体2週間〜1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月などに分かれ、その費用相場は月額約3万円から70万円、有名媒体だと100万を超すこともあります。
2.Web 媒体
Web媒体の料金体系は「有料掲載」「応募課金」「採用課金」の3つに分けられます。
有料掲載とは、文字通りWeb求人誌への掲載を有料で請け負うことですが、この掲載期間も紙媒体とそれほど変わりません。
大体2週間〜1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月などに分かれ、費用相場は月額約3万円〜70万円程度になります。
Webの特色は「応募課金」「採用課金」といった手法があることで、これはWeb求人を通して応募があった場合のみに課金されるというシステムです。
掲載期間は無期限であり、費用相場は比較的安価です。約2,000円〜2万円(電話やメールでの応募1件あたり)といった価格帯でしょうか。
「採用課金」の場合はWeb求人を通して採用が決まった場合に費用が発生するというタイプの広告であり、費用相場は約4万円〜20万円(成果報酬1件あたり)前後です。
3.人材紹介会社
法人を通してのスタッフの雇用です。
人材紹介会社に登録している求職者の中から希望の人材を紹介してもらい、紹介会社の担当者立ち合いのもと面接等を経て、採用へ結びつけるという方法です。
採用が確定した場合、謝礼として数十万円をその紹介会社へ支払います。
その紹介会社が美容やサロンに実績を多く有し、多数の有資格の(あるいはハイスキルの)求職者を抱えている場合は、多くのポテンシャルのある人材と出会うことができ、即戦力となる人材の雇用につながります。
あなたのニーズに見合った人材をきちんと保有している会社を慎重に選びましょう。
4.理容美容の専門学校やスクール
いわゆる新卒採用です。
やる気も若さもあるフレッシュマンの存在はサロンに新しい風を入れてくれますし、学校やスクール側も就職率を気にしますので、あなたのサロンの情報の掲示や説明会の実施を受けてくれる可能性も高いのです。
まずは、各学校の就職課などに問い合わせてみましょう。
あなたの会社について、きちんと自己紹介することも忘れずに進めましょう。
新卒採用のデメリットは、言わずもがなですが、新卒ゆえに現場の経験が少ないことでしょう。
採用後にはあなたのサロンで技術もふくめて総合的なスタッフ教育を、一から行わなければなりません。
…以上4つの他にも、ハローワークを活用する方法や、友人や先輩たちからの紹介などの方法もあります。
一つの方法だけでなく複数の方法を用いて、より強い求人広告を打ち出すこともできます。
それぞれのメリットとデメリットを把握して、何より求人にかかる費用もしっかり計算した上でベストな方法を選びましょう。
求職者がサロンに求めるものとは
この業界のサロンスタッフたちは、一体どういったサロンで働くことを望み、また前の職場を転職した理由には、どのようなものがあるのでしょうか。
今回は彼らの就職のときの希望条件や、離職の理由について掘り下げてみましょう。
1.転職した理由
下表を見てみましょう。
前の職場を辞めて転職を決意した理由は、男性の場合は「給与」といった経済面が上位にランキングされている一方で、女性の場合は休日や勤務時間といった「勤務体制」が上位をなるようです。
女性は給与よりも彼女自身のライフスタイルにふさわしい労働環境を求めていることがよくわかります。
転職した理由
男性 (美容師) |
男性 (リラクゼーション系) |
女性 (美容師&リラクゼーション&エステ) |
|
1位 | 給与 | 給与 | 休日 |
2位 | 人間関係 | 人間関係 | 勤務時間 |
3位 | 教育方針 | 休日 | 人間関係 |
4位 | 将来性 | 将来性(独立考含) | 給与 |
<データ:サロンキャリア調べ>
2.いまの職場を選んだ理由
次に、今の職場を選んだ理由を見てみましょう。
男性の場合はやはり「給与」といった待遇面、入客人数(歩合に反映される)が大きく、女性の場合は「休日」という結果が出ました。
女性は、週休2日制でプライベートのための時間がきちんと確保される職場を選びたがる傾向にあるようです。
現在の職場を選んだ理由
男性 (美容師&リラクゼーション系&エステ) |
女性 (美容師&リラクゼーション&エステ) |
|
1位 | 給与 | 休日 |
2位 | 勤務地 | 給与 |
3位 | 将来性 | 勤務地 |
<データ:サロンキャリア調べ>
「求人広告で、惹きつけられるフレーズとは?」
ところで、多くの求職者たちは、ネット上で求人情報を読むとき、どのような検索キーワードを入れ、どのようなキャッチコピーに惹きつけられ、応募を決めるのかを見てみましょう。
1位 オープニングスタッフという環境
2位 給与25万円以上の高収入
3位 週休2日制
4位 寮、社宅完備といった生活補助
1位の「オープニングスタッフ」は、年代、性別問わず人気が高いようです。
その次の「高収入、25万以上」といった給与面においては、通勤場所や時間などに関係無く、求人情報を見てもらえる可能性が大きいようです。
