銀行は決算書のどこを見る?節税が融資に与える影響と「決算書のデザイン」(後編)
銀行が見る決算書のポイントや、融資を見据えた決算の考え方を税理士が解説

「できるだけ税金を減らしたい」という経営者の視点と、融資を判断する銀行の視点は、必ずしも一致しません。節税で利益を圧縮し続けた結果、いざ資金が必要になったときに借りられない——そうした事態を避けるためにも、銀行が決算書をどのように見ているのかを知っておくことが重要です。
銀行は決算書のどこを見ているのか。利益や自己資本は、借りられる金額にどう影響するのか。そして、会社を伸ばしていくためには、どのような決算をつくればよいのか。
今回は、税理士法人福井・林財産コンサルタンツの林 諒 代表税理士に、銀行の目で決算書を読む方法と、決算前に税理士へ相談しておきたいことを伺いました。
成長企業の社外CFO / 税理士(税理士登録番号 140050)
SMBC日興証券、KPMG税理士法人M&A部門を経て現職。年商3億円から10億円、10億円から30億円へ成長する企業に対し、経営戦略から逆算した財務戦略、銀行融資、資金調達、経営管理の設計・実装を支援している。上場企業(アイエーグループ株式会社|東証7509)の社外監査役も務める。
「決算書をデザインする」の、本当の意味。
決算書を、銀行の目で読む
この記事の目次
銀行が決算書で見ているのは「借りたお金を返せるか」

林:銀行が見るのは、究極的には「この会社は借りたお金を返せるか」の一点です。銀行から見られる指標自体はいくつもありますが、集約するとここに行き着きます。
その上で、経営者が押さえておくべき具体的な指標は、主に次の二つです。
①返済能力と債務償還年数
1つ目は返済能力です。ざっくり言えば「年間にいくら返済原資を生み出せるか」で、「返済能力=経常利益+減価償却費-法人税」で計算することができます。
「返済能力>年間の融資返済額」となっていれば、十分稼げている会社と評価されますし、追加融資も前向きに検討してもらえるでしょう。一方で、「返済能力<年間の融資返済額」となってしまっている場合は、キャッシュが年々減少していってしまう状態にあることを示しています。当然、追加融資も厳しい回答が来る可能性が上がってしまうでしょう。
また、「長期借入金÷返済能力」で計算される「債務償還年数」という指標も重要な指標です。債務償還年数とは、現在の借入が何年で返し切れるかを示す指標で、この債務償還年数が10年以内になっているかも、銀行格付け上、重要な指標になっているので押さえておきましょう。
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- 返済能力=経常利益+減価償却費-法人税
- 債務償還年数=長期借入金÷返済能力(10年以内が目安)
②自己資本(純資産)
2つ目は自己資本です。自己資本とは、「資本金+これまでの利益の蓄積額」です。決算書上では、貸借対照表(B/S)に純資産の額として計上されています。これがどれだけ積み上がっているかが非常に重要です。
なぜならば、自己資本が薄いと、少しの赤字で債務超過に近づいてしまうため、銀行は融資審査において慎重にならざるを得なくなるからです。
できれば自己資本、すなわち純資産の額が年商の2割以上確保できている状態を維持するようにしてください。
融資で調達できる金額は「純資産の4倍」がひとつの目安
林:資金調達の観点からぜひ覚えておいていただきたい計算式についてもお伝えします。
それは、「純資産の額×4=融資による調達可能額の上限」という計算式です。
純資産が1,000万円あれば、融資で調達できる額は4,000万円になる、融資で1億円資金調達をしたいと思ったら、純資産が最低2,500万円積み上げられていなければならない、ということです。
ただし、年商の50%程度が上限という別の天井もあります。年商3億円の会社であれば、純資産がいくら厚くても1.5億円前後が目安になります。金融機関や業種によって幅はありますが、この2つの天井のうち低いほうが効きます。
節税で利益を圧縮すると、純資産や調達余力にも影響する
林:この数字が意味することは、純資産を1,000万円積み上げそこねると、調達できる金額は4,000万円分減るということでもあります。
そして、節税は、純資産の額も資金調達額も、その両方を同時に下げる行為です。
利益を圧縮すれば返済原資の計算上の数字が下がり、利益を残さなければ純資産も積み上がりません。決算書は1期分だけ見られるわけではなく、通常3期分を並べて見られます。3年続けて利益を圧縮していれば、その3年分の蓄積が消えているということです。3年間利益の蓄積が行われなかった決算書では、資金調達が難しい状態になっている可能性も低くありません。
