インボイスの3割特例と簡易課税はどっちがお得?比較ポイントや準備すべきことを解説
2027年からインボイス制度に「3割特例」が導入

インボイス制度には、免税事業者から課税事業者となった小規模事業者の負担を軽減するために、特例措置が設けられています。
これまでは2割特例がありましたが、2027年からは「3割特例」がスタートします。
この3割特例は、簡易課税制度と比べてどちらが事業者にとって有利になるのでしょうか。
この記事では、インボイス制度に導入される3割特例と簡易課税を比較していきます。
また、納税額のシミュレーションから3割特例が適用されるまでに準備すべきことなども解説しているので、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
【結論】インボイスで3割特例と簡易課税はどっちがお得?
インボイス制度の2割特例が終了すると、多くの個人事業主・フリーランスは3割特例と簡易課税制度のどちらを選ぶべきか検討することになります。
結論から言うと、お得かどうかは業種や経費の割合、年間売上高など、様々な要素によって違ってきます。そのため、一概に「全員3割特例を選んだほうがいい」とは言えません。
経費が少なく、手続きなどもなるべく簡単に済ませたいという人には3割特例が有利になる場合もあります。
一方で、小売業や卸売業など、簡易課税制度のみなし仕入率が高い業種に関しては、簡易課税を利用したほうが納税額を抑えられる可能性があります。
3割特例と簡易課税制度を比較する際は、納税額に加え事前届出の必要性や制度を継続して適用する必要があるか、確認することも重要です。
比較表
3割特例と簡易課税制度の比較表は以下のとおりです。
| 比較項目 | 3割特例 | 簡易課税 |
|---|---|---|
| 対象者 | 一定の要件を満たす個人事業主 | 基準期間の課税売上高5,000万円以下の事業者 |
| 納税額の計算 | 売上税額の30%を納付 | 業種ごとのみなし仕入率で計算 |
| 事前届出 | 不要(制度内容に従う) | 適用前に届出が必要 |
| 業種による影響 | 小さい | 大きい |
| 継続適用 | 特例期間中に適用 | 原則として継続適用が必要 |
| 消費税還付 | 受けられない | 原則受けられない |
簡易課税制度を選択する場合、事前に消費税簡易課税制度選択届出書を所轄の税務署へ提出する必要があります。一方で、3割特例に関しては特に提出が必要な書類はありません。
また、継続適用については、簡易課税だと原則2年間は継続して適用する必要があり、3割特例だとそのような縛りはありません。
ただし、3割特例はそもそも2027年分・2028年分の2年間限定の経過措置となるため、念頭に置いておきましょう。
消費税還付制度とは、売上げで預かった消費税額よりも、経費や仕入れで支払った消費税額のほうが大きかった場合、その差額を国から受け取れる制度です。
この制度を利用するには本則課税で申告する必要があるため、簡易課税制度や3割特例を選択した場合は原則受けられません。
どっちがお得かは業種で異なる
3割特例と簡易課税制度を比較しましたが、どっちがお得かは業種によって異なります。これは、簡易課税制度のみなし仕入率(納税率)が業種によって異なるためです。
| 区分 | 業種 | みなし仕入率 | 納税率 | 3割特例 | 有利な制度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1種 | 卸売業 | 90% | 10% | 30% | 簡易課税 |
| 第2種 | 小売業、農林漁業(食用) | 80% | 20% | 30% | 簡易課税 |
| 第3種 | 製造業、建設業、農林漁業(非食用)など | 70% | 30% | 30% | 簡易課税・3割特例 |
| 第4種 | 飲食店業、その他事業 | 60% | 40% | 30% | 3割特例 |
| 第5種 | サービス業、運輸通信業、金融・保険業など | 50% | 50% | 30% | 3割特例 |
| 第6種 | 不動産業 | 40% | 60% | 30% | 3割特例 |
第1種と第2種に分類される業種は、実際の納税率が10%または20%で、3割特例の30%よりも負担が少ないことから、簡易課税制度が有利と言えます。
逆に、第4種~第6種は30%以上の納税率となるため、3割特例を選んだほうがお得です。
第3種については、3割特例と簡易課税制度で納税率は同じになるため、事務負担などで判断してください。
納税額以外の比較ポイント
3割特例か簡易課税かを選ぶ際に、納税額だけでなく手続きや運用面も確認しておくと安心です。
例えば、3割特例は事前届出が不要で利用しやすい一方、対象者は一定の要件を満たす個人事業主に限られており、期間も2027年・2028年の2年間に限定されています。
簡易課税制度は税務署へ事前に届出を提出する必要があるものの、3割特例を利用できない法人も対象に含まれます。