もし、あなたのサロンの求人広告を出す際に、給与面で多くの求職者を惹きつけたいのならば、具体的な高収入の現場スタッフの働き方サンプルなどを、しっかりと記載しておくと多数の応募につながるでしょう。
採用面接のチェックポイント
面接の時には、その志願者が「何に」優先順位を置いているのか把握しましょう。
経営者としてのオーナー自身の願いや生きざま(一例として、若い人は夢を大きく持っていずれは独立すべきだね、など)を求職者に押しつけるような言葉や態度は避けたほうが賢明です。
志願者たちのタイプは大きく分けて以下の3つに分類されることが多いです。
彼らの人生観や価値観、ライフスタイルをまずは冷静に観察し十分に聞き出した上で、彼らをあなたの店のどこにどういったポジションで組みこめば、店の利益につながっていくかを考えましょう。
①夢実現タイプ
ハイレベルの技術習得やコンテストへの入賞など、サロンスペシャリストとしての自分の夢の実現が第一優先であり、そのために給与や就労時間などの生活に即した条件面はある程度我慢(妥協)できるタイプ。
入社後も厳しく鍛錬し自己投資も惜しまないので、当然のように目覚ましく成長するが、成長したらあっという間に会社を辞めてしまう可能性も高い。
②経済面重視タイプ
残業代や休日出勤などをふくめ、働いた分の成果はすべてお金で換算されたいし、そこを最重視しているタイプ。
つまり給与につながらず拘束時間も長い勉強会や研修などへの参加強制などを非常に嫌う人々。
人材としてそれほどの人格成長もスキルアップも望めないが、言われたことやマニュアルにはきちんと従う上に安定した雇用(安定した収入)を求めているので、離職の可能性は低い。
経済面である程度満足すれば、会社から動こうとしないタイプ。
③プライベート重視タイプ
子育て、趣味や勉強など、熱心に励めるものを仕事の他に持っている型。
つまりサロンスペシャリストとしてフルタイムで仕事最優先の人生は過ごしたくないタイプ。
主婦で子育て中、しかし美容師としてのキャリアも生かしたいのでアルバイト的に働きたいという人々もここに該当する。彼らの私生活をきちんと尊重して、うまく組織に組み込めれば、安価な条件で優れた人材を活用することができる。
「志願者の一般常識やビジネスマナーもチェック」
なんといっても接客業ですから、一般常識やマナーも重要です。
面接の約束時間5分前にはきちんと到着しているか、服装やメイクなどもサロンの雰囲気に合っているか、エステ系、リラクゼーション系においては、制服があるサロンが多いため身だしなみ(清潔感、最低限の肌のお手入れをきちんとしているか)も非常に重要になります。
言葉使いも敬語の使い方などがしっかりできているか確認しましょう。
「面談時に、即戦力になるかどうかチェック」
この会社に、というよりは「この職種を選んだ理由」を聞きましょう。
また、過去の退職理由もなるべく率直に聞き出せればベストです。あまり考えたくないことがですが、履歴の詐称…つまり履歴書に書いてある取得資格を偽っているケースや、キャリアに誇張がある場合もあるので、注意しましょう。
技術スタッフの場合は、実際に技術を目で見て確認してから採用するほうが安全です。
面談時に人間的に波長が合って良い印象を持ったとしても軽々しく採用決定を出さず、採用審査と結果の通知までにはある程度の時間やきちんとしたプロセスを踏むようにしたいものです。
サロンの雇用形態
スタッフの雇用形態については、サロンだからといって特殊なものがあるわけではありません。
どの会社にも存在する就労のスタイルを、あなたの会社の嗜好に合わせて適用していくという形になるでしょう。
1.正社員
会社と雇用契約を結んだ従業員として、フルタイムで勤務するスタイルが基本です。
一定の雇用条件のもとで固定給が保証され、福利厚生や定年後に受給できる厚生年金も約束されます。
しかし解雇にも一定の条件が必要になりますので、雇用主には色々な意味で負担や責任の大きい雇用形態といえるでしょう。
2.契約社員
あらかじめ雇用期間が定められている雇用形態です。
1年や3年といった期間のある労働契約は、労働者と使用者の合意により契約期間を定めたもの。
契約期間の満了によって労働契約は自動的に終了することになります。
3.派遣社員
人材派遣会社との間で契約を結びます。
労働者に賃金を支払う会社と指揮命令をする会社が異なる、やや複雑な労働形態となりますが、スタッフとの問題が生じた場合に、間に入ってくれる会社が存在することで安心感もあります。
4.パートタイム
パートタイム労働者を雇用する経営者は、「パートタイム労働法」に基づいた、公正な待遇を約束しなくてはなりません。
また雇い入れる際に、経営者は分かりやすく労働条件を明示すること、重要な条件については文書を交付することが義務づけられます。
5.業務委託
雇われるのではなく、特定の業務を委託された事業主として働くというスタイルです。
完全報酬や出来高制として支払われるのが特徴です。
注文主の指揮命令を受けない「事業主」として扱われますので、基本的には「労働者」として保護する必要はありません。