これは感覚的な話ではなく、決算を締めた瞬間に数値としてあらかた決まってきてしまうものです。そして決算書は、一度締めた後には決して動かすことはできません。つまり、期中の判断でしか決算書の中身は変えられないということ。ここが、多くの経営者にとって想定外の部分だと思います。
節税し続けたことで、融資が受けられない会社になっているとしたら、それは問題のない会社だと言えるでしょうか。いざという時に借りられなくても、問題ない会社だと言えるでしょうか。
これらのことを認識した上で節税を行っているのか、必ず確認するようにしてください。
林:具体的に、税引前利益が1,000万円出そうな会社を例に、実効税率を30%として、数字で考えてみましょう。
この会社が節税のために経費を1,000万円使った場合、利益はゼロ、税金もゼロとなります。ただし現金も経費の支出によって1,000万円出ていくため、手元に残るのはゼロです。
一方で、利益を残した場合は、税金として300万円を払い、手元にキャッシュが700万円残り、純資産も700万円積み上がります。
つまり、「節税」で守れたのは300万円、失ったのは700万円となります。1,000万円使って300万円を守るのか、300万円払って700万円を残すのか。この形にすれば、判断は難しくありません。
林:純資産が700万円積み上がるということは、調達可能額の上限が、その4倍の2,800万円分上がるということです。逆に言えば、節税を選んだ会社は、2,800万円の調達余力を失っています。
これを5年続ければ、1億4,000万円分の調達余力を失う計算になります。目先で守った税金は1,500万円です。
保険、決算賞与、設備・備品の購入など、決算前の節税で失敗しやすい具体例や、経費を使うか利益を残すかの判断基準については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「多少税金を払ってでも利益を残したほうがよい」会社とは

林:次のような会社は、「多少税金を払ってでも利益を残したほうがよい」会社と言えるのではないでしょうか。
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- 今後3年以内に、設備投資や店舗出店、広告投資や採用強化を考えている会社
- 手元資金が月商1.5か月分を下回っている会社
- 創業から日が浅く、まだ自己資本が薄い会社
- 保証協会付きの融資に偏っていて、プロパー融資を増やしたい会社
- 経営者保証を外したいと考えている会社
最後の2つは特にそうです。
プロパー融資も経営者保証の解除も、銀行が「この会社は自力で返せる」と判断して初めて動きます。その判断材料が、利益と自己資本です。節税を優先するということは、この2つの交渉材料を自分で削っているのと同じです。
これらを理解した上で、節税をすべきかどうか、節税するとしてもいくらまでなら影響が限定的かを考えて、意思決定するようにしてください。
役員報酬は「会社に残す利益」から先に考える
林:もうひとつお伝えしたいのは、役員報酬の決め方です。
「利益を会社に残すか、個人で受け取るか」という二択で語られがちですが、私は順番が違うと考えています。まず、十分な返済原資があると言えるだけの利益を会社に残す。その前提を崩さない範囲内で、自分自身の役員報酬を設定する、という順番が重要です。
なぜなら、会社の返済能力が細れば、借りられなくなります。借りられなければ、投資ができません。投資ができなければ、会社は伸びず、結局は経営者自身の取り分も増えません。役員報酬を先に決めて、残りを会社の利益にする、という順番だと、この構造が見えなくなります。
逆に、当面まとまった資金需要がなく、手元資金も厚く、自己資本も十分にある会社であれば、税負担を抑える判断は合理的です。会社の状態と時期によって、答えは変わります。
成長企業にとって借入は「時間を買うこと」
林:私は、借入を「売上利益の前借り」だと考えています。
なぜなら、借入によって得た資金を使って事業投資を行い、それによって売上利益を先んじて上げられる状態を作っていくものだからです。借入の返済は、その事業投資によって将来生まれる利益を原資に返済していくことからも、お分かりいただけるのではないかと思います。
そして、これは経営者であるあなた自身の時間を買うことでもあります。5年かけて貯めるはずだった資金を今日手に入れられるなら、5年分の時間を買ったことになります。経営者にとって、これ以上に価値のある買い物はそう多くありません。
必要な資金から逆算して決算を設計する
林:だとすれば、考える順番はこうなります。
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自分のやりたいこと、事業投資のために、いくらの資金が必要か
↓
その資金を調達するには、どの程度の利益を残しておくべきか
↓
その利益を残すには、どの程度の売上が必要で、経費はどこまで使ってよいか
このように逆算思考で設計することが、経営では非常に重要です。