2割特例終了後の選択肢は3つ

2026年分までは2割特例が利用できますが、2027年以降から2割特例を利用できなくなります。
現時点で2割特例を選択している人は、以下3つの候補から対応を考えることが大切です。
本則課税
本則課税は、売上げにかかる消費税額から仕入れにかかる消費税額を差し引き、実際に納める消費税額を算出する方法です。
基準期間(2期前)の課税売上高が5,000万円を超えた場合、簡易課税制度は選択できなくなり強制的に本則課税を利用することになります。
簡易課税とは異なり、継続期間の縛りはありません。また、事業規模などに関係なく選択できたり、選択する際に届出の提出も不要だったりします。
ただし、仕入れでの消費税額も算出する必要があるため、手間がかかるなどのデメリットもあります。
3割特例の適用(条件を満たす場合のみ)
2割特例が終了した際に、そのまま3割特例を適用することも可能です。ただし、3割特例は以下の条件を満たす場合のみ適用されます。
-
- 個人事業主
- インボイス発行事業者
- 基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円以下
また、事前の届出は不要となるものの、確定申告書を提出する際には3割特例を適用させる旨を付記する必要があります。
簡易課税への移行
2割特例の終了に伴い、簡易課税へ移行することもできます。簡易課税制度を利用する際には、以下の条件を満たしている必要があります。
-
- 基準期間の課税売上高が5,000万円未満(原則税抜価格)
- 所轄の税務署へ「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している
本則課税よりも計算の手間が少ないため、事務負担の軽減につながります。
また、課税売上高にかかる消費税額にみなし仕入率を乗じるだけで簡単に求められることから、納税額の予測を立てやすいという特徴もあります。
2割特例が終了!新設される3割特例とは?
2割特例が終了してしまうと、これまで納める消費税額を課税売上にかかる税額の2割にまで抑えられていた人は、一気に負担が増えてしまうことになります。
しかし、3割特例によって急激な負担を抑えることが可能です。ここで、3割特例の適用期間や対象者について詳しく解説します。
2割特例の終了時期を再確認
2026年現在適用されている2割特例も、3割特例と同様に経過措置の位置づけであり、もともと2023年10月1日から2026年9月30日までの属する課税期間が対象でした。
暦年課税の場合、2023年分(10月~12月分)と2024年~2026年分(1月~12月)を対象に、税負担が抑えられています。
3割特例の適用期間
3割特例は2027年からスタートすることになりますが、適用される期間は2027年・2028年分の2年間に限定されます。
この期間中に要件を満たしていれば、実際の消費税負担を3割まで抑えて申告・納税することが可能です。
適用対象者は個人事業主のみ
2割特例とは異なり、3割特例の適用対象者は個人事業主(フリーランスも含む)のみになります。
法人は対象外であり、直近で法人成りをした場合は3割特例が利用できなくなるため注意が必要です。
一人社長など小規模な法人でも2割特例の終了に伴い、本則課税または簡易課税に移行しなくてはなりません。
3割特例がおすすめな人
以下の項目に多く当てはまっていると感じる人は、3割特例を選ぶべきだと言えます。
-
- 個人事業主やフリーランスとして1人で事業を行える人
- ITエンジニアやWebライター、デザイナーなど、仕入れや経費が少ない業種
- 消費税の計算をシンプルで簡単にしたい人
- 手続きを極力減らしたい人
- 納税額だけでなく、経理作業の負担も軽減したい人
3割特例は受け取った消費税額の30%を納付する仕組みのため、計算方法はシンプルで経理の負担を抑えやすい制度です。
特に、仕入れや経費が少ない事業に関しては、簡易課税に比べて有利になる可能性があります。
ただし、3割特例を利用するためには対象者や期間など条件が違ってきます。制度を利用する際には要件を満たしているか事前に確認することが大切です。
簡易課税がおすすめな人
簡易課税制度が適しているのは、以下の特徴に該当する人です。
-
- 卸売業や小売業など、みなし仕入率の高い業種の人
- 特例を利用しなくても、事業内容や売上が安定している人
- 今後も継続して簡易課税制度を利用していきたい人
- 事前届出など手続きに対応できる人
簡易課税制度は業種ごとに決められた「みなし仕入率」を活用し、消費税額を計算する制度です。
第1種・第2種に区分される業種は3割特例よりも少ない納税額に収まる場合もあります。特に卸売業や小売業などは、メリットを受けやすい業種と言えます。
ただし、簡易課税制度を適用させるには事前に届出の提出が必要です。
また、一度適用すると2年間は継続して利用することになるため、将来の事業計画も踏まえて選択することが重要となります。