研修に関して
「研修にはアシスタントから経営者まで全員参加しよう」
優れた技術を持つスタイリストが働き、店舗デザインもお洒落にリフォーム、新しいメニューも次々に開発しているのに、なぜだか集客も売り上げもイマイチ伸びない、そんな店舗が存在しているとしたら、原因の一つに挙げられるのが「ソフトパワーのレベルの低さ」です。
ここで言うソフトパワーとは技術のことではありません。
初めてのお客様が電話をかけてきたときのコミュニケーションの方法、聞き出す力など、サービス業として必要不可欠な接客力のことなのです。
お客様の気持ちを察して先回りして動く「おもてなし」のスキルといってもいいでしょう。
こういうスキルが欠けている、あるいは成熟していない店舗というのは実はかなりの数に上るのですが、それは決してスタッフが手を抜いて働いているわけではありません。
その部分に気がつかないだけです。スタッフたちは上司や学校などで「技術習得中心の教育」を受けて育てられたため、お客様に満足を感じてもらうため必要とされるコミュニケーション能力が低いレベルのまま向上していないのです。
こういった場合には研修を受けることが良い変化をもたらします。
最近では、コミュニケーション能力をふくむ包括的なサロンサービスを向上させるための研修プログラムなどを実施している会社が多く存在しています。
社内の問題に直面したら、自分の分かる範囲で処理して解決しようとせずに、一度こういったプロの目を通してみましょう。
サロンに外部の会社やコンサルタントを入れて研修を受けること、その価値ははかり知れません。
自分たちでは気づかないネガティブ要素を他人に気づいてもらい、指摘を受けてみんなで改善するのです。
なにしろ仕事としてお金を払って来てもらった赤の他人(の講師)に指摘されるわけですから、日々一緒にいる上司に怒られるよりも説得力があります。
また、経営者が選んだ一部の管理職のみを研修に参加させているサロンも多いのですが、これでは店全体のレベルは上がりません。スタッフのスキルアップ研修には、店長以下すべてのスタッフが参加することが重要です。
入ったばかりのアシスタントも早い時期からレベルの高いスキルアップ研修に参加させる事が、成熟したスタイリストへと導くための重要なポイントといっていいでしょう。
接客マニュアル
接客については、全スタッフに共通したマニュアルを作りましょう。
そしてそれで統一することをお薦めします。第一にお客様に与える安心感が違いますし、さらにスタッフ管理の面でもマネジメントをしやすくなります。
電話応対から受付、ご案内、メニュー説明の進め方、施術の進め方などの流れをわかりやすく文章化してシェアすることです。
接客というのは本来スタッフ一人ひとりで違ったものになってあたりまえです。
違う人間なのですから。しかしお客様の立場に立って考えれば、違った視点が現れてきます。
もしあなたが初めてその美容室に足を踏み入れたときに、受付担当とシャンプー担当、カット担当でスタッフの対応がバラバラだったら、それだけで何とも知れない不安感に襲われませんか。一方で、あなたの美容室の対応が全員できちんと統一されていれば安心して任せられるなと感じるものです。
接客方法は、必ず統一すること。それがリピート率や売り上げを向上させるために重要です。
以下はお客様ご案内の具体的な流れです。それぞれの「とき」に、あなたの店ではどうするのかを、書き残していきましょう。
はじめてお客様へ電話対応をするとき
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店舗にてお客様をご案内するとき
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お客様のカウンセリングをするとき
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これから実施する技術を説明するとき
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毎日のケアなどのアドバイスをするとき
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次回のご予約の案内をするとき
上図のような業務フローに説明を加え、経営者として一連のサービスにおいて、必ずスタッフからお客様へ伝えて欲しいトークなども書きこんでマニュアル化しましょう。
とりわけカウンセリング、技術説明、アドバイスは重要です。最初にカウンセリングでお客様の要望をしっかり伺い、 技術説明でお客様の髪に今何をしているのか?を明確に説明し、最後のアドバイスでお客様にご自宅でのお手入れ方法や注意点などをお伝えする。
この一連の流れをわかりやすい言葉でマニュアル化することで、新人スタッフであっても美容師としてのあり方やサービスの本質とは何かを学ぶことができます。
良質な接客マニュアルの存在とは、効率の良い社員教育にもなるのです。
(監修:「理・美容室の創業融資・開業支援に強い税理士事務所」
ライズサポート税理士事務所
武渕将弘 税理士)
(編集:創業手帳編集部)