「利益が出そうだから何か買おう」は、この逆算がないまま、最後の項目だけをいじっている状態です。
決算前に税理士へ相談しておきたいこと

林:相談していただきたいのは、「税金がいくらになるか」だけではありません。「この決算書だと、来期いくらまでなら借りられるか」も相談していただきたいです。
同じ決算を前にしていても、この2つは問いの立て方がまったく違います。前者は過去の数字の集計結果で、後者は未来の設計です。
林:決算の3か月前には、大方の着地の見込みが見えるようになっているはずです。そのタイミングで話ができれば、いろいろな打ち手を検討できます。しかし、決算日を過ぎてからでは、ほぼ何もできません。決算書は締めたあとには動かせないので、相談の時期そのものが結果を左右します。
相談前に経営者側で整理しておきたい4つのこと
林:顧問税理士に相談するに当たって、次のことを整理しておけると、より意味のある相談にできると思いますので、ぜひ実践してみてください。
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- 今後3年で、何にいくら投資したいか(金額の精度は粗くて構いません)
- そのうち、最大いくら資金調達をしたいか(融資を受けたいか)
- 手元資金は、最低いくら確保しておきたいか
- 経営者保証を外したいか、プロパー融資を増やしたいかといった、銀行取引についての希望
この4点があると、「では今期の利益はいくら残しましょう」「役員報酬はこの水準にしましょう」「この投資は今期ではなく来期にしましょう」「この銀行からいくら資金調達を行いましょう」という具体的な設計ができます。
なお、原則として、役員報酬は期の途中で自由に変更することはできません。期首に決めた金額が1年間の前提になります。会社に利益を残すか、個人の手取りを増やすかという配分も、期首の判断です。決算間際ではなく、期首に相談すべきことです。
決算書は「デザインする」もの
林:ここまでお伝えしてきたことは、ひとつの考え方に集約されます。
それは、「決算書をデザインする」という発想です。
決算書は、単なる数字の集計値ではありません。税務申告のためにだけ作成する書類でもありません。
他者に対して、会社の実情と、会社がこれから進もうとしている方向を、最も明確に指し示すものです。銀行もそれを見て、いくら貸すかを決めます。
だからこそ、決算書づくりを税理士に「お任せ」にしないでいただきたい。一緒に作り上げていくものです。
私もよく「林さんに任せた」と仰っていただくことがあります。信頼していただけているという意味では、そのお言葉自体は嬉しいです。しかし、われわれ税理士も、社長が考えていること、会社の方向性、今後の事業展開や社長にとっての経営のゴールが分からなければ、どうしても単なる数字の集計値としての決算書しか作れなくなってしまいます。
ぜひ、「来期はこんな事業展開を考えている」「だから今期はこういう決算書にしたい」「そのためには何ができるだろうか」と、顧問税理士に積極的に相談してみてください。
「利益が出た、だから節税しよう」は、必ずしも適切な経営判断とは言えません。
税額を減らすという観点においては、節税は最善策かもしれません。でも、それはあなたの会社全体を見た時に、本当に全体最適と言えるでしょうか。一度足を止めて考えてみていただけたらと思います。
決算書をデザインして、自らが進みたい方向へと会社を動かしていく。
そのための武器として決算書を作っていく。
この発想が、これから会社を伸ばしていく経営者にとって、いちばん重要になってくるのではないかと考えています。
林:3年後に年商を倍にしたいなら、それを支える資金が要ります。事実、年商3億円を超えてくると、必要な資金の桁が変わります。そして、その資金は銀行から調達することになる会社がほとんどだと思います。
そして、銀行が見るのは、これまで積み上げてきた利益と自己資本です。つまり、いまの決算の判断が、3年後に借りられる金額を決めています。
決算書は、結果として出てくるものではなく、設計できるものです。そして設計できるのは、決算を締める前までです。より突き詰めて言えば、日々の経営判断の積み重ねの結果こそが、決算書になる訳です。
利益が出そうだと分かった時点で、「何を買おうか」「どうやって節税しようか」と考えるのではなく、「どのように見える会社にしたいか、という発想から決算書をどのように着地させるか」と考えてみてください。
決算書をデザインするという発想を持てるかどうかで、数年後のあなたの会社の姿は変わります。
※本記事では一般的な考え方をご紹介しています。
税務上の取り扱いは会社の状況や取引内容によって異なるため、個別の判断については顧問税理士などの専門家にご相談ください。
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