納税額の比較シミュレーション

実際に3割特例と簡易課税で納税額はどれくらい違ってくるのでしょうか。以下のモデルを参考に、3割特例と簡易課税での納税額をシミュレーションしてみましょう。
【モデルケース】
業種:IT業(第5種)
年間の課税売上高:800万円
※免税事業者からインボイス発行事業者へ移行
【3割特例の場合】
売上高の消費税額-(売上高の消費税額×70%)=納付する税額
80万円-(80万円×70%)=24万円
【簡易課税の場合】
売上高の消費税額-(売上高の消費税額×みなし仕入率)=納付する税額
80万円-(80万円×50%)=40万円
上記の条件で計算した場合、3割特例だと24万円、簡易課税だと40万円になり、3割特例のほうがお得であることがわかります。
3割特例の適用までに準備しておきたいこと
3割特例を有効に活用するためには、制度が始まってから対応するのではなく、事前の準備が欠かせません。
ここでは、3割特例の適用前に確認しておきたい主なポイントを解説します。
納税額を改めて計算してみる
3割特例の適用を検討する際には、まず自社の納税額がどの程度になるか試算することが大切です。
3割特例と簡易課税では消費税の計算方法が異なるため、同じ売上げでも納税額に差が生じる場合があります。
また、課税売上高や仕入れ・経費の割合によっても、有利になる制度が変わってきます。
過去1~2年分の売上実績を確認しつつ、シミュレーションを行うことでどちらが自分に合っているか判断しやすいでしょう。
なお、1人で試算するのが少し不安な場合には、税理士や会計ソフトのシミュレーション機能を活用することで、より正確に判断しやすくなります。
適用する制度に必要な届出を準備する
簡易課税制度では、適用を受けるために所定の期限までに「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。
期限を過ぎてしまうと、その課税期間では簡易課税を利用できなくなってしまいます。
一方、3割特例には事前に提出する届出はないものの、制度の適用要件や必要な手続きなどは事前に確認することが大切です。
制度開始直前になって慌てないように、必要書類やスケジュールなどを早めに把握しておきましょう。
価格や取引条件を再確認する
3割特例を導入したことで納税額が変わったとしても、事業全体の利益が増えるとは限りません。
そのため、消費税の負担分を確認するだけでなく、販売価格や取引条件とのバランスも見直すことが大切です。
インボイス発行事業者として取引先との契約内容や価格設定を維持できるか、値上げが必要になるかなどを事前に検討しておくと、制度変更による影響を最小限に抑えることも可能です。
また、継続的な取引先には制度の変更に伴う対応を早めに共有しておくことで、認識の違いによるトラブルを防ぐこともできます。
制度の変更は単に納税方法を選択するだけでなく、事業全体の収益性や取引環境を見直す良い機会でもあります。
中長期的な視点で、自社にとって最適な運営方法を検討してみてください。
インボイスの3割特例・簡易課税に関するよくある質問
最後に、インボイスの3割特例や簡易課税に関するよくある質問を紹介します。
2割特例から3割特例へ自動的に移行する?
3割特例への移行は自動的に行われるわけではありません。
2割特例が終了してから3割特例に移行したい場合、事前の届出は不要となるものの、確定申告書に3割特例を適用する旨を付記する必要があります。
確定申告書に3割特例の旨を付記していなかった場合、本則課税に移行することになるため注意してください。
簡易課税に移行する場合、いつまでに届出を提出すればいい?
簡易課税に移行する場合、簡易課税制度選択届出書は適用を受けたい事業年度の初日の前日までに提出する必要があります。
例えば2027年4月1日開始の事業年度から簡易課税制度を適用したい場合、2027年3月31日までに届出書を提出しなくてはなりません。
ただし、3割特例(または2割特例)を適用した翌年であれば、申告期限(3月31日)までの提出でその年から適用できる緩和措置があります。
まとめ・3割特例と簡易課税を比較して自分に合うものを選ぼう
3割特例と簡易課税制度は、どちらも消費税の負担を軽減できる制度ですが、適用条件や計算方法、メリットなどはそれぞれ異なります。
そのため、「どっちがお得か」は一律には決まらず、売上規模や業種などによって最適な制度が変わります。
制度を選ぶ際には、納税額をシミュレーションした上で比較し、自分にとって有利な方法を選択することが大切です。
また、簡易課税は届出期限もあるため、利用を検討している場合は早めに準備を進めておきましょう。
創業手帳(冊子版)では、経営に欠かせない税務に関する最新情報や節税のコツなどもわかりやすく紹介しています。これから起業を考えている人や個人事業主として活躍されている人も、ぜひ情報収集などに創業手帳をお役立てください。
(編集:創業手帳編集部)
創業手帳
創業手帳0
補助金ガイド
飲食開業手帳